M三八 “母”の勝利
学園伝奇モノで主人公らが通う学園には、〈旧校舎〉が付き物。
そしてその〈旧校舎〉には、謎の地下空洞が広がっているものなのである。(@東京●人学園)
真理亜のペンダントに仕込んでおいた、超小型GPS発信機の信号は、
問題なく作動している。
美摩は、信号の指し示す地点に、漱祗と叶夜を含む八人の〈退魔法師〉を率いて、
急行していた。
美摩たちは、全員、霊的武装である、露出の多いドレス状スーツで、
身を包んでいる。
その手には、それぞれ、魔法の威力と指向性を高める杖が、握られていた。
一見して、艶やかな美女の一団にしか見えないが、その実、
完全武装状態の〈退魔法師〉一隊である。
高速移動しつつも、臨戦態勢は、万全であった。
菊地神学園の広大な敷地内、その外れ─────現在は一般開放されていない、
学園旧校舎。
発信機の信号は、真理亜と兎萌が、四月から初等部に入学する学び舎の
間近にある、その閉鎖施設の場所を指示していたのである。
学園の関係者には、事態の詳細な説明をしている時間はない。
美摩は、真渡園家の名を振りかざし、学園の警備係を半ば脅す形で、
旧校舎へと押し通った。
そして、発信機の信号と併せて、玄紺の〈屍霊鬼〉の気配を追うことで、
旧校舎に隠された、秘密の扉を発見する。
扉の先にあったものは、地下へと続く長い階段であった。
未知の階段の存在に驚く警備係らを脇に置き、美摩たちは、
迷いなく、地下へと急ぎ降る。
地下への階段から続いていたのは、巨大な洞窟であった。
洞窟の壁面には、魔法による青白い炎が灯されており、奥へと続く道を
照らしている。
美摩は、その道を急がんと、臨戦態勢で進みだしたが、その奥から、
急速にこちらに近づいてくる邪悪な気配を、感知した。
間違いようのない、〈屍霊鬼〉の気配。
憎き、すべての元凶、玄紺の気配である。
「……奴が来るわ。手筈どおりに、やりなさい───展開!」
美摩の号令一下、漱祗たち〈退魔法師〉らは、美摩を残して、散開していった。
美摩は、銀の布にくるんだ〈鳳凰の杖〉を携えて、玄紺の到着を、待ち構える。
〈鳳凰の杖〉を銀の布で隠しているのは、その存在を、玄紺に攻撃する直前まで
知らせぬためであった。
────やがて、感知したとおり、黒い霧と化した玄紺が、道の奥から、
美摩の方へと、一直線に迫ってくる。
途中、わずかに減速したようであったが、玄紺は、黒い霧になったまま、
美摩に向かい、加速猛進してきた。
「今よっ!!!」
だが、玄紺が接近する前に、美摩の合図の声が上がる。
〈隠形〉の魔法で光学的に身を隠し、道の中央を八方から囲うよう配置に
ついていた〈退魔法師〉らが、一斉に、〈結界〉の魔法を起動させた。
瞬時に、八筋の魔力光が疾り、〈結界〉を形成する。
邪悪な〈禍威魔〉を封じこめる〈結界〉魔法の、八掛重ね。
この強力な布陣による〈結界〉魔法には、さしもの魔人も、
動きを封じられるしかなかった。
「ぐおおおおおおおおおおっっっ!?!?!? おのれぇぇぇぇぇっっっ!!!」
〈結界〉に閉じ込められた玄紺が、黒い霧状のまま荒れ狂い、吼える。
「………どんな気分かしら? 散々見下していた“女”の罠に嵌った気分は!」
そう煽ってみせる美摩だったが、実のところ、八掛重ねの〈結界〉でも、
玄紺を封じられるかどうか、懸念を抱いていた。
結果は、すんなりと、策が成功している。
そのことに安堵しつつも、逆に訝しみ、美摩は、玄紺の様子を
じっと観察した。
〈結界〉に封じられ、その内で暴れる様は、精神に余裕なく、八つ当たりでも
しているかのように見える。
玄紺は、常に、女を嘲弄し、下卑た振る舞いしかせぬ下郎だが、
千年以上生きていることから滲み出る、超然とした雰囲気を持っていた。
しかし、今の玄紺からは、その雰囲気を、微塵も感じない。
玄紺が〈結界〉の中で暴れるその姿は、焦りからの、無軌道な動きに見える。
「真理亜は、どこにいるの!?」
美摩は、端的に、最も重要な問いを投げつけた。
「───真理亜っ!? あの童女っ!!! 美摩っ!!! おまえかっ!?
おまえが育てたのかっ!? いったい、どうやって、あんな化け物を
作り出したのだっ!?!?!?」
返ってきたのは、無秩序な言葉。
にもかかわらず、美摩は、直感で悟る。
この男は、〈聖女〉である真理亜から、敗走してきたのだ。
おそらく、圧倒的な〈力〉を見せつけられて。
それゆえの、“化け物”呼ばわり。
………美摩は、玄紺に対して、本より、怒りと憎しみを抱いている。
そのうえでなお、玄紺が真理亜を“化け物”と呼ばわりしたことは、美摩の、
さらなる逆鱗に触れた。
ああ、きっと、“化け物”にしか見えないのだろう。
おまえの前に立ちふさがって、比類なき〈力〉を振るう、子供の姿は。
『作り出した』? 違う。
あの子は、真理亜は、強くあろうと在り続けているに過ぎない。
自分は、この半年以上、ほんの少し、手助けをしただけだ。
あの子の強さは、才能に加えて、弛まぬ努力の賜物。
自分は、ずっと見てきている。
命を落とすかもしれぬ〈運命〉を知りながら、自分や従妹、見知らぬ
少女らを守ろうと決意して、努力を続ける、幼いあの子の気高さを。
────その気高きあの子を、“化け物”と呼んだか………!!!
「玄紺っ!!! おまえだけは、絶対に許さないっっっ!!!」
“母”の激情と共に、美摩は、〈鳳凰の杖〉を、布から解き放った。
「……っ!?!?!? 馬鹿なっ!!! まさか、それは────!?!?!?」
玄紺が、その黄金の杖を見ただけで、驚愕の声を上げる。
「そう、これは、〈鳳凰の杖〉っ!!! 真理亜、あの子が甦らせた、
真渡園家の〈神器〉っ!!! 玄紺っっっ!!!
おまえは、〈聖女〉であるあの子の〈力〉によって、滅ぶのよっっっ!!!!!」
美摩はそう言い放って、古代魔法真言を詠唱した。
それに呼応し、すぐさま〈鳳凰の杖〉が、黄金の輝きを放ちはじめる。
「まっ、待て、美摩───っ! やっ、やめろっ……!」
〈結界〉の中の玄紺は、制止の声を上げながら、美摩の体内に仕込んだ肉腫を
操作しようと、右手を動かした。
だが、思った反応が返ってこず、愕然とする。
真言を唱え終わった美摩が、それを見てとり、嘲罵の叫びを飛ばした。
「残念ね!!! おまえの肉腫なぞ、とっくに消し去ったわっっっ!!!」
「っ! お、おのれ……っ!」
玄紺が歯噛みするような声を出した時、〈鳳凰の杖〉が放つ黄金の光が、
火柱のごとくうねり、拡がる。
黄金の、大火炎であった。
それが、巨大な形を成していく。
神獣──────鳳凰の姿に。
「うぅっ……!?」
玄紺が、〈結界〉の中で、後ずさりした。
眼前に現れた黄金の鳳凰が、逃れる術のない、おのれを滅ぼすものだと、
理解してしまったからである。
「漱祗っ!!!」
「はいっ!!!」
美摩の呼びかけに応え、〈結界〉形成の一翼を担う漱祗が、
美摩の正面にある〈結界〉の一部を、解除した。
「〈鳳凰浄火焔〉っっっっっっ!!!!!!」
美摩が、〈結界〉内の玄紺に向けて、黄金の鳳凰を、解き放つ。
黄金の鳳凰は、その炎の翼をはためかせるや、怒涛のごとき爆炎の奔流となって、
玄紺へと襲いかかった。
「ぐがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛────────────!?!?!?!?!?!?」
逃げ場なく、玄紺は、黄金の火焔に噴き飛ばされ、焼かれ続ける。
〈結界〉の形成を続けている、漱祗ら〈退魔法師〉は、そのあまりの威力に、
〈結界〉が砕けぬよう、魔力を振り絞らなければならなかった。
鳳凰の火焔が〈結界〉外にもれれば、要らぬ二次被害を生むことは、必至である。
〈結界〉の形成は、〈鳳凰の杖〉による魔法の破壊力も見込んでのことであった。
「おのれおのれぇぇぇっっっ!!! 〈聖女〉めがああぁぁぁぁぁっっっっ!!!
ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────────っっっっ!!!!!!!!!!!!!」
玄紺が〈聖女〉を呪うような絶叫を上げたあと、火焔の爆音だけが、洞窟一帯に
轟き渡り続ける。
………やがて、黄金の火焔が収まった〈結界〉内には、何も残されていなかった。
〈屍霊鬼〉の気配も、もはや、感じられない。
黒い霧────〈禍威魔〉の霧と化していた玄紺は、浄化の火焔によって、
完全に焼き尽くされたのである。
ここに、真渡園家の闇、千年以上暗躍を続けてきた魔人は、
討ち滅ぼされたのだった。
「やった……やりました………姉様、お母様────────」
美摩は、祈るように、瞑目する。
怨敵を討ち果たしたことに、万感の思いが、美摩の心に去来した。
が、それも束の間、美摩は、目を開き、漱祗らに、指示を出しはじめる。
「漱祗。念のため、ここに、敵の増援警戒で、ふたり残すわ。───あとは全員、
私に続きなさい」
玄紺を倒した余韻に、浸っている時間はない。
一刻も早く、真理亜の元へ向かわなければならないのだ。
美摩たちは、洞窟の奥へと、警戒しながら、突き進む。
しかし、道には、拍子抜けするほど、敵の姿はなかった。
そして、洞窟の最奥と思しき、広大な空間に、辿り着く。
「これは、いったい………」
魔道の青白い炎に照らされたその光景を目にして、美摩は、困惑した。
洞窟の地面に、数十人の、蛇の仮面を被った黒衣の男たちが、倒れ
散らばっていたのである。
そのほとんどは絶命しているようだが、まだ、息がある者もいるようであった。
美摩は、それら男たち屍の先────暗いがらんどうの空間の前に横たわる、
白い、小さな影を見つけた。
美摩の心臓が、止まりそうになる。
「真理亜ぁぁぁぁぁぁ────────────っっっっっっ!!!!!!!!」
絶叫して、美摩は、その小さな影……真理亜へと跳び駆け寄った。
「真理亜っ!!! 真理亜っっっ!!!」
美摩が真理亜の体を揺さぶり、激しく呼びかけるが、反応はない。
すぐさま真理亜の呼吸を確かめれば、わずかに気息が乱れている。
美摩は、即座に、治癒魔法を真理亜に施した。
……最上位〈退魔法師〉である美摩による、上級治癒魔法は、確かにその効果を
発揮したはずなのだが、真理亜が目を覚ます気配はない。
逸る気持ちを抑えて、美摩は、〈鳳凰の杖〉を霊的に収納したあと、
素早く真理亜の小さな体を抱き上げる。
「屋敷に戻るわ。漱祗と叶夜以外の者は、ここに残って、生きてる男たちを
拘束! 死なない程度に治癒魔法を掛けて、ここで何が起こったか、
洗いざらい吐かせなさいっっっ!!!」
「「「「承知いたしましたっ!!!!」」」」
命令を下した美摩は、元来た道を、飛行魔法で、文字通り、飛んで返しはじめた。
─────大丈夫、大丈夫よ。
この子は、死なない、絶対に、死なせない………!!!
美摩は、意識のない真理亜の顔を見つめて、そう強く思い続ける。
美摩にとって、真理亜は、姉の遺した愛し子というだけでなく、もはや、
もうひとりの娘であった。
真理亜が〈聖女〉であるということや、その〈運命〉のことなど、
美摩の頭の中になく、ただ、大切な子供を案じて、ひたすら宙を駆け抜ける。
その姿こそ、真理亜にとって、
もうひとりの“母親”そのものであった………………………………………………。
母は強し……(戦闘力)
さておき、はたして真理亜は、無事なのか?(←しらじらしくに)




