32 お茶会という名の作戦会議 Ⅱ その1
「おはようございます。ハリー様」
「シェーラ嬢、おはようございます」
襲われた日から、念のためにと大事をとって外出を控えていた。
今日はセリーナから手紙が届き、調査していたことの情報をすりあわせたいとのことでお城に登城する。
その際、アルム兄様にハリー様も連れて行くように言われていた。
ハリー様にどう説明して良いのかわからなくて、とりあえず一緒に来て頂くことだけをお伝えしようという結論に至った。
「今日はハリー様に一緒に来て頂きたい場所があるのですが、宜しいですか?」
「はい、大丈夫です」
ハリー様は少し驚いた後ににこりと笑った。
……少し嬉しそうに見えるのは何故なのかしら?
疑問に思いつつハリー様にエスコートされて馬車に乗り込む。
するといつもより広く感じる馬車の中で突然不安になった。
そういえばあの襲われた日から初めて馬車の中で1人になったんだと気が付いた。
ドクドクと脈打つ音が聞こえる。
大丈夫…大丈夫……。
不安を抑えるために、無意識に耳にあるイヤリングにそっと触れると不思議と落ち着いてきた。
外にはハリー様もいらっしゃるし、お祖父様、お父様、お母様、アルム兄様に頂いた創術品も身に付けているから大丈夫。
みんなに護られている。それを改めて実感して心を落ち着けることが出来た。
馬車が止まり扉が開く。
ハリー様にエスコートされて降りると、視線が突き刺さってくる。
いつものことながら、1人で登城したときは特に強く感じる。
有名なハリー様に伴われて来た令嬢が気になるからだとは思うけれど。それに私はまだ社交界では名前も顔も知れ渡ってはいないから余計そうなるのでしょうね。
出そうになるため息を飲み込み、頑張って笑顔を貼り付けた。
ハリー様が先導していつもの部屋へ向かう。
城の奥へと進むに従って視線が減っていくことに安堵した。
そして、いつもの部屋へ辿り着くとハリー様が護衛としての立ち位置へ移動しようとしているのをハリー様の名前を呼んで止めた。
「ハリー様、今日は一緒に入って頂けますか?」
「もしかして、一緒に来て欲しい所とは……」
「はい、こちらの部屋です」
「そうでしたか……」
残念そうな顔をしたハリー様と瞳が合うと、ハリー様は苦笑して首を振った。
「何故とお聞きしても宜しいですか?」
「アルム兄様がハリー様を連れて行くように仰ったので、何故と聞かれても困ります」
「……アルムが、……分かりました」
アルム兄様の名前を聞いたハリー様はふむと考え込み、シェラルージェを見つめてにこりと笑った。
「シェーラ嬢、ご一緒させていただきます」
「はい。宜しくお願いいたします」
ハリー様に納得して頂けたので、ノックをして部屋に入る。
部屋に入ってきたシェラルージェを見て、マリーとセリーナは笑顔を浮かべる。そして続いて入ってきたハリー様を見て、2人の表情は笑顔のまま固まった。
「おはようございます。マリー、セリーナ」
「……おはよう、シェラ」
「おはようございます、シェラ様?」
マリーは戸惑ったようにハリー様を見ていたし、セリーナはシェラルージェを窺うようによそ行きの挨拶をしてきた。
2人の戸惑いが分かったので、こうなった経緯を簡単に説明した。
「アルム兄様がハリー様も一緒にと仰ったのでお連れしたの」
「なるほど。そうでしたのね。ようこそいらっしゃいました。どうぞおかけになって下さい」
アルム兄様が、という言葉で全て理解してくれたセリーナはハリー様に椅子を勧めた。
「いいえ、私は護衛ですから」
そう固辞して引き下がるハリー様をセリーナは拒否は許さないと瞳で訴える。
「アルム兄様のご指示であるならば、この部屋の中に居るときは客人になりますのでお座り下さい」
セリーナがあえてアルム兄様と強調したことに気づき、ハリー様はそれ以上は何も言わずに示された席に着いた。
私達も席に着くとセリーナがお茶を用意してくれた。
静かに世間話をしてお茶を飲んでいると、ノックの音が響いた。
その音にマリーが応えると、扉を開けてユリウス兄様とカミル兄様が入ってきた。
2人は部屋の中にいたハリー様を見て、一瞬顔色を変えたけれどすぐに笑顔を浮かべて挨拶をしてきた。
「おはよう。セリーナ嬢、シェラ嬢」
「おはようございます。マリー様、シェラ嬢」
ユリウス兄様とカミル兄様の挨拶にマリーとセリーナは「おはようございます」と返していた。
シェラルージェはユリウス兄様とカミル兄様の問うような視線に、マリーとセリーナに伝えた言葉をまた伝えた。
「おはようございます。ユリウス兄様、カミル兄様。本日はアルム兄様にハリー様も一緒にと言われましたのでお連れしました」
ハリー様とユリウス兄様、カミル兄様はシェラルージェが『ユリウス兄様』『カミル兄様』と言ったことに反応を示した。
そして、ユリウス兄様とカミル兄様はやはり事情がわかったようでつまらなそうにため息を吐くとハリー様に向き直った。
「これから見聞きすることは極秘扱いとなっている。アルムに言われてきたということはこれからのことに役立ってくれるということだろう。期待している」
「どうぞ宜しくお願いします」
「はっ、微力ながら精一杯務めさせていただきます」
挨拶が済み、全員が席に着くと、カミル兄様が持ってきた書類を見ながら話しだした。
「シェラに言われた件で調べた結果、確かに事件が起こっていました」
「巧妙に隠されていたが、ある共通点があることが判明した」
「それによって重要人物として出てきたのがダン子爵家のクラリッツェ嬢でした」
「エッ?!」
カミル兄様とユリウス兄様が交互に話していく中、あり得ないところで出てきた名前に驚いて悲鳴に近い声を上げてしまった。




