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貴方の瞳に映りたい  作者: 蒼華
本編
54/63

47 クラリッツェの本性 *少し不快な表現あり


ユリウス兄様達が屋敷に入ってから少しすると、中から使用人達が続々と影部隊に促されて出てくる。

その顔は無表情でまるで人形のようにみんな同じ表情をしていてとても不気味だった。


ランバルシア家で働いてくれている使用人とは全く違う様子にシェラルージェは驚いた。ランバルシア家にいる人達はいつも笑顔で温かく時に厳しい、そんな中で育ってきたシェラルージェは同じ使用人という立場なはずの人達のあまりにも違う様子に衝撃を受けた。

何があればこのような表情をする人達になるのか分からず戸惑い恐怖を感じた。


シェラルージェが見ている間にも続々と屋敷から人形のように同じ表情で同じ動きをする使用人達が、影部隊に促されるまま従順に離れた場所に停めてある収容馬車へ連れて行かれる。


「アルム兄様……」


シェラルージェの声に、影部隊の人からの情報を聞いたり指示していたアルム兄様が近寄ってきた。その顔にはシェラルージェが何に対して戸惑っているのか分かっているようだった。


「まあ、シェラが驚くのも無理はないね」


アルム兄様はシェラルージェの不安を取り除くように、子供の頃にしてくれたように頭を優しく撫でてくれた。


「何があってあのような状態になっているのかはこれから聴取すればわかるだろうけれど、犯罪の起こる場所というのは何かしらがオカシイことはよくあることだよ。気を取られすぎてはいけない」

「はい、肝に銘じます」


目の前で起こる自分の常識範囲外のことに心を乱されていては、仕事を冷静に遂行など出来ない。

それを指摘されて、シェラルージェは気を引き締め直す。惑わされてしまえばミスをしやすくなる。それだけは防がなくてはいけないのだから。

今は結界の維持が私の仕事。ダン子爵家の人達の捕縛が目的。

その観点から見れば、捕縛作戦は順調に進んでいる。

使用人の様子に心を痛めるのは作戦が終わったあと。

そう自分に言い聞かせてから、アルム兄様を見る。


「アルム兄様、今、どのような感じですか?」

「そうだね。ダン子爵とクラリッツェ嬢は見つけられたようだよ。抵抗することなくユリウスに従っているらしい。その内出てくるだろうね。今は実行犯である行商人を捜しているとのことだよ」

「まだ見つかっていないのですね」

「そうみたいだね。行商人が屋敷に入っていったのは確実らしいから中に居るはずだけれど見つからないらしい」

「そうですか」


まだまだ時間がかかりそうなのがわかって、シェラルージェは気を引き締めた。

行商人を逃がしてしまったら今回の作戦が失敗で終わってしまう。そうなればまた被害者が出ることになるかもしれない。そんなことになってしまってはいけない。


結界をもう一度不備がないか確認する。


すると、屋敷の中から影部隊に囲まれてかよわく儚げな姿でクラリッツェ様が出てきた。

その後をユリウス兄様達が歩いてくるのが見える。

クラリッツェ様は少し怯えたように周りを囲む影部隊に視線を送り、やはり恐いのか瞳が潤んでいてより可憐さを引き立てていた。

その姿を見ると、調査で確実と聞いたけれど、クラリッツェ様が関わっているようにはとても思えなかった。

やはりクラリッツェ様は騙されているのではないかと思えた。


歩いてきたクラリッツェ様がシェラルージェの近くを通り過ぎようとしたときに、クラリッツェ様と瞳が合った。

私を見たクラリッツェ様は大きく瞳を見開くと、次第に顔つきが変わっていった。


「オマエ!」


静まりかえった闇夜にクラリッツェ様の声が響き渡った。


「消してと言ったのに、あの男! また失敗したのね? 本当に使えない」


クラリッツェ様の言葉が聞こえるのに、意味が理解できなかった。


「他の邪魔な女はすぐにいなくなったのに、なんでオマエはいつまでもいつまでも私の前に現れるのよ! いい加減に消えてなくなりなさいよ!」


そう叫ぶクラリッツェ様の顔は鬼のような形相で瞳にはシェラルージェへの憎悪が宿っていた。

その瞳にシェラルージェは反射的に後ろに後退る。

シェラルージェを見ていたクラリッツェ様は歪んだ口の端を吊り上げ、私に向かって近づこうとした。


それを唖然と見ていた影部隊が取り押さえる。

クラリッツェ様の周りにいた全ての者が、クラリッツェ様の変貌に呆気にとられていた。

クラリッツェ様を押さえたのは反射的だったのだろう。クラリッツェ様の腕を掴んだ影部隊の人からも戸惑いを感じる。


クラリッツェ様は腕を押さえられたことによって、今自分がどこに居て誰が側に居るのかを視線を回らせて思い出したようだった。

ユリウス兄様、カミル兄様、ハリー様がクラリッツェ様を見ていることを確認したクラリッツェ様は鬼のような形相が幻であるかのように、儚げな弱々しい表情になった。

そして、今何を自分が口走ったのか理解して顔を青ざめさせていた。


「あっ、ち、ちが、違うのです……。あ…あっ…、うっ、………っ、あっ、あああああぁぁぁぁぁ………」


取り繕うように言葉を続けても、ここに居る全ての者が聞いていたのだからどうしようもなかった。

ユリウス兄様、カミル兄様、ハリー様の冷たい眼差しを受けてクラリッツェ様が泣き崩れた。

この世の終わりのように泣き崩れる姿に少し可哀想に思ってしまったけれど、それよりもクラリッツェ様が言っていた言葉に憤りを覚えた。

自分の都合ばかりで邪魔に思った令嬢を人を使って貶めていたなんて酷すぎる。

その事によってどれだけのご令嬢が心に傷を負ったと思うのか。ユリウス兄様達を思う恋情ゆえだったといって赦される行為ではなかった。


泣き崩れるクラリッツェ様の両腕を左右から影部隊の人が掴み上げて、収容馬車へ連れて行く。

いつの間にかその後ろにダン子爵らしき男性が影部隊に両脇を固められて立っていた。

その男性は哀れな娘を諦観したように見つめていた。







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