18 トラウマ再び *少し不快な表現あり
気分転換のために会場になっていた庭を離れ、人気のない方へ進んでいくと会場から壁一枚隔てた場所に辿り着いた。
人の視線を感じなくなって、ほっと息を吐く。
思っていたよりも緊張していたらしい。
いつ話しかけられるか、いつ嫌がらせをされるのか分からない状況はやはり心に負担をかけていたみたいだ。
誰の目もない空間でシェラルージェがひと息ついていると、衣擦れの音がして、1人の令嬢が近づいてきた。
その令嬢は水色の髪の毛を華やかに結い上げ、瞳と同じ真っ赤なドレス姿のとても可愛らしい美少女だった。
先ほど見かけた水色の髪の令嬢と同じ色の髪色をしていた。
その令嬢はシェラルージェを見ると、扇を広げ話しかけてきた。
「そこの貴女? こんなところで何をなさっているの?」
「えっ?」
まさか話しかけられるとは思っていなかったシェラルージェは間の抜けた返事しか出来なかった。
そんなシェラルージェに構わず、私を観察するように見つめた令嬢はすぐに大きく瞳を見開いた。
「まあ、貴女、この前の王家主催の夜会で、王太子殿下とカミル様、ハリス様と踊っていた方ではなくて?」
「…ええ」
「まあ! やっぱりそうでしたの」
シェラルージェを見つめた女性は口の前に持っていた扇を大きく揺らした。
そして少し瞳をつり上げるとシェラルージェに言い放った。
「貴女、身分を弁えた方がよろしくてよ。子爵家の分際で王太子殿下方とダンスを踊るなど失礼極まりないわ」
「それは…」
「王太子殿下やカミル様、ハリス様をお慕いしている方は沢山いらっしゃるの。それを突然やって来た貴女がルールも守らずにお近づきになるなんて許されることではないわ」
「………(それはそうかもしれない)」
「わたくしだってお慕い申し上げているのに……」
最後の言葉は呟くように小さくて、目の前の令嬢の瞳には涙が浮かんでいた。
その姿にシェラルージェが言葉を失っていると、令嬢は涙を浮かべたまま何も言わずに去っていってしまった。
令嬢に突然泣かれてしまい呆然と見送っていると、数人の貴族子息が入れ替わりにやってきた。
その人達は目をつり上げ、なぜか憎悪を宿したような濁った色でシェラルージェを見つめていた。
その子息達が近づいてくるのに恐怖を感じ、シェラルージェは怖くて身体が動かず、呼吸だけが乱れて息があがってきた。
動けずにいるシェラルージェを貴族子息達は取り囲むように立ち止まると、1人の子息が話しだした。
「お前、俺の女神に何を言った!」
突然怒鳴りつけられ身体が震える。
何も答えないシェラルージェに苛立ったその子息はより言葉を荒げシェラルージェを責め立てた。
「女神は泣いていたんだぞ。お前が何かしたんだろう」
「そうだ。謝れ!!」
「王太子殿下方に媚びを売るのに飽き足らず、か弱い女性まで傷つけるなんてどこまで汚い女なんだ」
「たいして美しくもないくせに」
「本当だぜ!! 阿婆擦れのくせに」
「こんな女のために女神が傷つくなんて許せない」
「謝れよ!!」
シェラルージェを囲む子息達は口々に言葉を浴びせてきた。
「いい加減何か言えよ!!」
その言葉と共に伸びてきた手に、何かの記憶が重なった。
その時の恐怖と共にシェラルージェは叫んでいた。
「いやーーー!!」
叫んだ声を聞く間もなくシェラルージェは目の前が暗くなっていくのが分かった。
崩れ落ちる身体が地面に倒れる。
意識が遠のく中、誰かがシェラルージェを呼ぶ声が聞こえた気がした。
「シェーラ嬢! ……シェーラ? シェーラ?!」




