11 光るキノコ
「ふわぁぁああ……」
「おはようございます、エルセ。」
「…おはよう、レティ…。」
目がまだ少しシパシパするわ…
「…ん〜〜。…心地の良い朝ね。」
眠気覚ましに伸びをしながら、朝の森の新鮮な空気をめいっぱい肺に取り込む。
寝袋からガサゴソと這いずり出ると水桶を持ったレティがテントの外で待ち構えていた。
「……その水は?」
「魔導書から出したので安全です。これで顔を洗ってください。」
「魔導書をそんなポンポン使っちゃダメでしょ!?」
「大丈夫です。魔導書職人の弟子が練習で作ったものを、安く買い占めただけですから。」
…下町ではそういうのが安く売られていたりするのかしら。
まぁ、問題はなさそうで良かったわ。
「…不良品とかも紛れ込んでいそうね…」
「えぇ。1/5は不良品でした。」
「どれだけ買ったのよ。」
自分のためにお金を使うっていう行為を知らないのかしら? どう考えても私費よね?
給料の使い道もほとんど無かったのかしら… ちょっとした贅沢は女の子の嗜みじゃないの?
「寝起きはとりあえず水を一杯飲んでください。」
「はぁい。」
レティがコップで水桶からきれいな水をすくって私に手渡してくる。
ゴクゴクと飲むと、少しだけ思考がはっきりしてきた…気がする。
「顔を洗ったらこちらの布を水で濡らして体を拭いてください。昨日は、体を洗っていないでしょう?」
「…たしかに。」
忘れていたわ…
そしてレティになされるがまま、朝の支度を始めた。
……憂鬱だった朝が、こんなにも心地よく感じるとはね。
サク、サクと地面の草と柔らかい腐葉土を踏みつけながら、私たちは朝日が昇った方向に向かっている。このまま東に行けば、明日中には次の街にたどり着く算段だ。
次の街は森に隣接している街で、林業と狩猟が盛んだ。
……近づくにつれて罠が増えていくのかしら…? 面倒ね。
「そう言えばエルセ、5日後の夜は〝影蝕の紅月夜〟だそうですよ。」
「そうなのね。……正直、その名前誰が付けたのって思っているわ。年頃の男児かしら…?」
「ネーミングセンスが壊滅的ですよね。これかっけぇ! って思想が見え見えです。」
影蝕の紅月夜って、なんかかっこいい文字列並べてみた! みたいな感じがするのよね…
「ちなみに、50年ぶりの〝天恵の月輪〟を見ることができるそうですよ。」
「そうなの? それは是非見させてもらいたいね!」
50年かぁ〜 ずいぶんと長いスパンなのね。
天恵の月輪は、土地に月の魔力を満たし、その年と翌年などは必ず豊作になる。
その後も段々と効力を失いつつも、月の魔力によって作物は豊作になる。
代わりに魔獣も活性化し凶暴になるがその分素材の質が良くなり、肉質も良くなる。
たしか、魔石の生成確率も上がるらしいわね。
「〝天冠の日輪〟は25年後かぁ〜」
「そうですね。〝天恵の月輪〟と、〝天冠の日輪〟は50年の間隔で同じですからね。」
ほんの少しもずれることがないから、気味が悪いまであるのよね。
ちなみに、天冠の日輪はほとんど天恵の月輪と内容が同じなのだけど、天冠の日輪は魔獣が強化されるのじゃなくて動物が強化されるのよね。
魔石をもつ動物が魔獣で、魔石を持たない生物が動物。人間も動物に含まれるわ。
天恵の月輪は魔獣との抗争、天冠の日輪は人間の戦争の兆しなんてよく言われるわ。
「確か、エルドリュートの氷輪蛇と火輪鳥は、天恵の月輪と、天冠の日輪の時、孵化するのでしょう?」
「えぇ。もうすぐ氷輪蛇が生まれるということですね。」
「生きる伝説っていうのはこのことね。」
エルドリュートで厳重に守られている氷輪蛇と火輪鳥。信仰対象になる理由もよく分かるわ。
「そういえば、魔導書のストックでどれぐらいあるの?」
「なぜ?」
「いや、1週間後に天恵の月輪が来るなら備えとかが必要かなって。」
魔獣が強くなってしまえばレティの負担が増えてしまうかもしれないし、魔導書で少しでも楽をしてもらいたいのよね。
……私はどう足掻こうと戦力外だから。
「万が一の備えならば万端にしていますが…」
「例えば?」
「天変地異が起きでもすれば……」
「もういい。……どれだけ備えているかがよく分かったよ。」
…天変地異の備えができているならば何にでも対応できるんじゃないの…
「…あら? 何かしらあのキノコは?」
視界の右端に入ってきたかなり遠いところの見慣れないキノコを見つける。
……なんだかほんのり光ってないかしら?
「………よく見つけましたね。言われないと気づきませんでしたよ。」
「ふふん、観察眼には自身があるのよ。」
……まぁ、夜会で相手の表情や顔色をうかがったり空気を読むために微細な変化も見落としてはいけないからね。
それで言えば、空間認識能力も自身があるわ。
……嫌味を言ってきたり、仕事を押し付けてくる貴族を避けるためだけれど。
「……かなりの数があるわね。行ってみましょう。」
「…そうですね。迷子にならないよう気をつけましょうか。」
方向音痴じゃない限り日の傾きでどちらかぐらいわかるわよ。
…もう。
木々を避けながらもキノコに近づいてみる。
……なんだか見覚えのあるような……
「マジックバッグを貸してくれないかしら?」
「? はい。」
マジックバッグを受け取ると、中から植物大辞典を取り出す。出したいものを想像することで取り出せる。
……逆さまにすれば全部出てくるけど。
パラパラと、ページを捲ってキノコの欄から目の前にあるキノコにそっくりなものを見つける。
「あった。…【魔力茸】?」
「っ?!」
後でレティが驚いたようにぴくっと動く。
どれどれ…
「『とても希少なキノコであり、食すことでその身に魔力を宿す。極稀に突然変異で【魔石茸】、【魔核茸】に変化すると言われている。』…ん?」
「………群生していますね。」
「……とても希少…?」
目の前には煌々と光るキノコの大群があるのだった。




