クラスメートたち
朝食後、マサヒコとアリスは一度部屋に戻った。マサヒコとしては情報を整理し、アリスと共有したかった。
それに今後の方針も決める必要がある。
「あっ、ヨースケのコト分かったよ。ゼッセーの美男子で、モテモテだったんだってさ。世界中を回って、シュマホーを広めたって。キョーカは同じくらいに活躍した超有名な劇作家みたい。キョーカ・フジミ」
アリスがシュマホーをイジりながら言った。
部屋のテーブル席にフタリでついている。
マサヒコもシュマホーをイジりながら、うなずいた。アリスにはリーズを始めとした友人たちに、水島洋輔と藤見鏡花についてメールで聞いてもらったのだ。
マサヒコの方は蔵書の中に『双極の大魔導』という本があったので、ソレを読んでいる。
「ナンカ、シュマホーを発明したの、キョーカみたい。ほかにもイロイロ発明してるんだって。発明王トーダの再来だって言われてたんだけど、発明より劇作家の道を選んだ、みたいな。80歳くらいまで生きたんだって。てか、死んでんじゃん」
「マジで? じゃあ、藤見さんは帰れなかったんだ」
マサヒコはクラスメートの藤見鏡花の顔を思い出した。
マサヒコと同じ陰キャでボッチの女子。いつも本を読んでいた印象がある。メガネに三つ編みの地味な感じの女子だった。
一度も話したことはなかったが、それでもクラスメートがすでに死んでいるという情報は、胸にクるモノがあった。
「ヨースケについては分からないコトが多いんだって。でも、キョーカとは親しかったみたい。キョーカの葬式にヨースケを見たってウワサがあったって。ソレも若いままの姿で。永遠の美少年なんだってさ」
「不老の魔法とかなのかな? 藤見さんが亡くなったのが20年くらい前か。だったらまだ生きてる可能性があるかも」
マサヒコの知るところの水島洋輔は近寄りがたいほどの美少年だったが、気取ったところはなく穏やかで優しかった。
ボッチのマサヒコにもたびたび話しかけてくれ、ヒョットしたら友達なんじゃないかとすら思わせてくれた。水島洋輔はクラスメート全員と同じような距離感だったように思うので、ただの気のせいだろう。
「コッチは、都築君と小山さんのコトがだいたい分かったよ」
マサヒコは、ざっと流し読みして分かったことをアリスに説明した。
『双極の大魔導』は、魔交歴200年代に活躍した魔法使いの男女のこと。
『戦闘魔法師』ガイ・ツヅキ。
『腐敗の魔女』ヒルダ・オヤマ。
現在ある魔法のほぼ全ては『双極の大魔導』が造り出したと言われている。それ以前の魔法は、魔力を放出するだけの単純なものだったらしい。
さらにガイ・ツヅキは魔装の基本となるシステムを開発し、大陸の治安を大きく向上させたという。
さらに魔法を使った模型の作成を考案したのもガイ・ツヅキだと言われている。
ヒルダ・オヤマは『腐敗の聖典』の創始者。製紙、および、印刷魔法を生み出し、大陸の文明を大きく発展させた。彼女が生涯書き記した『腐敗の聖典』コソが原典とされ、以後の『腐敗の聖典』はソレを模倣して作られている。
『双極の大魔導』の功績はあまりにも多大であり、彼らの存在が今日の文明の基礎を築いたと言っても過言ではない。
正確な享年は伝わっていないが、フタリとも100年近くを生きたと言われている。
「てか、ウチ、フタリとカラんだことないんだけど」
アリスが言った。
「ウン、まー、俺は都築君とは、ちょっとは話したけど」
都築凱はオタク男子だった。
ボッチのマサヒコはクワしく知らないが、彼が話している内容を聞く限り、かなり濃いオタクだったようだ。特に、特撮とロボットアニメが大好きだったとか。
魔装の甲冑がナンカ特撮ヒーローぽいのは彼のせいだろう。
小山妃瑠陀も別系統のオタクという印象。こちらは、イワユル腐女子。ボーイズラブをこよなく愛する少女だった。よく腐女子仲間の友人たちと話しているの聞こえた。
セメがどーの、ウケがどーの。
あのフタリが、この世界の魔法の大半を作ったのかー。
マサヒコはシミジミと思った。感謝したくなるような、ナントナク笑いが込み上げてくるような。
「アト、400年代に活躍した『大賢者』は、本田さんみたいだよ」
「えっ、チアキ? マジ?」
「うん。本田千秋さん。彼女が【ソウルシステム】を開発したらしいよ。ほら、【ギルドカード】に備わってるヤツで、魂の力を魔力に変換するとかいうヤツ。今の冒険者ギルドを作ったのは彼女みたい。【レベルアップシステム】とか、ステータスとか。本田さんが完成させたおかげで、魔物との戦いが一気に楽になったんだって。えーと、500年代初めに亡くなったそうだよ」
「チアキ、マジメだったもんなあ。ウチ、よく注意されたわ」
アリスは、ハアっ、と重い息を吐いた。
アリスは本田千秋と同じ中学の出身だった。グループこそ違ったが、まあまあ、仲良くやってた方だ。よく怒られたが、そこには心底自分を気にかけている様子がウカガえた。
「鈴木さん、ホント、イイ加減にしなよ」
1週間ほど前にも盛大な遅刻をしたら、両腕を組んで、そんな風にキツく怒られた。
「そんなんじゃ、卒業できないよ」
そっか。チアキ死んじゃったんだ。
マジかあ……。
「とりあえず、分かったコトは、俺たちのクラスで何人も転移してきたってコト。アト今までに元の世界に帰れた人はいないってコトかな。知らないだけかもしれないけど」
「あっ、今、気づいたんだけどさ。男子はリョー、女子はミドリの近くの席だったヤツじゃない。転移したの」
その言葉にマサヒコも、ハっ、と気づいた。すぐに記憶の中の教室を思い出す。
マサヒコの席は森本良の二つ後ろ。マサヒコの前の席は水島洋輔だった。さらに都築凱は森本良の前。
女子は榊原緑の前が、本田千秋。その前がアリス。緑の後ろが小山妃瑠陀。緑と男子を挟んで、その隣が藤見鏡花。
「そうだ。たぶん、そうだよ。ヒョットしたら、森本君と榊原さんが召喚されて、俺たちはソレに巻き込まれたのカモ」
「アイツらの巻き添え? マジっ。たくもうっ」
アリスは榊原緑とは因縁がある。というか、何度も迷惑をこうむっている。アト、森本良には何度も口説かれているし、友達をヤリ捨てられたコトもある。
ハッキリ言って、どっちも好きではない。
一方、マサヒコも、そういえば、とアリスと榊原緑が何度かヤリあっていたコトを思い出した。というより、アリスが怒って、緑が被害者ぶるみたいな光景だ。
「ゴメン、アリス。私、そんなつもりじゃなかったの。そんなに怒らないで」
涙声で言って、いかにもアリスが理不尽な理由で怒っているというような演出をしていた。
「じゃあ、なんのつもりでサヤカに変なことさせようとしたんだよ。マジ、イイ加減にしとけよっ」
「変なコトって? ごめん、ゼンゼンわかんなくて」
「だから、サヤカにエロい写真送らせたんだろ。全部、聞いてんだから、トボケんな」
クワしい事情は分からないが、超ビッチで誰でもヤラせてくれるという平山紗耶香のコトで、アリスが怒っていたらしい。どうも、緑が紗耶香にリスキーなコトをさせようとしたらしい。
アリスって、たぶん平山さんのこと守ってたんだよな。
そんなコトを思い出した。
平山紗耶香は1年の時にかなりヒドいイジメに合っていたと聞いたごとがある。真偽はさだけではないが、売春めいたコトまでさせられていたトカ。
2年に上がり、今のクラスになってからは、メッキリそんな話も聞かなくなった。
相変わらずビッチだとは言われているが、露骨に陰口を叩かれるというコトはないようだ。
カースト上位のアリスのギャルグループに入っているからだろう。
教室で平山紗耶香がアリスのソバにはべっているのはよく見る光景だった。
「そういえば、平山さんも席近かったんじゃない。榊原さんと」
榊原緑と男子を挟んで隣が平山紗耶香だったハズだ。
「……ホントだ。じゃ、サヤカもコッチ来ちゃったかも?」
「可能性はあるね」
「マジかぁ。てか、大丈夫かな。サヤカ、気弱いし。絶対ムイてないじゃん」
頭を押さえるアリス。ソコでマサヒコの視線に気づいた。なんだか微笑まし気な目をしている。
「ナニ?」
「イ、イヤ。優しいんだな、って思って。ほら、平山さんて、結構、女子から嫌われてるじゃん」
「心配するの当たり前じゃん。友達なんだからサ。嫌われてるトカ、ソンナン関係ないし」
沈黙が訪れた。マサヒコはツンデレっぽい感じのアリスにキュンとキていた。
アリスの方はマサヒコに優しいと言われて平静をタモつのに苦労していた。
「えーと、それで、これからどうしようか?」
アリスが続きをウナガすように、首をカシげてマサヒコを見る。
「つまりさ。どういう方針でやってくかってコトで。俺としては、帰れるものなら帰りたいなー、と思ってるんだけど」
確かにこの世界はドキドキするし、ワクワクするし、あとラッキースケベもあるし、オマケにチートも手に入った感じなのだが。
それでもマサヒコは帰りたかった。
憎たらしい弟にも会いたいし、芸能人のスキャンダルを話し出したら止まらない母とも会いたいし、ゴロゴロしてて偉そうな父にも会いたい。
アト、マンガの続きも読みたいし、やりかけのゲームもヤリたい。ポテチも食べたい。
まだコッチに来て4日目だが、もう十分。帰れるものなら早く帰りたい。
「そっか。マサヒコは帰りたいんだ。ウチ、別に帰りたくないんだよなあ」
「えっ、帰りたくないの? ナンデ?」
マサヒコには意外だった。そういえば、コッチに来た当初も、アリスはそんなコトを言っていたような気がする。
「ナンカ家に居場所ないし。オニイも、ママも、ウチのコト嫌いっぽいし。フタリして、ネチネチ嫌味言ってくるし。パパは、なんかウワキしてるみたいで。もう家庭に無関心? ウチなんか目に入ってないんじゃね」
マサヒコはナニも言えなかった。そんなコトないよ、などと軽々しくは言えない。
「結局、ウチがさ、彼氏? 5人もツキアったの、家族がウチに無関心だったからだと思う。関心を持ってもらえるのウレしいじゃん。告られたら、とりあえず、オッケーすんじゃん」
自分で言いながらもアリスはイイワケがましい、と思った。だが、きっと本当にそうなのだ。マサヒコにはそういうコトを知ってほしかった。
「えーと、じゃあ、その、帰らなくてイイと。ホントに」
「友達に会えんのはサビしいけどさ。まあ、ウチがいなくても、ほかと仲良くやるだろうし。ウチもコッチで友達できたし。別にイインジャネって思う」
強いて言うならサヤカのコトがちょっと心配だったが、そのサヤカもコッチに来た可能性が高いのだ。
「彼氏は? ライターを持たせるショウマさん? だっけ」
アリスはキッと怖い顔でマサヒコをニラんだ。目が三角形だ。
「だから、別れたっつってんじゃん。ウチの中では、もうショウマは元彼だから。フリーだから、ウチ」
マサヒコはアリスに怒られているにも関わらず、ウレしくなった。
そっか、アリス、フリーなんだ。彼氏いないんだ。ヘエー、ホウー。
「まっ、スグできると思うけどぉ。ウチ、ケッコー、モテるしぃ」
アリス、マサヒコをアセらせる作戦である。
早めに告ってこないと、ヤバいかもよ、みたいな。
「まあ、アリス、カワイイもんね」
マサヒコはアリスをヨイショした。帰る前に、あわよくば、などと思わないでもない少年心である。
「……わかってんじゃん」
ワンテンポどころかツーテンポほど遅れて、アリスが言った。口元がニヨニヨしている。ウレしいのだ。
「えーと、じゃあ、アリスは基本的に帰らないで、このままコッチに残る、と」
「てか、そもそも帰れんの? チアキも小山も、都築もヨースケもアト、キョーカも? 帰れなかったのに、どうやって帰んの? 何年かかんの」
「イヤ、ホラ、コッチで50年経っても、向こうの世界では時間が進んでないとか、あるかもしれないじゃん」
「そしたら、もっとヤバくね。マサヒコだけ、60代じゃん」
「そこは肉体も若返ってさ。そーだ、水島君が不老っぽいから、その秘密を調べれば、年取らないカモ」
「シンピョーセーあんの、ソレ?」
「イヤ、分かんないけどさ」
フーン、とアリス。
マサヒコが帰る気満々で面白くない。
なんだよ、ウチ、残るって言ってるんだから、残ってよ。
「じゃ、コッチで彼女できたらどうすんの? 捨てんの? 連れて帰るの?」
「ソレは残るでしょ」
即答した。本心である。
「……じゃっ、イイか」
「えっ? ナニガ?」
「別に」
「じゃあ、ともかく、これからの方針だけど。アリスはどうしたい? 帰らないんだとしたら」
「お金が欲しー」
「…………」
マサヒコがアキレた顔になる。
「だって、生きてかなきゃなんないじゃん。お金、重要じゃね? 無いと、キツイじゃん」
「まーね。確かに、知らない世界だし。お金はあるに越したことないよな。うちの父親も世の中のだいたいのコトは金があれば解決できるって言ってたしな」
「うわっ、それはそれでヒくかも」
「でも、実際、ものスゴい金持ちならそうじゃない? ウン、そうだよ。トラブルがあってもどうとでもなるくらいの金を稼ごう。そうすれば、情報も集まるし、帰る方法も見つけやすいかもな」
大金があれば選択肢が増えハズ。それはコチラの世界も同じだろう。
「じゃあ、ソレでいんじゃね。このまま、冒険者で金を稼ぐ?」
「イヤ、それだと時間がカカりすぎる気がする。資金が出来たんだし、ナニカ商売をしたらどうかな。ほら、俺たち、せっかく転移者なんだしさ。その知識を活用して、コッチに無い商品を流通させて、ガッポガッポ、みたいな」
「例えば?」
「えーと、ナンカ、あるかな」
マサヒコは首をヒネった。なにしろ、コチラの世界もケッコー便利なのである。先に来たクラスメートたちにイロイロ先をこされた感がある。
「コスメ関係? あるっちゃー、あるんだけど、もっと欲しいかも。あと、カラコンとか。それにさ、ツイッ〇ーもインス〇もないし。ユーチュー〇も、ティッ〇トッ〇もないし」
「そもそもネットがない。アマ〇ンもない。サーバーって概念がないのか? その辺、狙い目かもしれないけど。もうちょっと魔法にクワしくならないとムリっぽいなあ。とりあえず、コスメ関係とか、イってみる? ほら、ギャル文化を広めるみたいな感じで」
「オっ、イイね、ソレ。ウチ、それでイクわ。コッチの世界で、ギャルのカリスマ目指すわ」
「じゃあ、とりあえず、アリスにはコッチになくて、女の子が欲しがるようなモノを考えてもらって。問題は流通だよな。『トーダ商会』ってのに、取り入ることができればイイんだけど」
『トーダ商会』についての情報も集めた方がいいかもしれない。イヤ、そもそも、この世界の情報そのものがまだ少なすぎる。こんなときにインターネットがあれば楽なのだが。
「そういえばさ。シュマホーの電子ファイルみたいなの。どうやって手に入れればいいんだろ? 知ってる?」
「ウン? 本屋に決まってんじゃん」
アリスが知っていた。むしろ、なんで知らんの? みたいな態度だ。
「そうなんだ。じゃあ、俺、本屋行きたいな」
「ウチも雑誌見るわ」
こうしてフタリは、まず本屋に行くことにした。




