話し合いに行くべきは
今にも雅様邸に殴り込んでしまいそうな勢いで、千尋様が私を詰問する。
でもお願い、ちょっと待って。
涙がとまらないと、声すら出せないんだもの。
すう、はあ、すう、はあ、と一生懸命に息をして、なんとか呼吸を整える。
「千尋、様……」
「なんだ!」
「心配、しないで……あまりに強い妖気だったから……拒否反応が出ちゃっただけ……」
「雅の妖気が強まったってことは、もしかして、潜入してたのが雅にバレたのか?」
さすがに絢香さんも心配そうにあたしの顔をのぞき込む。こうして見ると、妹さんと顔はそっくりだけど、やっぱり雰囲気はかなりちがうなぁ。
「うん。クダちゃんの姿だったのに、一目であたしが真白だって見破られたよ」
「マジか」
「それで、妹さんとも話したし、雅様とも話してた途中だったんだけど」
「お前、すごいな」
なぜか絢香さんにヒかれたんだけど。なんでだ……。
「それでなぜ雅があれほどの妖気を放つことになった。状況を教えてくれ、ここからは俺が話をつける。真白がこれ以上危険を冒すことはない」
「千尋様……」
なんて頼もしい。
自分のことだというのに私にすべてを押しつけてこようとする絢香さんとは雲泥の差だ。
でも、話し合いに行くべきはこの場合、やっぱり千尋様じゃないと思うんだ。もちろん私でもない。
私はゆっくりと、絢香さんのほうへ向き直った。
「あのね、絢香さん。これ以上の話し合いは、絢香さんが自分ですべきだと思うの」
ピクリと絢香さんの肩が揺れる。
「妹さんはね、幸せに暮らしてるみたいだったよ」
「……」
「雅様も、妹さんを大事にしてるみたいだった。元々は妹さんが学園に通う予定だったのに、勝手に家出したのが始まりだったかもしれないけど、無理やり連れ戻すのはきっと難しいよ」
「でも……」
そう言ったっきり、絢香さんはきゅっと唇をひき結んだまま、言葉を発しない。チラチラ千尋様を見ては目を泳がせているところを見るに、慎重に言葉を選んでいるみたいだ。
「そんなに今の状況が嫌なら、しばらく学校を休んでもいいと思うし……絢香さんって確か、寮住まいだよね?」
学園に通うことを陰陽師系統の実家から厳命されてたとしても、そうすぐにはばれないんじゃないかなぁ。
暗に、そう言ってみたけれど、絢香さんはそれでもまだ思うところがあるようで、少し悩んだ後にこう言った。
「時期的に、これから終盤じゃねえかよ。オレ、このままなんてムリだし。あいつが雅とうまくいってるんならさ、それこそあいつが戻って、雅エンド迎えれば丸く収まるんじゃね? それに……」
「それに?」




