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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第二十章 大陸統一編 二十三歳~

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889 三十三歳 マカリスター連合、崩壊の日

 旧帝都スタリオンには、マカリスター連合の国王も集まっていた。

 かつては一国を統べる支配者として、臣下に命令を下し、民を従えていた者達である。

 だが、今の彼らにかつての威厳はなかった。

 バークレイ王国のギリアムを除き、誰もが肩を落としていた。

 顔色は悪く、目には生気がない。

 これから自分達に何が告げられるのか、考えるだけで恐ろしくなるのだろう。

 その姿はまるで死刑宣告を待つ罪人のようだった。


「……我々は、これからどうなるのだろうな」


 誰かが、ぽつりと呟いた。

 それに答える者はいない。

 答えられるはずもなかった。

 彼らは皆、エンフィールド帝国に敗れた国の王である。

 これまではマカリスター連合として抵抗を続けてきたものの、同盟としての体をなさないほど瓦解してしまった。

 もはや戦争を続けられない。

 抵抗を続けたところで、待っているのは蹂躙だけだ。

 それを理解したからこそ、彼らは降伏を選んだ。


 だが、降伏すれば助かるという保証はない。

 エンフィールド帝国が自分達をどう扱うつもりなのか。

 王位を剥奪されるだけで済むのか。

 それとも、戦争の責任を問われて処刑されるのか。

 何もわからない。

 わかっているのは、自分達の命運を握っているのが、様々な噂が流れる皇帝アイザックだということだけだった。


「ギリアム陛下は、よろしいですな……」


 沈黙を破ったのは、隣に座っていたメルブリーク国王クインだった。

 彼は羨望と嫉妬の入り混じった目でギリアムを見つめていた。


「……何がですかな?」


 ギリアムは、怪訝そうに尋ね返す。


「バークレイ王国は、早い段階でエンフィールド帝国に従った。おかげで、こうして我々と同じ立場に立たずに済んでいるではありませんか」

「それは当然です。元々は我らの国土であっても、アルビオン帝国が占領した状態で降伏したのなら、エンフィールド帝国のものと思われると考えるべきでした」

「一度自分の物になったから絶対に手放さないとは……。そこまで強欲な王がいるとは思わなかった」


 サウスウォルド国王ジョニーの言葉に、一同は「お前が言うな」と思った。

 しかし、そんな事にツッコんでいる余裕はないため、誰もがスルーした。


「国土を取り戻すための行動で国を失うかもしれず、命さえ危うい。まったく、何を間違えたのか……」


 クインが悔しそうに顔を歪めた。

 その言葉に、他の国王達も反応する。


「我々も、もっと早くエンフィールド帝国に従っていれば……」

「アルビオン帝国が、あそこまであっさり敗れるとは思わなかった」

「そもそも、勝ち目があったのか? 内輪揉めしているような奴らに?」

「内輪揉めしていたからこそ、我らも攻め込んだのではないか。」


 口々に語られるのは、後悔ばかりだった。

 戦争が始まる前、彼らはエンフィールド帝国を恐れてはいた。

 だが、アルビオン帝国という大国ならば、長期間対抗できると考えていたのだ。

 その間に旧領を取り戻し、アルビオン帝国を倒す手伝いをすれば、エンフィールド帝国も簡単には手を出せないはずだ。

 そうした計算が、すべて崩れ去った。

 今となっては、目先の欲に飛びついた自分達が愚かだったとしか思えない。

 そして、彼らの視線は再びギリアムへと向けられた。


 バークレイ王国は、エンフィールド帝国との対立を避け、早くからその勢力圏に入っていた。

 少なくとも、今ここで処遇を待つ彼らよりは、はるかにましな立場にいる。

 その事実が、彼らにはたまらなく羨ましく思えた。


「……私も、先のことがすべてわかっていたわけではありません」


 ギリアムは困ったように答えた。


「ただ、エンフィールド帝国と敵対し続けるのは危険だと判断した。それだけのことです」

「その判断ができたことが羨ましいのですよ」


 クインは力なく笑った。


「我々にも、同じ判断ができていれば……」


 その先は言葉にならなかった。

 今さら後悔しても、失ったものは戻ってこない。

 彼らがどれほど嘆こうと、戦争の結果が覆るわけでもなかった。


 ギリアムも、彼らにかける言葉を持っていなかった。

 自分が彼らの立場にいたら、同じように後悔していたかもしれない。

 だが、そうならなかったのは、自分が早い段階で判断を下したからだ。

 そして、その判断を正しいものにしたのは、エンフィールド帝国が勝利したという結果だった。

 もしエンフィールド帝国が敗れていたら、今頃は自分が彼らを羨んでいた可能性もある。

 そう考えると、素直に胸を張ることもできなかった。


「……皆様、どうかお気を確かに」


 ギリアムがそう口にすると、国王達は苦笑した。


「お気を確かに、ですか。これから処刑されるかもしれないというのに、ですか?」

「……そうなると決まったわけではありません」

「ですが、我らはエンフィールド帝国の警告を無視して攻め込まれた身。どうなる事か……」

「処刑はされないとは思う」


 ジョニーが呟く。


「なぜそう思われる?」

「我々を処刑するつもりなら、ギリアム陛下と同じ部屋に集めはしないだろう。彼の孫はアイザック陛下の娘と婚約している。罪人と同列には扱わないはずだ」

「では……、まだ交渉の余地があると?」

「なければスタリオンまで呼び出しはしないだろう。まさか、直接処刑宣告をしたいという悪趣味な人間でもあるまいに」

「ヴィンセントならば、やっていただろうな……」


 彼らは、アイザックの事をよく知らないので「ヴィンセントに勝つ人間」という一事だけで「とんでもなく性格の悪い奴だ」という印象を持っていた。


「ギリアム陛下は、アイザック陛下と話したのだろう? どのような人物だった?」

「うーむ……。正直に言えば、まだ若く、覇気に乏しい優男というのが第一印象だった。もちろん、一代で――いや、たった十年ちょっとでこれほどの大帝国を築いた男だ。そのような見た目に騙されてはいけない」

「皇帝になっても、容姿で相手を油断させる事に余念がない、隙のない男というわけか……」


 例えばヴィンセントだ。

 彼は皇帝らしい威風堂々とした雰囲気を纏っている。

 アルフレッドやブランドンも、皇子として威厳を持った容姿だった。

 人の上に立つ者として、相応の服装や態度を取る。


 だが、アイザックは覇気に乏しく、皇帝らしくはないらしい。

 今のエンフィールド帝国を短期間で作り上げた者に、覇気がないはずがない。

 それは相手を油断させるための擬態と考えたほうがいいだろう。

 大帝国の皇帝となった今も抜け目のない男だ。


「しかも帝都に行った時は、皇后陛下が私に細やかな配慮をしてくれた。エンフィールド帝国の人間は、話が通じない相手ではない。誠意を持って対応すれば寛大な処置も期待できるだろう」

「ですが、我々が戦争を仕掛けたと思われています。戦争の勝者が寛大な処置を取ってくれるとは限りませんよ」


 誰もが同じ不安を抱えていた。

 彼らは国王だ。

 自分達の命だけでなく、国の未来についても考えなければならない。

 王位を失うのは仕方がないとしても、国全体で過酷な処遇を受けるのは避けたかった。

 自分達の失策によって、民までエンフィールド帝国の報復を受けるようなことがあれば、死んでも死にきれない。


 だからこそ、彼らは一刻も早く自分達の処遇を知りたかった。

 厳しい条件を突きつけられるのなら、覚悟を決めることもできる。

 だが、何もわからないまま待たされるのは、耐え難い苦痛だった。


 その時、部屋の扉が開いた。

 全員の肩がびくりと震える。

 入ってきたのは、エンフィールド帝国の役人だった。


「皆様、お待たせいたしました。これより、皇帝陛下がお会いになられます。会議室へご案内いたしますので、同行お願いします」


 その言葉を聞いた瞬間、国王達の顔が一斉に強張った。


 ――自分達の命運が決まる時が、ついに来た!


 彼らは互いに顔を見合わせたあと、重い腰を上げる。

 その中で、ギリアムだけは比較的落ち着いていた。

 それを見た国王の一人が、恨めしそうに呟く。


「……本当に、羨ましい限りですな」


 ギリアムは何も答えなかった。

 今の彼らには、どう答えても嫌味か自慢にしか聞こえないだろう。

 かつての同盟者に、追い打ちをかけるような真似は彼にはできなかった。

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― 新着の感想 ―
新IDの人が多くてほっこり。私もだ!! まあこの作品に新たな★を入れられると前向きに考えますわ……。 敗戦の王様達。ストレスに胃に穴が開きそうで可哀想。
メールが使えない場合に ブックマークしてる非公開のを って所がムリでした ブックマークが非公開が1500くらいあったので お手上げ\(^o^)/ 評価付けたやつももうじき1000だったので
やっとログインできたと思ったら更新されてた作品見れた上、作者さんもログインできててよかったです。いつも楽しく見させて頂いてます!
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