ギャルとの夜
部屋に戻ったマサヒコはアリスがまだ眠っていることを確認(いちおう、ハシゴに登ってみた。アリス、横向きで、スカートがマクれていた)。
アリスに毛布をカケてやり、念のタメ、今にもツブしてしまいそうなシュマホーを救助して、枕元に置いておく。
洗濯をしたいところだが着替えがない。仕方がないので、着の身着のままでベッドに入った。「消灯」の声で床の魔法陣が輝いて、すぐに天井の照明が消えた。
本当に便利な世界である。
でも便利すぎるよな。ソレにアッチの世界と似た物が多いし。
ヒトツの推論がマサヒコの頭に浮かんだ。
自分たちよりも前に異世界に召喚された人間がいて、彼らが便利な道具を発明したり、改良したりしたのではないか。
ギルドのラウンジの料理もそうだが、寮の食事もミソ煮込みウドンにライスという、絶対にファンタジーではありえないメニューだった。
その先人たちは果たして元の世界に帰るコトができたのだろか?
もし死ぬまで帰れなかったとしたら、自分たちも。
マサヒコは急に途方もないサビしさに襲われた。家族ともう会えない。グータラで偉そうな父とも、やたら新しいもの好きでゴシップが大好きな母とも、生意気だがナンダカンダで気の合う弟とも。
もう会えない。
なんだよ、ソレ。オカシイじゃんか。
涙がコボれてしまいそうで、目を閉じる。
「てか、超イケてるんだけど」
いきなり上から声がした。アリスだ。
アレ、起きた?
アワてて、目元をヌグう。
だが、そのまま再び寝息が聞こえてきた。
考えたってしょうがないよな。
マサヒコは不吉な考えを追い払った。
まずは、この世界でキチンと生きていかなくてはならない。死んでしまったら帰れるものも帰れなくなる。
明日は冒険者デビューだ。
そう考えるとワクワクした。あの魔装が、もう特撮ヒーローみたいでステキすぎる。
マサヒコは別段、特撮オタクではなかったが、男子らしく幼少のみぎりには日曜朝のヒーローたちの活躍に胸をハズませたものである。
魔装もいろいろカスタマイズできるんだよな。超楽しそう。
ベッドでゴロゴロしながら、ひたすら、俺オリジナル最強魔装を考えていた。
なにしろ、まだ時間が早い。体感では9時前といったところだろう。早くても11時すぎに寝ていたマサヒコである。いくら疲れているといっても眠れなかった。
魔装の可能性について頭の中で考えまくっていると、ふいに、ゴンと上で音がした。
あっ、今、鈴木さんがなんかブツかった。
それほど天井が低いというワケではなく、上体を起こすことは十分できる高さだった。寝ボケて、壁にでもブツかったのだろう。
しかし、それでアリスが起きてしまったっぽい。
なにやらゴソゴソとしている。
しばらくして声がした。
「ねっ、ねえ、ちょっ、マサ、寝てる?」
ものスゴく心細そうな声である。昼間の大きなキンキン声とは大違いだ。
「マジ、暗いんだけどー。ねっ、ねえ、マサ、起きてくんない」
「起きてるよ。ゴメン、真っ暗にしちゃって」
マサヒコはいつも寝るときは常夜灯はつけない。真っ暗闇で眠るのだ。
「えーと、点灯」
マサヒコの言葉に反応して床の魔法陣が青く輝いた。すぐに天井の照明がつく。
「マジ、ゴメン。ウチ、暗いの苦手でさ」
「いーよ。どうせ寝付けなかったし」
「子供の頃、クローゼットに閉じ込められたコトあってさ。イタズラしたウチが悪いんだけど、半日くらい出してもらえなくて。マジ、怖くて」
「半日は長いよ。ナニしたの?」
「落書き。壁に」
「ああ、ソレは……マズイね」
だけど半日はヒドいな、とマサヒコは思った。おかげでしっかりトラウマになっている。
「ママ、ウチのコト閉じ込めたまま、買い物行ってたし」
「ヒドい」
「お腹空くし、オシッコしたいしで、マジ、もうダメだと思った。ねっ、ウチ、あのまま寝ちゃった?」
「ゴメン、気持ち良さそうに寝てたから、そのまま寝かせておいたけど」
「イイけどー。10時かー、夕飯、もう無理っぽいな」
ションボリした声。
「そうだね。食堂は8時までだから。いちおう、オニギリ貰ってきたよ。【ギルドカード】に入れておいたから、握りたてだと思う」
夕食時、アックスに相談したら、食べらなかった分、オニギリを作ってもらうコトができると言われたのだ。それで、アリスのライス分をオニギリにしてもらい、【ギルドカード】に収納したというワケである。
「マジっ? 超気がキクんだけど」
ミシ、ミシっと音をハシゴをキシらせて、アリスが降りてきた。
生足がエロい。
そのままテーブルにつく。
マサヒコもベッドから抜け出して反対の席についた。
アリスがマサヒコの頭を見て、プっ、とフキ出す。
「寝グセ、超ついてるし」
「ああ、シャワー浴びて、そのままベッドに入ったから」
アリスが身を乗り出してマサヒコのツノのようにトガった髪の毛を触る。目の前にアリスの胸の谷間が迫ってきて、マサヒコはものスゴくエロい気分になった。
マサヒコは脱いでハンガーに吊るしておいたブレザーの胸ポケットから、【ギルドカード】を出した。中指と人差し指でハサんで、テーブルにカザす。
「取り出し、オニギリ3つ」
唱える。
【ギルドカード】が青く光り、テーブルにキラキラキラと青い粒子が降りソソぐ。すぐに、ソレは青い三角形が三つ並んだシルエットに変わった。オニギリ発生。紙に包まれている。
「ヤバっ、【ギルドカード】超便利じゃん」
マサヒコは続けて水も取り出した。同じく食堂でゴム製の袋に水を入れてもらったのだ。
アックスの言うには、朝、寮を出る前に水を貰っておくと良いらしい。
「コップがないから、直飲みになっちゃうけど。明日、買おう」
「サンキュー。ここを引っ張れば出るの?」
アリスが黒い立方体の水袋の栓を引っ張る。ポンっとイイ音がして栓が開いた。水がちょっと飛び散り、アリスを濡らす。
「ヤバっ、ムズっ」
言いながら、栓のあった凸の字に膨らんだ部分に口をつけた。
「どうやって飲むのが正解なんだろう?」
言いながらもマサヒコはものスゴくエロい気分になった。
夜の少年はエロい気分になってばかりだ。
アリスがオニギリを食べている間、マサヒコはアックスから得た情報を話した。
最初の頃の冒険仕事は、街中の依頼が良いとか。念のためギルドの2階の売店でポーションを買っておくとよいトカ。
「アト、シュマホーの充電……じゃなくて、充魔力は必要ないって。【ギルドカード】を持ってれば、ソコから自動で魔力が注がれるみたいだよ」
「マジで? イイじゃん」
オニギリを両手で持って行儀よく食べていたアリスが、声を大にして喜びを露わにした。
実はアリスがズっとソレを気にしていたのだ。シュマホー店員の話では充魔力する台のようなものに置くらしいのだが、ソレが寮にあるかはわからなかったのだ。
「アト、そーだ。洗浄魔法ってのがあって。汚れものなんかを、キレイにする魔法なんだけど。ソレを使えばカラコンもナントカなるカモね」
コレもアリスが気にしていたコトだ。
ナンダカンダ言ってマサヒコは気の付く男であった。
「……」
アリスはオニギリを食べながら、マサヒコを、ジー、と見た。
硬そうな髪。前髪が長くて目にカカりそうで暗い印象。
目元は優し気でアリスはケッコー、好み。
顔色が白っぽくて不健康そうだが、ソレ以外、まずまず。
チナミにアリスの今までの彼氏の容姿偏差値は4番目の大学生彼氏カズ、イキり俺様系ウッチー、最後の彼で社会人ショウマ、初彼でセンパイだったアキラ、歴史オタクの大学生トヨの順である。
ただ、1番イケメンであったカズも、ものスゴいイケメンというほどではなかったし(指名のトレないホストっぽかった)、最下位のトヨも別に不細工というほどではなかった。
元彼5人のイケメンランキングに照らしてみると、マサヒコはだいたいウッチーよりヤヤ下くらいだろうか。ただ目元の優しさでアリス的にはウッチーより上だ。
というか、ウッチーは性格がアリエナイ。
「な、なに。スゴい見られてんだけど」
マサヒコがモゾモゾとする。
「ウン? 別に」
そのまま沈黙。マサヒコが気マズそうだった。
やがてアリスが夜食を終えた。
マサヒコはアクビをカみ殺した。少し眠くなってきたのだ。
「てか、シャワー浴びたいんだけど」
「ああ、1階にあるよ、シャワー室。一応、24時間使えるみたい」
「……」
アリスが頬杖をついて、またしても、ジっ、とマサヒコを見る。
「ど、どうしたの?」
「廊下、暗いじゃん」
「ところどころ灯りがついてるから、そんなでもないよ」
「初めてのトコとか、怖いじゃん」
「俺も行った方がイイ?」
「ウン」
そういったワケでマサヒコもシャワー室まで付き合うことになった。廊下はポツン、ポツンと、薄っすら青い光が灯っていて、確かにブキミだった。
「こ、怖っ。一人でトイレとか、絶対無理じゃん」
「別にソレほどでもないけどな。トイレ、ソコだし」
トイレは階段の脇である。
部屋とは目と鼻の先。
「イヤイヤ、ムリっしょ。ウチ、マジ、暗いの苦手だし」
言って歩き出そうとしたマサヒコの二の腕をつかんだ。
「イ、イタ。イタいから、そのツカみ方」
「ゴメン、ゴメン。じゃ、手、握ってよ」
ちょっと恥ずかしそうにアリス。
「えっ? ウ、ウン」
マサヒコは動揺した。
ナニ、コレ。ギャルゲーの肝試しトカお化け屋敷イベントじゃん。
マサヒコはアリスの手を取った。
無心。意識するな。コレこそが女子のアザトサというものよ。
などと自分に言い聞かせる。
俺は揺らがない。揺らがないぞ。
アリスは本気で怖がっているらしく、まったくしゃべらなかった。寮則に夜の廊下で騒ぐな、というものあったので、マサヒコも口を閉ざす。
とにかく、彼は左手に触れているアリスの手に意識を集中していた。ゴテゴテしたネイルの感触ですら、トキメキの元だ。
誰にも会うコトなくシャワー室に到着。
「ネっ、悪いけど。待っててくれん?」
「イイけど」
「サンキュ、コレ、見ててイイから」
アリスはシュマホーを手渡して中へ入っていった。
さっそくマサヒコは受け取ったシュマホーをイジってみた。
通常は魔法陣の刻まれた薄い金属板(二ミリくらい)なのだが「起動」のヒト言で金属板がモニターになった。
スマホのようにアプリっぽいアイコンが並んでいる。
こういのトカ現代人ポイよな、とシミジミ思いながらも各種アプリを試してみる。
計算機。数式は元の世界と同様のようだ。配置などにも違和感がない。
カメラ。写真と動画が切り替えられる。試しに写真を1枚撮ってみる。ポワンとちょっと間抜けな音がした。
暗いがフラッシュはタカれなかった。だが、写真はキチンと撮れていた。明るくもならず、視界に移ったままの様子がしっかり撮れている。
アチラの世界のカメラとはシステムそのものが違うらしい。
動画。コレも、ポワンという効果音。ちゃんと音声も記憶されていた。
チナミにカメラのレンズはスマホとだいたい同じ位置、背面上端のようだ。ソコに小さな魔法陣が描いてある。
ほかには物差し。長さの単位も記号あちらの世界と同じだった。やはり、異世界人が関与しているのだろう。ただ、こういった基本的な記号や単位にまで関与しているというコトは、カナリ昔にこの世界に来ていたのではないか。
ソコでカレンダーを開いた。
名称は違うが月曜日から日曜日までの7日間で1週間。土曜、日曜が休日らしい。さらに30日、ないし31日で1ヵ月。12ヵ月で1年。太陽暦が適用されている。それも2月のうるう年込みのようだ。
現在11月上旬。アチラの世界と日付はリンクしている。
今年は魔交歴706年。
意外にもシュマホーにはコチラの世界の常識がいくつも詰まっていた。
アリスがシュマホーを無理に手に入れたのは、間違いではなかったカモしれない。
通話機能を見てみる。
家電の受話器マークのアイコン。電話のような魔法装置があるというコトか。
番号を入力すれば通話がデキるらしい。さらに、メッセージ機能まである。アリスがメールと言っていたのはコレのコトだろう。
ほかにもいくつかアイコンがあった。
その中に地図アプリがあった。
オオっ、とマサヒコは思った。
どうやらシュマホーにはGPS機能もあるらしく、現在位置が赤い矢印で示されていた。
地図は冒険者ギルド周辺の地図。『-』ボタンを押して縮小して範囲を拡大。街全体の地図になった。
さらにドンドン『-』を押していく。
どうやら、このベルドーン市はミナス王国という国の東にあるらしい。さらに東に行くと港町があるようだ。
さらに『-』を連打。近隣の国が見えてきた。ドンドン、マイナス。どこまでの範囲が見えるのか。
ついに大陸そのものまで範囲を広げることができた。『-』記号はここで消えた。コレが最大範囲らしい。
だが、おかげで大陸にはミナスをフクめ、7ヵ国があるコトが分かった。こういった社会常識はキチンと把握しておかないとマズイ。いくら田舎とか山奥とか辺鄙なところから出てきたといっても、物知らずにも限界がある。
地図を拡大したり、縮小したりして、この世界の地理を頭に叩き込んでいると、話し声とともに2人の女が現れた。
どちらもスゴい美人だった。ヒトリは鮮やかな長い水色の髪に緑色の瞳。活発そうな雰囲気の女性。白いTシャツに短パンというカッコウ。20歳前後だろうか。
もうヒトリは日本人ぽかった。クルクルとよく巻いた白っぽい金髪。大きな茶色い目。長い睫毛に、プックリとした小さめの唇。鼻は高くはないが、スラっとしたイイ形。眉毛が薄いのが気になるが、カナリの美少女。
「あっ、コレがウチのツレのマサ」
白っぽい金髪の美少女が言った。
というか、アリスだった。
ギャルメイクをしていないと、まったく雰囲気が違う。むしろ、ギャルメイクをして、ワザワザ劣化させているようにしか見えない。
マサヒコは唖然とアリスを見たまま固まった。
「よろしくね、マサ君。私はロミナ・モーベルタ。コレでもCランク冒険者なのよ」
水色の髪の女性ロミナが言って微笑んだ。
Tシャツの胸元がものスゴい隆起を見せており、マサヒコは失礼とは思いつつも、ソコから目が離せなかった。
「青木正彦です。今日、冒険者になったばかりです。ヨロシクお願いします」
頭を下げつつ、ヤッパリ視線はロミナのド迫力胸部に。
「てか、アンタ、オッパイ見すぎだし。超エロいんだけど」
「イ、イヤ、そんなコト、ないから。全然、見てないからね」
マサヒコの顔が真っ赤に染まる。
「まーね。ウチも結構、自信あったんだけどさ。ロミナさんには勝てん」
それから3人で話しながら部屋へと向かった。
ロミナの部屋は3階とのコト。2階フロアで別れた。
「マジ、キレイじゃね。水色の髪とか最高なんだけど」
アリスが言った。
マサヒコはカギを開けながらも、ウンウン、とうなずいた。なんというか、ソウ、いうなれば2・5次元的な美女。
「鈴木さんも負けてなかったけどね。どこの美少女かと思った」
マサヒコは特に意識もせずにツブヤいた。アリスに言うというよりも確認のようなものだった。むしろ言いたいのはギャルメイクについて。
絶対、メイクしない方がイイって、と声を大にして言いたいが言えず、モンモンとなっていた。
「ハっ?」
アリスがマサヒコの後ろで言った。
顔が真っ赤になっていた。




