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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第二十章 大陸統一編 二十三歳~

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871 三十二歳 踊る会議

いいご身分だな、俺にくれよ ~下剋上揺籃編~ 3巻

本日2026年8月12日発売!

特典情報などは近況ノートでご確認ください!

『いいご身分だな、俺にくれよ ~下剋上揺籃編~1巻』が8/25まで、ブックウォーカー様などで無料で読めるようになっています。

 事情聴取が終わると、次は対応を考えるために各大臣を呼び集めた。

 アイザックの口から状況を知らされると、誰もがうつむいた。


「この状況にどう対応するべきか。意見のある者はいるか?」


 そんな事を聞かれても即答できる者などいない。

 まずは状況を把握し、理解する時間が必要だった。


「陛下はどのようにお考えですか?」


 クーパー侯爵が、アイザックの考えを尋ねる。


(悩んでいるから聞いているのに……。質問を質問で返したらダメだって教わらなかったのか?)


 これにはアイザックも困った。

 彼もまだ考えがまとまっていないからだ。


「私は本当に傘下に加えるつもりはなかった。飛行機がそれだけ重要なものだとわかってもらえればいいと考えていたからだ。だからノイアイゼン側からの提案を疑わずに受け入れた。まさか、こんな事を考えていたとは完全に予想外だった。普通は国を他国に売り渡せば死罪だ。誰がこんな事を考えると予想できただろうか……」


 あのアイザックですら予想できなかった事態に、部屋中でどよめきが起こる。

 誰もが心の奥底で「アイザックは、こうなるとわかって条約を結んでいた」という可能性を考えていたからだ。

 それだけに、動きが予測できないドワーフに対する恐れも持つ事になった。


「今の段階で私の考えを言うつもりはない。私が言えば、どうしても私の意見を参考にした方向で話が進んでしまうだろう。まずは皆の忌憚ない意見を聞きたい。どのような意見でもかまわない。なにしろ行動が予測できない相手だ。常識的ではないと思われるような意見でも歓迎する」


 アイザックも逃げ方を学んでいる。

 こう言っておけば、誰も「意見を言ってくれ」とアイザックを急かしたりはできない。

 こうすれば「みんなの意見を取り上げてやる」というチャンスを与える形にもなる。

 周囲の話を聞きながら自分の考えをまとめる時間を得られる方法だった。


 意見を求められて出席者達は考え込む。

 なんでもいいから意見を言えと言われても、安易に答えられる問題ではないからだ。

 彼らの救いを求める視線は、状況を理解しているカニンガム伯爵とクロードに向けられる。

 視線の圧力に屈したカニンガム伯爵が、まず最初に動く。


「条約は国家間の約束事です。これを相手のためとはいえ破るのは、あまり周囲にいい印象を与えないかもしれません。エンフィールド帝国と仲良くしていれば、多少の約束は踏みにじってもかまわないと思われるきっかけになる危険性があります。常識外れな行動とはいえ、条約は条約として履行するのも一つの選択肢として考えるべきでしょう。帝国の利益にはなりますので」


 カニンガム伯爵の意見は間違ってはいない。

 ただ、ベターであってベストではない。

 彼もエンフィールド帝国の利益を考えながら、勇気を振り絞って導き出した答えだった。

 アイザックはため息を吐く。

 これはカニンガム伯爵の答えに不満だったのもそうだったが、自分の行動に呆れて出てしまったものでもあった。


「愚かな振る舞いをするな、という脅しのためにノイアイゼンにとって厳しい条件を付けたのに、その条件のせいでこちら側が苦しめられる事になるとは……。彼らを信じ過ぎたせいだ。もちろん信頼できる者もいるが、彼らも何かに熱狂した場合の行動は予測できない。そもそも、ノイアイゼンとの接触も衝動的な行動によるものだった。どういう選択をするにしても、ドワーフの予測できない行動を許容できる体制は作っておかねばならないだろうな」


 最初に接触したウォルフガングは、エルフという顧客を奪われたから二百年の断絶を越えて襲撃しようとしていた。

 今思えば、ドワーフの衝動的な行動は昔からだ。

 それが国家規模になっただけともいえる。

 それだけに、今後の予測が難しいものだった。


「衝動的といえば――」


 ふと思いついたように、クロードが口を開いた。


「アイザック陛下が亡くなったあとはどうしますか? 今はアイザック陛下がいるので彼らは傘下に加わるのを歓迎していますが、アイザック陛下のアイデアを開発し尽くした時に『なんで人間に支配されないといけないんだ』と暴れ出すかもしれません。身内に引き入れたと安心はできないかもしれません」


 彼は「アイザックの寿命がある間に色々と研究したい」という言葉を思い出していた。

 その言葉も裏を返せば、アイザックが死に、研究対象もなくなった時にどうなるかも考慮しておかねばならないという事だった。


「研究対象がなくなれば、また衝動的に独立するかもしれないというわけか……」


 クーパー侯爵が苦々しく呟く。

 新技術があるから今は首を垂れるが、技術がなければそっぽを向くかもしれない。

 それでは信用できるはずがなかった。


「受け入れた場合、周辺国からドワーフを奴隷にするつもりだと思われるかもしれない。しかもいつ裏切るかわからない獅子身中の虫を迎える事になる。受け入れなかった場合、技術をよこせと口うるさく要求される。……受け入れるメリットがないのでは?」


 もちろん、金銭面では一時的に利益は出るだろう。

 だが、それは国の安定と引き換えにだ。


「それに今はウェルロッド公爵家でノイアイゼン産の商品に関税をかけている状況ですが、エンフィールド帝国の一員になれば関税は撤廃されてしまいます。そうなると国内市場に混乱が起きる事を警戒しないといけません」

「貴族として迎え入れた時、感情的になって殴り合いになるのも恐ろしいですね。これに関しては人間でも同じですが、単純に力が違うので命に関わる問題になりかねません。酒の場だとどうなってしまうのか不安です」


 ノイアイゼンを迎え入れた時のメリットよりも、デメリットが次々に出てくる。

 それだけ今回の行動に、強く不安を覚えたのだろう。


 これらの意見にはアイザックも同感だった。

 創作物によって、ドワーフに対して比較的良い印象を持っていたが、少しずつメッキが剥がれ始める。

 思い返せば、エルフもマチアスなどの危険人物がいた。

 ただ彼らは村単位だったので影響力が小さく、国単位ではなかったから大きな問題にならなかっただけだ。

 もしエルフがノイアイゼン規模の国を持っており、長老衆が発言権を持っていたらどうなっていたか。

 考えるだけでも恐ろしい。

 種族間戦争という後ろめたさがあるだけに強気に出るのも難しいので、ノイアイゼンを受け入れるのは困難だらけだった。

 相手が望んでいるとはいえ、そう簡単に決められる事ではない。

 話せば話すほど、全員が憂鬱になる。


「ドワーフに力を与えない。爵位を与えないというのも無理でしょう。傘下に入った状況が違うとはいえ、きっと彼らはエルフのと違いを声高に訴えるはずです。ではどこまで責任を追及するかというと……。なんとか説得して現状維持にするのが一番だと思います」

「だが今の関係を維持するなら、技術を教えてやらねば納得しないだろう。そうすると、ごねれば国家機密の技術でも教えてもらえると勘違いするかもしれん」


 それは誰もが思っていた。

 下手に関係を変えるよりも、今ぐらいの距離感がちょうどいい。

 しかし、ノイアイゼンを処罰しないといけない。

 そうなると、あちらは条約を盾にして併合を求めてくるだろう。

 それが罰になると。


(むしろ、これだけ追い詰められているこっちが罰ゲームを受けている気分だ)


 アイザックは天を仰ぐ。


 ――進むも地獄、退くも地獄。


 同じ地獄なら前に進むほうがマシかもしれない。

 だが、すぐに結論を出せる問題でもない。

 もしこれが「ウェルロッド侯爵の孫」という立場の時に起きていれば「毒を食らわば皿まで」の精神で影響力が増大すると喜んで受け入れていただろう。

 しかし、今はエンフィールド帝国皇帝であり、無茶をしなくても他国を屈服させられる力を持っている。

 これだけ立場が違えば、国を奪ってやろうと思っていた頃とは違って、自然と考えも守りに入るというもの。

 アイザックも大胆な決断を即決するのが難しくなっていた。

 だが、それが悪いという事ではない。

 地に足のついた決断を下せるようにもなっている。


「よし、ノイアイゼンには前向きに考えると答えよう」


 場がどよめく。

 先ほどまで「みんなの意見を聞く」と言っておきながら、慎重論とは正反対の事を言い出したからだ。

 ただ、クーパー侯爵など一部の者は「陛下の考えがまとまったか」と思って落ち着いていた。


「そして、まずは国民投票をさせる。ノイアイゼンがエンフィールド帝国の傘下に加わる事に納得できるかどうかを、ノイアイゼンの全国民に問う。おそらく現支配者層に不審を抱く者が多いという答えが出るだろう。同時に人間を領主として迎え入れるのを許容できるのか。それともエルフを領主にしたいか、といった質問への返答も同時に投票させる」

「陛下、それは――」


 クロードがアイザックの言葉を遮ろうとする。

 だが、それよりも早くアイザックがクロードの行動を手で制した。


「ドワーフが感情的で支配者として不向きならば、人間やエルフでノイアイゼンを支配する。そしてドワーフは政治から切り離して好き勝手に研究開発だけさせてやる。これが精一杯の譲歩だ。そして、その間にノイアイゼンを吸収した際に起きる弊害を想定し、対処方法を考える時間を作る事ができる。今、この場で答えを出す必要はない。どうだろうか?」


 アイザックが周囲を見回す。

 誰も即答はせず、少し考えてから答える。


「ノイアイゼンは共和主義のようなので、投票はよろしいかと思います」

「国民が同意しているかどうかは重要です」

「それに併合する事になっても、国民に知らせておけばノイアイゼンの現評議員に恨みが向かうでしょう。エンフィールド帝国への恨みは最小限に抑えられます」


 ――投票によって政治家を決める。


 それはつまり、その政治家を選んだ有権者の責任だという事だ。

 今の評議員を選んだのが過ちだと思うのなら、ノイアイゼン内部で問題を解決しようとしてくれるだろう。

 そして、正しいと思うのなら国民もエンフィールド帝国の一員になる事を受け入れるという事だ。

 心理的な抵抗は少なくなるはずだ。

 そう考えて、アイザックはノイアイゼンの国民の選択に委ねる事にした。

 これで責任をノイアイゼンの国民に負わせられる。

 国民投票には時間がかかるので、今後の対応を考える時間も確保できる。

 一石二鳥の策だった。


「陛下……」


 クロードが心配そうな目でアイザックを見る。

 アイザックは力強くうなずいた。


(これって、私達の負担が増えそうな気がするんですけど……)


 そう漏れ出そうになった声を、クロードは呑み込んだ。

 まだファラガット共和国の出来事は記憶に新しい。

 ドワーフが人間の支配を拒む可能性は高い。

 そうなると、彼らとの付き合いが長いエルフが統治を任される事になるだろう。

 考えるだけでうんざりする。

 だが交渉で場を上手く収められなかったという事もあり、クロードは「やめてくれ」とは言い出せなかった。

今週は第三金曜日ですのでコミカライズ更新日です。

今回は「下剋上貴族の異世界ハーレム戦記」も更新されますのでお楽しみに!

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いいご身分だな、俺にくれよ ~下剋上揺籃編~ 3巻
2026年8月12日発売!
店舗特典もございますので、下記ページか活動報告にてご確認ください。
表紙絵

マグコミにてコミカライズが連載中!
画像クリックでコミカライズのページに移動します。
『いいご身分だな、俺にくれよ 〜下剋上貴族の異世界ハーレム戦記〜』(三章終了時までの予定)
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『いいご身分だな、俺にくれよ ~下剋上揺籃編~』1巻発売中!(四章以降はこちら~)
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― 新着の感想 ―
>そしてドワーフは政治から切り離して好き勝手に研究開発だけさせてやる。 それって、ドワーフたちにとってはむしろ望むところなのではw? まあ、そうした方が面倒が無さそうではありますが。
酔っ払いの始末だから議員の禁酒を求めればいいと思う
独立国の場合、内政干渉となるので不始末をしたものの罰は独立国で決めて良い。 併合した場合、国家機密を意図的に破損させたものは計画者含めて死罪とする。帝国法に従うべし。 これでも併合したいんだろうか。
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