50 行商人の正体?
男達がアルム兄様の縛結界石に捕らわれたことにホッとしたシェラルージェは、目の前で突然泡を吹いて倒れたことに悲鳴を上げた。が、実際は掠れて聞こえたのは空気が通る音だけだった。
(……死んだの? ……なんで?)
「見なくていいんですよ」
ハリー様の言葉とともに視界が遮られる。
肩に置かれた手が恐怖で冷え切った身体を温めた。
「こちらもどうにかなったようだな」
砂埃で白くなり、ところどころ擦り傷が出来ているユリウス兄様とカミル兄様が近寄ってきていた。
いつの間にか、屋敷の方も決着が着いていたらしい。
ユリウス兄様とカミル兄様が、横たわっている男を見て顔を顰める。
「片側の男は行商人として出入りしていた人相書きの男だな」
ユリウス兄様の言葉に、アルム兄様は行商人の男を探り始めた。服のポケットから上着の裏地、あらゆる場所をひっくり返して最後に靴を取り、触るとかかとの部分が動いた。そこに何かを見つけたのか、それを見たアルム兄様の眉間にしわが寄った。
「父上が懸念した通りだったようだね」
「「「アルム?」」」
「この者達の狙いはランバルシア家だった、と言うことだよ」
「どういうことだ?」
「言葉の通りだよ。けれど、自害されて手がかりを失った」
「もう少し詳しく説明してくれ」
「それは後で話すよ」
話の区切りがついたのか、いや、アルム兄様の言葉に今聞いても無駄だと悟ったのか、ユリウス兄様とカミル兄様は頷いていた。
そこにハリー様が怒りを滲ませてアルム兄様に詰め寄った。
「アルム、……まさかとは思うが、シェーラ嬢を囮に使ったのか?」
「まさか! 私が愛する妹を囮にするわけがないだろう? 今回の作戦にはシェラの結界が必要だったんだよ。ただ狙われる可能性はあったから私がしっかりと護るつもりだったのに、君達が不甲斐ないから……」
アルム兄様はちらりとユリウス兄様とカミル兄様を見る。
ユリウス兄様とカミル兄様は苦虫を噛みつぶしたように顔を顰めた。
「それはすまなかった」
「力添えいただき助かりました」
アルム兄様の言葉にシェラルージェはびっくりした。
いくらなんでもそんな言い方は不敬罪になるのではないのか。
心配になってアルム兄様を見つめていると、それに気づいたアルム兄様が笑いかける。
「いいんだよ。事前に手助けはしなくて大丈夫だと言われていたのだからね。まあ、流石に見殺しにして王太子殿下とバロットナイト公爵令息を喪うわけにはいかないから手を貸したけれど」
「本当に助かった」
「ええ、やはり実戦経験があるのとないのではこれほど違うのだと身にしみました」
「今度警邏隊に紛れ込んでみるかな」
「それも良いかもしれませんね」
(いやいやいや、ユリウス兄様、カミル兄様。さすがにそれはいろいろと拙いと私でもわかりますよ?)
セリーナのお小言がすぐにでも響きそうな予感がして苦笑いが浮かぶ。
「さてと、結構時間もかかってしまったから、早く後始末をしないと睡眠時間がなくなってしまうよ?」
「そうだな」
「人が起き出してくる前には終わらせないといけませんね」
「シェラ、もう結界を解いてかまわないよ」
「わかりました」
手にしていた結界創石の核の聖石に回収する為に魔力を流し、手元に戻ってきた結界創石を袋にしまう。
ダン子爵の屋敷へ向かって歩き出したみんなに着いていこうと一歩踏み出したら、足からへなへなと力が抜けた。
「あっ…」
シェラルージェの腰が抜けたようだった。地面に座り込む前にハリー様にさっと抱き上げられる。
「きゃっ」
突然抱き上げられ、悲鳴を上げてしまった。
「シェーラ嬢を休ませてあげたいのですが、外れてもよろしいですか?」
「ああ、まだ後処理があるから、その間休んでくれていても大丈夫だ」
ユリウス兄様の言葉に続いて、アルム兄様が言葉を続ける。
「ハリス、その間シェラの護衛を頼めるかな?」
「任せてくれ」
ハリー様の腕に抱かれたシェラルージェは動揺して先ほどとは違うドキドキに心臓が踊り始めていた。




