冒険者やったるゼ
マサヒコはコワゴワと全長が1メートルほどもある蛍光ピンクの巨大ナメクジをつかんだ。ムニュっとした非常に不愉快な感触。
ソレを壁から引きハがす。透明な糸が伸びる。
うわぁー、とテンションの低い声をアゲながら薄暗い小屋の外へと出る。
ポイっとタキ火の中に放り込んだ。ジュウゥと不快な音と異臭。
あまりにもナメクジが大きいので火勢が弱まる。
「鈴木さん、火、お願い」
マサヒコは、ネットリとした粘液のついた金属手袋をブンブンと振りながら言った。
母屋の壁際に置かれたベンチに座ってシュマホーを見ているアリス(赤い甲冑姿)が「んっ」と言って、手にした金属棒を向ける。
「ファイア」
消えカケていたタキ火が一気に燃え上がった。
ハアっ、とマサヒコはタメ息。小屋の中には、まだ10匹ほど巨大ナメクジがいるのだ。
初の冒険仕事である。
朝、朝食を食べ、冒険者ギルドに行ったフタリは、Eランクで街中の依頼である巨大ナメクジ駆除を引き受けた。
シュマホーで調べた依頼人の家に行き、裏庭の小屋に案内され、では、お願いしますよ、と依頼人が去ったところで、アリスが言った。
「てか、ウチ、ナメクジとかムリ」
イヤイヤ、そういうコトは、依頼を受ける前に言おうよ。ナニ? 俺にヤラせる気満々だった?
マサヒコの口から出かかった言葉は、彼のチキンハートがゆえに、言葉にはならなかった。
チナミに依頼人は中流階級といった様子で家もまあまあ立派。黒い金属柵で隣家とへだてられた庭は、イチョウのような形の半透明の葉を茂らせた木が植えられた洋風の美しい庭園があった。
物置小屋はそのハシにあり、マサヒコたちはソコでタキ火をしつつ、ナメクジ退治をしているワケである。
マサヒコは小屋に戻った。
換気用の小窓から差し込むワズカな明かりを避けるように、ネットリ、ヌンメリ、とした巨大ナメクジ(蛍光ピンク)が、壁や床にくっついている。
魔物なのか害虫なのか微妙なライン。特に襲ってくるワケでもないので、危険度は少ない。ナットクのEランク依頼である。
不快感は非常に高いが。
マサヒコは新たなナメクジを引っぺがしにかかった。魔装顕現しているので、力も強い。簡単に引っぺがせる。
これだけ馬鹿デカいと重量も相当なものだろうが、ヤッパリ軽々持てる。
ただ……、そう、ただ、このテンションの上がる変身甲冑でヤル仕事にはフサワしくないのだ。
マサヒコは、もっと剣とか弓とかを駆使して冒険したいのだ。
マサヒコはタキ火に巨大ナメクジを放り込む。異音と異臭。また火が弱くなった。
「鈴木さん、火」
「アーイ」
アリスがメンドクサげに返事をしてメイスと顔を向ける。
「ファイア」
アリスはすぐに下を向いてシュマホーイジりに戻った。
昨日の夜、シャワー室で会ったロミナとさっそく連絡先交換を済ませており、メッセージ(チャット形式ではなくメール形式)のやりとりをしている。ソコでロミナからメッセージに添付されて、お役立ち情報がノったファイルがいくつも届いたのだ。
C~Eランク依頼で出てくる魔物の攻略法。依頼人とのやりとりの注意点。お勧めの魔装。街中の美味しい店などなど。
ロミナは中々の情報通らしかった。
アリスは、それらをチェックするカタワら、ロミナとメッセージで会話をしていた。ロミナのパーティは午後から活動するらしく暇なようだった。
アリスも別にマサヒコに仕事を押し付けるつもりはなかった。ナメクジ退治と聞いても、まー、ナントカなるっしょ、と考えていた。
ナメクジ、ミミズ、クラゲ、イモムシ、このあたりのウネウネしていたりグニュグニュしていたりする生き物がアリスは苦手だった。
中でもミミズは見るだけで全身に鳥肌が立つほど苦手だった。
ナメクジなら、ヒョットしたらイケるカモ。いうても、そんなナメクジじゃないっしょ。魔物だし。
と、気楽に考えていたのだが、依頼人に小屋に案内され、目にした光景は、想像を上回るほどヤバかった。
……アレ、持つとかムリ。
ジっと見ていると夢に見そうなので、こうして遠くから火をつける役に徹しているというワケである。チナミに巨大ナメクジの駆除法はロミナからの情報で知った。
ゴメンね、マサ、と思いつつ、顔を上げると、ちょうど彼が小屋へ入っていくところだった。
「女の子だもんね。じゃあ、離れたところから火だけつけてくれればイイよ」
マサヒコはそう言ってくれたのだ。
4番目の彼氏カズなど部屋にゴキブリが出た時も、アリスに退治させたというのに。
「俺、虫とか、絶対無理なんだよネ」
アリスは、ふと、シュマホーをカメラモードに切り替えた。小屋の開け放したドアに向け、ズームアップ。
マサヒコが巨大ナメクジを両手で抱えながら出てきた。スゴく嫌そうな顔。
ポワンとその顔を撮影した。
◇
巨大ナメクジ駆除に要した時間は、せいぜい30分というところだろう。マサヒコはテキパキと動いて、次から次へと巨大ナメクジを、タキ火へと放り込み、アリスはソレを燃やしていった。
母屋に行って依頼人に依頼が終了したコトを告げ、確認をしてもらう。
「もう終わったの? ずいぶんと早いのね」
依頼人の老夫人は驚いていた。
巨大ナメクジのいなくなった物置を確認すると、ウレしそうに微笑んだ。
「アリガトウ。依頼達成よ」
老婦人のその言葉で、フタリの【ギルドカード】からチャキーンというカッコイイ音がした。コレが依頼達成の合図らしい。
依頼達成条件は依頼により異なる。今回は物置の巨大ナメクジ駆除だが、依頼人の確認が必要条件であった。
「中でお茶を飲んでいかない? 甘いモノもあるわよ」
「マジで? イイんすか」
アリスが目を輝かせた。いきなり元気になった様子。
マサヒコは少し腹立たしい。今までカッタルそうにシュマホーを見て、ときどき、魔法を使っていただけなのに。
「マサ、魔装解きなよ。なんか、ネトネトついてんじゃん」
アリスが指摘した通り、マサヒコの両腕も、腹から胸部にかけても、透明な粘液でベッタリだ。
「……魔装解除」
マサヒコが青いシルエットと化し、すぐにブレザーの制服姿となった。
アリスも魔装を解く。魔装中は少しずつ【MP】が減っていくのだ。
「オツカレっ。ガンバったじゃん」
着崩し制服姿に戻ったアリスが、マサヒコの背中をバンっと叩いた。
「あ、ウン、思ったより大変だったカナ」
マサヒコの不満はアリスの笑顔と、胸の谷間によって、スっと消えた。
その後、依頼人宅のリビングで紅茶とケーキをゴチソウになった。
ケーキにアリス、大ハシャギ。
コレ、どこで買ったんですか? と依頼人の老婦人に聞き、そこから話がグングンと広がっていった。
マサヒコは楽し気に話す60歳差の2人の女性をナガめながら、長くなりそうだなあ、と思った。




