↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/42

M三一 ヴァレンタインの夜

世界各国に、昔からそれぞれ〈聖女〉はいたのです、たぶん。

よく考えてませんけど(・∀・)

〈聖誕祭〉の鑑定儀式を終えたその後。

真渡園まどぞの()は、新年をつつがなく迎え、一月も過ぎ、二月の半ばとなった。


二月十四日。


この世界で、この日は、古代西洋の〈聖女〉、ステラシア・ヴァレンタインが、

愛する女性に告白した時、甘い菓子を贈ったことにちなんで、女性が、

したしい女性や、愛する女性にチョコレートを贈る日、

“ヴァレンタイン・デー”となっている。


日本でもこの日は、定番の祭日として、定着していた。

全国の街で、女性同士のカップルたちが、それぞれの恋愛を謳歌している。


その日の、真渡園まどぞの()の夕食では、広間にて、

ささやかなパーティーが開かれていた。


“ささやか”と言っても、そこは大貴族も同然の真渡園まどぞの()

美摩、真理亜、兎萌の三人は、正装し、さながら高級レストランでの食事会の

ようなおもむきである。


これは真理亜と兎萌、幼いふたりが、社交界におけるパーティや食事会での

振る舞いを学ぶ、予行練習も兼ねているのだった。

しかし、今夜のこの場に、習い事のテストのような、厳しい雰囲気はない。


真理亜が屋敷にやってくるまでにはなかった、なごやかな空気に満ちていた。


メインディッシュが済み、デザートが運びこまれるというタイミングで、真理亜と

兎萌が席を離れる。

そして、配膳スタッフのそばに行き、一緒に、デザートの乗ったワゴンをともなって、

戻ってきた。


何事かと、美摩は、漱祗すすぎに目をやるが、漱祗からは、微笑を返されただけである。


「美摩お姉様、わたくしと、兎萌ちゃんで、料理長に手伝ってもらって、

チョコレートを作ったのです。───どうぞ、お召し上がりください」


「お召しあがりください、お母さま」


にこやかに笑う真理亜と、緊張とはにかみがないまぜになった顔の兎萌が、

美摩に、小さなサプライズを捧げてきた。

差し出されてきた皿の上には、ハート型の、ナッツとドライフルーツがまぶされた

チョコレートが乗せられている。


「「ハッピー・ヴァレンタイン」」


真理亜と兎萌が、声を揃えて、美摩に、それぞれ、折りたたまれて封のされた

カードを差し出してきた。

美摩は、それらがチョコレートと共に贈られる、自分宛てのメッセージ・カード

であることをすぐに察して、顔をほころばせる。


「ハッピー・ヴァレンタイン。……ふたりとも、ありがとう。嬉しいわ」


カードを受け取った美摩の言葉に、真理亜と兎萌は、顔を見合わせて、

笑いあった。

ふたりはそのまま、ワゴンから、ラッピングされた小箱を取り出していく。


「メイド長と、叶夜と叶穂のぶんも作ったの。あとで食べてね。はい、メイド長。

いつもありがとう。そして、いつも、お世話してくれて、ありがとう、叶穂かなほ

叶夜かなや


「いつもありがとう、メイド長。叶夜も、叶穂も、いつも、お世話してくれて、

ありがとう」


「「ハッピー・ヴァレンタイン」」


チョコレートの入った小箱を、そばに控えている漱祗と、叶夜、叶穂らに、

手渡したあとあと、ふたりは、再び声を揃えて、言った。


「ありがとうございます、真理亜お嬢様……! 家宝に致します───!」


「いやだわ、叶穂。すぐに食べてくれないと、だめよ?」


「はい! 宝石を血肉にするつもりで、食べさせていただきます!」


「叶穂ったら。おおげさね」


感激のあまり、息を荒くする叶穂に、苦笑する真理亜。


「叶夜も、すぐに食べてね?」


「はい。のちほど、食べさせていただきますね」


真理亜たちのやりとりを横に、兎萌と叶夜も、同じように笑い合う。


「真理亜、兎萌。こちらにいらっしゃい」


真理亜と兎萌が三人にチョコレートを渡し終えたあと、美摩が、そう呼びかけた。

ふたりが美摩の下にやってくると、漱祗が、美摩に向けて、ベルベット生地で

あつらえられた箱を差し出してくる。


漱祗の手で、箱のふたが開けられると、そこには、ふたつのペンダントが、

収められていた。

円形の、硬貨ほどの大きさで、鳳凰をかたどった真渡園まどぞの()の家紋が、きんと宝石で

あしらわれている。


「───この春から、ふたりとも、菊地神きくちがみ学園初等部に入学します。

少し早いけれど、これは、そのお祝いの品よ。……我が真渡園まどぞの()は、

退魔法師たいまほうし〉の世界でも、高みにある存在。学園には、他の〈退魔法師たいまほうし名家めいか

子供たちも、多数、入学してくるわ。あなたたちふたりは、その子供たちから、

高みにあるだけの能力と、振る舞いを求められるでしょう」


そこで一度言葉を切り、ふたりの目を見たあと、美摩は、話を続けた。


「……真渡園まどぞの()の家の名に恥じぬよう、誇りを持って、学園生活を送ること。

これは、そのいましめを忘れないための品でもあるの。常に、このペンダントを

持つにふさわしい生き方をするように。───わかりましたね?」


「「はいっ」」


ふたりの返事に、満足したようにうなずき、美摩は、口元に笑みを浮かべる。


「よろしい。……このペンダントは、お守りでもあるの。今日から、

肌身離さず、首に掛けておきなさい。さあ、もっとこっちに来て」


美摩は、そう言ってふたりをさらにそばへと呼び寄せると、手ずから、ふたりの

首にそれぞれペンダントを掛けてやった。


「お姉さま、おそろいですね!」


「ふふっ、そうね」


首に掛けてもらったペンダントを見せ合い、無邪気に笑い合うふたり。

その光景に、美摩はまた、りし日の、姉と自分の姿を重ねる。


願わくば、このふたりが、未来でもこうして笑い合っているように──────。


美摩は、心の内で、ひとり密かにそう祈った。

その時である。


真理亜が、突然、弾かれたように、周囲を見渡しだしたではないか。

それに数瞬遅れて、美摩も、異変を感じ取る。


────屋敷内で、なにか、よこしまな魔力が、ひろがった……!


そのことに、漱祗、叶夜、叶穂の三人も気づき、警戒しはじめる。

兎萌は、室内の異様な雰囲気を感じ取ってから、ようやく、屋敷の異変に気付き、

狼狽ろうばいしはじめた。


「…………美摩お姉様。なにか───よくないモノ(・・)が、お屋敷に、

入り込んでいます」


真理亜が、表情を険しくして、そう断言してくる。


「───そのようね」


〈聖女〉であるこの子が、こんな表情で、警告を発するとは。

美摩は、真理亜が初めて見せる警戒心に、事態の深刻さを認識した。


「奥様。回線が切られたようです」


屋敷の警備部に連絡を取ろうと、備え付け電話の受話器を取った漱祗が、

冷静な声で告げてくる。


「叶夜、叶穂。武装して、子供たちを緊急避難ルートへ」


「「承知致しました」」


美摩は、叶夜と叶穂に短く命令すると、席を立ち、真理亜と兎萌ふたりに目線を

合わせるべく、ひざまずいた。


「真理亜、兎萌。叶夜と叶穂の言うことを聞いて、落ち着いて行動しなさい」


「わかりました」


美摩の言葉に、真理亜は、すぐさまうなずいてみせる。

兎萌は、事態が吞み込めず、母を見つめ返すことしかできなかった。


「お母さま………」


「────大丈夫よ。なにも心配いらないわ」


不安げな表情の兎萌に、そう微笑んでみせたあと、美摩は、立ち上がる。


「漱祗、行くわよ」


「はい、奥様」


美摩が、漱祗を連れ立って、広間を出ようとした、その刹那────────。


バツン


そんな音と共に、広間の明かりが、消えた。

突然の光の消失に、兎萌は短い悲鳴をもらし、思わず、

真理亜に抱きついてしまう。


「……漱祗! 光を!」


「はい。ただいま───」


美摩の命令で、漱祗が、魔力光を生み出すべく、手をかざそうとした。


ボッ・ボッ・ボッ・ボッ・ボッ・ボッ・ボッ・ボッ・ボッ・ボッ・ボッ・ボッ


だが、漱祗の動きに先んじて、発火音がしたかと思うと、広間の四方の壁に、

数々の青白い炎が生じる。


「───これはっ……!」


それら青白い炎から、よこしまな魔力を感じ取り、美摩は、戦闘態勢を

取った。


(………ありえないっ(・・・・・・)!)


そう戦慄しながら。






ふ・ふ・ふ・ふ・ふ───────────────────────────






突如、広間中ひろまじゅうに、笑い声が、響き渡る。

嘲笑であった。


『───わずか一年いちねん足らずで、随分と“母親”になったようではないか、

美摩よ………』


嘲笑のあとに、そんな不気味な声が、木霊こだました。

直後、広間の床に、黒くうごめくものが、青白い炎に照らし出される。


それは、黒い霧、としか言えぬものであった。

黒い霧は、またたく間に、ひとつ所に集まり、人の形を取りはじめる。


「叶穂! お嬢様たちを!」


叶夜が叫んで、黒い霧めがけて、跳躍した。

その右手には、常に隠し持っている鉄製の暗器、苦無くないが握られている。


それは、対〈禍威魔かいま〉に有効な〈輝光きこう〉の魔法が付与された業物わざもので、

並の〈禍威魔かいま〉ならば、一撃で消滅せしめる威力を持っていた。


「叶夜! いけません!」


いつも冷静な漱祗が、悲鳴のごとき制止の声を出す。

しかし、遅かった。


「がっ…!?」


叶夜の体が、宙で、かたまる。


『漱祗の娘か───ああ、わしの娘でもあるかもしれんなあ……?』


黒い霧は、いよいよ人体の輪郭を現し、完全に、実体化した。

その右手が、軽く、羽虫でも払うように、振るわれる。


すると、宙で固められていた叶夜の体が、凄まじい勢いで、広間の壁に

叩きつけられた。

そのまま床に落ちた叶夜は、ピクリとも動かなくなる。


叶夜かなやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


兎萌が絶叫して、叶夜へと駆け出そうとするのを、真理亜が、必死に抱き止めた。


その様子を見て、広間に姿を現した人物が、哄笑こうしょうする。


「安心せい……そう簡単に死にはすまいて────。それぐらいには、鍛えて

おるのだろう? 漱祗。……どうした、美摩。儂を見た驚きで、声も出ぬか?」


その人物を見据みすえ、美摩は、唸るように、言葉を絞り出していた。


「おのれ……っ!。この世に迷い出たか、玄紺げんこん────っっっ!!!」

伝奇モノには鬼っょ不死身ジジイが付き物。

型●の伝統にのっとっております(≧∀≦;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。