ケッコーなお金だ
魔物の死骸を引き渡す解体所はギルドの地下にあった。血で真っ赤に染まった部屋に魔物の死骸が吊るされ、あるいはテーブルにノせられている。
黒いゴムカッパのような服を着た職員が、テキパキと働いていた。
マサヒコは解体所に入った途端に吐きそうになった。うっ、うえっ、と、口を押さえてエヅく。
アリスの方は平然としており、むしろ服に血がカカらないか気にしているようだった。
「大ネズミ8体ね。じゃあ、ソコに出してもらおうか」
黒カッパにゴーグル、マスクをつけた女性が、タブレットのような大きなシュマホーをイジりながら言った。
死骸はすべてマサヒコの【ギルドカード】に収納してある。マサヒコは言われた通り、キャスター付きの大型テーブルに大ネズミの死骸を出していった。
「ウン、まずまずの状態だ。ちょっと待ってろ。今査定するから」
言って、女性職員がタブレットをシュッシュとイジりながら、8体の大ネズミの間を移動していく。
「ゴ、ゴメン、俺、もう……。ちょっと、外、出てていい?」
マサヒコは口を両手で押さえて言った。
胸がムカムカして、今にも吐きそうだ。
「イイよ。アト、やっとく」
「アリガト」
言って、マサヒコは解体所から出た。
そのままトイレに直行。嘔吐した。
少し落ち着いてから廊下のベンチに腰かける。ハアっ、とタメ息をついた。
戦いの間は夢中だったので気にならなかったが、死骸を見るとあらためて自分が生き物を殺したことを痛感。罪悪感というより、嫌悪感のようなモノを感じた。
慣れるモンなのかな、コレ。
慣れたら慣れたで、どうなんだ? とも思うが。
そこへ階段の方から話し声が聞こえてきた。冒険者たちが歩いてくる。
男2人に女2人。そのうちの女の1人に見覚えがあった。
昨日、寮の屋上で会った少女だ。
名前は確かマリア。
腰まである青い髪が明るいところで見るとひどく印象的。年齢はマサヒコと同じくらいだろうか。ほかの3人が20代半ばほどなので1人だけ若い。
「オイ、どうした?」
マリアの仲間の青年が言った。背の高い青年だ。
「いえ、あの、解体所で気持ち悪くなってしまって」
言ったアトに、こういうコトを言うとナメられるかなあ、と心配になった。
「あー、分かる。アタシも最初はキツかったんだよね」
赤髪のポニーテイルの女性が言った。
「魔物とはいえ、生き物を殺すのは良い気分ではありませんからね。ただ、誰かがやらなくてはなりません」
黒髪の前髪を切りそろえた青年。
「仕事とはえてしてそういうモノです」
マリアが心配そうな顔でマサヒコを見つめる。
マサヒコはワズカに微笑を浮かべた。
「ウン? マリア、知り合い?」
赤毛の女性の言葉にマリアが頷いた。
「昨日、寮の屋上で会っただけだけど」
「それなら、ちょっとついててやったらいい」
背の高い青年が言った。
「誰かと話せば気分もマギレるだろう」
「そうしなよ。アタシもさ。最初の頃は、リックにさんざん迷惑カケたんだからさ」
照れ臭そうにポニーテイルの女性。
背の高い青年に愛おし気な目を向ける。
「エリカは頑張ってたよ。もっと俺が気を遣ってやれれば良かったんだけどな」
背の高い青年が言った。その顔も照れクサさのタメに赤い。
「2人ともノロケはその辺にしてくださいよ。では、マリアは彼についてあげるというコトで、私たちだけで解体所へ行きましょうか」
前髪を切りそろえた青年が言って歩きだす。ほかの2人もソレに従った。
残ったのは青色の髪の少女、マリアだけだ。マリアはマサヒコの正面に立ち、心配そうな面持ちで見下ろす。
「ゴメン、ナンカ心配かけて」
「血のニオイにヤラれたの?」
「アト、ちょっとグロテスクで。こう視覚的にキツかったというか」
「そう……。私は子供の頃から、解体の手伝いしてたから慣れてるけど。そういう経験ないと、キツいカモね」
「実家で魔物の解体をしてたの?」
「ウン。うち、お父さんが元冒険者だから、ちょくちょく魔物を獲ってきたの。ラビットボールくらいなら、ヒトリで解体できるよ」
「へえー。スゴいね」
鶏をシメるみたいなものなのかなー、とボンヤリとマサヒコは思った。
「アオキはソロ?」
「イヤ、一緒に街に出てきた子と組んでるんだ。その子は、平気だったみたいで。ソレもちょっと自己嫌悪だよ」
陰キャボッチ的な雰囲気をマリアからも感じるせいか妙に話しやすかった。
「こーいうの人によってだから、気にしない方がイイよ」
「アリガトウ。マリアさんは、あの人たちとパーティ組めたんだね。なんか、良さそうな人たちで良かったじゃん」
「ウン。ギルドのロビーで困ってたら仲間にしてくれたんだ。私、人と話すの苦手だから、スゴく助かった」
「俺もそうなんだよ。仲間の子がさ、スゴく人話すのが上手な子で。その子がいなかったら、俺、絶対、野垂れ死んでた」
「じゃあ、他のコトで返してかないとだね」
「そう。だから、戦闘ではできるだけリードしていこうと、ね。そーいえば、【カスタムルーム】使ったコトある?」
「ウン、あるよ。自分にあったスタイルを決めるために、ヒト通り、試してみたよ。結局、攻撃魔術師にしたけど」
「へー。試すって、ヤッパリ、【トレーニングルーム】で?」
「ウン。【カスタムルーム】と【トレーニングルーム】を行ったりきたりして魔装を決めた。アオキたちも早めにヤっといた方がイイよ」
「アリガトウ。このアト、行ってみるよ」
そのまましばらくマリアと話していると、マサヒコの体調も戻った。青白かった顔色もスッカリ元通りだ。
ソコに解体所からアリスが出てきた。
「あっ、あの子が仲間の鈴木亜里栖さん」
マサヒコが歩いてくるアリスを紹介。
そう、とマリアがアリスを見る。
少し顔が強張っているのは、やはりボッチの性なのだろう。人見知り体質なのだ。
「てか、元気そうじゃん」
アリスが言った。少し不機嫌そうだ。ブレザーのポケットに手をつっこんでいる。
「あ、鈴木さん、コチラはマリアさん。俺たちと同じで冒険者になったばっかなんだって」
マサヒコはアリスに紹介した。ボッチの気ヅカいである。アリスならすぐにマリアと仲良くなるんだろうな、と思った。シュマホーの連絡先交換とかしちゃったりして。
アリスはマリアをチラッと見て、「そっ。ヨロシク」と短く言った。
その雰囲気に拒絶を感じ取ったのだろう、マリアは短く別れを言って解体所へ入っていった。
マサヒコは、なんかソッケないな、とアリスに対して不満に思った。もっとこう、交友関係の広がりを期待したのだ。
だが、考えてみれば、マリアは自分と似たような陰キャボッチ型。本来、アリスにはノリが合わないタイプ。ソレを感じ取ったのかもしれない。
「てかさ。アンタもナンパとかすんだ」
「いや、ナンパって。そんなんじゃないから。昨日、鈴木さんが寝てる時に、屋上で会ってさ。それでさっき、気分悪くてグッタリしてたら通りかかって。俺の気をマギラわそうと話し相手になってくれて」
「ドーデモいいけど」
言って、アリスはマサヒコの隣に座った。足を組む。やはり不機嫌そうで会話が途絶える。
「そーいえば、いくらになった?」
「20万」
「えっ、20万? 死骸が?」
「そっ。ウチらキレーに倒したから」
「じゃあ、報酬と合わせて40万エーン。スゴいじゃない」
半日の稼ぎとしては破格というしかない。
しかも【経験値】も大めに得られて。
マサヒコはアレから、もう2回レベルアップしたのだ。確かにアックスたちの言ってた通り美味しい。
「でしょ。ウチもマジ、ビビった」
アリスの機嫌が良くなった。もともと、解体所を出るまでは超上機嫌だったのだ。だが、マサヒコが青い髪の少女とナニヤラ楽しそうに話しているのを見て、よくわからないが不愉快な気分になった。
「俺もシュマホー買おーカナ。便利そうだし」
「マジ、買いなよ。シュマホー超便利だから。ウチはさ、服とか欲しいんだよね」
「そうだ。服も買わないとだ。さすがに洗濯したいし」
いつまでも着の身着のままというワケにはいかない。着替えを買わなくては。
そのほか、モロモロ、必要な生活用品を買わなくてはママナラナイ。
「じゃ、このアト、行くか、ウチ、イロイロ店の情報聞いてっから」
ソコでマサヒコは【カスタムルーム】について思い出した。イイ加減に魔装を変更した方が良いのではないか。いつまでもバニラというワケにはいかないだろう。
「それ、明日でイんじゃね? 40万あったら、しばらく大丈夫っしょ」
ソレもそうである。
寮にいるので食事は無料。モロモロの相場はわからないが生活用品にそこまで金はカカらないだろうし。余裕がある。
「じゃあ、買い物行こーか」
「ヨシっ、行くか」
言って、アリスが勢いよく立ち上がった。




