シュマホー書籍ゲットだぜ
本屋はベルドーン市に3軒ある。
百年以上前は大きな街ともなれば、もっとたくさんの本屋があったのだが、シュマホーの登場により、シュマホ書籍(電子書籍のようなもの)が主流になり、紙の本の流通そのが減ってしまったのである。
アリスが友人たちから得た情報によると、冒険者ギルドからバスでヒト駅の『ロックバード書店』が4階建てで、1番大きいらしい。
「本以外にもイロイロあんだって。マジ、お勧めらしいよ」
アリスが言った。
ギルドそばのバス停でバス馬車を待っているところである。
「イロイロって、例えば?」
「えっ、だから【メタルボード】とかじゃね?」
「えっ、【メタルボード】? ナ、ナニソレ?」
マサヒコは初めて聞く単語である。
「ナンカ、金属の板に魔法をかけて、音楽とか聞いたりするんだってさ。シュマホーとか、あのパソコンみたいなのも、全部、【メタルボード】らしいよ」
「記憶媒体プラス出力装置ってことかな」
「そうなんじゃね? 知らんけど」
「そういえば、コッチの音楽ってどんなのがあるのかな? ヤッパリ、クラシックとか?」
「普通に、ポップスあるし。ロックとかも。リーズ、好きなグループあんだってさ。あっ、音楽とかが発展したの、ヨースケとキョーカのおかげみたいだよ」
「本当に転移者の影響大きいなあ」
もうちょっと自重しろよ、とマサヒコは思った。影響与えすぎだろ。
そんなことを話しているうちにバス馬車が来た。鎧を着たペガサスみたいなのが牽引している。ペガサスが歩みを止め、バスもピタリと止まる。
ドアを開けて乗客が降りてくる。そのうちの3人組はこのあいだアリスを口説いていたヤンキー3人組だ。
アリスにナニカ声をカケようと近づきかかけるがマサヒコを見てやめる。どうやら、ゴブリンキングを倒したというウワサで、かなりスゴいヤツと一目置かれているようだ。
ペガサスの頭が人頭に変わった。オッサンだった。行き先を告げる。
マサヒコとアリスはバス馬車に乗り込んだ。
バス馬車内はソコソコ込んでいた。座席が9割ほど塞がっている。1人分は空いていたのでマサヒコはアリスを座らせた。
「サンキュ。そういや、ウチの元彼でこーいうとき、座席譲ってくれたのトヨだけだったわ」
つくづく、ロクでもない男ばかりだったようだ。
「ちゃんと相手を見てツキアわないから」
マサヒコはついついそんなことを言ってしまった。
「ウン、ちょっと反省してるトコ」
「次はもっと慎重に選んでみたら」
口説かれたからってついてっちゃダメだよ、という気持ちで言った。
「次は大丈夫。マジ、キチンとするから」
アリスが、じぃーっ、とマサヒコを見上げる。視線に、イシキしろ、ウチのコトをイシキしろ、という想いを乗せている。
マサヒコは、ナンダ? なんか超見てるな? と思った。ボッチなので察しが悪い。
なにしろ1駅である。すぐについた。
バス馬車はどこまで利用しても1回100エーンである。降りる際にドアのところで料金ボックスに入れないと、降りることができない(見えない壁にハジかれる)。
バス馬車を降りて、1本、路地を抜ける。
すぐに『ロックバード書店』が目に入った。鳥が本をブラ下げた看板が目印。
「大きいね。4階まで本屋なんだよね」
マサヒコは背の高いビルのような建物を見上げて言った。紀〇国屋とかそういう感じだ。
「本以外も売ってるからじゃね? てか、さっさと入ろうよ」
アリスに手を引かれ、マサヒコは『ロックバード書店』に入った。
1階フロアはすべてがツナがっており、本がトコロ狭しと並んでいた。売れ線や、雑誌などがコレ見よがしに飾られており、そのほかの本が棚に収納されている。現代日本と同じような雰囲気だった。
どうやら1階は紙の本だけのようだ。
アリスがさっそくファッション雑誌の方へ行く。
「じゃあ、アトはテキトーにそれぞれ見て回ろう。俺、シュマホ書籍見てくる」
【ギルドカード】の収納があるので紙の本でも問題はないのだが、これからのコトを考えると、できるだけ物を増やしたくない。
「んっ。ウチ、ノンビリ見てるから」
マサヒコは2階に上ってみた。
コチラも1階同様、紙の本が売られていたが、ところどころにタブレットのようなモノが置かれている。
客がそのタブレットを操作してナニカやっている。
近くに店員がいたのでマサヒコはオドオドとタブレットの使い方を聞いてみた。
やはり飾られている紙の本のシュマホー書籍を購入するためのモノらしい。タブレットで本の番号を入れて側面に代金の分のコインを挿入。あとはシュマホーをタブレットに重ねれば良いとのコト。
マサヒコはしばらくフロアを見て回った。
歴史の本をいくつか買う。それに芸術関係。冒険者関係。だんだん、アレもコレも、と見境がなくなってくる。
なにしろ資金は十分。
本を日常的に読む人間にとって金のある時の本屋は危険だ。
手持ちの銀貨が無くなったので金貨10枚(10万エーン)を銀貨に両替する。
もうガンガン買った。
フロア内を軽く10周はしただろう。
さすがにメボシイ本は買ってしまった。
これで、ひとまず本屋へ来た用は終わったといえる。
3階フロアに上ったマサヒコは、うわっ、と思わず声が出てしまった。
そう、例えるならば、そこは池袋の一角のような。
飾られている美青年と美青年の本。さらには男性のフィギュアのようなものまで。
要するに、ここは『腐界の聖典』売り場のようだ。
チナミに、この世界は『腐界の聖典』、要するにBL以外のマンガは存在しない。少なくとも公けに販売されてはいないらしい。
そんなものが出版されようものならば、すかさず『腐界の聖典』に導かれし者たちが現れて(『聖典の伝道者』とか『守護者』とか呼ばれているらしい)、作者が連れていかれてしまう。
『双極の大魔導』が一翼、『腐界の魔女』の影響力は500年経った今でも残っているらしい。
マサヒコが驚いたのはフロアにいるのが女性ばかりではないコトだった。
男性も普通に本を手に取ったり、立ち読みしたりしている。もはや、娯楽、ないし趣向品のヒトツとして定着しているらしい。
恐るべきは『腐界の魔女』小山妃瑠陀である。
マサヒコは3階をスルーして4階へと上った。
4階はいくつもの店舗が入っていた。デパートかナニカのような雰囲気。
CD売り場のような雰囲気の音楽ソフト店。ヘッドフォンのようなもので音楽を視聴できるらしい。
ナンカ、こういうの懐かしい、と思いながら試しに、ロックバンド風のジャケットのMBを聞いてみた。
うん、コレ、ロックだ。
ゴリゴリのエレキギター。ベース。ドラム。どこか懐かしい曲調だった。
そして、フト、見覚えのある顔が描かれたポスターを見つける。丸メガネと三白眼気味の目。三つ編みでこそないが、どうも藤見鏡花のように思える。
ポスターには「あの、キョーカの名曲が今、ヨミガエる」みたいなキャッチコピーが書かれている。
試しに『キョーカ』というアルバムを聞いてみる。
「パクりやがってんじゃん」
某有名なアニメソングだったり、某有名な洋楽だったり、某有名で偉大なるロックバンドの名曲だったり。
アルバムが並んでいる棚にキョーカの横顔のイラストが表紙の本が売っていた。
『芸術神キョーカ・フジミ』
わあっ、神にまでなっちゃってるね。藤見さん。
マサヒコはナントモいえない気持ちで、本を手にした。
音楽、絵画、舞台劇、彫刻、あらゆる芸術をプロデュースした不世出の天才。
イロイロ手を出したんだね、スゴイネ。
などと思いながらパラパラとめくる。
彼女はその生涯で千を越える脚本を書き、やはり千曲を越える作曲をしたそうな。
現在、世にアフれている小説や、舞台脚本、あるいは音楽の数々は、いずれも芸術神キョーカの作品をアレンジしたモノにすぎない。
その本人がパクってんだけどな。
マサヒコは思わず突っ込んでいた。
せっかくなので、その本も購入。ついでに彼女の作曲した曲が収録されたアルバムをいくつも買った(シュマホー曲として、シュマホーに入れられた)。
ちなみに芸術神キョーカの作曲はロック、ポップス、ジャズ、クラシックと非常に幅広いジャンルに渡っていた。
そのほか女性アイドルグループっぽい感じのアルバムを買った。
音楽店の次は映像店である。
コチラも【MB】に収録されているが、シュマホーファイルとして入れておくことができるらしい。
映画や舞台を収録したモノ。あとはドキュメンタリー映像や、ニュース映像。どうも、テレビやラジオというように生配信されるような文化は育まれていないらしい。
このあたり芸術神の趣向のカタヨリを感じる。
ヨースケ・ミズシマの出演作品の舞台映像があったのでソレを購入。特典映像として同舞台のプロデューサーでもあった、芸術神キョーカ・フジミとヨースケが話す貴重な映像がオサめられているとのコト。
ほかにはミュージシャンのライブ映像もあった。女性アイドルグループのライブ映像を購入。
潤いは必要だ。
変わったモノでは冒険者が、まるでユーチュー〇ーのように実況をする映像などもあり、マサヒコは美少女実況者の映像を買った。
映像店でも、ずいぶん散財。ただ、マサヒコの資金は十分すぎるほどある。この世界の情報をえるタメだと思えば、この程度の必要経費は安いものである。
4階には、ほかにもフィギュア店のようなものがあった。男性向け女性向けがそれぞれあり、女性向けはイワズモガナ、美少年、美青年、美中年のフィギュアまである。
どうもコチラの世界では男性が性器を露出していたり、男性同士がナニヤラアレコレしているのはワイセツというワケではないらしい。むしろ、芸術的みたいなククりのようだ。
恐るべきは『腐海の魔女』小山妃瑠陀である。BLというマイノリティ文化を見事に大衆文化に昇華してしまった。
対して、女性の露出にはちょっと厳しいようだ。フィギュアでも、リアルと欲望を追求して服の上からオッパイの先端が分かる、というような表現はまったくなかった。
それどころか、過剰に胸部が誇張されているコトもない。スカートが揺れてパンツ見えそうというコトもない。ソレラはどうも、超ハレンチで、超ワイセツらしい。
男性フィギュアも女性フィギュアもそうだが金属像か石像だった。とにかくムダに重厚感がある。
アトはロボット。見覚えのあるようなロボットのフィギュアが並んでいた。
このあたりは都築が頑張ったのだろう。だが、悲しいかな『腐海の魔女』ほどの影響力を残すことができなかったようだ。
「おっ、コレは」
マサヒコはその【MB】を手に取った。紙のジャケットに、ロボット同士がビームの剣で斬り合っている写真が乗っている。
どうも、ロボットバトル映像ソフトらしい。キャッチコピーには、「『双極の大魔導』、『戦闘魔法師』ガイ・ツヅキの構想が500年の時を越えて、今、実現」みたいなコトが書かれていた。
わっ、コレは、見たい。超見たい。
マサヒコのテンションが上がった。さっそく購入。今回はシュマホーファイルではなく、【MB】をそのまま購入(千エーンほど高い)。
さっそく通路に置かれたベンチに座り、【MB】を再生してみた。
B5ほどの金属板が青く光り、それがタブレットのようにモニター化する。途中で購入したヘッドフォンをつけ、再生。
10分ほどで再生をヤメた。
ウン、努力は伝わったよ、都築君。
要するにロボットっぽい魔装顕現をして、戦っている映像である。ビームの剣は魔法で演出したっぽい。
だが、なにしろ、ロボットという概念が存在しない世界である(だいたい魔装顕現や魔法でどうにかなってしまうし)。
なんというか、コレジャナイ感がスゴい。
このあたりも狙い目かもしれないな、とマサヒコは思った。ロボットというのは、もしかしたら需要があるかもしれない。
魔法で再現したゴーレムみたいな。
マサヒコはロボットバトルの【BM】を【ギルドカード】に収納すると、シュマホーで買った本を読んだ。
マサヒコは本を読むのは好きだが、活字中毒というワケではないし、大して読むのも速くない。
大量の本を買ったはイイが、トテモではないが読み切れない。とにかく、情報収集とワリ切って、ガンガン飛ばし読みをする。
そうしていたら、ふっ、と、目の前に人が立った。
顏を上げるとアリスだった。
「用事、終わったの?」
「あー、ウン。バッチリ。ソッチも満足した?」
「シタ。ヤッパ、この世界、ギャル分が足りんわ。ネイルとかも全然だし。ウィッグも、カツラしかないし。日サロもないんじゃね?」
「そりゃー、ないでしょ。わざわざ日に焼けるって文化がないと思うよ」
そもそも魔装が変身のようなモノなので、そういった盛るアイテムの需要がなかったのかもしれない。
「アトさ。思ったんだけど。プリクラとかカラオケとか、あったら良くね?」
「カラオケはアリかも。でもプリクラって需要あるの? 俺、ヤったコトないからよく知らないけど。シュマホーでイイじゃん、てならない?」
「ソレはソレ、コレはコレじゃん。絶対、イイって」
「まあ、アリスがそこまで言うなら。ヒットするかもね」
「でしょ。アトさ。ドラッグストアなくね? コンビニも」
「ないね。自販機もないし」
「そーいうの、狙ったらヒットすんじゃね?」
「ただ、ドラッグストアとコンビニはたぶん、いろんなギルドにケンカを売っちゃう気がする。自販機はイイかも。ジュースが手軽にいつでも飲めるってのは、やっぱスゴいよね。そっか。ポーション。ポーションがもっと手軽に買えたら、イイかもな」
「てかさ。そろそろ、オナカ減ってきたんですけどぉ?」
「あっ、もう11時半か。出ようか」
ケッコー、長居してしまった。
「昼はギルドで食うの?」
うーん、とマサヒコ。気が進まない。
ゴブリンキングを倒してイチヤク有名人となってしまった弊害で、ヤタラ声をカケられて落ち着かないのだ。
「ほかで食べてもイイかなって」
「じゃ、近場でイイ店ないか聞いてみるわ」
言って、アリスがシュマホーをイジる。
マサヒコは視線を落とした。するとすぐ目の前にアリスの黒のニットワンピの裾から伸びるフトモモが目に入った。
すっごくムッチっとしてる。
イカンイカン、と首を振る。
だいぶ、性欲がタマっている。
そりゃー、そーだよな。コッチに来てからゼンゼンだし。
性欲がスタックしすぎてしまったようだ。
元の世界にいた頃は、1日1回、毎日かかさずオコなって、しっかり管理していたというのに。
経験豊富なギャルと同棲生活をしてラッキースケベばかりなのだから、通常より、性のエナジーがタマりやすいというのに。
だが、しかし、いったい、どこでシロというのか?
さすがにシャワー室でスルのはちょっと。落ち着かないし。人いたら絶対その気にならない。トイレの個室も同じ理由でムリ。
マサヒコはナイーブなのだ。背徳感を楽しむとか童貞にはレベルが高すぎる。
イヤ、でも、マジでそろそろどうにしないとマズい。アリスにナンカしちゃいそう。
それとも、いっそう、娼館とか行っちゃう? 童貞捨てちゃう?
それもまたイイだろう。
イイのか?
それでも、できれば初めての相手はプロではなくシロートがイイなあ、と思ってしまうマサヒコであった。
そんなコトをツラツラ考えていたらアリスのシュマホーが鳴った。さっそく返信が来たらしい。
「エラが、パスタが美味しい店があるってさ」
「じゃ、じゃあ、ソコ行こうか」
欲望まみれのコトを考えていたので、マサヒコは後ろめたかった。アリスの顔がまっすぐに見れなかった。




