朝のヒトトキ
シャワーを浴び、頭をスッキリさせたマサヒコは屋上で上る朝日をナガめながら、今日の予定を考えた。
数日は情報収集という名の読書についやす予定であったが、少し事情が変わった。方針を変更することにしたのだ。
まず、ソレをアリスに伝えて、それからギルドに行こう。
そんなことをツラツラと考えていたら、体がスッカリ冷えてしまった。ムリもない、11月である。気温は日本よりもジャッカン、夏と冬の変動が少ないようだが、それでも寒くなってきた。
風邪引いたらマズイな。
コチラの風邪がどんなモノかは分からないが、体調が悪化することは確かだろう。
一瞬、アリスに看病してもらう様子を頭に思い浮かべる。
エッチに胸元を大きく開けたナースのコスプレをしたアリスが、あーん、とスプーンを近づける。
すぐに頭を振ってそんな妄想を追い払った。
アリスでエロいコト考えるの禁止。
自分に言い聞かせる。一緒に異世界転移したカケガエのない仲間だ。唯一、元の世界のコトを話せる相手。マサヒコのあんなところを見ても、フォローしてくれた優しい子。そんな子でヤラシイことを考えてはいけない。罰が当たってしまう。
「ホント、イイ子だもんな」
マサヒコはツブヤいて朝日に背を向けた。長く伸びた影を追うように歩く。
ナニか胸がウズいた。
部屋に戻り、椅子に座ってシュマホーで読書していると、アリスが目を覚ました。
ウーン、と寝ぼけたような声。
しばらくして、2段ベッドの上からアリスの頭が飛びだした。メイクしていないスッピン。だが、むしろそちらの方が美少女に見える。
「オハヨー」
マサヒコはできるだけサワヤカに声をかけた。そう、昨日のコトなど感じさせないほど、サワヤカに。サワヤカに。
「……オハヨー」
寝ぼけ眼をコスって言ってから、アリスはすぐに頭を引っ込めた。
「ゴメン、ちょっと窓の方見ててくんない。ウチ、今、顏汚いし。髪もヤバいし。スッピンだしさ」
むしろいつもよりも、スゴくカワイイんだけど、とマサヒコは思った。あまりにもカワイクて、体がカーと熱くなったくらいだ。
それでも、マサヒコは体ごと窓辺に移動。完全に壁と一体化する。
ミシミシミシとハシゴがきしむ音。
今振り向いたら、寝起きのアリスが……。
などと考えてしまった自分を罵る。
ダメ、そういうの、ホント、ダメ。
バタンと、アリスが部屋を出ていった。
シャワーを浴びに行ったのだろう。
テーブルに戻ると周辺にアリスの残りががフンワリ漂っており、またしてもマサヒコを動揺させた。
30分ほどしてアリスが戻ってきた。
ギャルメイク、バッチリ。アッシュブロンドの髪の毛巻き巻き。
赤いチューブトップの上に長ソデの白いYシャツ。チェックのスカート。なんだか制服っぽいコーデだ。ただ、シャツのボタンはかなり下まで外し、バッチリ胸元が見えている。スカートは超ミニで、風にアオられたら丸見えじゃん、というシロモノだった。
「いつも、こんなに早く起きてたんだね」
まだ6時前である。マサヒコなどアト1時間は寝ていた。
「女はメイクに時間カカるかんね。マサヒコこそ早いじゃん」
アリスが、もう1つの椅子に座って足を組む。スカートがまくれて、黒いツヤのあるパンツがバッチリ見えた。
マサヒコはさっと目をソラした。
俺はナニも見ていない。黒だったけど、ナニも見ていない。
「ほら、昨日、あのまま寝ちゃってたから。夜中に起きちゃって。それからずっと起きてるんだよ」
「ウン、ウチ帰ってきたら、寝てたね。起こした方が良かったかな」
「イ、イヤ、起きても気まずかったし」
などとついアノ行為を連想させることを言ってしまい、アワてて手を振った。
「あ、ウン、まー、そのイロイロと?」
「アレのコトなら、ホント、気にしなくてイイかんね。ウチ、そーいうの全然、気にならないし。ほら、男慣れしてるしさ」
アリスがジャッカン上ずった声で言った。
「イヤ、女の子にあんなの見せちゃダメだから。ホント、男として。その節は、大変お見苦しいモノをお見せしました」
深々と頭を下げる。
その頭をアリスの手がサワサワとナデる。
マサヒコはそのまま頭を上げられなくなった。
ハア、とアリスがナニカ悩まし気な息を吐いた。
だが、このやりとりはマサヒコの気を楽にしてくれた。ちゃんと口に出してあらためて謝ったことが良かった。
「Aランク冒険者を目指そうと思うんだ」
マサヒコは新たな方針をアリスに話した。
「えっ、大金持ちを目指さんの?」
アリスがキョトンとした顔になる。
その無防備な顔にマサヒコはキュンとした。アリス、カワイイ。
「ウン。それなんだけどさ。Bランク冒険者から特権があるんだよ。えーと、Bランクだと【ゲート】の個人使用ができて。これは、まー、ワープ装置みたいなもので、1発で、何百キロも遠くの街へ行けるモノ。Aランクだとギルド長と同等の権利があって各職のギルド長に直接交渉できたり、高級文官とすぐに会えたり。Sランクになったら、王様とか国のトップと自由に面会できるんだって」
大金持ちになるためには、どうしても『トーダ商会』の強力が必要、というのがマサヒコの結論だ。
この世界の流通は『トーダ商会』が牛耳っている。逆に言えば『トーダ商会』さえ味方につければ、あらゆるギルドを黙らせることができる。
そして、その『トーダ商会』のトップに面会するのにAランク冒険者になる必要がある。
マサヒコの説明を聞いても、アリスはどうもナットクがいかないようで首をカシげている。足を組み直した。
パンツが見えた。
マサヒコ、また念じる。俺はナニも見ていない。
「Aランクになんの超大変じゃね? リーズだって、Dランクになんの、1年カカったんだし。Aなんて10年とかカカんじゃね?」
「いや、ソレは大丈夫。言ってなかったけど、俺たち実はチート能力があったみたいでさ」
「チート? マサヒコ、それ前、言ってたけどさー。ツマリ、どんななの?」
「チートってのは、まー、もともとは、不正とか、詐欺とか、そいう意味らしいんだけど。最近では無敵とか、そういう意味になってきてるっぽくて。異世界転移モノとかだと、コレ卑怯ダロってくらい規格外の能力を与えられて。もう、最強、モテモテ、みたいな」
「そーいうの、読んだことあるわ。ウチらも、そんなんがあるってコト?」
「うん。ステータスにさ、【ステータスポイント】ってあるじゃん。【レベル】が上がると、ポイントがもらえて、それをステータスに割り振れるってヤツ」
「あるある。ソレ、ウチ、超テキトーに振っちゃったけど」
「千ポイント近くあったんだよね。だけど、それさ。異常なんだよ。たった3回【レベル】アップしただけで、そんなに貰えるの。普通は10ポイントとか、それくらいらしいんだ」
「マジっ。じゃあ、それでゴブリンキング? 倒せたってコト?」
「そーいうコト。オカシイと思ったんだよ。俺たち、ゴブリンの矢を受けても、全然平気だったじゃん」
「あー、そーいや、そーかも」と言いながらも、アリスはあまりピンときていない様子。
「アリスもゴブリンをカナリ倒したから、そーとーレベルアップしたでしょ」
「ウン、パンパカパーンって、メチャ鳴ってたわ」
「じゃあ、アトで【カスタムルーム】でポイントを割り振ろうか。アリスは弓と魔法どっちでイクの?」
うーん、とアリスが腕を組んでウナった。組んだ腕に立派な胸がグイっと押し上げられ、マサヒコはまたしても自己を律しなくてはならなかった。
「よくわかんない。ウチ、ゲームとかあんまヤったことないしぃ。マサヒコが決めてよ」
「えっ、俺? だけどケッコー、今後を左右する重要なコトだから自分で決めた方がイイんじゃ……」
アリスが前のめりになった。もう胸の谷間がスゴい見えた。
「マサヒコが決めてよ。ウチ、超信頼してるから」
「じゃ、じゃあ、俺の方で考えるよ。ひとまず【ステータスポイント】は放っておいてEランクの依頼をガンガンこなしていこう」
ゴブリンキングを倒したから、一気に冒険者ランクが上がるというものではない。
Dランクまでは自分よりも上のランクを一定数達成しなくてはならない。
FからEに上がるにはEランク依頼20件達成。
EからDに上がるにはDランク依頼50件達成という具合だ。
「たぶん、今のままでもCランクまでなら余裕だと思うけど」
Cランク魔物のゴブリン。もし、ゴブリンキングがいなければ簡単に達成できただろう。
「アーイ」
コクリとアリスがうなずく。上体を乗り出したままだ。
ち、近いなあ、とマサヒコは思った。もう、オッパイが鼻から10センチという距離だ。
イカン、イカン、イカン。
と、マサヒコはまたしても自身の欲求に立ち向かった。
アリスはエロじゃない。アリスはエロいけど、エロじゃない。
「じゃ、朝飯食べたら行く?」
アリスが言った。
「ウン、行こうか」




