M三五 〈妖神〉復活
本編世界が“鬱伝奇百合鬼畜エロゲー世界”であるという前提、いちおー、忘れないでクレヨン☆
……主人公がアレすぎて、書いてる本人も忘れそうですけども(^∀^;)
「……っ!!! 美摩お母様───っ!!!」
美摩の耳は、確かに、真理亜の、その悲鳴を拾っていた。
真理亜の呼び声が、気絶していた美摩に、覚醒を促すが、
その意識を明瞭とさせるには、至らない。
それでも、“母親”としての本能か、意識はなくとも、
『早く目を覚まさなければ!』
という焦燥感と衝動が、黒く沈んでいる意識の底で、もがき続ける。
だが、そうしても、美摩がはっきりと目覚めたのは、玄紺が立ち去って、
およそ一時間後のことであった。
思うように体が動かず、美摩は、テーブルを支えにして、よろよろと立ち上がる。
──────真理亜は、玄紺に連れ去られてしまったのか。
兎萌は、叶穂が連れて逃げたはずだが………、どれくらい時間が過ぎているのか。
広間には、電気の明かりが戻っていた。
しかし、屋敷の者が誰も、主である自分の下に来ていない、ということは、
いまだ玄紺に襲われた状態から、脱していない、ということであろう。
そう判断した美摩は、漱祗だけでも起こして、玄紺のあとを追うべく、
ふらつく体を、無理矢理動かそうとした。
そこでふと─────テーブルの上に散らばっていた、メッセージカードが、
目に入る。
真理亜と兎萌が、チョレートと共に、美摩に差し出してきたものだった。
そんな場合ではないというのに、知らず、美摩は、弱々しい手つきで、
カードを開いていく。
【 】
【お母さまへ 】
【 】
【兎萌の、お姉さまといっしょにいたいというお願いを】
【聞いてくださりありがとうございます。 】
【学園に入学してお姉さまといっしょにがんばって 】
【いきますので、魔法をいっぱい教えてください。 】
【大好きです。 】
【 】
【 兎萌より】
【 】
【 】
【美摩お姉様へ 】
【 】
【お母様を亡くしたわたくしを、兎萌ちゃんと一緒に、】
【我が子のように育ててくださり、本当にありがとう 】
【ございます。お姉様のことは、いつも、もうひとりの】
【お母様のように思っています。お姉様に、真渡園家 】
【には、立派な娘がふたりいる、と思ってもらえる 】
【よう、これからも頑張ってまいります。至らない 】
【ところがありましたら、ちゃんと叱ってやって 】
【くださいましね。 】
【 】
【 愛をこめて 真理亜より】
【 】
ふたつのメッセージを読み終えたあと、美摩の目から、大粒の涙が、ポロポロと
滴り落ちた。
「う、う、うううううううぅぅぅぅぅ────────────────!!!」
ふたりの子を、玄紺の魔の手から防ぎきれなかった、おのれの無力さと悔しさに、
美摩は、喉の奥から、無念の嘆きをほとばしらせる。
子供ふたり、まともに守れずして、何が真渡園家の当主か、何が母親か。
特に真理亜、あの子を、絶対に〈運命〉から守ってみせると、そう誓っていた
というのに………!
「うぅぅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛───────────!!!」
美摩は、苦鳴のごとき声を上げて泣き、膝から崩れ落ちた。
亡き姉から託された姪子。
暗い未来………その道で命を落とすかもしれぬというのに、すべてを守ろうと
決めている幼子。
その子の、助けにすらなれぬというのか。
真白きあの子が穢されてしまうのを、防げぬというのか。
不甲斐なさ極まるおのれ自身に、美摩は、怒りと悲しみがないまぜになった涙を
流し続ける。
────────────〈力〉が欲しい。
真理亜、あの健気な“娘”を守ることのできる、〈力〉が…………!!!
涙に塗れた美摩が、心の底から、そう願った時。
美摩の体の内から、大鳥の鳴き声が、沸き起こった。
カキィィィィィィィィィィィィィィィィィ──────────────ン!!!
そして、けたたましい金属音が鳴ると同時に、黄金の光が、広間に満ちあふれる。
美摩は、涙に濡れた目を、見張った。
〈鳳凰の杖〉が、美摩の眼前、その宙に、顕現したのである。
〈鳳凰の杖〉顕現に必要な、魔法真言を唱えていないというのに、何故……!?
美摩は、驚くあまり、わずかの間、呆然としてしまった。
(〈鳳凰の杖〉が、自らの意志で顕現したというの!?)
自分の願いを聞き、〈鳳凰の杖〉が、〈力〉を貸してくれる────────。
そう思いかけた美摩だが、心の中で、その願望を、否定した。
(〈鳳凰の杖〉は、きっと、私を叱咤するために、その姿を現したんだわ)
涙を拭い、美摩は、〈鳳凰の杖〉を手に取り、目を閉じる。
────そうだ、なにを腑抜け、呆けていたのだ。
“母親”ならば、すぐさま立ち直り、“子”を救うため、全力を尽くせ……!
美摩は、かっと両眼を見開くと、杖の底部先端を、おのれの下腹に突き当てる。
それから、意識を集中し、体内の異物を、探り当てた。
そのまま、〈鳳凰の杖〉が持つ、魔の存在だけを焼き払う浄化の炎で、玄紺が
美摩の体内に潜ませていた肉腫を、消滅させる。
「うぐぅっ……!」
さすがにその余波による内臓への損傷なし、というわけにはいかなかったが、
即座に治癒魔法を使い、肉体を全快させた。
美摩は、続けて、倒れている漱祗に近づき、同様の治療を施す。
「あがっ!? あっ、あっ、あぁ……お、奥様────?」
漱祗は、激痛と、魔法で癒される感覚で目を覚まし、自分を見下ろしている主に、
おぼつかぬ意識のまま、呼びかけた。
そんな漱祗に覆いかぶさり、美摩は、無言で唇を重ねる。
「んっ、んぅ───っ…………は、ぁ……お、奥様………」
「────真理亜がさらわれたわ。玄紺を、追うわよ」
唇を放し、漱祗と抱き締め合ったあと、美摩は立ち上がり、簡潔に、現状と、
次に取るべき行動を口にした。
漱祗は、数秒、目を瞬かせたが、我に返ると、すぐに立ち上がる。
「承知いたしました。───不様を晒してしまい、申し訳ありません、奥様」
「そういうのは、あとよ。叶夜を起こして。今、動ける人間だけを集めて、
可能な限りの武装を急がせなさい」
頭を下げる漱祗を制して、美摩は、最優先の指示を下した。
「承知いたしました」
漱祗は再び一礼すると、いまだ気を失ったままの叶夜を起こしにかかる。
美摩は、自分の携帯端末を取り出すと、ひとつのアプリを起動させた。
GPS発信機の信号を、追跡するアプリである。
─────今夜、真理亜と兎萌に贈ったペンダントには、ふたりの安全のため、
最新の超小型GPS発信機を、仕込んでおいたのだった。
(まさか、贈ったその日に、機能を使うことになるなんてね)
万が一の時のために、と、安全の備えで仕込んでおいた発信機だが、
それが即日、効果を発揮することになろうとは。
発信機が真理亜を救う術となった、その僅差のタイミングに、
美摩は、肝が冷える。
もし、真理亜と兎萌に、ペンダントを着けてあげていなかったら、こうして
意識を取り戻していても、真理亜の行方は一切わからず、手詰まりになっていたに
違いない。
おのれの防犯意識を、おのれで褒めてやりたい気持ちになりつつ、美摩は、
端末の画面操作に集中した。
その直後、画面に表示された地図の場所に、驚愕する。
「この場所は────!?」
漆黒の闇………その空間に、青白い炎が灯った。
その炎に続けて、ひとつ、またひとつ、と、炎が生じていく。
青白い炎の列に照らし出された空間は、巨大な洞窟であった。
天井は円蓋状で、日の光が差し込む隙など、どこにもない。
地面が整地されている以外は、すべて、天然の地下空洞である。
───────いや、ひとつ、明らかに、人の手による、構造物があった。
洞窟の最奥の壁、そこに、海波を思わせる装飾の施された、
巨大な、両開きの石扉である。
全幅は八メートルほどで、その高さは、十メートルはあろうか。
その巨大な石扉の前に、黒衣の男たちが、集っていた。
その数、四十八人。
総じて、蛇を模した仮面を被っている。
その仮面の男たちが、突然、一斉に、ひざまずいた。
ゆらり、と、男たちの首領である、玄紺が、洞窟に姿を現したのである。
その両腕には、意識を失った美幼女……真理亜を抱えていた。
真理亜の身は、行衣と呼ばれる、白の衣に着せ替えられている。
「見よ。今代の〈聖女〉は、我が手の内────今宵、この〈聖女〉を生贄の
〈器〉に捧げ、我らが〈神〉、絶沌様を、この世に呼び戻す……!」
玄紺の言葉に、仮面の男たちの間で、感動のどよめきが広がった。
そう、男たちは、魔道秘密結社〈那由他の蛇〉の一党なのである。
〈那由他の蛇〉の悲願は、〈禍威魔〉の〈神〉、〈妖神〉絶沌を復活させ、
女性優位の社会を破壊することにあった。
その悲願が、今、まさに成就しようとしている……!
仮面の男たちの興奮は、かつてないほどに高まっていた。
「〈扉〉を、開け放てぇいっ!!!」
玄紺が、高らかに命じる。
仮面の男たちは、すぐさま、古代魔法真言の唱和を開始した。
四十八人の、魔力のこもった詠唱に、巨大な石扉が、ゆっくりと、反応する。
ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ………
地響きのごとき音を立てながら、石扉が、左右に横滑りで開いていった。
……………石扉の開かれた、その中、その広大な空間に、在るもの。
それは、赤黒い表皮の、肉塊。
夥しい数の、巨大な触手の群れ。
それらが、地面を、壁を、天井を──────すべて、埋め尽くしている。
触手群の表皮は、粘質のある液体を分泌しているのか、扉外の青白い炎に
照らされ、ぬらぬらとしたてかりを見せていた。
そのすべての触手は、おのれらの息づきを示すかのように、蠢いている。
およそ人が見るだにおぞましく、冒涜的な光景であった。
「さあ、我らが〈神〉よ!!! 貴方様の新たな〈器〉にございます!!!
どうぞお受け取りくださいませ!!!」
玄紺が、触手の群れに向けて、真理亜の体を差し出して見せる。
すると、赤黒い触手が複数伸びてきて、真理亜の体を、絡め取った。
そのまま、扉の奥、おのれらの棲み処へと、真理亜の体を、引き込んでいく。
次いで、扉の奥から、他の触手群が、魔法真言の唱和を続ける男たちに
向かって、伸び出ていった。
四十八人の男たちのその身に、赤黒い触手が、巻き付いていく。
その途端に、異変が起こった。
仮面の男たちの、魔法真言の唱和が、崩れていく。
────赤黒い触手に、男たちの生命力と魔力が、
吸い取られていっているのだった。
だが、それでも、男たちは、魔法真言の詠唱を止めない。
おのれの命を差し出して顧みぬほどに、〈妖神〉絶沌を、狂信しているのである。
その狂信に応えるかのごとく、扉の奥、触手の群れから、黒い靄が
生じはじめた。
暗い闇の中にあって、なお黒い、その漆黒の靄は、次第に渦巻く気流となって、
触手に絡め取られた、真理亜の体に──────流れ込んでいく。
真理亜の体が、ビクン!、と、跳ねた。
「我らが〈神〉!!! 絶沌よ!!! いざ、降臨なされませ!!!」
玄紺は、唾飛ばし、涎を垂らしながら、絶叫する。
……そう、この巨大洞窟の扉の先は、〈妖神〉絶沌が封印された、
秘密の石室であったのだ。
石室を埋め尽くす赤黒い巨大触手の群れは、魂の抜けた、
〈妖神〉の残滓のような存在。
それら触手群に、生命力と魔力を与えることで、〈妖神〉絶沌の魂を、物質世界に
復活させる呼び水とし、その魂を〈器〉に容れる──────。
それが、この降臨の儀式であった。
真理亜こそが儀式に必要な、魔力に満ち溢れた“生贄”………〈器〉なのである。
黒の気流はいよいよ激しさを増し、無数の竜巻となって、真理亜の体へと、
流れ込んでいった。
触手に拘束された真理亜の体は、それを拒絶するように、大きく跳ね続けている。
あたかも、大嵐の海に翻弄される小舟のようだった。
やがて………………真理亜の体への、“黒”の流入が、終わる。
真理亜の体の痙攣と、男たちの詠唱も止まり、静寂が、訪れた。
“────────────還ッタゾ…………………………………………………”
真理亜の口から、真理亜のものではない声が、発せられる。
その声を耳にして、玄紺の顔に、勝利の笑みが浮かんだ。
千年以上の宿願が成就した、と、確信したのである。
〈禍威魔〉の〈神〉、〈妖神〉絶沌が、この世に、復活した。
〈妖神〉が復活したー!?
うわー!もーダメだー!(@きくたけリプレイモブ)




