夢じゃない
ハっ、と暗闇の中、目を覚ましたマサヒコは夢だったか、と額の汗をヌグった。
イヤー、リアルな夢だったなあ。
アリスに見られるとか、もうホント死にたくなったもんな。
今、何時だ、とシュマホーを探すも、いつも寝る前に枕元に置いているシュマホーがない。しかも寝間着代わりのユルいズボンとTシャツではない。
昼間着ていた黒いズボンとワイシャツのまま。冷たい汗が背中に流れる。
アレ、夢、だよね。
上からはアリスの寝息が聞こえる。夜中であることは間違いない。そして、ナゼ、寝間着ではないのかと考えると導き出される答えはヒトツ。
あのまま寝てしまった?
マジで、イヤ、アレ、現実……だよなあ。
夢落ちなどというウマイ話はなかった。
覚醒してくると間違いなくアレは昼間あった出来事だ分かった。
青い常夜灯の下、ベッドから這い出して、テーブルの上に置いてあるシュマホーを取る。
12時数分前。10時間近く眠ってしまったらしい。
ハア、夢だったら良かったのになー。
深々とタメ息をつく。
明日から、どんな顔でアリスと会えばイイんだろうか。途方に暮れる思い。
アリスも災難だったよな。
変なもん見せられて、ドンビキだったろうな。
それでも、とっさにフォローしてくれたのだ。普通の女子なら悲鳴をアゲるか、罵声を飛ばして部屋を出て行きそうなものなのに。
そうなのだ。アリスはイイ子なのだ。
今さらだが、それをハッキリと悟った。
今まで、ギャルだし、彼氏5人にいたし、もう、ユルユルで割と簡単にヤラせてくれんじゃね? などと、そんな風に心の片隅で思っていた。
いや、ケッコー、ハッキリ思っていた。
だが、アリスはマサヒコのもっとも恥ずかしいトコロを目にしても、フォローしてくれようとした。
デカい、とかスゴいフォローだったが。
なんというか優しさがアフれている。
軽蔑とか、嫌悪とか、そういうマイナス感情を抱くのではなく、まず、マサヒコを傷つけまいとしてくれた。
考えてみれば異世界に来た当初から、マサヒコのコトを陰キャと侮ることもなく、ボッチと蔑むコトなく、普通に接してくれていた。
キモっとか、生理的にムリ、とかいうことなく、暗闇ではピトッとくっついてきたりした。
それに比べて俺ってヤツは、と自己嫌悪に陥る。100パーセントエロい目でアリスを見ていた。
もう、胸の谷間とパンツとフトモモと。エロいなあ、エロいなあ、と思いながら見ていた。
ヤリてえ。ヤラせてくれんかなあ。超ヤリてえ、などと思っていた。
このあたりはアリスの考える肉食系とマサヒコの考える肉食系には齟齬がある。
アリスのツキアった男は、どれも超肉食系男子。唯一、トヨだけが草食系っぽいが、マサヒコと比べたら彼も十分肉食系。なにしろ、女子高生と合コンして、なおかつ彼女にし、さらには肉体関係までしっかりむすんでしまったのだから。
そして、もっというならば彼ら5人とマサヒコの決定的な違いはデリカシーだろう。
マサヒコはイロイロと考えてしまう分、人を不快にさせていないかカナリ気を使う。
そのせいでコミュニケーション能力が低いのだが。
それらが、アリスにしてマサヒコはエロ分が薄い、と思わせていたのだ。要するにマサヒコだってエロいのだ。
そんなマサヒコだったが、アリスに恥部というか痴情というかを見られてしまって、目覚めた。
別に、新たな性癖に目覚めたわけではない。
アリスはエロい、から、アリスはイイ子になったのだ。5人の彼氏がいた経験豊富なギャルという色メガネが外れ、ちょっと派手だけど明るくてカワイクて優しい子という認識にいたった。
ボー、とアリスとの、ここ数日の触れ合いを思い出していると、彼女の顔をクシャクシャにした無邪気な笑顔が思い浮かぶ。
カワイイよな、アリス。
そんなコトを思った。
「マサヒコ」
いきなり頭上から声がした。
「ハ、ハイ、なんでしょう?」
マサヒコはつい、敬語で返事をしてしまった。
だが、アリスから言葉は返ってこない。代わりに、スー、スーと寝息が聞こえる。
なんだ寝言か。
マサヒコはホッとした。心臓はまだドクドクと激しく脈打っている。
夢に俺がでてきたのかな。ヤッパ、昼間の衝撃が……。
ただ、アリスが呼んだマサヒコという名は、ヒドく親しみがあって。少し甘えている感じで。
マサヒコの動悸はいつまで経ってもオサまらなかった。
◇
結局、マサヒコはそのまま眠れず、ベッドでシュマホーをナガめて過ごした。読書をして。アリスのコトを考えて。また読書をして。
そんなことをしていたら外から鳥の声が聞こえてきた。
アキラめてベッドから出る。
シャワーを浴びてサッパリするコトにした。
シャワー室に向かう途中で青い髪の少女マリアと会った。まだ朝の4時すぎ。早朝も早朝。
お互いに驚いて言葉が出なかった。
それでも覚醒してからズイブン時間が経っているマサヒコの方が、頭の回転が速かった。
「オハヨー。早いね」
「オハヨー。マサヒコもね」
マリアがヒカエめに笑う。
「もう出かけるの?」
マリアは茶色いキュロットに長ソデのシャツの上から革のベストをハオってる。
「ウン。今日からうちのパーティ遠出するから。集合が早いんだ」
「そうなんだ。どこ行くの?」
「ルベット市の方。街道沿いに北に行って。そこから山を越えて、ってルート」
「大変そうだね。そんな遠くから依頼があるんだ?」
「ウン。ベルドーンは大都市だから冒険者も多いけど、ほかはそうでもないから。今度は足を引っ張らないようにガンバらないと」
マリアの所属するパーティ『鋼の風』はBランクパーティだ。だからこそ依頼の範囲も広域らしい。
「あんまりキバらない方がいいよ。マリアの仲間も、最初は君が足手まといになることはコミで、仲間にしたワケだから」
「ウン。でも、役に立てないのはツライから」
サビしそうな顔でマリアが言った。
「帰ってきたら、一緒にトレーニングでもする? 俺もあんまり、自信ないんだけど」
マサヒコとしてはマリアが大変そうに見えたので何気なく言った言葉だ。だが、ソレにマリアの顔がパッと輝いた。
「ウン、お願い。少しでも強くならないといけないから」
パーティを組むのも大変だなあ、とマサヒコは思った。コチラはアリスと2人きりなので気楽なものである。
「じゃあ、気を付けてね」
「ウン、アリガトウ。マサヒコ」
アリスが青い髪を揺らしながらパタパタと駆けていく。
マサヒコは、マリアとは気楽に話せるのになー、とシミジミ思った。
アリスと話すときは、どうしてもカッコウをつけようとしたり、気をツカいすぎたりしてしまう。
きっと俺に下心があったんだ、と反省。
アリスに下心なんて抱いちゃダメだ、と心に誓うマサヒコであった。




