33 お茶会という名の作戦会議 Ⅱ その2
シェラルージェが上げた声に、みんなの視線が集まった。
「申し訳ありません。何でもありませんので、続けて下さい」
深く謝罪すると、探るような視線を残したままカミル兄様は話を続けた。
セリーナとマリーだけはシェラルージェが何に対して声を上げたのか分かっていたので、心配そうな視線を送ってきた。
その後、セリーナはカミル兄様の話を聞いて質問した。
「そのクラリッツェ様と襲われたご令嬢の間にどの様な共通点があるのですか?」
「それはクラリッツェ嬢が襲われたご令嬢方に嫌がらせをしていたらしいと言うものです」
「らしい…ですか?」
「ええ、ご令嬢本人からは嫌がらせをされたとは聞こえてこなかったのですが、王宮内の侍女や近衛兵が目撃したことがあると報告が挙がっているのです」
カミル兄様は少し顔を顰めると言葉を続けた。
「これがまた巧妙なやり方で、クラリッツェ嬢はマナーを教授するようにご令嬢に話しかけるのだそうです。ご令嬢方はクラリッツェ嬢の言葉に納得しているのですが、周りで聞いていた者達によると偏った知識で侮辱しているようだったと言うのです。そしてそういうことを言うのは侍女や近衛兵がいる時だけだったというのが、他の者達に知られずにいた原因です。悲しいことにそういう事を陰で言う者が多くて埋没してしまったという事実が明るみに出ました」
今回の調査で初めて聞く事が多かったのか、ユリウス兄様とカミル兄様の顔色が冴えなかった。
セリーナとマリーはまあそうよねと頷いているところを見ると、令息側と令嬢側の認識が違うことが浮き彫りになったようだ。
その後もセリーナが疑問に思って問いかけると、カミル兄様が答えてくれた。
「ですがそれだけでは今回の事件に結びつけるには弱いのではありませんか?」
「そうですね。糸口を探していただけなので。それから怪しいと思われる人物の周辺を調査することにしたんですよ。そして、ダン子爵家に最近怪しい行商人が出入りしていることが分かりました。その行商人は調べてみても何処から来たのか誰も知りませんでした。そして、令嬢方を襲った犯人の中にその行商人から依頼されたと言う者がいました。その行商人は余程上手く隠していたのか証言した一人以外は顔も性別も分からなかったと言うだけでした」
「その証言した犯人のいうことは信じられるのですか?」
「ええ、その者の記憶力はとても良くて、一度見ただけの者の顔も何処で会ったかを言い当てました。それに人相書きも得意で、依頼してきた者の顔を描かせたらその行商人の顔でした」
「と言うことはダン子爵が今回の件の首謀者と言うことかしら?」
「それはまだ分からない」
「仮にダン子爵が首謀者だとして、何の目的があってしたのかしら」
「娘可愛さに?」
「政治的に……はないわよね」
「そうだね。襲われたご令嬢方の家の派閥はバラバラだったし、可もなく不可もなくの家柄の方達だからね」
「うーん、もう少し調べないと分からないのかしらね」
セリーナ兄妹の掛け合いが分かりやすく物事が説明されていって、他の人が口を挟まなくても話が進んでいく。
「そういえば、シェラを襲った犯人は捕まえられたの?」
「それにつきましては私が」
と申し出たのはハリー様だった。
全員の目がハリー様に集まる。
「シェーラ嬢を乗せた馬車が人気の少ない路地を通過したときに、木の影から御者に向かって何かが飛んで来ました。それは馬を興奮させる粉が入っていたようで、それが馬に当たると馬が暴れ出し興奮状態で走り去りました」
シェラルージェも初めて聞く事件の状況説明に心臓の鼓動が速くなってきた。
「私はシェーラ嬢を助けるためにすぐに駆けつけたかったのですが、犯人を放っておく事も出来ず、手加減なしで小刀を投げて犯人の呻く声を頼りに駆けより気絶させたあと近くにある木に縛りつけました」
私が助け出される短い時間でそんなことをしていたのに驚きを隠せなかった。
「その後近隣の方に警邏隊に通報をお願いして、シェーラ嬢の救出に向かいました。幸い襲撃者は一人だったようで馬は暴走していましたが馬車は無事でした。私は馬車に乗り移り馬車を止めてシェーラ嬢を無事に救出出来ました」
ハリー様の説明に、みんなの頭の中で臨場感を持って繰り広げられていた救出劇を見終わった後かのように、みんなの口からため息が零れた。
「その後駆けつけた警邏隊に犯人を引き渡したのですが、何か分かりましたでしょうか?」
ハリー様の言葉を受けて答えたのはカミル兄様だった。
「ええ、その犯人に行商人の人相書きを見せたところ、依頼をしてきた人物に似ていると言っていました」
「何ですって!?」
「それは本当なの? カミル」
「ッ!? …そうですか」
カミル兄様の言葉に激しく反応したのがセリーナとマリー、それにハリー様だった。
セリーナとマリーは私を心配してくれて怒ってくれているみたいだ。
ハリー様は剣呑な色を瞳に乗せて、静かに怒っているようだった。
セリーナがハッと気がついたようにシェラルージェを見た。
「ねえ、シェラ、もしかしてクラリッツェ様に話しかけられたことある?」
「……倒れたお茶会の日に、でも、嫌がらせをされた訳ではなかったのよ?」
「シェラ…」
「シェラぁ」
シェラルージェの言葉に、セリーナもマリーもとても心配そうな顔をしていた。
この話の流れで言っても信じてもらえないかもしれないけれど、クラリッツェ様には本当に社交のマナーを教えてもらっただけだった。
だから、シェラルージェはクラリッツェ様の名前が挙がったことが信じられなかった。
みんなが調べてくれたことに間違いはないのかもしれない。けれど、ダン子爵が勝手に娘の為にしたことかもしれないし、もしかしたら行商人が勝手にしていることかもしれない。
シェラルージェはそう思いたかった。
クラリッツェ様がハリー様の好きな女性だったから。
だから、ハリー様のことが心配だった。
クラリッツェ様が重要人物として挙げられたことに傷ついているのではないかと。
ちらっと盗み見たハリー様はやはり苦しげな表情を浮かべていた。
その事にシェラルージェはどうすることも出来ず、無力な自分が悲しかった。




