ナメクジの次はネズミ
冒険者ギルドに戻り、依頼達成の報告をしようとマサヒコが長椅子で順番を待っていると、よー、と声をカケられた。
「アオキ、これから仕事か?」
隻眼スキンヘッドのベテラン冒険者アックスである。
「あ、こんにちは。ついさっき巨大ナメクジを退治してきたところです」
「ナメクジ退治か。懐かしいな。俺も駆け出しの頃は、さんざんヤったぜ」
言ってアックスは後ろの男女を振り返った。
「リン、ガッシュ、コイツは新入りのアオキだ。えらい田舎から出てきたみたいでよ。どうも頼りないから、気にしてやってくれ」
男女がそれぞれ名乗った。
20代後半と思しき女性がリン・レイリン。東洋人ぽい顔立ちである。赤いチャイナドレスのような服に2つのお団子頭。スゴい迫力のナイスバディの持ち主。
男は30前半くらいだろうか。ガッシュ・ロックンロール。ロックンロールという性が非常にインパクトがあるが、印象的にはよくいるメガネをカケたサラリーマンという感じだった。服装も紺のスーツ(スソが長めで、シルエットはヤヤ違うが)にネクタイである。頭にカブった山高帽を取って、丁寧に挨拶してきた。
「ヨロシクお願いします」
マサヒコは慇懃にフタリに頭を下げた。
もう、ナンカ、強者の雰囲気がビンビン伝わってくるのだ。
「アチラは君のお連れさんですか?」
ガッシュが、見知らぬ若い女性とシュマホーを見せあって盛り上がっているアリスに目を向けて言った。
アリスとマサヒコは、スカートとスラックスの差はあれど同じ制服なので仲間なのはすぐに分かるだろう。
「ハイ。鈴木亜里栖です。彼女も俺と一緒に田舎から出てきいて。分からないコトばかりなので、ご指導いただけると助かります」
「大ネズミ退治の依頼が出ていた。Dランクにしては美味しい仕事。受けたらイイ」
リンが言った。無表情で淡々としている。
「アリガトウございます。さっそく見てみます」
Dランクということは、ヤヤ難易度が高いのだろう。だが、ベテラン冒険者が美味しいというからには、キチンと理由があるに違いない。
「すぐに取られるから早めに取っとけ。もったねーぞ」
アックスも言った。
そう言われるとアセりが出てくる。
マサヒコは「失礼します」と言って依頼が張り出されている掲示板へ走った。
掲示板はランクごとに別れている。Dランク掲示板を探す。
すぐに大ネズミ退治は見つかった。
空き家に住み着いた大ネズミを退治するという仕事。依頼人の同行はなく、冒険者ギルドから魔物探知の魔法道具を借りるとのコト。全滅させれば自動的に依頼達成となる。
報酬はなんと20万エーン。
巨大ナメクジ退治が1万エーンだったので、その20倍である。
危険度もそれだけ高いというコトだろうが、マサヒコはアックスたちを信じてみるコトにした。
依頼書を取る。
ソコでちょうどマサヒコの番号が呼ばれた。受付へ向かう。
【ギルドカード】を出すと、すぐに巨大ナメクジ退治の依頼料が支払われた。
1万エーンは金貨1枚。元の世界よりも金の相場が安いようだ。ただ、これだと不便なので、銀貨10枚にしてもらう(1枚千エーン)。
ついでに大ネズミ退治の依頼書を出して引き受けるムネを伝える。
アリスにヒト言相談した方が良かったか、とも思ったが、また番号札を取って待つのも面倒くさい。
ソレに、きっとまた「ネズミとかムリ」とか言われそうだ。
手続きを終えて窓口から離れると、待っていたようにアックスが声をカケてきた。
「イイか。尻尾はケッコー、イイ値段で売れるから傷つけないようにするんだぞ。毛皮もデキれば傷つけん方がイイぞ」
「あの、倒すコツとかは?」
「別にないな。シいて言うなら頭を切り落とすトカかなあ」
「鼻を思いっきり殴るとイイ」
リンが言った。
「私なら【ストンブロック】の魔法で鼻をフサぎますね。無傷の死骸を手に入れられますよ」
ガッシュが言った。
「アリガトウございます。参考にしてみます」
マサヒコはペコリと頭を下げた。
ぜひ、これからもイロイロ助言してもらいたいところである。
「おー、頑張れよ。大ネズミは【経験値】も美味しいからな」
お勧めしてくれたのはそういうコトらしい。
2人の女性と談笑しているアリスの元へ。
メチャクチャ親し気。ついさっき会ったばかりだというのに、バンバン背中を叩いたりしている。
「マジ、ウケルんだけどぉ。リーザ、最高、なんだけどぉ」
キャッキャと笑いあっている。
マサヒコは声をカケづらくてしょうがなかった。
女が3人集まると男子には近づけないフィールドが展開されるのだ。さすがに漢字になるだけのコトはある。
「あ、あの、鈴木さん?」
マサヒコは会話の途切れたワズカなタイミングを見計らって声をカケた。
ダメだ。声が小さすぎて、目下、バイブス上昇中のアリスには届かない。
もう一度、声をカケる。
ダメだ。ヤッパリ届かない。姦しフィードが強すぎる。
だが、3人いれば目も6つ。女子の1人が、オズオズと下がるマサヒコを見ていた。
「ねっ、その子、アリスのツレじゃない?」
緑色のショートカットの少女が言った。
黒革のホットパンツに銀のチューブトップという派手なカッコウである。もう、見るからに陽キャ。秋風が身に染みる時期なのに寒くないのだろうか。
「ウン? 終わった? ウチ、これから、リーズとエラと出かけっから」
アリスが言った。
「あの、新しい依頼受けたんだけど。大ネズミ退治。カナリ美味しいらしいんだ」
オズオズと言った。
どっちがリーズでどっちがエラか知らないが、値踏みするような目を向けられて非常に居心地が悪い。
アリスのツレ、マジでダサいんだけどぉ、とか思われている可能性大だ。
「ハっ? ナンデ勝手に受けるワケ?」
ギロっとニラむアリス。
「イ、イヤ、ナンカ相談するタイミングがなくてさ。大人気らしいんだよ。大ネズミ退治」
「知らんわ。勝手に受けたんなら、ヒトリでヤってくればイイじゃん」
見るからに不機嫌という様子。
「わ、分かった。今回は俺だけで行ってくるよ」
まあ、どうせ、現地で、「ウチ、ネズミ嫌いだしー」トカ言われるんだろうし、一緒か。
などとマサヒコは思った。
ハアっ、とアリスが大きなタメ息をついた。
「冗談に決まってんじゃん。ウチ、そこまでハクジョーじゃないから」
「えっ、じゃあ、一緒に来てくれるの?」
「そりゃーそーじゃん。マサひとりとか、危なっかしいっての」
それからアリスはリーズ&エラに向き直った。
「てっ、コトだから、また今度ね。メール送んね」
「またね。ガンバれよー」
例によってシュマホーで依頼書に書いてある問題の空き屋の場所を探す。
「てか、今回依頼人とは会わないんだ? この【魔物レーダー】ってナニ?」
「ああ、依頼を受ける時に借りたよ」
「ふ~ん。あっ、ココじゃね?宿屋『ドミニク』のすぐ裏。元酒場」
アリスが言ってシュマホーをマサヒコに向けた。地図アプリで依頼場所近辺の地図が映し出されている。
マサヒコはアリスのゴテゴテした長い爪に飾られたシュマホーを見た。
「ここだね」
本当に便利だ、シュマホー。
「歩くのダルイし、馬車使わね? バスみたいに巡回してる馬車があるんだって」
バス馬車乗り場はギルドの斜向かいにもあった。
確かに地図を見た限り依頼場所まではソコソコ距離がある。歩いて向かったら1時間くらいはカカりそうだしバス馬車が良さそうだ。
フタリは通りを渡り、バス馬車乗り場へ。
時間は14時半。この依頼を終えたら、今日は仕事終了でいいだろう。
バス停には、もう1組、冒険者が待っていた。若い男3人組でチラチラとアリスを見ている。
3人とも派手な服装で先ほどのリーズ&エラとはまた系統が違う、元の世界で言えばヤンキーというかヤカラというか、そういう雰囲気だ。
アリスの方はシュマホーをイジっており、彼らの視線に気づかなかった。
マサヒコはいつ声をカケられるか、とビクビクした。
ナンカ不良っぽい冒険者たちがあなたに注目していますよ、とコッソリ耳打ちしたい。
そこへバス馬車が来た。チナミに大きな荷台をヒいているのは牽引具を腰につけた黒い厳つい甲冑の人だった。つまり馬車ではなく人力車であった。
ただ、この世界では、どうも人間含む生き物が牽引する車のコトをひとマトメにして馬車というらしい。
バス馬車を引っ張ている暗黒騎士のようないでたちの男が行き先を告げる。低くて渋い声だ。
3人組の男たちがドアを開き乗り込んでいく。大きさ的にはマイクロバスというところか。金属の箱型で座席は横向きの長椅子がいくつか向き合っている。
「ウチらは違うから」
アリスが言った。巡回ルートはいくつかあるのだ。
暗黒騎士が牽引するバス馬車が発車した。
「あれ魔装だよね。冒険者なのかな?」
マサヒコには暗黒騎士のインパクトが強すぎた。
「ウンソーギルドじゃね? 【ギルドカード】、ほかのトコでも出してるらしいよ」
アリスは持ち前のコミュ力の高さで、スッカリ情報通だ。
「へー。まー、そーか。便利だもんな」
冒険者ギルドの独占技術にしておくには、もったいないほどの超便利アイテムである。
ふと、思ったのは、この街まで運んでくれたネズミの運ちゃんのコト。
あんな風に大型の荷台に荷物をノせなくても、収納魔法を使えばイイのでは?
マサヒコのそんな疑問をアリスはアッサリ解決した。
「使ってたんじゃね? いっぱいあった箱がポクね?」
言われてみれば、箱は大きさが同じだったし、魔法陣が刻まれていた気がする。つまり収納魔法を使った箱の中にさらに大量の荷物が入っていたというコトだ。
なるほど、とマサヒコはナットク。
よく見てるなあ、と感心してアリスを見る。
「ウチ、スイリとか得意だし。ドーサツ力、高い系?」
言って横ピースをする。
ムダにキマっているが、頭が悪そうで、とても推理が得意には見えない。
ほどなくして、またバス馬車が来た。
今度は聖騎士のような純白の甲冑を着た人が牽引してきた。
そういえばブレーキどうしてるんだろう、とマサヒコは止まる際に注目した。
バス馬車は牽引者が運転手と車掌を兼ねているらしい。乗り降りする際に、【ギルドカード】や料金を受け取ったりしていた。
荷車にブレーキがあるのでなければ、例え、牽引役が止まっても、慣性の法則で荷車は進み続け、牽引者をヒキ殺すのではないか?
バス停に迫った聖騎士がスピードを緩める。連動して後ろの荷車もスピードが遅くなった。
聖騎士が足を止める。ピタリと荷車も止まった。
どうやら魔法かナニカで完全にリンクしているらしい。
扉が開き、中から冒険者らしき5人組が降車。聖騎士に料金を払う。
その後、聖騎士が、マサヒコたちにルートと行き先を告げた。
「乗る、乗る。お金はアトでイイんだよね」
アリスが言った。
「ハイ。大丈夫です」
「ほら、乗るよ、マサ」
アリスが言って、さっそく後ろの車のドアを開けた。短いスカートがヒラリと舞って、ピンクのツルツルパンツが見えた。
今日もコンスタントにラッキースケベがある。
他の乗客はいなかった。フタリは1番後ろの長椅子に並んで座った。体が触れそうなほど近くに。
マサヒコは2人分ほど間を開けようとしたのだが、アリスがすぐ真横のシートを叩いたのだ。
緊張しながら肩がフれるような近距離に座った。車内はガラ空きなのだが。
「てかさ。アンタ、距離感遠くね? ナニ? ウチのコト苦手?」
「イ、イヤ、そんなコトないけど」
「ウチ、アンタのことケッコー好きだけどぉ」
マサヒコは、ハイ? と思わず聞き返した。えっ、ナニ、今の。ナンカ、好きとか言われた?
マジで?
あまりにも意味が分からなすぎて変な汗が出てくる。
アリスが、ククククっ、とノドを鳴らして笑う。
「ナニ、その顏。超ウケル」
シュマホーを向けてポワンと撮影。
「イ、イヤ」
「あっ、別に、彼氏にしたいってホドじゃないから」
「あっ、ハイ、分かってます」
敬語になってしまうマサヒコだった。
だが、それでも女子から好きと言われたのは意外すぎた。動揺のあまり、鼓動が早まり、発汗がスゴイ。
赤い顔で黙り込むマサヒコを見てアリスも今さらながらに照れ始めた。
「ナンカ、暑くね?」
言って手をウチワにして胸元をアオいだ。




