M三九 いつくしみクソバード!鳳凰交信没交心!
【前回までのあらすじ】
絶沌をヌっKOROした真理亜が意識不明でバタンキュー。
美摩お母さんがマッハで屋敷に真理亜を連れ帰ったよ。
真渡園邸の医務室。
真理亜は、そこで改めて、最上級の治癒魔法と、医学的処置を施された。
しかし、真理亜の意識は、戻らない。
美摩たちが、それ以上の手の打ちようのないまま、真理亜の昏睡状態は、
続いている。
地下洞窟に残してきた部下たちが、〈那由他の蛇〉の生き残りから訊き出した
情報によると、玄紺は、真理亜を生贄の〈器〉とすることで、
〈妖神〉絶沌を復活させようとしていたらしい。
だがそれは、〈聖女〉である真理亜の聖性の前に、失敗に終わった。
〈那由他の蛇〉の生き残りたちの話を統合すると、そういうことらしい。
その結論から、美摩は、あの玄紺の、余裕を失った狼狽ぶりに、納得する。
やはり、玄紺は、真理亜に敗れ去っていたのだ。
自分の手で滅ぼしただけでなく、精神的にも、真理亜が圧倒していたという事実に、
胸がすく思いになる美摩。
が、その事実を知っても、真理亜を昏睡状態から救う手立てにはならない。
不安と焦燥感が、美摩の心の中で、募っていく。
そこへ、メイドのひとりが、来訪者の報せを告げてきた。
「奥様。〈神導教〉祭司長様が、お見えになっておられます」
「っ! 漱祗っ! すぐにお通ししてっ!」
美摩は、弾かれたように、そう漱祗へ命じる。
叶夜と叶穂、娘たちの専属メイドふたりには、不測の事態における
緊急避難先として、〈神導教〉祭司長に保護を求めるよう、
常日頃から言い含めていた。
そして、今夜、実際に叶穂が、兎萌を連れて、祭司長の下へ避難しており、
先ほど、美摩自身が、祭司長に連絡し、真渡園邸襲撃事件のあらましを
伝えたのである。
その際に、真理亜の昏睡状態のことも伝え、助力を願っていた。
「……真理亜さんは、儀式によって、〈妖神〉絶沌が復活するための
生贄の〈器〉にされたところ、逆に、絶沌の残滓である触手群が
消滅した、ということでしたね」
医務室に通された祭司長は、真理亜の容態を診たあと、そう確認してくる。
「はい。〈那由他の蛇〉の生き残りの証言です。────真理亜の、
〈聖女〉の〈力〉が、〈妖神〉を滅ぼしたと、そう推察しているのですが………」
「おそらく、そうなのでしょう。……ですが、その滅ぼす過程が、真理亜さんの
すべてを、著しく損耗する結果を引き起こしているに違いありません」
「しかし、我々は、既に治癒魔法を、何度も───」
「肉体は、いえ、物理的には、それで完全に癒されたと思います。けれど、
〈妖神〉が侵入し、蝕もうとしたのは、真理亜さんの〈魂〉なのです。
……真理亜さんの、内宇宙領域で熾烈な戦いが行われ、真理亜さんが、
勝利し、〈妖神〉の〈魂〉は、滅び去った。そこまではいいでしょう」
祭司長は、一度言葉を切り、ベッドの上で眠り続けている真理亜を見た。
「問題は、〈妖神〉が持っていた魔力です。〈禍威魔〉とはいえ、〈神〉の名を
冠する存在の魔力です。どれほどの魔力量か、想像もつきません」
「! まさか、〈妖神〉の魔力が、真理亜の〈魂〉の中に───!?」
「ええ。莫大な魔力が、〈妖神〉の消滅と共に、真理亜さんの〈魂〉へと、
大瀑布のごとく注ぎこまれたはずです。……人間の〈魂〉が、それに耐えうるのか
どうか───真理亜さんの意識が戻らないのは、真理亜さんの〈魂〉が、限界を
越えてまでも、〈妖神〉の魔力をすべて受け入れようとしているためでしょう」
「そんな───それでは、どうすれば………」
祭司長の見立てに、美摩は、言葉を失う。
〈退魔法師〉界の御三家、真渡園家当主であっても、〈妖神〉を滅ぼした代償に、
〈聖女〉が、このような事態に陥るとは、予測もつかない。
まして、その対処方法など、知りうるはずがあろうか。
「落ち着いてください。大丈夫ですよ、美摩さん。あなたはすでに、真理亜さんを
救う〈力〉を、手にされているのですから」
祭司長は、狼狽える美摩に、穏やかな笑みを浮かべてみせる。
「真渡園家の〈神器〉である、〈鳳凰の杖〉。その〈力〉は、魔の存在を
浄化し、焼き尽くすだけにあらず。鳳凰の、神聖な〈再生〉の権能も、
宿しているはず。その〈再生〉の〈力〉で、真理亜さんが〈妖神〉の魔力を
受け入れようとしている働きを、補助してあげるのです」
「〈鳳凰の杖〉に、そのような〈力〉が───!?」
祭司長の教示に、驚きと希望を覚えると同時に、恥じ入ってしまう美摩。
真渡園家において、〈鳳凰の杖〉の使用法は、ほとんど失伝してしまっている
とはいえ、部外者である〈神導教〉祭司長のほうが、〈神器〉に精通している
ということは、汗顔の至りだ。
ともあれ、今は、おのれの〈神器〉に対する不明を恥じている時間はない。
美摩は、すぐさま〈鳳凰の杖〉を顕現させ、その先端を、そっと真理亜の額に
あてがう。
「そう───そして、念じてください。真理亜さんの安寧と、回復を。
〈鳳凰の杖〉は、きっと応えてくれるはずです」
祭司長の言葉にうなずきを返して、美摩は目を閉じ、真理亜の無事を願った。
“〈鳳凰の杖〉よ。真理亜を、助けて!!! 私の娘を、救って……!!!”
“母”の願いに呼応し、〈鳳凰の杖〉が、黄金の輝きを放つ。
その輝きは、真理亜の額に伝い、すぐに、黄金の光が、真理亜の体を
包みこんだ。
“真理亜っ!!! 頑張るのよ……っ!!!”
美摩は、ただひたすらに、真理亜を想い、祈り続ける──────。
────────────真理亜の〈魂〉内部、“内宇宙”領域。
祭司長の見立ては、
『正解ではないが、当たらずとも遠からず』といったところであった。
真理亜の〈魂〉は、〈妖神〉絶沌の〈魂〉が内包していた魔力だけでなく、
その膨大な魔力を生み出し続ける生成能力まで、既に、我が物として、
取り込み終わっている。
現在は、絶沌から奪った権能のすべてを、真理亜が使用可能なものとして、
定着させていっている状態にあった。
権能の中には、失われた古代魔法の数々までが揃っており、それらの定着が
完了する時間となると、一朝一夕では済まない。
たとえるなら、膨大なデータ量で組まれたアプリ群を、一台のPCの中で、
一斉にインストールを開始しはじめたようなものである。
そのPCに掛かる過負荷が、途轍もないものになることは、明白だ。
いかにその機体が高性能だったとしても、機能停止、最悪の場合は機体自体が
破損する可能性もある。
…………だが、そんな凄まじい過負荷を美味しく堪能してしまうのが、
この転生真理亜であった。
“OH……♡♡♡ YES♡♡♡ YES♡♡♡
UMMMMMMMMMM………♡♡♡♡♡♡”
洋ものセクシー女優よろしく、襲い来る激痛に、悦って忘我状態に
浸りまくっている。
現実世界にて、心の底から心配している美摩に、土下座して謝れ!、と、
ビンタしたくなる有様であった。
そんな有様だが、〈魂〉に、直でダメージが入っているため、実際には、
命の危機にあることは、確かである。
が、被虐に歓喜する真理亜の〈魂〉は、死に瀕して急成長するサ●ヤ人のごとく、
より強靭な魂魄へと、進化していっていた。
加えて、〈禍威魔〉の〈神〉とはいえ、〈神殺し〉を成したことにより、
〈世界律〉が、真理亜の存在を〈半神〉へと昇華させてしまっている。
正式な〈聖女〉認定をすっ飛ばしての、〈半神〉認定であった。
当然ながら、『愛しき花は門に咲く』本編に、そんな設定は、どのルートにも
存在しない。
そもそも、絶沌が、主人公たちによって滅ぼされること自体、
原作には存在しないのである。
悪役令嬢・真渡園真理亜が、死亡、もしくは奴隷or実験体生活ルート送り等で
悲惨な結末を迎えた場合、絶沌は、完全復活しない。
逆に、真理亜が、この世のすべてに絶望し、なにもかもを憎みだすルートに
進めば、絶沌は完全復活するが、その結末は、主人公たちの手で
再封印されるというもので、討ち滅ぼされる描写は、やはり、存在しないのだ。
今さらながらだが、この転生真理亜、あまりにも強引にマイウェイ。
独自の未来を、全速力で突っ走ている。
破滅フラグの大前提、〈妖神〉絶沌を、『サウナで整っちゃっお♡』みたいな
キャピOL感覚で、大撃滅してしまうとは。
これで本人は、破滅に向けて邁進しているつもりなのだから、
へそで茶が沸く話であった。
“……きこえますか…真理亜…聞こえますね…? 今…あなたの…心に…
直接呼びかけています……”
そんな真理亜に、突然、呼びかける声。
絶沌が消えたこの内宇宙は今、余人の存在しない場所と思っていたから、
真理亜は、びっくりサンダーマウンテンである。
“えっ!? ど、どなた様!?”
真理亜は、思春期のひとりハッスルを覗かれたような、極めつけに恥ずかしい
思いになりながら、誰何した。
“私は……鳳凰…兎萌の中で眠っていた〈鳳凰の杖〉に宿りし存在……貴方が
覚醒させてくれた存在です……可哀想に…真理亜……幼い貴方には…とても辛い
苦しみと痛みだったでしょう……”
真理亜は、声と共に、黄金の輝きを放つ鳳凰の存在を、改めて確認する。
どうやら向こうは、自分の置かれた状況を、把握しているらしい。
それでいて、自分がスーパー愉悦タイムに突入してたことには、
気づいていないようだ。
セーフ!、と、真理亜は、ほっと胸を撫で下ろす。(内宇宙なので胸はないが)
“ですが……私が来たからには…もう大丈夫ですよ……私が…貴方の〈魂〉の
助けとなって……この苦しみ痛みを打ち消し…貴方が新たな〈力〉と共に覚醒る
時間を…短縮してあげますからね……”
“えっ、困りますっ!”
“えっ…?”
鳳凰の言葉に、思わず素で本音をもらしてしまった真理亜。
あっちゃ、しまった、口が滑った~ィ!、と、焦ったが、もう遅い。
“なにが…困るのですか……?”
“あっ、その……それは───”
鳳凰に問い質され、真理亜は、口ごもるしかなかった。
『もぉ~ちっとばっかし、苦痛タイムしてたいンですワ』なんて、さすがの
真理亜も、神獣に対して、性癖を暴露するわけにはいかない。
しかし、ここは真理亜の内宇宙。
その感情は、迷いの感情、〈逡巡〉として、鳳凰に伝わってしまう。
“そう……現実の世界に戻ることを…迷っているのですね…真理亜……”
“えっ? いや、そんなことは───”
“隠さなくてもよいのです…貴方はまだ…幼い……恐ろしい未来が待つ現実に…
戻りたくないと迷うのは…とても自然なことです……”
“えっ、あの、だから、そんなことは”
“よいのです…すべてわかっていますよ……貴方のもうひとりの母…美摩の目を
通して…貴方が〈聖女〉たらんと…ずっと努力しているのを…私は…ちゃんと
見てきましたからね……貴方は…本当に…がんばっています……”
鳳凰は、慈しみあふれる心で、真理亜に、労わる言葉を伝えてきた。
一方、伝えられた真理亜は、アカンわ~ヒトの話聞いてくれんわ~この畜生~、
と、ちょっぴり諦念を抱いてしまう。
当然ながら、その諦め気味の感情も、鳳凰に、きっちり伝わった。
“やはり…来るべき未来に…希望を持てないでいるのですね……けれど…貴方は
…立ち向かわなくてはなりません…それが…〈聖女〉の〈運命〉……恐れないで…
真理亜……貴方こそが…人々の希望なのですから……”
“い、いえ、鳳凰様? わたくしは、〈聖女〉ではないのですが───”
“〈聖女〉になりたくない…〈運命〉を否定したい気持ちもわかります…人間は
…死を恐れるもの……勇気と…本当の愛を…家族と…これから出会う人々との
絆によって…育んでいくのです……さすればきっと…真に〈聖女〉として…
さらなる〈力〉に覚醒ることができるでしょう……”
イヤだわこの鳥、本当に話を聞いてくれない。
真理亜は、自分のことを遠い棚に上げて、鳳凰の聞く耳持たなさに、辟易する。
手●治虫の『火●鳥』のような、人間を気分で弄ぶようなぐう畜では
ないようだが、こっちはこっちで、人間の都合など、やはり考えていないようだ。
一向に自分の話を聞こうとせぬ鳳凰を、あまりありがたみのない上位存在、
と、心の中で分類しておく真理亜である。
その冷淡な思考は、悟りめいた〈無心〉の感情として、鳳凰に伝わった。
“よろしい……覚悟が…できたようですね……”
なにやらよくわからないが、鳳凰の納得した様子に、真理亜は、あっハイ、
ではそれで、と、虚心坦懐しておくことにする。
“現実の世界では…もうひとりの母…美摩が…貴方が起きるのを…心待ちにして
います……”
“美摩お姉様……いえ、美摩お母様が……”
鳳凰に言われ、今さらながらに、美摩の心情に想いを馳せる真理亜。
そういえば、自分は、竿役悪漢に攫われていたのだった。
これ以上、心配はさせちゃなるまい、と、真理亜は、現実に戻る決意を固める。
確かにどうしようもない変態である真理亜だが、常に(自分以外の)女性の幸せを
願い続けているその精神だけは、間違いなく紳士のものであった。
その心意気を、またまた鳳凰が、高潔純真な感情として、感じ取る。
“ああ……真理亜…やはり貴方は…未来の〈聖女〉……成長した貴方が…
私の〈杖〉を手にして〈禍威魔〉と戦うその時を…楽しみにしていますよ……”
そんな鳳凰の言葉と共に、柔らかく、温かい光の波が、真理亜の内宇宙に、
広がっていった。
それにより、真理亜の〈魂〉を襲っていた過負荷は、急激に軽くなり、なおかつ、
すべての権能の定着も、円滑に全うされていく。
そして、真理亜は、自分の意識が、浮上していくのを感じた。
“───ありがとうございます、鳳凰様”
本当のところは、もうちょっと被虐を堪能していたかったのだが、助けてくれた
ことには、感謝せずばなるめえ。
なんだかんだ、仁義には篤い真理亜であるから、そのようにきっちりと、
感謝の言葉を送る。
“いいのですよ……それでは…また会いましょう…真理亜………”
鳳凰の、いつかの再会を願う挨拶のあと、
真理亜の意識は、光に満たされて─────────────────────。
上位存在は人の心の機微が理解できない、ハッキリわかんだね(今回はわからなくて助かっているけれど)
次回、最終話です(・ω・)




