M一〇 いにしえの〈聖女〉伝承!勘違いコンボHIT!
本日二話更新二話目です。
前の話の前書きに書き忘れました(^ω^;)
ご注意ください。
その後、美摩は、室内にいた兎萌、叶夜、叶穂らに、
〈三神器〉のひとつ、〈鳳凰の杖〉が復活したことを、
内密にするよう厳命して、三人を退室させた。
それから引き続き、美摩と漱祗は、真理亜への魔力供給を続行する。
そして、ふたりは、驚愕し、戦慄するのだった。
────真理亜の身体における、魔力の〈器〉としての、途方もなさに。
〈退魔法師〉三大有力派閥が一角、真渡園家当主である美摩は、
並の〈退魔法師〉数十倍の魔力量を、その体に有している。
美摩に仕える漱祗もまた、主に及ばないまでも、潤沢な魔力の持ち主であった。
そのふたりが、大量の魔力を注ぎこんでも、真理亜の幼い身体には、
魔力の満ち足りる気配がないのである。
あたかも、底なしの井戸に水を汲み続けているような感覚しか、
伝わってこないのだ。
〈女神〉ルキミステルが、転生特典を適当につけた結果の、
千倍チート魔力が原因であることは、言うまでもない。
真理亜がその身に持つ魔力の総量は、幼女である現時点でも、
世の〈退魔法師〉概念を崩しかねないほどに、出鱈目で莫大なものである。
が、元のシナリオで、兎萌が今後十数年かけて、柄杓で池に水を満たすように、
ゆっくりと〈鳳凰の杖〉に与えていくはずだった魔力を、
ものの十数秒で充填してしまったのだ。
さすがの千倍チート魔力も、その充填量のせいで、すっからかん。
真理亜の〈器〉は、美摩と漱祗が注ぐ魔力を、水を吸う真綿のごとく吸収するも、
満タンになるにはほど遠いのが、現状である。
美摩と漱祗は、横たわっている真理亜を、畏怖に近い感情を宿した目で
見つめてしまっていた。
信じられないのである。
眼前の、恐るべき魔力の〈器〉を持つ、幼女の形をした存在が………。
「────もう、安定したかと思われます。
あとは、真理亜お嬢様ご自身の回復力による全快を待ちましょう」
真理亜の体温を測ったあと、漱祗は、美摩にそう進言した。
美摩は、漱祗にうなずいてみせて、真理亜から手を離す。
はだけさせていた真理亜の寝衣を整えて、その体に掛布団を掛けた。
そして、そっと、真理亜の頬に、手を触れる。
「……………真魅姉様が、私に遺してくれた手紙に、書いてあったの。
真理亜には、歴史上に名を残せるほどの、破格の魔力が宿っている、
と────────。……真渡園の人間だし、姉様の娘ですもの。
最高の魔力の持ち主だろうとは思っていたけれど……まさか、
これほどまでだとは、思わなかったわ………」
「奥様。真理亜お嬢様は、もしかして──────」
「………そうね────〈聖女〉である可能性が高い………
まだ、わからないけれど─────」
漱祗の推察を促す言葉に、美摩は、表情を曇らせて、うなずいてみせた。
〈聖女〉。
太古の〈禍威魔〉との大戦において、すべての〈退魔法師〉を導き、
人類に勝利をもたらした伝説の存在。
で、あれば、真理亜が〈聖女〉なら、喜ぶべきことではないか?
しかし、美摩の顔に浮かぶ表情は、暗い。
漱祗が、言いにくそうに、だが、しっかりと発言する。
「………“地上すべてを闇に包まんとする大いなる邪悪な〈魔〉現れ出ずる時、
〈聖女〉もまた現れ出で、其の命以て〈魔〉を討ち滅ぼさん”
─────伝承の言葉どおりなら、〈聖女〉が降臨する時代には、
〈聖女〉の強大な〈力〉が不可欠なほどの、恐ろしい〈禍威魔〉が顕現する……
あるいは、既に顕現していることになります……………奥様」
「ええ……わかっているわ。〈鳳凰の杖〉が、我が真渡園の人間の手の下に、
形を成して戻ったのも、そういうことなのでしょうね───────」
「はい。伝承では、〈聖女〉は、物事、事象の本質を、霊感で悟り、
理解してしまう〈力〉を備えているとか。真理亜お嬢様は、兎萌お嬢様の中に
眠っていた、大いなる〈魔〉に対抗するための〈神器〉の存在を、
ひと目で見抜かれたとしか思えません」
〈鳳凰の杖〉復活については、ドMが原作知識と、
変態紳士精神によるノリで先走り、
十数年のスケジュールを前倒しにしてしまった結果なのだが、
美摩と漱祗の推察は、外れていなかった。
もしも、真理亜が、〈聖女〉であるならば。
人類に、滅亡級の厄災をもたらす邪悪な〈魔〉の存在が、
迫り来ている……………。
一連の推察から至らざるをえないこの結論が、
美摩の表情を暗くさせている理由であった。
ふたりの胸に、暗澹とした不安が、重くのしかかってくる。
「────────姉様の子に、そんな重い運命を背負わせるなんて………」
美摩の口から、溜息と共に、沈痛な思いがこぼれ出た。
“其の命以て〈魔〉を討ち滅ぼさん”
伝承どおりなら、〈聖女〉は命と引き換えに、〈魔〉を滅ぼす運命にある、
ということである。
姉が遺した愛し子に、どうして、そんな犠牲を強いることができようか?
………………………ありえない。
〈退魔法師〉は、確かに、命懸けで〈禍威魔〉と戦うことを生業としているが、
それは、避けえぬ“死”に向かわせることと同義ではないのだ。
行方不明だった最愛の姉、その忘れ形見である真理亜を、
幸せに育ててあげたい──────。
いや、幸せに育てあげなければ。
美摩は、そう固く決意する。
………言うまでもなく、これは原作ゲームの流れにはない感情の動きであった。
本来なら、この世界における美摩の役割は、虐待デフォの最悪な毒親である。
が、そうなる前提条件は、転生真理亜が手渡した手紙の一件と、
兎萌の体に眠っていた〈鳳凰の杖〉復活の件で、
木っ端微塵に吹き飛ばされてしまった。
加えて、千倍チート魔力が原因の、真理亜が〈聖女〉ではないかとの勘違い。
兎萌のためを思っての自己犠牲的な行動は、いかにも〈聖女〉的な資質に見え、
これが、ことのほか美摩の心を打ったのも、大きな一因である。
転生真理亜と出会ってたった一日目で、今や、美摩は、愛情深い母親へと、
成長の萌芽を迎えつつあった。
「あの老人は、私たちが倒したのだもの。真理亜と、兎萌の時代は、
真渡園の家の、忌まわしい宿命からは解き放たれるはずだわ」
「─────はい。もしも、本当に、真理亜お嬢様が〈聖女〉であったとしても、
太古の大戦時と、現代の〈退魔法師〉の数、武装と練度は、違っているでしょう。
我々が……それこそ、〈退魔法師〉御三家の総力を挙げて真理亜お嬢様を
お助けすれば、きっと、伝承とは違う未来を切り拓くこともできるかと」
「御三家を……そうね────そういう選択も、しなければならないのね………」
漱祗の助言に、美摩は難色を示しつつも、うなずく。
〈退魔法師〉御三家、それぞれの家の間には、敵対的と言っていいほどに、
溝があるのだった。
「……奥様は気が進まないでしょうが、〈相談役〉に真理亜お嬢様のことを
お話しすれば、蓮葉寺、波支畔の両家とも、きっと取りまとめてくださる
はずです」
「あの老女に頭を下げるのは、確かに気が進まないわね」
続いた漱祗の言葉には、美摩は、苦笑して、軽く首を横に振る。
それから、真理亜に添えていた手を、頬から額へと移した。
「───けれど、この子たちのためだもの。私の都合は、言っていられない、か」
「奥様……」
「なんにせよ、今日明日に、事態がどうこう、という話でもないでしょう。
今夜はまだ、この子が、私たち家族のひとりになった、最初の夜ですもの。
………その第一日目が、〈神器〉の復活なんて大事になるとは
思わなかったけれど」
再び苦笑したあと、美摩は、真理亜の頭を撫でる。
「……まずは、姉様を喪った、この子の心を、
癒してあげなくてはね──────ゆっくりと休むのよ、真理亜………」
そう優しく真理亜の頭を撫で続ける美摩の顔に浮かんでいるのは、まさしく、
慈母の微笑であった。
────原作では、美摩は、原作のどのルートでも、終始毒親のまま、
改心することもなく、真理亜同様、悲惨な目に遭って破滅する。
だが、美摩の毒親化自体が、転生真理亜に出会って一日目で、
完全に潰えてしまった。
美摩の運命は、凄まじいロケットスタートで、変わってしまったのである。
そして、この日を境に、世界の運命もまた、未知の、あらぬ方向へと
変わっていくことになったのだった。
自分の軽い即興で、そんなことになっていようとはつゆ知らず、
真理亜は、気絶前に覚えた痛苦を夢の中でエンドレスリフレインして、
スヤァ…と、呑気にGOOD眠り。
腹立たしいことに、その寝顔は、絶世の美幼女のものであったため、傍目には、
“〈聖女〉の安らかな休息”にしか見えなかったのである……………………。
どっとはらい。
勘違いはどんどん連鎖していくのです……
“悪役令嬢モノ”の王道ですよね(゜∀゜)




