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貴方の瞳に映りたい  作者: 蒼華
本編
38/63

閑話 ある令嬢の自尊心


「まだあの女は悠々と出歩いていたわ。しかもハリス様を引き連れて!!」


令嬢は目の前で跪き、頭を垂れる男に向かって持っていた扇を投げつけた。

男は当たった扇にも動じずに頭を垂れ続ける。


「いつになったら、あの目障りな女は居なくなるのよ!!」


イライラする気持ちを抑えられず、たまたま手に触れた菓子を男に向かって投げつける。

投げた菓子が男に当たっても、それでもイライラした気持ちは治まらない。


無意識に爪を噛んで落ち着こうとした手に気づき、もう片方の手で押さえ込む。

爪は私の自慢の一つ。

折角の美しい爪を傷つけるわけにはいかない。

でも、だからこそ私に爪を噛むほどのイラ立ちを感じさせたあの女により一層憎しみが湧いてくる。



始めは上手くいくと思っていた。

(しもべ)達に涙まで見せて庇護欲を煽り、あの女へと憎悪を向けさせることに成功した。

そして私が僕達を侍らせていたお茶会にあの女が初めて現れて、絶好の機会だと思って1人になった所へ僕達を伴って行った。

私があの女に近づくことを危険だと僕達に止められたけれど、僕達をより煽るためには必要なことだったからどうにか言いくるめて、まず私1人で近づいた。

その女はぼんやりとしていて、とても間抜けそうに見えた。

これなら少し追い詰めればすぐに居なくなるかもしれない、そう思って笑う口許を隠すために扇を広げる。

そして伏し目がちに注意の言葉を口にして、罪悪感を煽っていく。

最後に涙をちょっと浮かべれば、女はたじろいでいた。


楽勝ね。

ただ、それでも夜会での出来事は赦せるものではなかったから、僕達に痛めつけられればいいんだわ。

待機していた僕達に私達の会話が聞こえるはずはなかったので、私があの女に泣かされたと勘違いしてくれた。思惑通りに動いてくれる僕達に笑いが止まらなくなりそうだったけれど我慢したわ。そうしたらより涙が頬を伝っていった。それを見た僕達は憎悪を宿した目をして女の方に向かっていく。

それを横目で見送りつつお茶会の会場に戻る。勿論涙などすぐに拭き取り、いつもの私で戻ったわ。

この後起こるであろうことに無関係だと思ってもらわなければならないのだもの。

そう、僕達が勝手に暴走しただけ。僕達も私のことなど口にするわけもない。


少し待っていると、先ほどの場所で誰かが叫ぶ声が聞こえ始めた。

思ったよりも大事(おおごと)になりそうな感じがして眉をひそめつつ、他の方達と同じように視線を送るとハリス様があの女を抱いて歩いてくるのが見えた。

あの女は気を失っているのかグッタリとしてはいたけれど、ハリス様に抱き上げられていることに怒りを覚えた。

どこまでハリス様に近づけば気が済むのか。忠告してあげたにも関わらずハリス様に抱き上げられている姿に憎悪が湧き上がってきた。

それに僕達が失敗したことにも怒りが込み上げる。


本当に使えない。

お父様と一緒だわ。

やはり貴族子息など当てにはならない。

そう理解した私は、前々から家に出入りしていた者に言いつけることにした。


その男はいつの間にか我が屋敷に出入りしていて、私に便宜を図ってくれていた。

私があの女が生意気だった、あの女が気に入らないと、愚痴めいた言葉を言った数日後にはその女達は社交界で見なくなった。

それに気づいた私は気に入らない女が現れたら、その男の前で独り言を言うようになった。

するとやはりその女は姿を現さなくなった。


そうよ、初めからあの男にやらせれば良かった。

そう思ってあの男の前であの女が消えればいいのにと独り言を言った。

それを聞いた男は静かに頷くと去っていった。

これでやっと心安らかにユリウス様やカミル様、ハリス様を手に入れられると思っていたのに、数日経ってもあの女は悠々とお城の中を歩いていた。

しかもハリス様と一緒に歩いていた。


ハリス様が私を見つめてくれた時には夢のようで、ハリス様を落とすためにも潤んだ瞳で見つめようとしたとき、ハリス様が急に動き出した。瞳で追うとあの女を追いかけて行ったみたいだった。あの女を案内しているようだったけれど、あと少し私が見つめていたらハリス様は堕ちたはずなのだ。それをあの女がやはり邪魔をした。


赦せない。

今度こそ外を歩けなくさせてやる。

独り言などではなくあの男に直接命令してやる。


屋敷に戻った私は、あの男を部屋に招き入れる。

そして、男の言葉を聞いてキレた。

男はこう言ったのだ。


『貴女様のご要望通りあの女を襲いました。これであの女も外を歩けなくなるでしょう』と。


その言葉に持っていた扇を投げつけた。


「まだあの女は悠々と出歩いていたわ。しかもハリス様を引き連れて!!」


男は当たった扇にも動じずに頭を垂れ続けた。


「いつになったら、あの目障りな女は居なくなるのよ!!」

「消しなさい。いいわね」


男に命令すると、手で追い払った。

使えない者の顔などいつまでも見ていたくなかった。

男は音もなく頭を一度下げると部屋を出て行った。

しかし、他の者よりは使える。選択肢が少ないことにイライラが治まることはなかった。








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