3.僕の彼女なんでしょう?
そして現在。十六歳になったわたくしは、ゲーム通り学園に通っている。
ゲームシナリオと違う事と言えば、エルネスト様の婚約者がわたくしではないという点だ。
ジュリアン様の腕に抱きつきながら、遠くの渡り廊下を歩く一組の男女に視線を向ける。
――エルネスト様と、その婚約者の侯爵令嬢だ。
うーん、知的でクールビューティなご令嬢ですこと。正直わたくしよりもエルネスト様の隣が良く似合っていると思う。
「…マデリーン、近い」
向こうの人間観察に夢中になっていると、少し顔を赤らめたジュリアン様に、ぐいと頭を押されて腕から引き離された。今日は良い天気なので、密着されると暑かったのだろうか。
「あら、暖かい日にはくっついてはいけませんのね。失礼しましたわ。古株彼女として、他の彼女たちの模範となるような振る舞いをしなくてはいけませんのに…」
「マデリーン、あのねぇ……いや、もう好きにしてくれていいよ…」
わたくしがジュリアン様の彼女枠に入った事を除けば、二学年上の彼もまたゲームのように順調に彼女を増やしている。
――わたくしの予想通り、甘く色気を振りまく美男子に育ったジュリアン様。
小さい頃から発揮していた優しさに加え、面倒見の良さ、気配り上手な振る舞いで令嬢たちを虜にし、第一王子であるエルネスト様に並ぶモテ男へと成長したのだった。
ただ、ゲームのように一日交代で一人ひとりをしっかり愛でるような様子は無く、休日に誰かとデートするような事も無いらしい。
毎日ひとりでに集まってくる令嬢たちと、広〜く薄〜くな交友をするだけ。
この状態、果たして『日替わり彼女』と呼んでもいいのかしら…?ただ取り巻きが多いモテ男……?
まぁそれでも構いませんわ。わたくしがやるべき事は変わっておりませんもの。王子とヒロインが無事くっついたら、自分の婚約について考え直す。ただそれだけですの。
とは言え、エルネスト様の婚約者が変わったからだろうか。ヒロインが王子と交流しているところはあまり見かけない。
二人の側をうろちょろしている様子は見受けられるので、エルネスト様狙いで間違いないとは思うのだけど…。
「――どう?マデリーン」
「えっ??」
「……またよそ見してたね…」
「あら、愛しいジュリアン様を前によそ見だなんて、オホホ…」
完璧な令嬢スマイルで軽やかに躱そうとするが、十八歳のジュリアン様はもう誤魔化されてはくれないようだ。
ため息をひとつ漏らすと、顔の前で振っていたわたくしの手を取って、そのまま自身の口元へ引き寄せた。唇がギリギリ触れない位置で止まり、手に当たる温かな吐息にわたくしの心臓が小さく跳ねた。
「…君は、僕の彼女なんでしょう?」
「えっ…そ、そうですが……」
ジュリアン様の彼女はわたくし以外にもたくさん…あら?皆様、どこに行きました?さっきまでそこにいらしたのに!?
助けを求めるように視線を泳がせてオロオロと辺りを見渡すが、先ほどまで側にいたはずの彼女集団は、示し合わせたかのようにいつの間にかいなくなっていた。
そのまま、吸い込まれそうなほど真剣な緑色の目に囚われる。
「――なら、ちゃんと僕を見ていて。他の男を見つめないで」
そう言ってジュリアン様は、わたくしの指を――カプリと甘噛み。
「きゃあ!?かっ、噛みましたわね!??」
「浮気する彼女にお仕置き。
…そういう訳で、来週末の日曜にカフェ行くから、予定開けといてね」
「そういう訳ってどういう訳ですの!?」
「聞いてなかった君が悪い」
先ほど彼が話していたのはこのことだったらしい。
空気が読める彼女集団!




