キングです
マサヒコが倒した銀甲冑の正体が判明したのは冒険者ギルドに戻ってからだ。
あのアト回復した『暁の微笑み』が残ったゴブリンを殲滅。結局、あの森にいたゴブリンはギンギラギンをフクめて100体。
森の中央部には深く長い穴が空いており、ソコを住処にしていたようだ。
『暁の微笑み』は面目躍如とばかりに巣穴を探索。ゴブリンの雌や子どもがいたという。さらには人間の女性も1人囚われてた。その女性は完全に正気を失っていた。
全てを片付け、一度村に戻って休息をとり、ベルドーン市へ戻ってきた。
チナミに、その途上の駅馬車の中でリーズが三角関係を清算した。
「ゴメン、ザック。アタシ、ウィナスが好き」
そうハッキリと口にしたのだ。
なんでも矢の雨を浴びて痛みで意識が遠ざかっていく時に、このまま死ぬのは嫌だ、と強く思ったそうだ。
走馬灯のように幼なじみとの想い出が頭をよぎり、そして、自分の気持ちに気が付いたとか、ナントカ。
ホントかよ、とマサヒコは思ったが、口にはしなかった。
まあ、そういうコトもアルかもね。
さて、ギルドで依頼達成の報告をした際のコトだ。
ここでマサヒコが倒したギンギラギンの銀甲冑の正体が判明。受付嬢が驚いて立ち上がった。
「ゴ、ゴブリンキング、討伐……」
ざわめいていたギルドのロビーが静まり返った。
カウンター前にいたマサヒコとアリス、それに『暁の微笑み』3人はポカンとした顏である。
マサヒコとアリスはもとより、『暁の微笑み』も銀甲冑の正体を知らなかったのだ。
「ハア? ゴブリンキング? そんなワケないだろ」
奥でモニターに向かって、タンタカタンタカ、キーボードのような板を叩いていた中年メガネが寄ってきて、マサヒコたちの処理をしていたカウンター近くのモニターを見る。
「おっ、おい、イヤ、嘘だろ。Aランクだぞ。ゴブリンキングは。だ、誰が倒したんだ? マサヒコ・アオキ? Fランクって? イヤイヤイヤ」
その中年メガネが同伴で解体所に行くことになった。ゴブリンキングの死骸を見せてみろ、ということである。
ナンカ、こういう展開、マンガで見たことある、とマサヒコは思った。
異世界転移したチート主人公が倒した敵が、実は高ランク魔物だった、みたいな。
解体所で銀甲冑の死骸を取り出す。さっそく解体所の職員が甲冑をハいでいった。
「ウン、これゴブリンキングで間違いない。スゴいじゃない」
先日、大ネズミを受け付けてくれた女性職員が言った。
「金属武具の発生はジェネラルから。だけど、ジェネラルの武具はこんなに洗練されてないんだよね」
さらに、そこで、なぜアトから現れたゴブリンの群れがレーダーに反応しなかったか判明した。ゴブリンキングは『王の力場』というスキル(魔法とは違う特殊能力。魔装の武器に付随するスキルとは別物。人間にもユニークスキルとしてときどき発現する)を持っているという。これにより、周囲の魔物の気配を消すことができる。
報酬が支払われた。大金である。
まず依頼料の百万エーン。そこにBランク以上の魔物を討伐した際に発生する特別ボーナスが上乗せ。Aランク魔物の特別ボーナスは1千万エーンである。
さらにさらにゴブリンキングの武具に高値が付いた。コレが1千万エーン。
もちろん死骸も高い。1500万エーン。
モロモロ合わせて、3660万エーンである。
「ホ、ホントに、イイのか。山分けで。倒したの、お前だぜ。俺たちはなんにもしてねーぞ」
大金を前にウィナスが震えた声で言った。
なにしろ5頭分しても732万エーンである。
「イヤ、それはただけの結果だから。それに、ゴブリンキングが現れて危険だったのは全員一緒じゃん。運よく俺が倒せたってだけで。だから、最初に決めた通り山分けがイイよ」
マサヒコは言った。
高校2年生の彼には732万エーンでも大金すぎて眩暈がするくらいなのだ。
むしろ、山分けでなくては困る。
「スマナイが、ありがたく貰っておく」とザック。
俺には路銀が必要だからな、と心の中で付け加える。
彼はヒトリ、この街から出ることにしたのだ。
リーズがいずれウィナスを選ぶだろうことは彼には分かっていた。だが、それでも、ソバで、フタリがイチャつくのを見ているのはキツイ。
その後、5人は美味しいと評判の料理屋で夕食をとった。祝勝会だ。
最初は単にお祝いムードだった。ウィナスとザックがマサヒコの健闘を称え、マサヒコが自身の戦いブリをちょっと大げさに話した。ゴブリンキングを倒して調子に乗っているのだ。
だが、ザックが突然、パーティを抜けて、街を出ていくことを宣言すると空気が変わった。
「オイっ、なんでそんな」
色をなし詰め寄るウィナス。
「分かっているだろ」と静かに言うザック。
「だからって」
それでもウィナスの勢いは衰えた。
「もう決めたことだ」
ザックはサビしそうに、ウィナスとリーズを交互に見た。
「幸せにな」
ナンカ青春ポイ感じになった、とマサヒコは居心地の悪さを感じた。そいうコトは3人の時にやってほしかったなあ。
俺、完全にモブに戻っちゃったよ。
チラっと隣に座るアリスを見る。
アリスは目をウルませていた。目の前で展開された青春劇に感動しているようだ。
わぁ、純情だ。ギャルなのに。
そのギャップにマサヒコはキュンとした。
そのアリスだがアレからまったく落ち着かなかった。どうも、マサヒコの近くにいるとソワソワしてしまう。話しカケられると、ちょっと身構えてしまう。
にも関わらず、離れようという気にはならない。
ヤバっ、ウチ、コレ、恋してんじゃね?
てか、恋してるよね、マジで。
だから、アリスは結構、挙動不審であった。ただ、マサヒコは女子慣れしていない少年だ。女子がちょっとソワソワしていても、全然わからなかった。
それにマサヒコは浮かれていた。Aランク魔物のゴブリンキングを倒したのだ。大金星なのだ。
ソウダ、俺はスゴいんだ、などと分かりやすいくらい調子に乗っていた。
「アリス、これ、ウマイぜ」とか、キザな感じで料理を進めたりした。
「えっ、マジ? じゃあ、もらうわ」
ワンテンポ遅れて、アリスが言った。
この夜、マサヒコはイマダかつてないほど自信に満ちアフれており、無敵感があった。
ギャルだろうが怖くなかった。むしろ、ギャルのアリスも口説けるような気さえした。
『暁の微笑み』の3人が、なにやらしんみりモードに入って、思い出話をしているカタワら、マサヒコはズイっと、アリスの方に体を近づけた。
ベージュ色のニットがクッキリ見せている胸の双丘を、スゴく意識する。触りたい、いや、モミみたい。超モミみたい。
「アリス、俺、あの時、マジで死ぬかと思ったんだ」
「……ウン。ウチも、マジ、怖かったから」
アリスがやはりワンテンポ遅れて応える。
マサヒコは気づかなかったが、少し身をヒいている。
「マジ、マサヒコ、死んじゃうって思った」
「そしたらさ。その……アレだ。えーと」
ここで急にシドロモドロになる。なにしろ、しょせん付け焼刃の自信。いざ、口説こうとしたら、そんなものはすぐに消え去ってしまった。
本当はここで、あの時、アリスの顏が頭に浮かんだんだ、みたいな感じに言いたかったところである。
「ソーマトーってヤツ?」
「えっ、ソーマトー? ああ、そう、走馬灯。よぎった。走馬灯、キタって思った」
おどけて無難に着地する。自信が消え去さり、ただのチキンハートに戻ってしまった。
クソっ、なにビビってんだ、俺。
でも、アリスのオッパイ、ちょっと当たってない?
胸の先がかすかに当たってるような、当たってないような。
「てかさ。ちょっと、カッコ良かったカモ」
アリスが下を向いてボソッと言った。
ドッキーンとマサヒコの心臓が跳ね上がった。ナニソレ、超カワイイんだけど。反則でしょ、コレ。
ギャルが照れながらトカ恐ろしいほどにカワイイ。
マサヒコはアリスとは比べ物にならないほどソワソワしだした。キョロキョロしたり、貧乏ユスリしたり。挙動不審が止まらない。
隣では、いつのまにか『暁の微笑み』の3人が、イイ笑顔で、これからのコトを話し合っていた。
夕食を終え、『暁の微笑み』と別れた(最後にシュマホーで5人で記念撮影した)アリスとマサヒコは、そのまま寮に戻った。
「く、暗いからさ、手、ツナいでくんない」
アリスは言った。今までは気楽にトっていたマサヒコの手。だが勇気を出さなくてはとても握れなかった。
「えっ、ウン」
マサヒコはアリスの手を握った。
アレ? コレ、イイ感じ? イヤ、でも、手をツナぐのは今に始まったことじゃないし。
なにしろ、アリスはワリと気楽にスキンシップしくる。ジャッカン違和感は感じたが、それは本当にワズカであった。
フタリはそのまま手をツナいで寮へと帰った。
夕食は済ませてきたので、そのまま部屋へ直行。階段でアックスと会った。
「よー、聞いたぜ、アオキ。ゴブリンキングを倒したってな。スゲーじゃねーか」
「無我夢中で。ナントカって感じ。自分でも良く倒せって思いますよ」
「ケンソンすんな。誇ってイイぜ。本当に、期待の新人だぜ。また今度、クワしい話を聞かせてくれよな」
その後、シャワーを浴びる。
連れ立ってシャワー室に行くとき、マサヒコもアリスもドキドキしていた。ナントナク、手もツナいでいた。
シャワーは当然のようにマサヒコの方が早く終わった。そのまま洗濯室へ行き、今日着ていた服を洗濯機に放り込む。
そうすると、ドッと疲れが出た。
【ヒール】で回復してもらったとはいえ、【HP】と疲労はまた別のようだ。
洗濯室のベンチに座り、ハア、と俯いて待っていると、部屋に誰かが入ってきた。マサヒコは顔を上げるのも億劫だったので無視した。
「こんばんは」
女性の声だ。
マサヒコは顔を上げた。
腰まである青い髪の少女。マサヒコたちの数日前に入寮したマリアだ。
「あっ、こんばんは」
マサヒコも挨拶を返す。
そのまま沈黙。マリアが空いている洗濯機に洗濯物を放り込む(【ギルドカード】からパッ)。
しばらく、手持ちブサタに洗濯機の前に立っていたが、マサヒコの座るベンチへとやってきた。
「聞いたよ。ゴブリンキング、倒したんだって?」
「ウン、ナントカ。ヤバかった」
「ソレはそうでしょう。私でも知ってるようなAランク魔物だもの。Fランクなのにスゴいって、みんな話してた」
「イヤ、タブン、それは……」
マサヒコは言いカケて口をつぐんだ。
あれからマサヒコなりに考察をしている。ナゼ、冒険者を初めて3日目のFランクの自分がAランク魔物を倒せたのか。
それは恐らく自分が転移者だからだ。
レベルアップ時に得られる【ステータスポイント】。【カスタムルーム】でソレを振り分けて時に思ったのだ。
こんなに振り分けられるポイントが多いのか、と。
たった3回レベルアップしただけなのに、振り分けられる【ステータスポイント】は千ポイント近かった。
だからこそ、あの矢の雨の中、無傷でいられたのだろう。だからこそ、ゴブリンキングの攻撃をシノげたのだろう。
帰路でコッソリとアリスに確認したら、彼女も同様に千ポイント近い【ステータスポイント】があったという。
さらに、マサヒコは祝勝会でウィナスに1回のレベルアップで得られる【ステータスポイント】を聞いてみた。
「そーだなー。だいたい、10ポイントくらいじゃねえか。【ステータスポイント】はオマケのようなモンだしな」
そう、レベルアップする際には、【HP】、【MP】に加え、自身のスタイルにあったステータスが自動で底上げされる。本来はソチラがメインのパワーアップらしい。
だが、ウィナスの言葉でハッキリした。
マサヒコとアリスが異常なのだ。そして、それはフタリが異世界転移したことと関係があるのだろう。
幸い、この世界では初期ステータスにカナリの格差があらしい。
5年たってもFランクのまま上がれない者もいれば、1週間とかからずにCランクまで駆けあがれる者もいる。おかげでマサヒコがゴブリンキングを倒せても、騒がれはしたが、素性を疑われることはなかった。
「俺、こう見えても鍛えてるんだ。子供の頃から冒険者に憧れてたからさ」
ゴマカして、そんなことを言う。
「ヤッパリそうよね。でも、アオキ、あんまり強そうには見えないね」
マリアが言って笑う。
「だよね。俺も、自分が強いとは思えないもの」
祝勝会では、一時的に、自信がみなぎったのだが、スグに、イヤイヤ、俺ナンテ、ゼンゼンでしょう、という卑屈さの殻に覆われてしまった。
それから、しばらくマサヒコはマリアと談笑した。やはりアリスと比べ、マリアは話しやすい。ナニカ、こう、波長が合うのだ。デフォルトのテンションが近いというか。
マリアの田舎の話を聞いたり。マサヒコの弟の話をしたり。
そうこうするうちに、マサヒコの洗濯が終わった。起動中、青く輝いていた側面の魔法陣が消灯する。
「終わったよ」
マリアが言った。
「アレ、もう? 20分くらいカカると思ったけど」
シュマホーを開いてみると、しっかり時間が経っていた。
洗濯機から洗濯物を回収し、【ギルドカード】に収納する。部屋にはチェストもあるのだが、なにしろ、【ギルドカード】の収納が便利すぎるのだ。
「じゃあ、オヤスミ」
「オヤスミなさい」
マリアが小さく手を振った。
マサヒコは部屋に戻ると、すぐにベッドに入った。疲れた。さすがに疲れ果てた。
ベッドの中でシュマホーをイジる。
ゴブリンキングについて調べてみようと思ったのだが、文字を読んでいるうちに眠気が襲ってきた。
ダメだ、マジで、眠い。
ヒト目、シャワー後のアリスが見たかった……。
寝落ちした。
それから30分ほど経ってアリスが部屋に戻ってきた。
ベッドで、グォオア、グォオアとうるさいイビキをたてるマサヒコを見て、笑みが浮かぶ。
シュマホーを出すとマサヒコの寝顔を撮影。フフっ、と笑った。
アレ、ウチ、ケッコー、キモいか? ……キモいな。
ふと自分の行動を自覚し、反省。
だが、椅子をベッドのソバに持ってきて、じーっとマサヒコの寝顔を観察する。
こんなこと元彼たちにもしたコトがない。
1番、イケメンだった4番目の彼、カズでさえ、寝顔を見ても、あー、寝てんな、くらいにしか思わなかった。
マサヒコの寝顔を見ているうちに、ナニカ、体の奥がウズウズとしてきた。ナニカ、ナニカをしたい。
……こっそりキスしてみたりして。
ナンカ、マンガでそんな展開を読んだことがある気がする。
イヤ、ダメっしょ。それ、チカンじゃん。
ヤバいっしょっ。
頭を振って邪念を追い払う。
「寝るか」
ツブヤき、ハシゴを上った。
「常夜灯」
天井の照明がワズカな青い光だけになった。
目を閉じる。
すると、自分の心臓の音が、まだ、いつもよりも速く大きいような気がした。
「アリスはヤラせねえ、から。絶対」
マサヒコの声が頭の中にヨミガエる。
マサヒコ、ウチのコト、好きなのカナ。
だって、普通、あんなこと言わないじゃん。あんな強そうなのに立ち向かわないじゃん。
好きなんだよね。
ウチから、イった方がイイのか? マサヒコ、チキンだし。
「だって、お前すぐヤラせてくれそうだったし」
頭の中で男の声がした。
懐かしい声。初彼のアキラだ。
別れるときに言われた言葉。
ハッキリ言って、そんなに好きじゃなかったけど、それでもファーストキスやらバージンやらをアゲた相手。
その言葉は本当に胸に大きな痛みを残した。2番目の彼ウッチーに顔を殴られた時より痛かった。
そっか。ウチ、そう見えるんだ。
簡単にヤレそうに見えるんだ。
だから、アリスは絶対、ツキアってない相手とはしない。ツキアってる相手とも、すぐにはしない。
ウチからイったら、すぐヤラせろってくるカナ? それ、ヤダな。
別に、ヤルのはイイのだ。むしろ、マサヒコと超シタい。もう手を握ってるだけで、なんだか、体の奥がジンジンするくらいだ。
実際に、イロイロされたりしたりしたら、どんなに気持ちイイのか。
そんなことを考えていたら、たまらなくなった。
アリスは毛布のハシをカむと、しばらく慰めた。




