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2 飲水思源

「……んぅ……あら? 私眠っていたのかしら。」

「えぇ。ぐっすりと寝ていました。」


 今はもう朝日が出て、車窓から日差しが飛び込んでくる。

 王都から出て、街道でガタゴトと馬車に揺られて何時間が経ったことだろうか。

 街道は整備されていて魔物も出ないから、安心して眠ってしまったわ。


 それに、眠らずに歩き続けている馬車は、やはり凄いと思うわね。


「そういえば、今からどこの国に向かうつもりなの?」

「最初は王都から一番近い東側の隣国であるフェーベル王国ですね。」

「あら! あそこの漁港には1度行ってみたかったのよね!」


 この国、アルディシア王国は、4つの国に囲われている。東のフェーベル、西のレンデス、南のカティラ、北のメルデ。

 他にも国は色々あるけど、とりあえずこの4国は全部回ってみたいと思っているのよね。


「では、まずは港の街…と言いたいところですが、それまでにいくつか街を経由しますので。」

「わかったわ。」


 色んな街があるから、そこを巡って特産品とかを集めたいわね!

 城の外に出ても、予定のせいで自由時間なんて無くてお土産とかを買う時間もなかったもの。


「何にしても楽しみね。私からすればすべてが新鮮なのだから!」

「えぇ。これまでの人生の分も楽しんでください。」

「あら、あなたは楽しむつもりはないの? せっかくなら一緒に楽しみましょう。」

「…そうですね。二人で楽しみましょうか。」


 …もう、あなたが楽しんでいないと私も楽しめないでしょう。

 旅のプランは基本的にレティに任せているけどね。まぁ、時々私が口を出すけど。


 レティは私が行きたいと思うところに行かせてくれるけど、レティが行きたいところにもそのうち行ってみたいわね。

 普段は自分を見せようとしないレティだから、少し興味があるのよね。


「流石にずっと馬車で移動するってのは難しいと思うのよね。どうするつもりなの?」

「次の街で降ろしてもらう話にしてあります。次からは歩きでしょうか。野宿とかも良いかも知れませんね。テントも持っていますし。」

「そうね、私も少しそういったことにも興味があるのよ。楽しみだわ。」


 アウトドアってパチパチという焚き火の音を聞きながら、ずっと雑談をする。前までだったら考えられなかったような時間の使い方ができる。

 それら全てが初めての経験だから、刺激の絶えない日々になりそうね!






「御者さん、ここまでありがとうございました。」

「いえいえ。私は仕事したまでなので。駄賃もいただいておりますし。」


 御者は、レティにチラッと視線を向ける。

 やっぱり、レティは2手3手先をずっと考えているのよね。仕事が早くて助かるわ。


「これで、馬のことも労ってあげてくださいね。」


 私は、腰についている巾着から銀貨を1枚取り出す。

 だいたいこれで、にんじんが10本は買えることでしょう。


「いえ、こんなには…」

「チップ代わりよ、受け取ってちょうだい。」

「……ありがとうございます。」


 お辞儀をしながら、銀貨を受け取る御者。


「では、私たちはこれで。」

「えぇ、いってらっしゃいませ。」


 馬車は街門の手前で降りた。今から、私たちは街の中に入るのだ。


「歩いて街門を通るのも初めてね。」

「いつもは馬車でくぐっていましたから。」


 そういえば、追放されたってことは、街にも出禁なのかしら。この街はまだアルディシアの領内なので。それだと少し困るのだけど。

 街門をくぐろうとうすると、門番に止められる。


「通行税大銅貨5枚を支払ってください。」


 良かった。一瞬出禁になったのかと思ってしまったわ。 


「では、2人分で銀貨一枚ですわね。レティ。」

「はい。」


 レティは、マジックバッグから銀貨を1枚取り出し、門番に渡す。

 …基本的に通行税を取られることは無かったから、よくわからないのよね。

 もしかしたら門番に渡すのが正規ルートなのかもしれないわ。


「どうぞ。」


 そう言って、門番は私たちを解放する。

 やっと、街の中に入れる! あぁ、こんなに気が軽いものなのね。


「確か、この街は市場が有名だったわよね。流石にこんな時間に空いている店があるとは思えないけど。」

「そうですね。市場を見に行く前に朝食を取りましょう。」

「えぇ、そうね。」


 馬車に揺られていただけだけど、少しお腹が空いてきたわね。


「確か、あそこのお店が美味しいと評判でしたね。」

「えっ、知ってるの?」

「えぇ。前回来たときに婦人方が話しているのを耳にしまして。」

「レティってなかなかに地獄耳よね。」

「ありがとうございます。」


 他の部署の人の噂話を聞きつけたりしてるらしいよね…

 大抵の噂はこのレティが全部知り尽くしていて、時々私も勢力図の確認のために聞いたりしていたわ。

 …まぁ、レティにとっては趣味の範疇だったみたいだけど。


「あちらです。」

「場所まで!? …記憶力も凄まじいわよね… 代わりに執務をしてほしかったわ…」

「いえ、エルセ様だからこそ出来ることです。」


 …うーん、まぁ血とかもあるからねぇ…流石にそこは無理ってことね。

 昔は冒険者をやっていたみたいだけど、レティって何歳なのかしら。もしかして、長命種の血が入ってるんじゃないかしら?

 でも、質問するとはぐらかされるのよね…


 『秘密は乙女を美しくする』って。

 …だったら、あなたは秘密が多すぎて世の中の殿方全員目が合っただけで卒倒しますわよ?


 テクテクとレティについていくと、いい匂いのする木造の家の前までついた。

 まさに、庶民向けの食堂って感じがするわね! こういうのを体感していたかったのよ!


 カランカラン、とドアを開くと音がなる。


「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」

「はい。モーニングセットを2つお願いできますか?」

「わかりました。」


 スッと、レティが注文する。……どれだけ婦人の話に耳を傾けていたのよ。流石に詳しすぎるわ。

 この店の店員はかなり礼儀正しいわね。こういった感じのものなのですね。もう少し、がさつなイメージがありましたわ。


 私たちは向かい合うテーブル席につく。出口に近い方にレティが座る。

 …こんな時まで上座下座を考えていたら疲れてしまうわよ…? まぁ、偶然かもしれないけど。



 少し待つと、プレートに乗せられた料理が運ばれてきた。

 まだ、温かい状態だ。


 …いつもは、毒見をすませた冷めた料理ばっかりだったから、こういうことさえも、新鮮に感じるわ。


 …こんな私にとっての非日常は、誰かにとっては日常なのかも知れないわね。

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