16 到着
「では、今日中にこの森を抜けるとしましょうか。」
「そうね。そろそろ野菜を補充したいわ。」
次の街は林業… 近くの村にでも寄って野菜を買おうかしら…?
今は朝の支度を終わらせ、朝食を摂り朝の森の中を歩いている。
涼しく新鮮な空気が肺をいっぱいに満たす。
うーん、このままただ単に歩いていくのも暇ね……
「そう言えばあの人達……今頃どうしているのかしら。」
「あの人達とは?」
「貴族連中のことよ。あとはカイルとか。」
「未練がおありで?」
「微塵も。」
今頃どんな風に政治をしているのかと思ってね。
私が急に抜けて今頃大慌てでしょうね。
「…何事もなかったようになってるのが一番いいのだけれど、それはそれで癪ね…」
「エルセの担当していた範囲は、どう考えていても一個人が行う量を越えています。流石に混乱状態でしょう。」
…まぁ、自分が住む国ぐらいは良くしたいって思う感情が、最後の砦だったわね。正直いつ投げ出してもおかしくない状態だったわ。
あとは王妃として老後を迎えれば、楽になれるという一縷の希望を持っていたけれど、今考えれば70越えてもこき使われそうね。
「……つくづくカイルには感謝しないとね。」
「やっていることはクズですが、そのとおりですね。」
「えぇ。本当に彼に好意を向けなくてよかったわ。おかげで後腐れがほぼないし。」
政略婚約万歳!
……普通は逆なのかもしれないけれど。
「愛のない婚約は批判されるべきものとか言われたけど、今となっては良いものだったわ。」
「エルセは常に色恋沙汰には興味がありませんでしたからね。」
「恋物語を読んでも特に何も感じないのよね。…鈍感なのかしら?」
「激務で感情が鈍っていたのではないですか?」
「…じゃあこれから感性を磨いていかいないといけないわね。」
一回思考をリセットして景色に目を向けると、木漏れ日や土の色、風に揺れて光る碧色の葉。そういった自然が美しく感じられる。
「…魔獣がいるわね…こちらを向いているわ。」
「本当ですね。少し刃渡りの長いナイフを作ってくれますか?」
「わかったわ。『空想造形』」
キューブをナイフの形に造形していく。
…レティが貸してくれたナイフを見ながら。模造が一番クオリティが高くできるのよ。
それに少し魔力を足して刃渡りを長くする。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。では。」
私からナイフを受け取ったレティは、投げる構えをする。
シュッ
ズドッ
「グルッ…」
バタンッ
レティは的確にナイフを魔獣に投げつけ、絶命させる。
…やっぱり強いわね…
「…この魔法使い捨てのアイテムを作るならかなり便利ね。」
「そうですね。おかげでナイフの回収や手入れの手間がなくなりました。」
「ナイフ生成魔法になってしまう前に、他の用途を考えなくちゃね…」
ナイフは放置していれば勝手に消えるため、外しても回収しなくて良い。
…そもそもレティが外すことなんてあるのかしら…?
柔らかい土を踏みしめながら、横たわる魔獣に近づく。
「では解体をしますか。」
レティは魔導書を取り出す。
……なんとも、魔力に余裕ができたから使うらしい。目をそらしておいたほうが良いとは言われているけれど。
「目を背けておいてくださいね。『▲▶▽■ ●■☆◉⬮ ■△■△』」
後で、ズバッという音が鳴る。
…魔導書に関しては、まだ魔法の発動方法がいまいちわかっていないのよね。この発音も聞き取れないし。寝る前にレティに教わってみようかしら。
「…あら。珍しいですね。」
「どうしたの?」
「…『△□○☆☆ ◎◇○☆▽ ▷⬠⬭◁⬯』。もう解体は終わったのでこちらを向いてもいいですよ。」
「そう。……あら?」
レティの手には手のひらに乗るサイズの、淡く発光する石が乗っている。
「魔石です。」
「落ちたのね。」
見るのは基本的には内蔵する魔力を使い切った後の、光を失ったクズ魔石だけだから。こうしてまじまじと見るのはなかなか無かったわ。しかも、かなり貴重だし。
まぁ、夜のキャンプで使っている結界の魔道具は、魔石を使っているけれど。
……ストックとかあるのかしら?
「これまで魔獣を82匹討伐しましたが、やっと落ちましたね。…一般的な魔獣なら、30匹の内1匹が落とすと言われているはずですのに……」
「まぁ、たまたま運が悪かっただけと思いましょう。」
というか、討伐数を数えていたの………かなり倒したわね。
「魔石は高く売れますからね、路銀にでもしましょうか。」
「……うーん、何かしらに使えそうだからちょっと取っておきたいのよね……根拠はないけれど。」
「そうですか? …まぁ、魔獣の肉や皮がかなり集まっているので、それを売ればいいでしょうし。」
魔石は魔道具の動力源として使える。だが、他の魔獣の肉や皮は質が良く、お高い肉としてや、皮は防具や服として流用されることがある。
……肉食の魔獣さえも、肉が美味しいのは未だに謎とされているのよね…
「次の街をと、もう一つの街を抜けると隣国だったわよね。…早くのんびりしたいわ。」
「そうですね。宿でゆっくり休憩でもしたいところですが、あいにく隣国に行くまでは安心できません。」
「……そうね。むしろキャンプのほうが安心だわ。」
流石に宿で結界を張るのはためらわれる。キャンプなら、心置き無く結界を張れるから、宿より安心なのよね。
…人の多い街より、魔獣の多い外の方が安全とはなんとも皮肉ね。
「…あれは街かしら…?」
「………えぇ。木造の家が立ち並んでいますね。」
良かった。怪我なく街にたどり着けてよかったわ。
次は草原を歩くのかしら。…流石に日差しで疲れそうね…




