43 ユリウスの攻撃
落ち込んでいるシェラルージェをセリーナはそっと抱きしめる。
「本当に世話が焼けるんだから」
ぼそっと呟かれた言葉に、「ごめんなさい」と顔を覆ったまま呟く。
すると、セリーナに両手を掴まれ、顔を隠していた手を外された。そして、セリーナの瞳がシェラルージェを捉える。
「シェラ、自分の気持ちに正直になってぶつかってみなさい」
「そうだね。私も自分の気持ちに正直になることにするよ」
そこにまたしてもユリウス兄様が割り込んできた。
先ほどまで大人しくしていたのは、悩んでいたシェラルージェのことを心配してのことだったのか。
ユリウス兄様の瞳はまだ妖しく光っていて、獲物を狙う鋭さを宿していた。
ユリウス兄様はシェラルージェを掴んでいたセリーナの手を取り、自分の方へ引き寄せる。
セリーナはユリウス兄様の行動に異変を感じたのか、訝しげに見やる。
「ユリウス兄様?」
「私はセリーナの兄ではないよ?」
「今更何を仰っているのですか?」
「確かに今更なのだけれどね……、さっき気が付いたのだからしょうがないだろう?」
「は? ですから先ほどから何ですか? 距離も近すぎますし……また何かイタズラでも思いついたのですか?」
ユリウス兄様は愉しそうに笑ってセリーナと会話をしながらも、徐々にセリーナを壁際に追い詰めていく。
セリーナはユリウス兄様の常にない様子に気圧されて距離を取るように後ずさると遂に壁に背中が触れた。
ユリウス兄様はセリーナを囲むように両手を壁につくと、凄絶な色気を放って笑った。
「……ああ、そうだね。今とてもイタズラしたくなった人を見つけたんだよ」
「──そういうことはおやめくださいと昔からお伝えしてますよね?」
セリーナはユリウス兄様の色気に当てられて、顔を赤らめながらも毅然として注意していた。
「そうだね」
「周りの迷惑も考えてください」
「今回は大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのですか?」
セリーナのぶれない態度にもユリウス兄様は愉しそうに笑っている。
そして、ゆっくりとセリーナの耳元に口を近づけて囁いた。
「ふふ、それはね。セリーナが対象だから他には迷惑をかけないよ」
「──────!」
セリーナが顔を真っ赤にして言葉を失い固まった。
シェラルージェは目の前で繰り広げられる出来事を呆然と見ていた。
すると誰かに肩を叩かれて我に返る。
見ると呆れたような顔でアルム兄様が肩に手を置いていた。
「あれは放っておこう」
「…………はい」
ユリウス兄様は暴走しているように見えた。いつもとは様子が違っていたけれど。
だから、シェラルージェにはあのユリウス兄様を止めることは出来ないと思った。
いつもなら暴走するユリウス兄様を止めるのはセリーナ。そのセリーナが捕まっているなら誰にも止められるはずがなかった。
静かに離れようとしたら、そこにセリーナの縋るような助けを求める声がかかる。
「シェラ、待って。助けてちょうだい」
「シェラ、お疲れ様。結界のこと頼んだよ」
「……は、はい」
セリーナの声に動こうとした身体は、ユリウス兄様の妖しく光る瞳に見据えられ怯んだ。その瞳は陛下と同じ王者の風格があり逆らうことが許されないものを感じ、いつの間にか従っていた。
「セリーナがお義姉さんになるのは嬉しいなぁ。ユリウス兄様、頑張ってね!」
それまで黙って見ていたマリーは嬉しそうに笑っていた。
そして、ユリウス兄様の肩を持つ発言に、セリーナは瞳を見開く。
マリーの無邪気な言葉にも促され、セリーナの縋る瞳を見つめ返せずに部屋を出た。
(ごめんね、セリーナ。あのユリウス兄様には逆らっちゃ駄目だと思うの)
ユリウス兄様に生贄として差し出してしまったことに後ろめたさを感じつつ、マリーもアルム兄様もユリウス兄様の味方になっている状況に逆らえなかった。
扉の前には険しい顔をしたハリー様が待っていたけれど、シェラルージェはもう頭の容量がいっぱいいっぱいで、ハリー様のことまで気にかけている余裕がなかった。
とりあえず早く一人になってゆっくりと頭の中を整理したかった。




