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アリスから見たら

 少し時を戻る。

 新たなる群れの襲来。そして矢の雨。

 アリスはすぐ目の前でリーズとウィナスの魔装がボロボロになっていくのを目にした。隣ではザックもボロボロだ。

 ナニコレ、ヤバいじゃん。

 アリスはパニックになった。その間にも、矢は次々と飛んできて、そのうちの何本かはアリスに当たる。

 ただ、不思議と痛みはなかった。


 その時、マサヒコの大声が響いた。

「アリス。みんなの回復を」


 すぐ脇を赤い影が駆け抜けていく。マサヒコだ。赤いマントをバッサバッサと鳴らして、ものスゴいスピードで前方のゴブリンの群れへと突っ込んでいった。

 おかげで矢の雨、マサヒコに集中。


 ちょっと、アイツ、ヤバいじゃん。

【ファイア】の魔法を使おうとするが、すぐにマサヒコの言葉を思い出す。

 そうだ、ウチ、回復しないと。


 まず、前倒しに倒れたリーズにかけよった。魔装のおかげで矢は突き刺さっていないが、コートは穴だらけ。その下のビスチェ型レザーアーマーもボロボロ。


「ヒール」

 アリスは叫んで、メイスをリーズに向けた。リーズの体が白い光に包まれる。魔装が見る見る直っていく。


 間髪いれずに、ヒザをついているウィナスに【ヒール】をカケる。その次は隣で仰向けに倒れているザック。

 3人が白い光に包まれたところで前方に目を向ける。


「スゴっ」

 思わずアリスは声に出していた。


 マサヒコは100メートルほど先で戦っていた。魔装で強化されているせいか、アリスの目にはハッキリとマサヒコの奮戦が見えた。

 ゴブリンの群れの中で、剣を振り回し、次々と敵を倒している。まるでゲームかなにかのように、ヒト振りごとにゴブリンが割れていく。


 そんなマサヒコの前にギンギラギンの大きいのが現れた。デッカい。マサヒコも身長は男子の平均以上はあるのに、ゼンゼンデカい。

 銀甲冑が、ブンブンっ、と戦斧を振る。

 マサヒコがソレをカワす。


 アイツ、超強いじゃん。

 ゴブリンをバッタバッタとブった切っていたマサヒコが苦戦している。助けに行かないと。


 問題はリーズたち。まだ魔装は修復途中。つまり【HP】も回復途中。確か【ヒール】は治療者がソバから離れると切れてしまう。もう少しだけ、とネバっている間に、ゴブリンたちが走ってくる。


 アリスはリーズたちを守るように立った。

 メイスを構える。

 実はアリスは【カスタムルーム】から出る際に、新たな魔法を1つ覚えている。

 リーズが使っていた【ライトアロー】の劣化版【ライトボール】だ。

 小さな光の玉をブツけるというもので、当たると強い閃光を放つ。攻撃力はイマイチだが、目ツブしになる。


 アリスはトゲトゲハートのメイスを構えると叫んだ。

「ライトボール」


 小石程度の小さな光の玉が走ってくるゴブリンに向かって飛ぶ。ゴブリンの頭に命中。すると強い光の爆発を起こす。

 ゴブリンたちが足を止め、その場をウロウロとする。


「メイス、解除。弓、顕現」

 メイスが消えて弓と矢筒が現れる。


 アリスは次々と矢じりがハートの矢を放った。小さな弓だが、それでも射程は40メートル近くある。

 ハートの矢はゴブリンたちの頭に、胸に突き刺さり、次々と屠(ほふ)っていく。


 その時、ものスゴい轟音が轟(とどろ)いた。例えば花火を近くで見た時のような。

 すぐにソレがギンギラギンが発した声だと気づく。

 ちょうどソチラに目を向けると、マサヒコがフっ飛ばされていた。


「ヤバっ。もう、ヤバイじゃんかっ」

 言いながら、走っていた。


 ゴブリンたちが邪魔をする。


「ジャマだし。マジでっ」


 アリスはゴブリンを文字通り蹴散らした。

 だが、そんな間にもギンギラギンがマサヒコに近づいていく。マサヒコは幹に背をアズけたまま起きない。


 ちょっと、マジで、ヤメてよ。

 永原君みたいに、死んじゃわないでよ。


 交通事故で死んだ初恋の男子のコトが思い浮かんだ。ツキアウどころか、想いを告げることもなくいなくなってしまった。

 けれど、今までツキアった5人の彼氏の誰よりも本当に好きだったと言える人。


 アリスは注意をソラそうとギンギラギンに矢を放つ。だが、なぜか、矢はギンギラギンに届く前に空中で消えてしまった。


 なんでっ。なにアイツ。空気読めよっ。


 アリスは跳んだ。近づいてくるゴブリンの頭上を飛び越え、着地。さらに走りながらゴブリンを射ていく。

 ギンギラギンはもうマサヒコのすぐソバだ。


 アリスはギンギラギンに向けて矢を放った。矢継ぎ早に、3矢。

 それもギンギラギンに当たる前に消滅してしまう。


 その時だ。マサヒコの声がした。

「イヤイヤ、ダメでしょ、そんなんさー」


 マサヒコがボロボロの魔装で立ち上がる。


「ちょっ、寝てろっ。馬鹿ぁ」


「魔装変更。軽武装」


 アリスの声とマサヒコの声が重なった。


 マサヒコが青いシルエットと化し、すぐに肌色に戻る。そう、もはや魔装がボロボロすぎて肌色なのだ。ほぼ裸なのだ。申しワケ程度に革鎧の欠片がくっついている。


 ギンギラギンが一気に距離を詰めると、戦斧を大きく横に振った。

 それをマサヒコは後ろに飛んでカワした。

 ギンギラギンがさらに踏み込み、頭上から戦斧を斜めに振り下ろす。

 マサヒコはソレもカワした。

 直後に、閃光のような突きを放つ。マサヒコの伸ばした剣はギンギラギンの首を貫いた。


「アリスはヤラせねーから。絶対」

 しぼりだすような叫び声。


 ソレはハッキリとアリスに届いた。

 ドキンっと大きくアリスの心臓が鳴った。

 えっ、えっ、ウ、ウチ? ウチのタメ? マ、マジ? 


 例えばマジックショーかナニカで、いきなりステージに呼ばれたらこんな心地かもしれない。

 思わぬところで思わぬタイミングでキタ自身への心ヅカい。

 

 あんな、無茶苦茶強くて、超ヤバめの魔物とボロボロになりながら戦って。死にそうになりながら立ち上がって。


 イヤ、コレ、もう愛だろ。

 心臓は凄まじい勢いで暴れ続け、顔が真っ赤に染まるのがわかる。


 と、突きを放ち、そのまま力尽きてヒザを折っていたマサヒコのすぐ脇に、ギンギラギンがうつぶせに倒れた。


 アリスは無我夢中で走った。全力疾走。数体残っていたゴブリンが立ちはだかるが、アリスはスリ抜けるように無視して、マサヒコの元へと駆け寄る。


 マサヒコもうつぶせに倒れる。

 アリスはすぐに魔装をメイスに変えると、マサヒコに【ヒール】をカケた。白く発光するマサヒコの体を、うんしょっ、とヒックリ返して仰向けにする。


 アリスの心臓はまだ加速状態。眠るマサヒコの顔に恐る恐る触れる。

 ナニカ、熱いモノを指先に感じ、アリスは手を引っ込めた。


 ハアっ、と自分の吐く息がイヤに遠くで聞こえた気がした。

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