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ネズミ退治です

 フタリはバス馬車の『アルテミ通り交番前』で降りた。

 バス料金は100エーン(銅貨1枚)。確かにこれならバス馬車をドンドン利用した方が良さそうだ。


「てか、コーバンってコッチにもあるんだ」

 アリスがドアのない小さな建物を物珍し気に見て言った。


 鮮やかな青い制服を着た警察官が、机でなにやらポチポチとパソコン(みたいな魔法道具)のキーボードを打っている。警察というよりポリスといった雰囲気。


「ヤッパリ異世界転移した日本人がいるんだろうね。俺たちよりずっと前にさ」


「あっ、ソレ、ヨースケかもよ」


「えっ? ヨースケって、水島君?」


 マサヒコとアリスのクラスメイト、水島洋輔。クラス1、いや学年1、いやたぶん、学校1のイケメン。

 アイドルもカクヤというほどの美少年で、道を歩けば女性の視線を釘付け。彼の誕生日とバレンタインには女子たちが殺気ダツ。


「そっ。ナンカ、コッチでは有名みたい。イケメンで、モテモテ、みたいな」


「えっ、じゃあ、水島君も、どっかにいるの?」


「いないっしょ。100年前の人物らしいいし」


「100年前? 無事に帰れたのかな?」


「『腐敗の聖典』にクワしくノってるって、リーズが言ってた」


「ウワっ、オレンジの方にしとけば良かった」

 アリスが悩んだもうヒトツのオレンジのシュマホーには、確か『腐敗の聖典』が入っていたのだ。


「はっ? コレ、超気に入ってんですケド」

 アリスがシュマホーの上部をナデる。


「そーいえば、鈴木さん、水島君と仲良かったよね」

 教室で楽しそうに話しているフタリの姿を思い出し、マサヒコは胸がモヤモヤとした。


「別にフツーじゃね? フツーに友達っしょ」


「水島君、ほかの女子とはなんか、ちょっと壁作ってる感じだったけど。鈴木さんとはそーいうのなさそうだった」


「ウチ、ワリと鋭いんだわ。だからじゃね?」


「うん?」

 マサヒコは意味が分からず聞き返す。


 それにアリスは答えなかった。

 そのまま通りを歩いていくと、すぐに宿屋『ドミニク』があった。その脇の路地を抜けて、裏通りへ。

 宿屋『ドミニク』の裏側に空き店舗があった。2階建てだが、建物の自体は他と遜色(そんしょく)なく高い。看板が外されており窓には鎧戸がされている。


 マサヒコは、ちょっと待って、とアリスに言って【ギルドカード】からカギと【魔物レーダー】を出した。

【魔物レーダー】は20センチ四方の立方体で、半透明の黒いガラス箱という様子。


「【魔物レーダー】、起動」

 マサヒコが唱えると黒いガラス箱に小さな赤い点がいくつも浮かんだ。計8個。

 下部に3個。上部に5個だ。 


「鈴木さん、先に魔装顕現(マソーケンゲン)しとこーか」


「オッケ」


 フタリともまだ魔装のカスタマイズはしていない。バニラ状態である。


 魔装顕現(マソーケンゲン)し、青い甲冑と赤い甲冑姿となるマサヒコとアリス。マサヒコは剣、アリスは弓を顕現させる。


「アレ、鈴木さん、メイスじゃないの?」


「家ん中で火とか使えんじゃん。火事になるっつーの」


「それもそーか。でも、弓使うの初めてじゃない? 大丈夫?」


「なんとかなるっしょ。ウチ、ぶっつけ本番得意だし」


「俺に当てないでね」

 ワリと本気で言った。


「大丈夫だってば。でも、当たったらゴメン。先謝っとくわ」


「イヤ、本当に頼むよ」


 戦闘前で興奮しているせいか、いつもよりも気楽に話せるマサヒコであった。


 それにしても、コレ邪魔だなあ、と片手に乗せた【魔物レーダー】を見る。

 と、魔装顕現(マソーケンゲン)してから、【魔物レーダー】の重さをまるで感じないコトに気づいた。

 ヒョットして、と思い、そろそろと手の平から黒い立方体をスライドさせていく。手からハミ出しても【魔物レーダー】は傾かない。地面と水平をタモったままだ。


 よっ、と思い切って手の平をどかしてみる。【魔物レーダー】は宙に浮いていた。魔装顕現(マソーケンゲン)したからか、それとも起動時にはすでに宙に浮いていたのかわからないが、とにかく便利だ。


「スゴっ。ソレ、超便利じゃん」

 アリスが言って指でツツく。【魔物レーダー】がツーと宙を滑っていった。


「じゃあ、コレは鈴木さんの近くに浮かべとこう。カギ、開けるよ」


「開けたら、ちゃんと閉めんとヤバいんじゃね? 外に逃がしたらメンドークサそうじゃん」


「あっ、そーだね。じゃあ、すぐに内カギを閉めるようにしようか」


 マサヒコはカギを開けた。

 ドキドキしながらドアを開ける。チナミにそのドキドキの半分ほどは、アリスが本当にすぐ後ろにいるタメだ。ウナジに息がカカる。


 暗い中ボンヤリと見えるのは屋内は元酒場といった様子。高い天井。片側にカウンターがあり、棚には酒瓶が置きっぱなしになっている。

 乱雑に倒れた椅子とテーブル。奥には2階へ上る階段が見える。


「てか、暗っ。怖っ」

 アリスがマサヒコの腕をツカんだ。


 甲冑越しなのでヌクモリを感じられないがのが残念なマサヒコであった。


「シュマホーのライト使えない?」


「あっ、そっか。待って。一度、魔装とく」


「イヤ、タブン、シュマホー、顕現、で取り出せるよ」


「マジ? シュマホー、顕現」


 アリスの手元に赤いシュマホーが現れた。

 それをシャッシャと操作して、ライトアプリを使う。

 明るい光が闇をサーと払う。


 キキっ、と鳴き声がいくつも聞こえてきた。大ネズミだ。


 マサヒコは背中の長剣の柄を握った。すると、抜く必要もなく、スルっと抜き身の長剣が現れた。

 アリスがシュマホーを宙に浮いている【魔物レーダー】の側面にペタッとくっつけた。


 それが磁石のようにくっついたので、マサヒコはそんなこともできるんだなあ、と感心。


 そこへ、バタンバタンと床を鳴らして、黒い大きな影が向かってきた。

 思ったよりデカい。子牛くらいある。イヤ、走り方からしてイノシシに近いのか。


 マサヒコのイメージとしては原付バイクが爆走してくる感じ。

 ヤバい、逃げたい。

 だが、ここでカワすと、アリスがダメージを受ける可能性が高い。


「顕現、盾」

 マサヒコは叫んだ。


 現れた盾を前にかざして大ネズミの突進を受ける。


 グガンっ。

 全力で踏ん張ったおかげで少しも下がることなく。

 フっ飛んだのは大ネズミだ。

 しかも、結構なダメージを負っているようで丸まったまま動かない。


 トドメをさそうと駆け寄るマサヒコの真横を、何かが飛んでいった。矢だ。

 ドスっと音をタテ、矢が大ネズミに突き刺さった。それも見事に頭部を射抜いている。


「ウマいっ」

 マサヒコは思わず喝采を送っていた。


「そういうのイイからっ。前見ろ」

 アリスがキンキン声で言った。


 ドタドタと今度は2体の大ネズミが突進してくる。

 マサヒコはまた盾を構えた。

 すると、大ネズミはピタリと足を止めた。

 そこからジリジリと寄ってくる。


 マサヒコは盾を籠手(こて)に装着すると、放り出していた剣を拾った。

 その途端、大ネズミが2体同時に跳んだ。

 大きな体にも似合わぬ跳躍力。


 マサヒコは高く垂直に跳んだ。魔装顕現(マソーケンゲン)しているせいで、身体能力が格段に上がっている。

 3メートル近く飛び上がると、落下した大ネズミの背に剣を振り下ろした。

 自分でも思ってもみないほど動きがスムーズ。イヤ、信じられないほどの運動神経。


 長剣が大ネズミを縦にブった切る。


 あっ、毛皮は傷つけない方がよかったんだっけ。

 だが、無傷で倒せるほどマサヒコは戦い慣れていない。


 残った1体が頭を返して大口を開ける。

 その後頭部に矢が突き刺さった。口から矢の先が飛びだした。


「鈴木さん、ナイス」


「だから、そういうのイイからっ」


 その時、マサヒコの耳の奥で短いファンファーレのような音が鳴った。

 どこかで聞き覚えのある曲だ。マサヒコが生まれるずっと昔からあるRPGのレベルアップ音のような。


「ステータス」

 視界に半透明のウィンドウが開いた。


 ステータスに変化はない。ただ【レベル】が2になっていた。さらに【ステータスポイント】が200に、【経験値】33に、【レベルアップ必要経験値】が37に変わっている。


 ギルドの講習によると【ステータスポイント】は、好きなパラメータを増やすことができる数字とのコトだ。ただ、それを反映させるには、ギルドの【カスタムルーム】に行く必要があるらしい。


「ちょっ、なにボーとしてんの? 大丈夫?」

 アリスが寄ってきた。

 心配そうな顏だ。


「【レベル】が上がったんだ。あれ、鈴木さんは上がんなかった?」


「うん? そういえば、さっき、ラッパの音みたいなのしたかも。【レベル】が上がると強くなるんだっけ?」


「そう。ギルドに戻ったら、【カスタムルーム】に行ってみようか」


「てかさ、ウチ、スゴくね?」

 ドヤ顔でアリス。


「ウン、スゴかった。助かった」

 言いながらも、俺もケッコーすごかったよね、と思った。あんな動き、ゲームの中でしか見たことがない。


「アンタも、ガンバったじゃん。マジ、カッコ良かったから」


「えっ、ア、アリガトウ」

 いきなり褒められ、マサヒコは挙動不審になった。

 女子からカッコイイとか破壊力がありすぎる。


「じゃ、上行くか。上に5体だっけ?」

 アリスが、ピカーと明るく光るスマホが張り付いた立方体をツカむ。ついでにマサヒコの腕もツカんだ。


「そうだね。死骸は後で回収すればイイし。戦い方は今と同じような感じでいこうか」


「ナンカ、ちょっと……」

 アリスがボソッと言った。


「えっ、ナニ?」


「べ、別になんでもないし」

 言いながらも、アリスは心の中で思った。

 ちょっと頼りになるじゃん、と。


 2人は手をツナいで酒場の奥へ。階段を上って2階へと行く。

 2階も同じようにテーブルと椅子が転がっていた。ハシがステージになっており、ホコリまるけのピアノが置いてある。


 大ネズミはピアノの下に2体。反対側のスミのテーブルの下に1体。別のテーブルに1体。残り1体が見つからない。


「マサ、トイレに1体隠れてる」

 アリスが【魔物レーダー】を見て言った。


「助かる。俺がおびき出すから、鈴木さん、弓で、お願い」

 マサヒコはゆっくりとフロアの中央に向かった。


 大ネズミたちは警戒しているらしく、動かない。少しずつ、1番近い位置にいるテーブルの下の大ネズミに向かう。


 テーブルが倒れた。大ネズミが大きな足音を鳴らして走ってくる。


 マサヒコも動いた。姿勢を低くして走り、構えていた長剣を横に振りかぶる。

 大ネズミが頭ごと胴の半ばまで割れた。


 その時には別のテーブルの大ネズミも動いていた。こちらは、テーブルからテーブルに飛び移り、身軽に近づいてくる。

 だが、マサヒコの元にたどり着く前に、アリスの矢で体を射抜かれ、地に転がった。

 ソコに駆け寄ったマサヒコは剣を振り下ろし、トドメをさした。


 トイレのドアが開き、隠れていた大ネズミが飛びだす。マサヒコに向かってくる。

 一瞬遅れて、ピアノの下の2体も飛びだしてきた。

 マサヒコを一気に倒すつもりか。


 だがアリスがソレをさせない。

 トイレから飛びだしてきた大ネズミに向かって、矢を放つ。


 命中。その一矢で息絶えた。


 アリスはピアノの下から出てきた大ネズミに標的を変える。

 うち片方に狙いをつける。


 大ネズミがマサヒコに飛びかかる。

 マサヒコはその下をクグりながら、大ネズミの腹を斬り上げる。さらに、ソコから体をひねって、下から襲い掛かってきたもう1体に、返す一刀で斬った。

 その動きは、まるでアクションスターのようで、アリスは思わず見惚(みと)れてしまった。


 スゴっ。超カッコイイじゃん。

 胸が、トクンと高鳴った。

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