28 ハリスの◦◦◦
ハリー様と一緒に家に帰ったシェラルージェは、そのまま自分の部屋へ行くことになった。
ハリー様はお父様とアルム兄様と共に別室に行ってしまったので、結局私は今回起こった出来事の概要は分からないままだった。
ハリー様が帰られたあと、襲われたことを家族のみんなにも心配されてその日は怖くて眠れないかと思ったのだけれど、ハリー様に送ってもらった時の安心感でどちらかというとそのことを思い出して顔が赤くなり、恥ずかしくなって布団に潜り込んだらいつの間にかそのまま眠っていた。
朝起きた時もすっきり目覚められて、意外と自分は神経が図太いのだなぁと妙な感想を抱いてしまった。
マーリンが朝の支度のために来たときに、昨日ハリー様からイヤリングを頂いた経緯を話して毎日身に付けたいと伝えたところ、何故かニヤニヤと笑われながらそのイヤリングに合わせた装いにしてくれた。
マーリンは絶対勘違いしてる。マーリンが何も言わないのに私が否定の言葉を言うのは変なのでそのままにするしかないけれど、でもマーリンの瞳は絶対面白がっていた。
シェラルージェはそんなマーリンを放って朝食を食べる部屋に向かった。
すでにお父様達は座っていて、朝食の席で昨日のことについて何か言われるかと思っていたのだけれど、お父様とアルム兄様は何も仰らなかった。
私に言わないということは、それにも意味がある事だと分かっていたのでお父様達から何か言われるまでは聞かないことにした。
今日はお父様とアルム兄様と一緒にお城に登城する日だったので、朝食が終わったあと玄関に急ぐ。
玄関につくと、ハリー様が待っていた。
ハリー様は心配げな表情を浮かべていたけれど、シェラルージェが笑顔なのに気づいてほっとしていた。
そして、シェラルージェの耳にハリー様から頂いたイヤリングが付いているのを見つけて嬉しそうに微笑んだ。
シェラルージェはそのハリー様の様子を目にしてしまい、途端に恥ずかしくなって耳が熱を持ち始めた。
絶対に耳が赤くなっていると思った。そのことにより一層恥ずかしくなって、首まで熱くなってきた。
とりあえずこのままここに居ると、より醜態を晒す危険な気がしたので素早く挨拶をして馬車に乗り込もうと思った。
「おはようございます、ハリー様」
「おはようございます、シェーラ嬢。とても心配していたのですが大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。遅れてしまいますから、もう参りますね」
始めの挨拶だけはどうにかハリー様の顔を見て話せたけれど、その後はもう恥ずかしくてハリー様が話を続けようとされていたのは分かったけれど、すぐに視線を落として逃げてしまった。
(ハリー様、申し訳ありません。少ししたら顔の熱も下がると思うんです。落ち着くまでの時間を下さい)
心の中で謝りつつ、馬車に乗り込んだ。
馬車に乗り込んで扉が閉まると、案の定お父様とアルム兄様の視線が突き刺さってきた。
昨日襲われたばかりの娘としてはあるまじき態度だとは私自身も分かっていた。
怯えるでもなくハリー様に対して顔を赤らめて挙動不審な行動をしているなんて場違いである。
それでも今だけは許して欲しかった。
まさかシェラルージェがイヤリングをしているのを見ただけで、あんなに嬉しそうな顔をされるとは思ってなかったのだ。心構えが全く出来てなかったのだから、動揺してしまってもしょうがないと思う。
心の中で言い訳を沢山しながら、赤くなった顔を伏せて隠し熱が引くのを待った。
お城に到着する頃には、シェラルージェの顔の熱も引き心を落ち着けることが出来た。
馬車の扉が開き、お父様とアルム兄様が降りていく。最後にシェラルージェが降りようと移動するとハリー様が待っていた。シェラルージェはハリー様の手に引かれて馬車を降りる。
「ありがとうございます」
落ち着いたので、ちゃんと笑顔を浮かべてお礼が言えた。
シェラルージェが普通に話しかけたので、ハリー様は少し驚いた顔をしたけれどすぐに笑い返してくれた。
お父様に続いて歩こうと視線を向けると、珍しくお父様が私を見ていた。
どうしたのかと問おうとシェラルージェが口を開く前に、お父様が口を開いた。
「シェラ、今日はそのままいつもの待機場所へ向かいなさい。こちらはアルムだけで良い」
「かしこまりました」
お父様の表情から何か変更しなければいけない事があったのだけは読み取れたので素直に従った。
お城の入り口でお父様達と別れると、ハリー様と一緒にいつもの部屋へ向かった。
少し歩いたところでハリー様が話しかけてきた。
「先ほどは登城する前に話しかけてしまい申し訳ありませんでした」
「いいえ、こちらこそ話を途中で切ってしまい失礼なことを致しました。申し訳ありません」
2人して頭を下げあう。
お城の通路の真ん中で互いに頭を下げている姿が何だか可笑しく感じてしまい、シェラルージェは笑ってしまった。
その笑い声を聞いたハリー様も苦笑すると改めてシェラルージェを見つめた。
「差し上げたイヤリングが似合って良かったです」
ハリー様は瞳を細めて微笑むとシェラルージェを見つめ続けた。
ハリー様に見つめられて、また顔が熱を持ち始めてきたので、話を変えなきゃと考えを回らしシェラルージェはちゃんとお礼を伝えていないことを思い出して、ハリー様に改めてお辞儀して伝えた。
「本当にありがとうございます。こんなに素敵な物を頂いてしまって申し訳なく思います。大切に付けさせて頂きますね」
シェラルージェが微笑んでお礼を伝えると、ハリー様も微笑みを深めた。
「シェーラ嬢に──」
「シェラルージェ嬢」
ハリー様と被るように呼ばれた声に、声の主を探すと通路の向こうから歩いてくる男性の姿があった。
近づいて来る男性はアーサー様だった。
マリーの紹介で2、3回お会いしたことがあるだけだったけれど、マリーの想い人だ。
そのためアーサー様には嫌悪感を感じずに話が出来ていた。とは言っても挨拶程度しか話したことはなかったのだけれど。
それにしても初めてアーサー様から話しかけられた。
何かあったのだろうか。マリー関係かしら?
アーサー様に話しかけられたことで考え事をしてしまったシェラルージェはハリー様の機嫌が悪くなっていっていることに気がついていなかった。
「シェラルージェ嬢、突然話しかけてしまい申し訳ありません」
「いいえ、大丈夫です。何か私にご用ですか?」
「ええ、少し二人きりで話しても大丈夫だろうか」
照れて頭を掻きながらシェラルージェに願い出るアーサー様にピンとくるものを感じて了承していた。
「宜しいですよ。ハリー様、少しアーサー様と話をして参ります。すぐ戻りますからここで待っていて頂けますか?」
「ちょっとお待ち下さい」
「ハリス、すまん。少しだけシェラルージェ嬢の時間をくれ。俺といる間は必ず守るからさ」
ハリー様の苦虫をかみ潰したような顔にも気が付かず、シェラルージェはアーサー様と一緒にハリー様や他の人達に話し声が届かないところまで離れた。




