30 ハリスの瞳色のイヤリング
「シェラぁ!」
シェラルージェが部屋へ入ると同時にマリーが抱きついてきた。
抱きついたマリーはシェラルージェを覗き込むと、心配そうにシェラルージェを見つめていた。
「大丈夫? 怪我とかしてない? 怖かった?」
矢継ぎ早に聞かれて、とりあえず頷くことで返事をする。
「何だか疲れた顔をしているわね。大丈夫?」
「大丈夫よ。マリーもセリーナももう知っているのね。昨日のこと」
「ええ、夜に警邏隊からの報せが公爵家にも届いたから」
「王宮にも届いたの。だから、すごく心配になってシェラのところに行こうとしたら、ユリウス兄様に止められたの。無事だと聞いている、明日会えるからそれまでは待ちなさいって!」
それを言われた時を思い出したのかマリーの顔が膨れていた。
ユリウス兄様に止められたのが不本意だったとその顔で分かる。
マリーの様子に自然と笑みが浮かんだ。
でも、ユリウス兄様の判断は間違ってはいない。昨夜、マリーが突然子爵家を訪ねてしまえば、何かがあったと直ぐに情報が広がり大騒ぎになってしまう。それは今は避けなければいけないことだった。
「マリー、心配してくれてありがとう。この通り何処も怪我をしてなくて、元気いっぱいよ」
「本当に? 本当に大丈夫?」
「ええ、ハリー様に助けてもらったから怖さもなくなったわ」
「そっかぁ、良かったぁ」
シェラルージェが本当に笑っているのが分かって安心したのか、マリーの身体から力が抜けて今にも座り込みそうだった。
マリーの身体を慌てて支えながら、マリーにこんなにも心配させてしまったことを申し訳なく思った。
「マリー、心配かけてゴメンね」
「ううん、シェラが無事ならそれでいいの」
「そうよ。シェラが無事だと確認できて良かったわ」
セリーナがかけてきた言葉に少しだけ違和感を感じた。
セリーナを見ると先ほどまではマリーと同じように心配そうにシェラルージェを見ていた筈なのに、今は少し愉しそうに笑っていた。
そして、その瞳はシェラルージェの耳に注がれている。
その視線に気づいて、シェラルージェは咄嗟にイヤリングを手で隠していた。
その動作にマリーも注目してしまった。
徐々に顔に熱が集まってくるのが分かった。特にイヤリングをしている耳はもう真っ赤かもしれなかった。
「ふふ、ねえシェラ。手を外してよく見せてくれないかしら。とても素敵だと思ったの」
セリーナの瞳は誤魔化しは利かないわよといっていた。
しぶしぶイヤリングを隠していた手を外す。すると突き刺さるくらいの2つの視線がイヤリングに注がれた。
イヤリングを見た2人は顔を見合わせてニマニマと笑い合う。
また勘違いされたら堪らないので、先に事情を説明した。
「これは、………ハリー様に頂いた物だけど、でも違うの」
「やっぱりハリス様に頂いた物なのね。そのペリドット色はハリス様の瞳の色ですものね」
「ほんとだー。シェラ、良かったね」
やっぱり2人は誤解してしまった。
2人に事実を説明するのは悲しいけれど、変に誤解されるよりはいい。
「だから、これには色々と事情があって、私が襲われてしまったからお護りにと下さっただけなの」
昨日の出来事を簡単に要点だけを説明する。
ただ、ハリー様に依頼されて私が創った物であることは言えないので、この複雑な状態を正確に伝えられなくて、結局ハリー様の家宝を頂いたという感じの話になってしまった。
おかしいな。客観的に見るとそう見えると言うことだろうか。
「どの様な経緯であっても、ハリー様から頂いたのでしょう? 良かったじゃない」
「ほんとにいいなあ。マリーもアーサーから貰いたい」
マリーが羨ましそうにシェラルージェを見てきた。
そんなマリーを見て、先ほどのアーサー様を思い出す。
「マリーはいいなあ」
無意識に呟いていた。
「なぁに?」
「ううん、何でもない」
(マリーが羨ましいなって思っただけ)
ハリー様にも忠告されたから、アーサー様に依頼されたことは伝えることは出来ないけれど、好きな人からアクセサリーを貰えるなんて羨ましい。
しかもアーサー様がマリーのために誂えたアクセサリーを貰えるのだ。
シェラルージェもハリー様からイヤリングを頂くことにはなったけれど、これはたまたま偶然というか成り行きで、しかもハリー様の心遣いで頂くことになったものなので全く意味合いが違う。
その事実に寂しさを感じていたけれど、大切にしようと決めたのだ。
そっとイヤリングに触れて、ハリー様の輝く瞳色を思い出す。自分の耳にイヤリングがあることにシェラルージェは自然と微笑んでいた。




