9 有能メイド…?
「あぁ、お腹がいっぱいだわ〜」
「至福の時間ですね。………口調。」
「あっ。」
もう夜は完全に更けきっており、辺りを照らすのは焚き火と月明かりだけ。
静寂の中に鳴る、パチパチと巻きの弾ける音。
二人っきりだと、不安を感じるのかもしれないけど、レティだと自然と安心してしまうのよね。
…レティの圧倒的武力に。
私も、少しぐらい護身術ぐらい覚えたほうが良いのかしら。
「あぁ、そうそう。この卵、どうすれば良いのかしら?」
私はテントの中の鞄から、卵を取り出す。
「温めたりでもしたら良いのかしら?」
「…まだわからないですね。温めないほうが良い場合もありますし。」
…あぁ、確か温度で性別が変化したり、そもそも生まれることができなくなったりすることもあるらしいからね。
「レティのなんやかんやした力で中に何が入ってるか分かったりしないかしら?」
「流石に私もそこまで万能じゃ………爬虫類の気配がしますね。」
「嘘でしょ!? 冗談だったのに……」
「ふふ。なので、温めないでもいいと思います。それよりも、卵は上下動かさないように気をつけてくださいね。」
…え、爬虫類の気配は冗談じゃなかったのね……
「なんで上下?」
「窒息死する可能性があるのですよ。」
「ふーん、気をつけておくね。」
ちなみに、竜種と爬虫類はまったくの別物として分類されているのよね。…そもそもトカゲは空を飛ばないわよ。
早く生まれてこないかな〜 なんて、童心に帰ったかのようにワクワクしている。
……そうね、存分に童心に帰ってやろうじゃないの。
子どもの頃に楽しめなかった分もね。物心付く前から勉強ばっかりだったもの。
…そういえばなかなかに鬼畜だったわね。うちの親。
子どもと言えば…
「レティは、昔の将来の夢とかあったの?」
「……そうですね。昔はお嫁さんになるって無邪気に言っていたような気がします。
「………今は?」
「昨夜破局したばかりの貴方には質問されたくありませんね。」
「…あれは破局というのかしら?」
婚約破棄…… 元から、恋仲ではなかったのよね…
政略結婚に愛情なんて必要無かったから。
「まぁ、今の生活に満足しているので結婚願望なんてとうに消えていますがね。」
「…貴方って10年前から私に仕えているけど、今の年齢って…」
「黙秘します」
私の年齢が、今年で18歳。
私が8歳の頃から仕えてくれてるけど、その前は冒険者をやっていたみたいなのよね。
…やはり長命種なんじゃないかしら…
このあたりも、旅をしながらも、少しづつ聞いていくのが良いかもしれないわね。
「……あら、少し眠気が…」
「もうそろそろ寝るとしますか。明日はもう少し歩きますからね。」
「…えぇ、そうしましょう。」
いつもなら、珈琲で眠気をごまかすところなのだけれど…
あぁ、珈琲と言えば……
◆
「あら、眠ってしまいました。」
スヤスヤと、いい顔をして眠っているエルセ様。なんとも可愛らしい寝顔をしている。
犯罪級ですね。
疲れが溜まっていたのでしょうか。もしかしたら、追手を警戒して気を張っていたのかもしれませんね。
もっと信頼してもらえるよう精進しなければ。
色々と質問されましたが、まだ旅は始まったばかりです。すべてを話すにはまだ時期尚早というものですから。
話題が旅を初めて早々に無くなってしまっては大変ですから。
時期が来れば話しますので、待っていてくださいね。
私は、テントの中にエルセ様を運び、寝袋の中に収めた。
「では、私は私の仕事をするとしますか。」
結界の外に出て、夜風に当たるための散歩を…
なんて、こともなく。
「やはり、匂いが漏れていると魔獣は集まってきてしまいますよね。」
「「「グルルル…」」」
音と魔獣は通しませんが、どうしても匂いと光は通してしまうのでね。
これにエルセ様が気づかなくて良かった。心配させて眠れないなんてことがあっては一大事です。
何体いるかもわからない、暗闇に紛れる魔獣を相手にナイフ一本で怖気づかずに一歩前に出る。
他の人達が見れば無謀と思う行為ですが……
「まとめてかかってきなさい。エルセ様が安心して起きられるためにも一匹たりとも残すわけにはいきませんから。」
「「「グルァ!」」」
…エルセ様にはこんな光景見せられませんね。…確実に逃げてと言われてしまいますから。
「ふぅ。これで最後ですか。」
かなりの数がいましたね。なかなかに面倒でした。
…ついでに、解体も済ませておきますか。
「…今回は数も多く、私も眠たくなってきましたので魔導書でパパっと済ませてしまいますか。」
私は、使用回数の無い、特殊な魔導書を取り出す。
これは、人工的なものではなく、ダンジョンのみで手に入る希少なもの。
…内容は【解体】というものですが。
死体にしか効果がないですが、肉屋がこれを持てば無双できるでしょうね。渡しませんが。
「…まぁ、これはなかなかに見た目がグロテスクなので、エルセ様には見せられないですね。」
一番の欠点は、なぜか血でドロドロのままなんですよね。内蔵が浮かんできて分別してくれるのはありがたいですが、ある意味深窓の令嬢であったエルセ様にはなかなかにショッキングな映像でしょうし。
なので、前回は手作業で極力血が流れないように解体したんですよね。
「『▲▶▽■ ●■☆◉⬮ ■△■△』」
ズババッ
死屍累々の魔獣の山に無数の切れ込みが入り、空中で内蔵と部位で分かれる。
…血が滴っていますね。血抜きの魔法とか無いんでしょうか?
ヴァンパイアが仲間になればもしかしたら…
「まぁ、流石に浄化しておきますか。」
返り血はついていませんが、流石にエルセ様にこの血みどろの地面を見せるわけにはいけませんから。
「『△□○☆☆ ◎◇○☆▽ ▷⬠⬭◁⬯』」
不浄とされている血が、どんどん透明になって消えて、綺麗になっていく。
きれいになった肉達は、マジックバッグに入れて保管する。
「……では、私も寝るとしましょうか。」
結界の中に入り、テントで寝袋にくるまって、レティはそこで寝始める。
…エルセ様が安心して眠れているようで良かったです。




