49 襲撃者の思惑
自分に向かって飛んできた物は小刀だった。
それは確実に心臓を狙っていた。
バチッ
お護りの結界に触れて、小刀は弾かれる。結界がなければ確実に私の命はなかったと思えるほど、鋭く正確な攻撃だった。衝撃は殆どなく結界によって身は護れたが、視界から受けた暴力的な攻撃にシェラルージェの心臓は縮み上がった。
ドクドクと激しく心臓が踊り狂う。
シェラルージェが落ち着く前に、小刀を投げた男はシェラルージェの無事な様子を見て新たに攻撃してきた。
それはユリウス兄様達を襲った閃光と同じ物だった。
迫り来る幾つもの閃光に、今度こそ衝撃に身構える。
身構えた瞬間、ドンドンドンと叩きつけられるような衝撃が結界に触れると同時に襲いかかり、白く眩しい光が瞳を焼いた。眩しさに瞳を閉じて衝撃に耐える。結界に触れることによって爆発した破裂音までは防ぎきれずにシェラルージェの鼓膜を襲う。あまりにも激しい音に片手だけでも耳を塞ぎ耐えた。光が弱まったのを感じ、瞳を開けると辺りは砂塵が舞っていて白かった。
その中から剣先がシェラルージェに向かって振り下ろされてきた。
「ひっ──!」
息を飲んで見つめる先で、剣先が結界に阻まれて弾かれる。
硬直したシェラルージェの目の前で、また振り下ろされる剣先が見える。それと共に砂塵がはれてきて剣を振るう者の姿が見えてきた。
その者は先ほど小刀を投げてきた男で、瞳にははっきりと殺気を纏っていた。
殺気を纏った瞳で見つめられ、迫り来る剣を見て、血の気が引くのが分かった。
(気を失ってはダメ──)
気を失えば、お護りの効果が切れてしまう。そうしたら、目の前の男に殺されてしまう。
恐怖のせいで意識が遠のきそうになるのを必死で食い止める。
自分に向けて振りかぶる剣が目の前に迫って、反射的に瞳を閉じた。
ギィン
剣の斬り結ぶ音が間近で聞こえて、シェラルージェの身体を庇うように抱きしめる温かい腕に包まれた。
瞳を開けると、振り下ろされた剣をハリー様が剣で受け止めていて、襲ってきた男との間に入るようにしてシェラルージェを後ろに庇っていた。
「──ハリー様」
思わず呟いた声に、シェラルージェを庇っていた腕に力が入る。まるでもう大丈夫だと言われているようで、あと少しで張り詰めた意識が切れそうだったシェラルージェは救われたように感じた。
勿論、まだ全然脅威は去ってはいなかったけれど、1人で立ち向かっていた時よりは確実に危機を脱していた。
「少し離れていてください」
ハリー様は目の前にいる男から視線を外すことなく、シェラルージェに告げる。
「はい」
血の気が引いて冷たくなった震える手を握り締めながら、出来る限り邪魔にならないところまで離れる。
その間にもハリー様は襲ってきた男と激しく剣を交えていた。
キィンキィンガァッとシェラルージェの目の前で激しい剣戟が繰り返される。男の剣の腕はハリー様と同等なのか張り詰めた空気の中、互いの剣が斬り結び続けた。
そこにもう一人、どこに隠れていたのか、男が剣を抜いて近づいてきた。そしてハリー様へと斬り結んでいた男とともに交互に剣で攻撃し始める。
二対一と不利な状況になり、しかもシェラルージェがここから動けないことが足かせとなってハリー様の攻撃力を落としていた。
息を飲むシェラルージェの前で、ハリー様が苦戦し始めた。
「くッ…」
それを見た敵の2人は勢いづいてよりハリー様を追い詰める。
今は何とか耐えていても、シェラルージェがここに居るかぎりどうにもならない。
影部隊の人達はユリウス兄様とカミル兄様を助けに駆けつけていて、こちらに来ることは出来ない。
(どうすればいいの…)
結界を解くわけにはいかないからシェラルージェはここから動けない。
だから、ハリー様も私を背に庇ったままここから動けない。
ピリピリとヒリつく緊迫感に心臓が握り締められたように苦しくなる。
「ハリス」
アルム兄様の声がした。
シェラルージェが瞳を向けると、アルム兄様がこちらに走ってくるのが見えた。
これでハリー様も動きやすくなるかもしれない。
アルム兄様が駆けつけて来たのを見て、ハリー様と斬り結んでいた2人は目配せした。
「ランバルシア家の娘を仕留め損なうとは……」
「仕方ない。今は引くぞ」
身を翻そうとした2人を見て、アルム兄様は縛結界石を投げつける。
2人に縛結界石が触れると身体を拘束するように巻き付く。腕を封じられた2人は走って逃げようとしたけれど、アルム兄様とハリー様にすぐに追いつかれて足を払われる。
「逃がすと思うかい?」
「逃がすわけがないだろう?」
アルム兄様の縛結界石に捕らわれ、ハリー様に喉元に剣先を突きつけられる。
「クッ──……ガハッ…」
「……ッガァ」
「なっ!」
「しまった」
ハリー様が男の口を大きくあけさせようとしたときには、男達は口から泡を吹いて倒れた。
「くそっ…」
男達は口の中に仕込んでいた毒で自害したようだった。




