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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第二十章 大陸統一編 二十三歳~

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878 三十三歳 王都陥落

 エンフィールド帝国軍が攻めていたメルブリーク王国の王都が陥落した。

 メルブリーク王国との戦争も、ようやく一段落したといえる。

 王都の主要施設はエンフィールド帝国軍が掌握し、連合軍の残存兵力も各地で降伏を始めている。

 もちろん、すべてが終わったわけではない。

 地方にはまだ抵抗を続ける部隊がいるし、降伏した兵士の処遇や占領地の統治など、やるべきことは山積みだった。

 それでも、戦場で命を奪い合う日々からは一時的に解放された。


 ウォリック元帥は、王都にある大きなホテルの会議室で、将軍達と向かい合っていた。

 窓の外には、エンフィールド帝国軍の旗が掲げられている。

 その光景を見て、誰もが勝利を実感していた。


「まず戦争は続くが、メルブリーク王国との闘いは、ひとまず終わったと考えていいだろう」


 ウォリック元帥が口を開く。

 向かいに座る将軍たちも、疲れた顔で頷いた。


「ええ。まさか、ここまで早く王都を陥落させられるとは思いませんでした」

「王国軍も最後まで抵抗するかと思っていましたが……。王都が落ちるとわかると、あっさり降伏した者も多かった」

「それだけ、王都を守る者達の士気が落ちていたのでしょう」


 誰もが納得する話だった。

 メルブリーク王国も、決して弱い国ではない。

 実戦経験豊富な将兵が揃っていたからだ。

 彼らは複数の国で手を組んで、アルビオン帝国の侵攻に対抗していた。

 戦争が始まった当初は、激しい抵抗を受けると考えられていた。


 だが、エンフィールド帝国軍が本格的に侵攻すると戦況は大きく変わった。

 ウォリック元帥率いる本隊は、敵の主力を正面から押し潰し、連合軍を次々と後退させていった。

 そして、ついには王都まで陥落させたのだ。


 これはノックス伯爵が守るヘイデンという要塞地帯を吹き飛ばしたのが大きく影響を与えていた。

 護国の英雄がなすすべもなくやられた。

 その事実はメルブリーク王国軍に重くのしかかり、エンフィールド帝国軍を実際以上に強大な存在と思わせ、士気の低下を招いていた。

 結果的に投降者が増えて、戦死者が少なくなっていた。


「しかし、元帥。マカリスター連合を倒せば我々の役目は終わるのでしょうか?」


 一人の将軍が尋ねる。

 ウォリック公爵は、彼が何を言わんとしているのかを感じ取っていた。


「戦争が終わったからといって、すぐに帰れるわけではない。まだやるべきことがある」

「やはり、そうですか……」


 将軍が肩を落とす。

 ウォリック公爵は苦笑した。


「気持ちはわかる。私も早く帰りたい」

「元帥もですか?」

「当然だ。戦争が終わったのなら、孫に囲まれてゆっくり酒でも飲みたい。アマンダには『子供の前で呑むな』と叱られそうだがな」


 その言葉に、何人かの将軍が笑った。

 戦場では見せなかった、穏やかな笑顔だった。


「だが戦後処理を考えると、まだまだ先は長くなるだろう。まずは降伏した兵士の扱いだ」

「捕虜の数も相当なものになっています。食料や宿舎の確保だけでも、かなりの負担になっているので、今後の事を考えれば早めに対処しなくてはなりません」

「行政も立て直さねばならない。略奪を防ぎ、民衆を落ち着かせる必要がある」


 次々と問題が挙げられていく。

 戦争に勝ったら、すべての問題が解決するわけではない。

 むしろ、勝利したからこそ始まる問題も多い。

 ウォリック元帥は、机の上に置かれた書類に目を落とした。


「それだけではない。マカリスター連合の今後も決めねばならん」

「連合を解体するのですか?」

「それらは陛下がお考えになるだろう。完全に王家を滅ぼすのか、連合を解体するだけに留めて属国として残すのか。こればかりは私だけでは判断できん。陛下の判断を仰ぐ必要がある。どのような判断を下されてもいいように、対応できる準備をしておかねばならん」


 その言葉に、部屋の空気が少し変わった。

 エンフィールド帝国皇帝、アイザック・ウェルロッド。

 長く戦場にいるため、しばらく会っていなかった者は、彼の下で働いていた頃の緊張感を思い出す。

 すべてを見通す目を持つ彼を前にすると、心の奥底に秘めている些細な不満なども見透かされるような気がして息苦しさを覚える時がある。

 戦争が終わって帰国できるのは嬉しいが、同時に少し残念でもあった。


「……陛下は、もう次のことを考えておられるのでしょうな」


 誰かが、ぽつりと呟いた。


「そうでしょうな」


 別の将軍が肩をすくめる。


「我々が王都を落として喜んでいる間に、陛下は戦後の統治計画でも考えておられるのでは?」

「それは当然だ」


 ウォリック元帥も否定しなかった。

 アイザックならば、十分にあり得る。

 彼は戦争に勝つことだけを考えているわけではない。

 勝った後に、どうすれば自分にとって最も都合のいい形に持っていけるか。

 常にそれを考えている男だと知っていたからだ。

 何十年も先を見据えて行動できる男だからこそ、娘の婿になってほしいと懇願したのだから。


「アルビオン帝国まで降したのだぞ。今後、どう統治するか考えていなければやってられんだろう。ベイツ子爵が行っている粛清も、統治をしやすくするためだろう」

「彼も派手にやっていますからな。あの思い切りの良さは、さすが陛下が認めた右腕といったところでしょう」


 ノーマンの働きに関する噂は、前線にまで広まっていた。

 褒めてはいるが、純粋な称賛ばかりではない。

「アイザックの代わりに不逞貴族を粛清して、暗殺の標的になる哀れな仕事をしている」という同情も混じっていた。


「この戦争が終われば、みんな期待していいぞ。ベイツ子爵の活躍で、領主の座がいくつも空いている。当然、そこには誰かが座る事になるだろうからな」


 ウォリック公爵の言葉で、皆の顔に笑みが戻った。

 アイザックは気前がいい。

 頑張った分だけ褒美を貰える。

 領主になれなくとも、相応のものは貰えるだろう。

 苦労が報われるというものだ。


「これはエルフの皆様にも関係のある事です。敵味方問わず、救った人の数だけでも数えきれないほどです。爵位の授与や領地の下賜もあるかもしれません。もしかしたら、アンリ様を国王にしたエルフの国なんていうものもできるかもしれませんぞ」


 ウォリック公爵は、エルフにも声をかけた。

 彼らの功績は、戦場で敵を倒す以上のものである。

 当然、ウォリック公爵はエルフの働きを隠さずに報告している。

 彼らにも褒美があるはずだし、言っている事もけっして大袈裟ではないはずだ。


「だといいのですけどね。昔は金や良い待遇で満足していましたが、今は我々自身も政治に関わっていかねばならないと意識を変えています。国とまでは望みませんが、まとまった領地をいただけると、みんなの意識も変わっていくでしょう。ノイアイゼンと並び立つ立派な領地にしたいですね」


 ドワーフも一応従軍しているが、この場に彼らはいない。

 彼らは「俺ならもっと上手くやれる。よこせ!」と、慣れない手つきで修理する兵士達から、修理が必要な武具を奪い取って修理をしているからだ。

 長い遠征で物いじりを我慢できなくなったらしい。

 ついでに庶民の鍋を修理したりもしているので、周囲には好評である。


「その時は、我らもお手伝いしましょう。ああ、そうだ。占領地から行政官を連れ帰るのもいいでしょう。これだけ国土が増えれば、経験者は奪い合いですよ。ファラガット共和国などでも役人の確保は最優先でしたから」

「確かに行政に詳しい者は必要ですね。紹介していただけると助かります」

「こうして知り合ったのも何かの縁です。お任せを。領地の一つか二つ分はどうにかしてみましょう」


 今後増えるであろう領地を考えれば、ウォリック公爵も余裕があるわけではない。

 だが、エルフとの縁は大事にしておきたい。

 ファラガット共和国など大陸東部の侵攻から、マカリスター連合の侵攻まで。

 彼らの後方支援が地味ながらも、戦場を左右する力を持っていると実感していた。

 だから、武官の一人としてエルフとの関係を大事にしたいと本気で思っていた。


 彼らが今後について話していると、一人の伝令が飛んできた。

 確かに飛行兵ではあるのだが、今回は慌ててきたという意味である。

 本国で何かがあったのかと思い、ウォリック公爵は書状に目を通す。


「……は?」


 彼の目が点になる。

 あまりにも理解できない内容だったからだ。

 考えを整理する間に、近くにいた将軍に手紙を渡す。


「……はぁ?」


 彼も似たような反応だった。

 手紙は回し読みされ、エルフ達の手に渡る。


「なんだとぉっ!」


 ――条約違反により、ノイアイゼンがエンフィールド帝国の傘下に入るかもしれない。


 その詳しい内容が書かれていた。

 彼らの自業自得ではあるのだが、急展開のあまり反応が追い付けなかった。


「こちらにいるドワーフに投票用紙を渡して、送り返してほしい、と……」


 戦場にいるとはいえ、彼らにも投票権がある。

 だから投票用紙に書かせて、送り返すのだろう。


「空を自由に飛べる飛行機は魅力的だが、自国民にしか教えられないと言われて、エンフィールド帝国民になろうとするか、普通?」

「いや、奴らならやるかもしれん」


 エルフ達も頭痛を覚えたのか、こめかみを押さえる者が続出した。


「ノイアイゼンを人間が統治すれば種族間戦争を思い出すかもしれないから、エルフに任せるという案もあると。……エルフとドワーフの国ができるわけか。おめでとう、と言ったほうがいいのかどうか……」

「元帥、やめてください。これは王侯貴族としてエルフが君臨するわけではない。出来の悪い子供にスネをかじられ続ける親のような役割を押し付けられるようなものじゃないですか」

「いくら人間が支配すると聞こえが悪いからって、我々に押し付けるとかあんまりだ……」


 ドワーフが聞けば怒りそうな事を、エルフ達は言ってのけた。

 なぜなら、ここにいるのは比較的まともな世代。

 長老世代がいないため、今後起こり得る事態を悲観的に受け止めていた。

今週の金曜日はコミカライズ更新日です!

無料公開分が変わりますので、まだの方はお早めに!

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― 新着の感想 ―
ウォリック公も本音では早く帰国して、孫たちに囲まれた隠居生活を送りたいでしょうね。この人の人生も中々に波乱万丈ですよね。後世で大河ドラマ的な物語の主役が務まりそうなくらいにw >出来の悪い子供にスネ…
ウォリック公も家族大好きで、家族が少なくて寂しかったタイプだから娘と孫にあいたすぎるでしょうね。 若いころから元帥は目標だったでしょうが、これほど英雄的に外征と勝利を繰り返すとは想像もしてなかったで…
スネかじりw言い得て妙w 爆笑
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