雅様の妖気
「だって……雅様と少しでも長く一緒にいたかったから……」
その時のことを思い出したんだろう、妹さんは真っ赤になってうつむいた。
そして雅様はといえば、妹さんのそんな様子をとても優しい眼差しで見つめている。
「ふふ、あの時は驚きましたが、今では真奈美のそんな一途なところも可愛いと思っていますよ」
「雅様……!」
うはぁ、周囲にハートが飛び交って見えるわ。
もはや見つめ合う二人には、私の存在などあって無きが如しだろう。こっちの方が、なんか邪魔して悪かった……という気持ちになってくる。
絢香さん、これもう無理だよ。雅様が手放さないと思うよ? 既にヤンデレフラグ立ってると思うもん。
心密かに敗北感に苛まれている私に、雅様は余裕の笑みを見せる。
「最初は真奈美が落ち着くまで保護するだけのつもりでしたが、今では彼女がいない生活など考えられません。あきらめておとなしく帰ってくれませんか?」
「……」
絢香さんのことを思えば、そう簡単に頷くこともできない。ただ、雅様を説得するのも超絶難しい気がする。なんとも答えられなくて、私は黙るしかなかった。
「真奈美を力尽くで連れ帰るような無体なことを考えているのならば、私は全力をもって阻止しますよ?」
まったく目が笑っていない。雅様はきっと本気だ。
雅様から放たれる妖気が一気に膨れ上がって、私を威圧してくる。いつもは抑えていたんだろう雅様の妖気は、今や千尋様に匹敵するほどに強大で、とてつもなく禍々しい。
雅様の目が赤く光って、その銀髪が生きているように蠢きはじめた。
容赦なく注がれる妖気に、全身の毛穴が一斉に開いた気がした。心臓が痛い。何も考えられない。ただただ恐怖が、全身を支配していく。
怖い。
怖い。
怖い。
「きゅう……」
クダちゃんの、力ない声が聞こえた気がした瞬間、なにかが弾けたような衝撃で、頭が一瞬白くなる。
「真白!?」
「どうした、大丈夫か!?」
気がついたら、千尋様と絢香さんが、心配そうな顔で私を見下ろしていた。
「……?」
「何があったんだ、真白! 雅に何をされた!」
千尋様のあせりっぷりに瞬間びっくりしたけれど、すぐに自分の惨状を理解する。
だって息がめちゃめちゃ苦しいし、視界がぼやけてる。
雅様の巨大な妖気に耐えられず、体が拒否反応を起こしたんだ。涙はぼろぼろ出てくるし、呼吸困難だし、ついでに妖力もうまく保てずにクダちゃんからも弾かれちゃったんだわ。
「さっき雅の妖気が異常なほど膨れ上がった。いったい何があったんだ!」




