872 三十二歳 無茶ぶりをされる人々
本日はコミカライズ更新日です!
今回は『いいご身分だな、俺にくれよ 〜下剋上貴族の異世界ハーレム戦記〜』は最終回となっております。
コミックスの発売日も近いうちに発表があるかと思います。
これまで連載してくださった村上先生に感謝を!
ノイアイゼンの問題で一番頭を悩ませているのは、アイザックでもカニンガム伯爵でもない。
――クロード・オチキス男爵だった。
(このままでは、ドワーフの尻拭いをエルフがさせられ続ける事になる。さすがに自業自得なのだから、ドワーフでなんとかしてもらわないと)
酔っぱらって喧嘩をしたとか、経済摩擦による紛争ならば助けられるが、国を捨てるような真似はフォローしきれない。
彼がいくら種族融和大臣とはいえ、ドワーフのフォローをするのにも限度がある。
特にクロード自身の堪忍袋の緒が切れそうだった。
(よくも新婚早々に厄介な仕事を作ってくれたな! おかげでヴァレリーが不機嫌じゃないか)
彼はヴァレリーとの結婚を渋っていたが、それはそれ。
結婚した以上は、アイザックを見習ってちゃんと妻を幸せにしようと頑張ろうとしていた。
それなのに、長期の出張が確定してしまう。
新婚早々、家を空けるクロード。
彼が「仕事だから仕方ないじゃないか」と言うと、ヴァレリーが怒った。
これもすべてドワーフのせいである。
(カニンガム大臣がノイアイゼンに向かっている間に、俺はフランドル侯爵やモラーヌ子爵に相談してみよう。きっと嫌がられるだろうが仕方ない。ああっ、爺様より厄介な奴が、こんな近くにいたなんて)
昔はちょっと気難しい程度にしか思っていなかった。
それがここまで大問題を起こすと誰が予想できただろう。
「早くなんとかしないと。奴らの自由にさせていたら、エルフまで巻き添えになるかもしれん」
汽車での移動中、クロードと共にフランドル侯爵領へ向かっているエドモンドも頭を抱える。
彼が代表者としてフランドル侯爵になっている以上、ドワーフの問題で矢面に立たされるからだ。
「我々はすでにエンフィールド帝国の貴族なので大丈夫でしょう。……大丈夫でしょう?」
不安になったクロードは、フランドル侯爵に確認する。
だが、彼は渋い顔を見せる。
「今は飛行機など色々と新技術があるからいいが、新しい技術を全部開発し尽くしたらどうなるか。もうエンフィールド帝国にいる意味はないと言い出したらどうする? しかもエルフまで巻き込んで独立運動でも始めたら?」
最悪の事態を想定した発言に、今度はクロードが顔を歪ませる。
「種族間戦争は仕方ないものでしたが、そのような自分勝手な理由で独立戦争を始めるのは許されません。……ですが、今の彼らを見るとやりかねないと心配になってしまいますね」
「戦争にならなくとも、似たような事になれば信用が失われる。もしもその時エルフがドワーフの監督者を務めているのであれば、エルフまで責任を追及される事になるだろう。とんでもない貧乏くじを引く事になるぞ」
「政治的な力を剥奪しても、彼らの行動を抑えられるわけではないですしね……」
「結託して行動されると、それだけで困りますね。……体よく陛下に厄介事を押し付けられたのでは?」
彼らはコントロールできないドワーフの厄介さを実感する。
昔ならば気にしなかっただろう。
だが今は貴族として支配する側になっている。
コントロールしにくい存在を支配するなど厄介極まりない。
――人間が支配すると外聞が悪いのでエルフに任せる。
そういう名目で厄介事を押し付けられたような気分に、クロードはなっていた。
フランドル侯爵も、同意するような態度を見せる。
「あまり陛下を悪く言うものではない。……ただ、陛下の頭が回る事は認めよう」
彼はクロードの発言をたしなめながらも、暗に「そういう事もあるかもね」と認める。
「こうなると、ブリジット殿下の存在がありがたい。ドワーフと違って、エルフは皇妃を輩出している事実が大きな強みだ。エルフ全体に処罰を与えるという事は、さすがにされないだろう」
「ですが障害になると判断したら実兄ですら処断するお方ですよ」
「そこはブリジット殿下を信頼……、するしかない」
フランドル侯爵もブリジットの事をよく知っている。
それだけに不安でいっぱいだったが、今は彼女にすがるしかない。
幸いな事に、彼女は早くも三人目の子供を妊娠中である。
アイザックの愛をそれ相応に受けているはずなので、彼女の頼みは無視できないはずだ。
「陛下と会う前の自分に、エルフの命運をブリジット殿下が握る事になると伝えても信じなかったでしょう」
「はぁ……」
不敬な発言をしたクロードだったが、フランドル侯爵も今度は咎めなかった。
同意の意思表示こそしないものの、彼も心中では同じ事を思っていたからだ。
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再度ノイアイゼンに派遣されたカニンガム伯爵も気分は落ち込んでいた。
(ウェルロッド公が羨ましい。リード王国の頃は同盟国との関係維持を中心に考えればよかっただけだったろう。私の時代にこんな問題が噴出してくるとはなんて事だ……)
少しだけ昔を懐かしむ。
今は外交する国が減っているとはいえ、距離が遠くなっているので楽になったわけではない。
しかも交渉内容が複雑になっているので楽になるはずもない。
押しも押されもせぬ大帝国の外務大臣を任されているが、国が大きくなるほど責任が重荷にもなる。
昔はこんな立場になると考えていなかったので、彼も色々と考えさせられた。
「ジークハルト殿。一人のドワーフとして正直に教えてほしい。アイザック陛下が国民投票とおっしゃっていたが、国民が評議会の行いを知ったらどうなると思う?」
カニンガム伯爵の質問は、ジークハルトの心を深くえぐった。
それはどうしても良い内容にならないからだ。
「国民は……、評議会の自分勝手な決断に怒るでしょう」
「ルドルフ議員は、ジークハルト殿の祖父君でしたね。心配ではありませんか?」
「もちろん心配です。しかし、自分でやった事は自分で責任を取らないといけません。子供ではないのですから」
ジークハルトは厳しく祖父を突き放す。
カニンガム伯爵は、まだまだ若く見える彼の事を見直した。
(ドワーフなのだから若く見えるだけだ。実際は私よりも年上なのだから、覚悟もできるのだろう。そもそも陛下と友人として付き合っていける人物が、ただ者ではないのも当然か)
「ですが、国民に知らせる前に評議会へ通達を出す事は可能です。その時、考え直してくれれば助けやすくなります。まだ諦める段階ではありませんよ」
「ええ、私もそう願っています。いくらなんでも、アイザック陛下がご立腹だと聞けば考え直すでしょう。それでも考え直さなければ救いようがありません。耳を貸さなければ、私に従う者だけを連れて逃げ出しますよ」
「そうならないのが一番ですが、こればかりは評議会の決定次第ですね」
今回のノイアイゼン行きはアイザックの要求を伝えるためではあるが、同時に説得するためでもある。
最初の条件で受け入れなければ、多少の緩和をしてやってもいい。
ここまで譲歩して受け入れないのであれば、ノイアイゼン全体に国民投票の布告をする。
当然、ドワーフだけに任せたりはしない。
人間やエルフも派遣し、選挙管理委員会を発足する。
これで「みんな傘下に入るのを歓迎している」といった票操作を防ぐ。
問題があるとすれば、国民が評議会の行動を知った時の反応だ。
大きな反発があれば投票どころではなくなってしまう。
「投票で決められるのなら」と自重してくれる事を願うしかないが、国民もやはりドワーフだ。
感情的に行動する可能性も高い。
「オチキス大臣が上手くやってくれれば助かるのですが……。長老衆を連れてきて、上手く説得してくれればなんとかなるかもしれません」
カニンガム伯爵の言葉に、ジークハルトは露骨にしかめっ面をしてみせた。
「ドワーフの虐殺でもするつもりですか?」
「そんな事は……、あっ!?」
カニンガム伯爵は思い出した。
――エルフの長老衆はロクでもない集団だという事を。
クロードやアロイスといった穏健派と接する事が多いので忘れがちだが、彼らよりずっと上の年代は頭のネジが外れた武闘派揃いである。
「言う事を聞け!」と力で押さえつけようとする可能性だってあった。
彼らもまた、常識では測れない集団なのだ。
「まぁまぁまぁ、モラーヌ子爵達のような方々もおられるので大丈夫でしょう」
「彼らの説得よりも、アイザック陛下が設計図をみんなの目の前で破り捨てたほうが効果がありそうですけどね。……いや、意外と悪くないか?」
何気なく言った一言ではあるが、ジークハルトは我ながら悪くない考えを思い付いたと考える。
最終的にはアイザックが顔を出す事になる。
そういうやり方もありだと思い、アイザックに要請するつもりだ。
本物の設計図でなくてもいい。
それっぽい偽物でも、彼らの頭を冷やすのには十分なはずだからだ。
コミックス発売とかもあってお盆は書くのに集中していたので、月曜日はお休みにします。
また来週よろしくお願いいたします!







