4 Others アルディシア王城内
※マリアーヌ・王視点です
「おい! エルセ嬢はどこだ!」
「昨夜追放されたというのは真だったのか!?」
「仕事が回らぬではないか!」
「部屋には何一つ残っていないぞ!? もぬけの殻ではないか!」
まるで地獄絵図かのように荒れ狂う王城内。
王の間では、蛇に睨まれた蛙かのように震える王太子と、マリアーヌがいて、周りには大臣ががやがやと騒いでいる。
玉座には王が座り、隣には王妃が控えている。
「カイルよ。何か申し開きはあるか?」
「はい! あの悪女を婚約破棄し、真実の愛を誓ったマリアーヌと婚約することになにか問題があるのでしょうか!?」
「そうです! 王様! カイルとは二人で愛を育むと誓ったばかりなのです!」
あぁ、本当に腹が立つ! あのエルセとやらの何が良いのよ!
王様も、王妃も、大臣も私の素晴らしさが分かっていないのだわ! カイル、あなたは私の唯一の理解者よ!
「はぁ、まだゴネるというのか。」
「えぇ! 廃嫡というのはあまりにもおかしいと思います!」
ざわざわと、一層大臣や貴族たちが騒ぎ始める。
うるっさいわね! 廃嫡なんて認めないわよ!
理解者であるカイルの隣に立てれて、更に王太子妃の立場にも立てる! そんな私の幸せまでのバージンロードを絶とうというの!?
「では、一週間以内にエルセを王城に連れ戻してきなさい。そうすれば、廃嫡を解いてやろう。」
「それではあまりにも短すぎます!」
私は、咄嗟に叫んでしまった。
カイルが少し驚いてこちらを向く。
「ふむ、なぜそう思うのだ?」
「……っ。一週間で行方すら不明な者の捜索をし、ここまで連れてこいというのはあまりにも難しすぎます!」
そもそも、カイルがゴロツキを手配して消させたって言っていたわ! 見つけるのさえ不可能に決まっているわ!
「マリアーヌ、これでもかなりの温情を払っているのですよ。」
…チッ、王妃。あんたに何がわかるのよ。このクソアマが!
「そもそも、廃嫡を解除する方法が残っている時点でまだ良いほうなのですよ。さらに、婚約をもう一度行えという話ではないのですから。」
じゃあ、普通は問答無用で廃嫡だって言うの!? そんなのおかしいに決まっているじゃないの!
「カイル、私が手伝…」
「マリアーヌ、おぬしはエルセ嬢の代わりに職務を行いなさい。」
「えっ!?」
なんでがあんなカイルにくっついてた害虫の代わりを、しなければならないの!?
「ふむ、良い案ですね。」
「そうだな! マリアーヌ嬢に任せるとしよう!」
「…エルセ嬢に見てもらいたい内容だったのだが… 致し方あるまいか。」
何よ! このおっさん共が!
私は悠々自適にゴロゴロと贅沢に暮らしていたいのよ! 仕事なんてしたくないに決まっているじゃないの! あんた達がやりなさいよ!
「では、エルセ嬢の執務室をマリアーヌ、おぬしに貸すとしよう。その他のものもそちらに書類を運ぶと良い。話はこれで終いだ。皆下がれ。」
「「「「はっ」」」」
全員がぞろぞろと王の間から出ていく。
「マリィ、あいつの元執務室はあっちだ。私はエルセを取り戻す方法を考えるために自室にこもる。頑張ってくれ。」
「わかったわ。カイル。」
…ッチ、無能が。
―――いえ、カイルのことをこんな風に考えてしまってはダメだわ! 私が執務をしなくても良いようにするために方法を頑張って考えてくれているのよ!
私も応援しないと!
「カイルも、頑張ってね。」
「ああ、君の声援が何よりの動力源だ。」
ふふっ。
少し上機嫌なマリアーヌはスキップ気味に執務室に向かう。
―――この後待ち受ける地獄のことなんて知らずに。
◆
「…はぁ、流石にエルセ嬢に重荷を背負わせすぎたのだろうか。」
「えぇ。あの愚息…もとい、カイルの職務も全てやってくれていたからね。少し好意に甘えてしまったのは私たちの失敗よ。」
…はぁ、エルセ嬢は体調を崩すどころか、1度も私には疲れを見せなかった。
まさか率先して王城を抜けてしまうほどだとは。
「カイルもカイルだ。あのようなマリアーヌとやらにたぶらかされよって。」
「誰が見ても偽造だとわかるような証拠を信じ込んでしまったカイルには、絶対に王位は任せられないわね…」
婚約破棄をした理由に、マリアーヌへの暴行などが入っていたが、あのエルセ嬢の手のひらに傷があったことなどは見たことがない。それに、マリアーヌには傷一つついていなかった。
そのような噂も聞いたことがない。…はぁ、恋は盲目とは言うが、これほどだったとは…
「そうだな。絶対にこの国が滅んでしまう。その前に、ティレには育ってもらわないといけないかもな。」
「そうね、あの子はまだ無垢で純粋よ。カイルのようにならないよう教育する必要があるわね。」
教育係も変更する必要があるか…
「…胃薬はあるか」
「えぇ。それを飲んだら対策を始めるわね。」
机の引き出しから胃薬を取り出した王妃は、王に胃薬を渡し、自分の手にも取った。
「…お前もだったのか。」
「えぇ。自分の息子があんなにも馬鹿だったとはって。あなたは妾も取らず私一人を愛してくれた一途な人なのに、あの子どうしちゃったのかしら。」
「まぁ、流石に学習してもらわねばならんなっと。」
ごっくん。と、胃薬を飲む。
…はぁ、憂鬱だ。
そんな重い腰を玉座から上げ、執務室へ向かう。
後ろからは王妃がついてくる。
…あぁ、この国は本当に大丈夫なのだろうか。
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