10 Others エルセ捜索網
「チッ… なんで見つからないのよ!」
あー、本当にイライラする! とっとと見つけなさいよ愚図が!
何のために金を払っていると思っているのよ! …チッ…
目撃者曰く馬車ででていったという証言は本当だったのね…
ゴロツキに接触をして確認したところ、誰一人見かけていないそうだし…
誰も彼もが能無しの鈍間ね! もっとキビキビと探して働きなさいよ!
「東門で夜遅くに馬車がでたって報告があったから、あの街にいると思って早馬を出したんだっけ…?」
カイルの仕事は早くて助かるわ! …でも、まだ捕まえたっていう話は聞かないわね…
…もしかしてあのブス、隣国に逃げるつもりなのかしら…?
いけないわ! 早くカイルに伝えないと!
バタンと部屋の扉を開き、カイルのもとに行こうとすると…
「待ってください。職務は終わったのですか?」
部屋の護衛が私のことを止める。…こんなやつをつけるなんてよっぽどあの王は私のことを信頼していないのね!
あの目は飾りなのかしら? 私のことを正当に評価していない証だわ!
「どうしてもカイルに伝えたいことがあるの!」
「では、手紙にしてください。」
「……分かったわよ。」
まったく、融通の利かない男ね!
私は机へと戻り、紙とペンを用意する。
カイルに直接伝えればすぐに動いてくれるだろうけど、今は仕方ないわね。
……ええと。
まずは、エルセが国外へ逃亡する可能性があること。
それから、国境の警備を強化すること。
あとは……早急にエルセを捕らえるように、と。
「……これでいいかしら。」
私は書き終えた紙を読み返す。
うん。完璧ね。
これでエルセが隣国へ逃げる前に捕まえられるはずだわ。
「お願いします。」
「承知しました。」
護衛に手紙を渡す。
これでカイルにもすぐ伝わるでしょう。
……まったく。
どうして私がこんなことまでしなければならないのかしら。元々はカイルの寵愛を受けながら楽しく過ごすことだったの!
そもそも、あの女が大人しく王城に戻ってくれば済む話なのよ!
婚約破棄されたからって国外へ逃げるなんて、いくらなんでも大げさすぎるわ。
……まあ、無様で滑稽だから、見てて気分は良かったわね。
でも、だからといって今私たちに迷惑をかけていい理由にはならないわ。
私はカイルの隣に立つ人間なのだから。
その私が、あの女のせいでこんなところに閉じ込められているなんて――
「……本当に腹が立つわね。」
私は椅子に座り直す。
すると、先ほどの護衛がこちらを見ていることに気がついた。
「……何よ。」
「いえ。」
「何か言いたいことがあるなら言いなさいよ。」
「特には。」
「……そう。」
なんなのよ、こいつ。どうせ私を監視しているだけの人間なんだから、余計なことを考えなくていいのよ。
私は窓の外を見る。
もう夜も遅い。
カイルの元寄生虫は今頃どこにいるのかしら。
もし本当に隣国へ向かっているのなら、今頃は――
「……そうだわ。」
私はふと思いつく。
「国境を全部封鎖してしまえばいいじゃない。」
「……」
護衛の顔が僅かに引きつった。
「そうすれば、あの女も逃げられないでしょう?」
「……国境の完全封鎖は、国王陛下の許可が必要になるかと。」
「なら、申請すればいいじゃない。」
「……承知しました。」
護衛は一礼すると、その場を離れていく。
ふふ。
これで完璧ね。
国境を封鎖してしまえば、あの小賢しい鼠だろうとどこにも逃げられないでしょう。
そうすれば、カイルが見つけるのも時間の問題でしょう。
私は勝ち誇ったように笑う。
「……これでようやく、あの女も終わりね。」
◆
―――その翌朝。
国王の執務室には、昨夜届いた申請書が置かれていた。
「……国境の完全封鎖?」
「はい。」
国王は紙を持ったまま、眉間を押さえる。
「なぜだ。」
「マリアーヌ様からの申請です。」
「……理由は?」
「エルセ様が国外へ逃亡する可能性があるため、とのことです。」
「……」
国王はしばらく黙り込んだ。
「エルセが国外へ逃げること自体は、別に構わんのだがな。」
「はい。」
私は、それが運命だというのならば受け入れる。私には彼女を縛り付ける権力はあれど、それをする気はない。
「そもそも、私は一週間以内に連れ戻せと言っただけだ。国外へ出たなら、それはそれで仕方がない。」
「……問題は国境封鎖による影響でしょうか。」
「その通りだ。」
国王は申請書を机に置く。
「商人も止まる。旅人も止まる。物流も止まる。隣国との関係の悪化にもつながるだろう。」
「たった一人を探すためにやることではありませんね。」
「まったくだ。」
国王は深いため息を吐く。
「……それにしても。」
「はい。」
「なぜあの娘は、ここまでエルセを敵視しているのだ?」
「さあ……。」
側近も困ったように答える。…本当に、彼女は醜いのだな。
国王は首を傾げる。
「そもそも、王妃になる前の人間に、国境を封鎖する権限などないだろう。」
「……はい。」
「却下しておけ。」
「承知しました。」
側近が申請書を持って退出する。
国王は一人になった執務室で、再び頭を抱えた。少し、胃がキリキリする。
「……どうしてこうなった。」
数日前までは、エルセがいれば仕事は滞りなく進んでいた。
それが今では、あの愚息がエルセを追い出した結果、仕事は増え、王子は役に立たず、マリアーヌは国境を封鎖しようとしている。
「……これまでエルセ嬢に押し付けていたしわ寄せがこれか……」
誰もいない執務室で呟く。当然、返事はなかった。




