原宿みたいな?
2人は冒険者ギルド前のバス停からバス馬車に乗り、繁華街へと出た。アリスの得た情報だと街で1番ニギわっていて、アツイ場所らしい。
向こうの世界でいうところの原宿とか渋谷とかそういう感じだろうか。
バス馬車から降りたアリスは、人でニギわう通りの様子にテンションが爆上がり。
歩道車道関係なしに人が歩いていて、そのヨソオイたるや彼女好みの派手めなカッコウが多い。
フトモモの半ばまでの短いスカートや、ヘソ出しチューブトップ。ファーのついたジャケット。アクセサリーじゃらじゃら。
服や下着、アクセサリー、雑貨など、1つの建物に複数の店舗が入っているらしく、たくさんの看板がブラ下がってる。
屋台でナニヤラ生クリームたっぷりのデザートを売っていたり、ポップコーンのようなモノを売っていたり。
区画自体は広くはなさそうだが、若者が好きそうなモノがギッシリと詰まっている様子。
「マジ、上がるんだけどぉー」
アリスが目をキラキラさせて言った。
「俺、ナンカ、こーいうトコ、苦手」
マサヒコは人ゴミが苦手だった。特に陽キャっぽい人がたくさんトカ、ホント、キツイ。
「イイから、行くぞ。ハグレんなよ」
勇ましく言って、サッ、サッ、と人込みを進んでいくアリス。
マサヒコは仕方がなくアリスについて歩いた。とはいえ、元来、女性のファッション系の買い物は長い。
店員と和気アイアイと話したり、試着したりしている間、マサヒコは女性客の間で、ただひたすら待たされる。ケッコー、ツライ。
「アンタも買ったら? メンズの店もあんんじゃん」
「その前にシュマホー買いたいんだけど。アソコにショップがあるみたいだから、次、アソコ行ってもイイ? 俺がシュマホー持ってれば、別行動でも大丈夫でしょ」
「荷物持ちがいなくなんじゃん」
アリスが仏頂面になる。
「イヤ、【ギルドカード】に入れればイイじゃん」
それでもアリスは不満そうだったが、結局、折れて、マサヒコとともに『マーサ横丁』で1番背の高い建物『マーサルマン塔』に向かった。
高層ビルとまではいかないが、ソコソコに大きなビルのような建物で黒い石造りの円柱型。よく目立っている。
大きな時計が壁にモウけられており、『マーサ横丁』で買い物する若者たちは、皆、『マーササルマン塔』で時間を確認するのである。
『マーサルマン塔』の1階は広場になっており、中央に噴水があり周囲にベンチが配置されている。屋台で買ったデザートやらドリンクやらを片手に休憩する者たちでいっぱいだ。
シュマホー店は2階にあった。
昨日、アリスが買った店に比べれば、小ぢんまりとしている。
マサヒコとしては別にそこまでの機能は期待していないので構わないが。
「コレ、イイじゃん。コレにしなよ」と言ってアリスが進めたのは水色のシュマホーである。アリスのと色違い。
だが、マサヒコはどうせなら、アリスが買う際に迷ったオレンジ色と同タイプのものが良かった。なにしろ、クラスメートの水島洋輔の詳細がわかる『腐敗の聖典』が入っている。それに『魔物図鑑』も入っている。
もしくは、少し値段は高く10万エーンもするのだが、300冊もの本が入っており、パズルゲームやリバーシ、将棋のようなゲームまで搭載された、ハイエンドタイプか。
結局、マサヒコはこの10万エーンのハイエンドタイプにした。色は黒。『腐敗の聖典』を始め、『魔物図鑑』や『植物図鑑』、『魔法図鑑』など、実に様々な本が入っているのが魅力的すぎた。
「ゴメンね、鈴木さん。せっかく勧めてくれたのに」
「んっ、別にイイんじゃね。てか、考えてみたら、オソロとかちょっとキモいし」
アリスが言った。内心ちょっとイライラしていたので言い方に容赦がない。
おかげでマサヒコのハートにダメージがいった。
とにかく、コレでマサヒコもシュマホーゲットである。さっそく互いの連絡先を登録。
マサヒコは女子との連絡先交換にドキドキした。向こうの世界では女子の連絡先など、夢のまた夢だったのだ。
「てか、ここにもいろんな店あんじゃん。ウチ、テキトーに見てっから、アンタも服とか買っといたら?」
アリスが言った。
『マーサルマン塔』はデパートのようなものらしく、生活雑貨から下着、魔法道具まで様々な店舗が入っている。
「じゃあ、噴水のとこに1時間後に集合でどう?」
「オッケ」
こうして、マサヒコとアリスは別行動を取ることになった。
マサヒコはまず服の服の量販店っぽい店に入った。元の世界でいうところのユ〇クロっぽいところである。
下着(トランクスもブリーフもボクサータイプもあった)、Tシャツ数枚。スウェット。テキトーにパッパと買い物カゴに放り込んでいく。
買い物をしながら店の造りや品物などが、あちらの世界の影響を受けているだろうことをシミジミと思った。水島洋輔のシワザか、あるいは別の異世界人のシワザか。
だが、おかげで元の世界と同様かそれ以上の便利さを享受するコトができている。
服をヒト通り買ったアト、生活用品店へ。
歯ブラシ。ハミガキ粉。コップ。シャンプー。タオル。服よりもコチラの方が時間がカカった。
なにしろ、どういった素材で、どのように作られているのか気になるのだ。箱の説明書きを読みながら、ヘエ、ホウ、と声が出てしまう。
とにかく元の世界への帰還のメドがタつまで、この世界で生きていかなくてはならない。それなら、できるだけ快適な生活を送りたい。
生活用品店を回りながらも、いくつかのことに気が付いた。
大抵の製品は紙箱に入っている。製紙技術はもとより印刷技術も非常に高度だ。フォントも様々なモノがある。
プラスチックというものは存在しないらしく、代わりに金属やゴム、陶製の製品が多い。もちろん、ビニールもない。
つまり原油由来の加工製品がないというコトだろう。
もう一点。ほとんど全ての製品にトーダの文字が入っている。さっそく買ったシュマホーに百科事典のようなものがあったので調べてみると、どうやら『トーダ商会』関連商品らしい。
ほかにも、魔力を電池のようにタメておく魔力源というモノがあり、【ギルドカード】などソウルパワーを魔力に返還する魔法道具を持たない者でも、魔法道具を使えるようになっている。
さらに思わぬ収穫もあった。
【洗浄箱】という小型の洗濯機のようなモノが売っていたのだ。大きさは一辺が30センチの立方体。
シャツや靴などが洗浄できるというものだが、コレを使えばアリスのコンタクトを洗うコトができそうだ。
ほかにも、髪型を記憶しておくヘアピンなどもアリスの受けがよさそう。
いきなりプレゼントとか、キモイって思われるかな。
【洗浄箱】はコンタクトのほかにも、イロイロ使えそうなので買っておいた方がイイ。だが髪型記憶の【ロックヘアピン】は存在を教えるだけの方が良いのでは。
そんなコトを悩んでいたら待ち合わせの時間が迫ってきた。
結局、マサヒコは【ロックヘアピン】を買うコトにした。銀の飾り気のないヘアピンで、なんにしてもムダにはならないだろうと思えた(マサヒコとしてはどういう風に髪につけるのかよくわからなかったが)。
値段は、【洗浄箱】が2万エーン。【ロックヘアピン】が3千エーンであった。
どう言って渡そうかな、とアレコレ考えながら1階の噴水へ。
ちょうどベンチの1つが空いたので、マサヒコはすかさずソコに座った。
アリスが来るまでシュマホーで時間をツブす。入っている本の1つ、『腐敗の聖典』を開いてみる。
えっ、マンガ?
マサヒコは目を疑った。普通にマンガである。だが読み進めるうちに、さらなる衝撃を受けて閉じた。
腐敗ってそういうコトかよ。
美青年と美青年が恋をして、なにやらカラミだす。要するにBLであった。
どうやら『腐敗の聖典』というのは、このBLマンガの総称らしい。
つまり、クラスメートの水島洋輔は、そのBLマンガで人気だというコトだ。
「水島君が、コレを広めたワケじゃないよな。さすがに」
つまり、BLマンガを広めた転移者が別にいるというコトだろう。しかも、ジャンルなどを考えれば、マサヒコがやってきた現代日本からの転移者だろう。
いっそう、自分たちも転移者だとバラした方が良いのではないか? そんな考えが頭をモタげる。その方が転移者たちの情報が多く得られるカモ。
イヤ、とマサヒコはすぐに頭を振った。
これだけ、この世界に影響を与えてきた転移者たちである。不用意に正体を明かすのは危険だ。
やはり秘密にしておいた方がイイだろう。
それにしてもアリスはなかなか来なかった。
もう20分ほど時間をオーバーしている。
転移者について考えを巡らせていたマサヒコは心配になってきた。
今までの行動が不用意すぎたのではないか? もう少し、テッテイして転移者であることを隠した方が良かったのではないか?
もしかして、自分たちは狙われていて、アリスはすでに誘拐されたのでは?
嫌な予感が次々と起こる。
なので、アリスが派手な女性たちの集団と一緒にやってきた際には、心底、ホっとした。待たされたコトなど、まったく気にならなかった。
アリスが女性たちと別れ、マサヒコのベンチに近づいてくる。ものスゴく上機嫌。よほど楽しかったのだろう。
「マジ、ゴメン。あの子たちと話してたら、時間忘れてたわ」
片目をツブり、両手を合わせて拝む。
「イ、イヤ、ウン、ソレはイイよ。うん」
マサヒコは安堵感から妙に気分が浮ついていた。その浮つきのままアリスに小さな包装を渡した。もう、勢いである。
「コレ、良さそうなのがあったから、買っといた。どーかな?」
「えっ、ウチに? マジ、ナニナニ?」
アリスが目を大きく開いて包装品を受け取る。さっそく開く。
「ヘアピン? えっ、髪型記憶? マジ、ナニコレ。こんなんあるの? ええっ、超ウレシーんだけど」
目がキラキラと輝く。
どうやら情報通のアリスもまだ存在を知らなかったらしい。情報のやりとりをしていた相手の女子にしてみれば、その存在は当たり前すぎて話すコトでもなかったのだろう。
「イロイロ助けてもらってるから。そのお礼、みたいな」
大ナメクジの時に腹も立ったが、ネズミの時には大活躍してもらった。なにより、コミュニケーションの大部分を、アリスがやってくれている。その恩恵は大きい。
「マジ、アリガト。シャワー室のトコにヘアアイロンとか、カーラーとかドライヤーみたいなのもあったんだけどさ。なんか、キマまんなくてさ。でも、コレあったら、ヘアサロンで巻いてもらって、そのままずっとシとけんじゃん。マジ、サイコーじゃん」
あまりにも喜びすぎて目がウルんでいる。
それでマサヒコはカラコンのコトを思い出した。マサヒコとしてはカラコンなしの今の焦げ茶色の瞳の方がイイと思うのだが、アリスは気になっているハズだ。
【ギルドカード】から【洗浄箱】を取り出す。
「アト、コレも買っておいた。洗浄魔法でキレイになるんだってさ。カラコンも洗えるんじゃないカナ」
受け取ったアリス。無言だった。無言で両手に持った四角い箱のパッケージをナガめる。
マサヒコはその無言を勘違いした。
「ほかの物も洗えるからムダにはならないと思うんだ。もちろん俺も使うよ」
アリスが目を閉じた。何かをカみしめるようにキュッと唇を結ぶ。
「鈴木さん?」
「亜里栖」
アリスが言った。
えっ、と聞き返すマサヒコ。
アリスが目を開けた。まっすぐに、強い眼差しでマサヒコを射抜く。
「亜里栖でイイから」
「あっ、ウン、じゃあ、アリスさん」
「さん付けイラネーシ」
「ハ、ハイっ」
「マサヒコ」
アリスが言って、それから、恥じらうように笑った。
「アリガト」
マサヒコは言葉が出なかった。
アリスのハニカミ笑いはあまりにも破壊力がありすぎ。
「イ、イヤ、ウン」
やっとそれだけ言えた。




