M〇九 母娘の絆!ドMが呼んだ奇跡の和解!
Q:このドM、奨学金もらえるほど成績優秀だったらしいのに、なんで頭の悪い思考と行動ばっかりしてるの?
A:勉強できるのと頭いいのは、方向性が違うから……(目逸らし)
美摩の悲痛な叫びに反して、真理亜は、普通に気絶しただけであった。
いや、普通に、というのは、この真理亜を基準にして、の話だったが。
通常の魔力保有者ならば、急激に膨大な魔力を失う時点で、肉体そのものを
削がれるような苦痛を感じてもおかしくはない。
そのため、精神に異常をきたしたり、生命活動が危ぶまれる状態に
陥ることもある。
が、どっこい、この真理亜の精神は、最初から異常であったし、
前世の死に間際で、生命活動が停止する大苦痛に
歓喜したことのある“超”のつく被虐嗜好者。
気を失ったその顔には、愉悦に満ち充ちた笑みが浮かんでいた。
しかし、これが、絶世の美幼女が浮かべる笑みであるから、質が悪い。
なにも知らない第三者の目には、苦しいながらに、やるべきことをやり遂げたと
感じている、献身的な〈聖女〉の表情にしか見えなかったのである。
この表情に、恐慌状態を引き起こしかけている美摩と、緊張にこわばる漱祗は、
稲妻に打たれたかのごとく、感動と感銘を覚えていた。
────────おのれのことを顧みず、会ったばかりの従妹に、
命を捧げて惜しまぬようなその姿。
まさしく、愛に満ちた〈聖女〉ではないか、と。
およそ買い被りも甚だしかったが、兎萌の為を思っての、
真理亜の命懸けの行動を見ては、そのように並外れた勘違いをしてしまっても、
無理はなかった。
事態がどうなっているのか理解できない兎萌も、
その兎萌を抱きしめる専属メイドの叶夜、
そばで控えている叶夜の妹、叶穂らも、同様の気持ちを抱いている。
こちらの三人は、〈聖女〉という概念を意識していなかったが、
直感で理解していた。
今、目の前で行われたのは、尊い犠牲行為であったことを──────────。
実際には、『原作でそういうシーンあったナ~』という、
軽いノリで実行されたコトであったし、
気絶して浮かべている笑みは、『強めの御褒美ありあたーッス!』という、
イカれた被虐精神からくるモノであったのだが。
「………真理亜お嬢様の体温が急激に低下しています。急ぎ、処置を行わないと」
漱祗は、真理亜の体に触れ、端的にそう告げる。
漱祗の言葉どおり、真理亜の全身は、冬の外気に包まれていたかのごとく、
体温を失っていた。
それは、生命活動が危ぶまれるほどに、魔力を失ったということの証左である。
一日の短時間のうちに、急激に熱が上がったり、下がったり。
まったく忙しい、人騒がせな幼女であった。
とはいえ、コトの真相を知らない美摩たちにとっては、
幼気な子供の命が風前の灯火になっている、深刻な事態には違いない。
────漱祗が急いで、だが優しく真理亜の体を抱き上げ、
ベッドに横たわらせる。
そしてそのまま、真理亜の寝衣の上着をはだけさせ、
その幼い素肌に右手を添えた。
「奥様。真理亜お嬢様は、魔力の枯渇状態にあるはず。奥様と私とで、
真理亜お嬢様のお体に魔力を分け与えれば、命の危険の心配はなくなるかと」
「───え、ええ、そうね、その通りだわ」
漱祗の冷静な言葉に、恐慌状態に陥りかけていた美摩は我に返り、
うなずいてみせる。
手にしていた〈鳳凰の杖〉をベッド近くの台座に置き、それから、漱祗と同じく、
真理亜の胸にその手を置いた。
「……タイミングを合わせてちょうだい───3、2、1、今よっ」
長年の付き合いである主従、美摩と漱祗は、呼吸をぴったりと合わせて、
真理亜の体へ魔力を注ぎこみはじめた。
ふたりの魔力が流れ込んでいくにつれ、魔力の甚大な消耗により、冷え切っていた
真理亜の体は、みるみるうちに温かさを取り戻していく。
真理亜の体に触れている美摩は、その事実を直に感じ取り、大いに安堵した。
同じく、真理亜の容態の安定を診てとった漱祗が、美摩に進言してくる。
「奥様、真理亜お嬢様は、もう大丈夫でしょう。
あとは私が魔力を分け与えますので、奥様はお休みになってください」
「─────いいえ、私も、もう少し……」
「奥様。奥様が体調を悪くされては、本末転倒でございます」
「……漱祗。あなたの主を、見くびってもらっては困るわ。
それに、この子は、今日から私の、もうひとりの娘になるのよ」
そう言うと、美摩は、叶夜に抱きしめられる兎萌を見やった。
そして、静かに、けれどあたたかみのある声を出す。
「……兎萌。こちらに来なさい」
兎萌は、久しく聞いたことのない母親の穏やかな声音に戸惑ったが、
抱きしめてくれている叶夜の手を離れ、おずおずと美摩のそばへと歩み寄った。
美摩は、いったん真理亜の体から手を放し、兎萌の前に両膝をつく。
それから、ゆっくりと、兎萌を抱きしめた。
「──────────ごめんなさい」
「っ……おかあさま──────?」
思わぬ母の謝罪の言葉に、兎萌は、我が耳を疑ってしまう。
「……魔力を使えないあなたに、
今まで辛く当たってしまってばかりだったわ─────
あなたは、なにも悪くなかったというのに」
ぎゅう、と、美摩は、兎萌を抱きしめる力を、強くした。
「────魔力を扱えなかったあなたの気持ちを、
考えてあげなければいけなかったというのに。
駄目な母親で、本当にごめんなさい………」
「おかあさま……………」
兎萌は、抱きしめてくれる母親のぬくもりに、
それ以上の言葉もなく、涙ぐむ。
幼い兎萌には、呼び出されてからの一連の出来事が、よく理解できていない。
けれども、感覚だけで、わかっていた。
〈母〉が、戻ってきてくれたのだと─────────────────。
そしてそのすべては、初めて会った従姉……義姉である、
真理亜のおかげである、と。
先ほど、真理亜が兎萌に魔力を注ぎこんだ際に、兎萌の幸せを願う気持ちを
直接受け取っていることと合わせて、兎萌は、喜びに体を震わせる。
(おねえさまは、わたしをたすけにきてくれたんだ………!)
間違ってはいないのだが、正しくない認識をしてしまい、兎萌の脳は、
見事に真理亜への勘違いによって灼かれてしまった。
誠にもって、ご愁傷様と言うほかない。
アーメン。
さあ、どんどん勘違いさせていっちゃおうねえ……(゜∀゜)
(人の心とかないんか?)




