42 セリーナの気持ち
「ハリスは部屋の前で待機だ」
部屋の前まで戻ってくると、ユリウス兄様はまたハリー様に指示を出してからシェラルージェを伴って部屋の中へ入る。
中に入るとまだアルム兄様とマリー、セリーナがお茶を飲んでいた。
突然現れたユリウス兄様とシェラルージェに、3人とも瞳を見開いて驚いていた。
ただアルム兄様だけはすぐに面白そうなものを見つけたかのように口の端を上げていた。
「ユリウス兄様、どうされたのですか? シェラルージェを連れて」
セリーナが近寄ってきて、ユリウス兄様に問いかけた。
セリーナが近寄ってきた時に、ユリウス兄様から手を離された。シェラルージェはやっとユリウス兄様から解放されてほっとひと息つく。
常にないユリウス兄様の様子にシェラルージェは気圧されて緊張していた。
ユリウス兄様が何故部屋に戻ってきたのか分からずに成り行きを見守っていたシェラルージェの目の前で、ユリウス兄様が起こした行動に呆気にとられて目がテンになった。
ユリウス兄様は近づいてきたセリーナを腕の中に囲い込み、セリーナの顔を覗き込む。
「セリーナ? ハリスが好きって本当?」
「…………は?」
セリーナはユリウス兄様の腕に囲い込まれるように囚われ、疑問の声を上げた後、自分の状況を理解して頬を染めあげた。
セリーナが動揺している。珍しい光景だった。
「シェラから聞いたのだけれど、ハリスから指輪のサイズを聞かれたんだって?」
「……ええ」
何とかユリウス兄様の腕の中から逃れようと、身じろぎしているセリーナを難なく閉じ込めながらユリウス兄様は話し続ける。
「指輪が欲しいなら言ってくれればいくらでもプレゼントするのに」
「は?」
「それで、セリーナはハリスが好きなの?」
「何を仰っているのですか?」
「違うの?」
「違います!」
「えっ?」
セリーナの『違います』に声を上げてしまった。
目の前で繰り広げられる、あまりにもついていけない展開に呆然と見ているだけだったシェラルージェは、セリーナの言葉に反射的に声を上げていた。
──今、セリーナは違うと言った?
「えっ?」
ここでセリーナが声を上げたシェラルージェに意識を向けた。
「えっ? なんでシェラが驚いているの? ………えっ? まさかユリウス兄様と同じように勘違いしているわけではないわよね?」
セリーナはユリウス兄様の腕を振り払い、シェラルージェを追い詰めるように近づいてくる。
セリーナの圧に押されて壁際に追い詰められる。
「シェラ? 正直に言って? まさか私がハリス様を本気で好きだと思っている訳ではないわよね?」
シェラルージェを見つめる瞳が怒ったようにギラついていた。
「………えっと…」
「そう、本当にそんな勘違いをしていたの」
何とも答えられないシェラルージェをセリーナは怒りとも呆れともとれるような顔で見つめた。
セリーナの様子にまさかという思いが出てきた。
「セリーナはハリー様を好きじゃないの?」
おそるおそるセリーナに尋ねた。
「違うわ」
「本当に?」
「本当よ」
「嘘をついているわけじゃ……」
セリーナの言葉を信じたくて、でもセリーナの性格を知っているだけにそのまま受け取ってしまってもいいのか躊躇してしまって何度も確認してしまう。
「嘘じゃないわよ。本当にハリス様のことは何とも思っていないわ」
「本当だね?」
そこに突如としてユリウス兄様が口を挟んできた。
セリーナはそれに睨みつけて黙らせた後、シェラルージェを優しく見つめて問いかけた。
「どうして、そう思い込んだの?」
「前にセリーナがハリー様に指輪のサイズを聞かれたってとても嬉しそうにしていたから」
「それだけで?」
「だって、いつになく嬉しそうだったんだもの……」
「それは嬉しいわよ。シェラの想いが報われるかもって思って喜んでいたのだから」
「私の想いが報われる?」
「そうよ。だって──」
「セリーナ」
セリーナの言葉を遮るようにアルム兄様から声がかかる。
その声には逆らってはいけない時の声音が含まれていた。
「それ以上は駄目だよ? 本人達が頑張らないとね」
「……そうですね。余計なことを言ってしまうところでした」
セリーナは苦笑すると、シェラに向き直った。
「とにかく、私がハリス様を好きというのはあり得ないから。それは信じなさい」
セリーナの瞳を見て、本気で言っているということをやっと信じることが出来た。
そして、それが信じられた瞬間に、シェラルージェを襲ったのは羞恥だった。
シェラルージェは顔を両手で覆って、顔を隠した。
(もう、いや! 私のバカ! 何度勘違いすれば気がすむの!)
勝手に思い込んで、セリーナに嫉妬して、勝手に落ち込んで、みんなに心配をかけて。
あまりにも酷い自分の行動に穴を掘って埋まりたかった。
二度と勘違いしないようにと思ったのに、結局同じことを繰り返している。
そんなんじゃ駄目なのに。シェラルージェは心の中で激しく自分を責めた。




