M三〇 見えない明日に、〈女神〉の祈りを
勘違いによる曇らせは増えるけど、みんなハッピーになるはずだからオールオッケー!
……と、ゆーわけにはいかんのだよなー(^∀^;)
「……真理亜さんが未来において戦うという、邪悪なる〈魔〉について、なにか
話をされているのですか?」
祭司長は、右手を顔から離し、美摩に尋ねる。
「いいえ────側仕えの者に、その未来に対する恐怖と不安を
打ち明けただけで、具体的なことは、あの子は、誰にも話していません…………
私たち家族に、心配させまいとしているのでしょう────優しい子ですから」
美摩は、そう答えながら、涙を拭った。
「ですが………夜、一緒に眠った時、あの子が、無意識にうわ言をもらしたのを、
聞いてしまったのです。『たとえ自分が破滅しても、家族と、他の女の子たちを
守らなければ』と───────」
「───っ。まだ幼いというのに、そこまでの覚悟を……!?」
「……そのうわ言だけならば、ただ、なにか、悪夢にうなされてのことだと、
私も判断したと思います。────祭司長様、今更このようなことを言うのも、
申し訳ないのですが………これからお見せするもののことは、ご内密にして
いただきたく思います。どうか、お願いできますでしょうか」
元より、真理亜の〈予見〉の話も口外するつもりはなかったが、美摩の涙を見た
あとでは、否やを唱える心づもりなど、あるわけがない。
祭司長は、むしろ、襟を正す思いで姿勢を直し、うなずいてみせた。
「わかりました。今から見せていただくというもののことは、ここだけのお話、
といことで」
「───ありがとうございます。それでは、少々、失礼を」
美摩は、一礼して椅子から立ち上がり、両手で魔法印を結ぶ。
直後、ブン……という、重低音が、室内に響き渡った。
この応接間に施されていた〈結界〉の魔法が、美摩の魔法印により、
起動したのである。
「これは、外に、部屋の中の音と、魔力を漏らさないための〈結界〉ね」
「はい。申し訳ありませんが、祭司長のお連れの方にも、気取られるわけには
いきませんので………」
美摩は祭司長にそううなずいてみせたあと、テーブルから、後方へ離れる。
そして、両手をゆったりと広げ、目を閉じた。
“来たれ、人界の護り手・その翼を羽ばたかせた給え”
美摩の口から、古代の魔法真言が、紡ぎ出される。
カキィィィィィィィィィィィィィィィ────────────ン
金属音を打ち鳴らしたような音と共に、黄金の光が、美摩を中心にして、
室内に広がり放たれた。
その刹那、美摩の体から、光の粒子をまとわせながら、黄金の杖が、姿を現す。
「……ま、まさか────────」
祭司長は、驚愕にその目を見開き、うめきめいたものをもらした。
〈退魔法師〉にまつわる者、まして、善なる〈女神〉に仕える〈神導教〉の
信徒ならば、ひと目見て、それがなんなのか、理解できぬはずがあろうか。
「〈鳳凰の杖〉、なのですね………!」
さしもの祭司長も、思わず立ち上がり、美摩が顕現させた杖を食い入るように
見つめざるをえない。
杖の先端に模された神獣・鳳凰に、杖全体にあふれ漲る神聖な魔力。
伝説に語られた神器が、今、まさに、眼前に存在しているのである。
「はい───〈禍威魔〉との大戦にて失ったとされていた、
我が真渡園家の神器にございます」
美摩は、〈鳳凰の杖〉を両手で掴み、祭司長の方へ、差し出して見せた。
「詳しい経緯は省かせていただきますが……この杖を復活させたのも、
真理亜なのです」
「真理亜さんが……」
「ええ。その時、何もかも知っていたかのように、そして何でもない事のように、
あの子は、命を落としかねないほどの魔力を使って、この杖を復活させました」
美摩は、顔を伏せ、声を震わせた。
「五歳です。五歳の子供が、平然と……! それ以降も、無茶な魔力光操作の
訓練に挑んだり、ほとんど休みなく勉強したり───まるで、焦って、強く
なろうとしているかのようで………けれど、私には、それを強く止めることが
できないのです。あの子の意志を、尊重したほうが良いのか、それとも、無理な
精進は、やめさせるべきなのか────お恥ずかしいことですが、親として、
まったくわからないのです……」
「美摩さん─────」
涙ぐみながら、美摩は、なおも続ける。
「ですが、これだけは、はっきりと、心に決めています。………あの子を守る、
あの子が命を落とす〈運命〉を、覆してみせる、と」
美摩は、顔を上げて、宣言するかのように、祭司長に告げた。
それから、〈鳳凰の杖〉をテーブルの上に置き、祭司長のほうへ、回り込む。
「っ!? いけません! 美摩さん! そのような真似をされては!」
祭司長は、慌てて、美摩の行動を止めようとした。
自分のほうに回り込んできた美摩が、床に両膝をつき、土下座を始めたのである。
「祭司長様。〈神導教〉は、〈退魔法師〉界に対しては、公平中立。
───その不文律は、重々承知しております。けれど、どうか、どうか、
真理亜を救うため、ご助力を願えませんでしょうか! 私にできることならば、
なんでもやります。私どもが持てるものならば、すべて差し上げます!
何卒、何卒、お力を、お貸しくださいませ……!」
涙声になりながらも、はっきりとした言葉にして、美摩は、懇願した。
祭司長は、その姿に胸を打たれ、自身も片膝をつき、美摩に頭を上げさせる。
「真渡園家のご当主が、そのように人に頭を下げてはいけません。
さあ、お立ちになって。………美摩さんのお覚悟は、充分、理解致しました。
〈神導教〉の信徒は、善なる〈女神〉に仕えるしもべです。
その〈女神〉が遣わす〈聖女〉の助けになることに、どうして、
ためらうことがありましょうか」
「っ! それでは……!」
「ええ。この私の力が及ぶ限り、真理亜さんの助けになることを、
お約束致します」
「ああ……っ! ありがとうございます!
ありがとうございますっ! 祭司長様─────っ!」
美摩は、再び、両手を床につけて、頭を下げた。
「ああ、またそのように……いけません、と言っているでしょう?───そうだ、
実はね、今日は、私の孫娘も、別の所で、鑑定儀式を受けて入れるの」
祭司長が、突然告げてきた話に驚いて、美摩は、跳ねるように頭を上げる。
「それは───! そのような大切な日に、当家にいらしていただいたとは
知らず……大変申し訳ございませんでした────!」
「ああ、違うの。恨み言を言いたいのではないのよ。むしろ逆。……なんとなく
ですけれどね、真理亜さんのことを褒め称えている噂を聞いていたから、ちょっと
予感めいたものを感じて、孫娘のことは、信頼している方に任せて、こちらの
儀式を優先させてもらったの────きっと、年甲斐もなく、わくわくして
しまったのね。『〈聖女〉誕生の瞬間に立ち会えるかもしれない』と」
そういたずらっぽい微笑を浮かべる祭司長に、美摩は、一瞬、呆然としたが、
すぐに、釣られて笑ってしまった。
「そうそう。お笑いになって? 孫をほったらかしにして、〈聖女〉の噂に
まんまと食いついて、浮足立った祭司のことを。……だからね、頭を下げる必要
などないのよ。未来の〈聖女〉の、伝説の一端になれるかもしれない、という、
二度とない機会を、真理亜さんが、私どもに与えてくれているのですから。
こちらが感謝したいくらいです」
「─────ありがとうございます、祭司長様」
泣き笑いのあと、美摩は立ち上がり、再び、深く頭を下げる。
「すべては、善なる〈女神〉のお導き……美摩さん、あなたにも、〈女神〉の
ご加護がありますように────」
祭司長は、うなずいて、目の前の良き母親に、祈りの言葉を贈るのだった………。
そんな、感動的な一幕が、おのれのために繰り広げられていたとは、
露知らず。
(よぉぉぉぉぉぉ~~~~~~しっっっ!!! 〈女神〉ルキミステル様の
ご要望どおり!!! 完璧な〈聖女〉演技、やっちゃるけんね~~~~っっっ!!!)
真理亜は自室で、そんな決意に燃えていたりする。
(そう……高く飛べば、飛ぶほど、失墜した時の衝撃は計り知れない───。
流石ルキミステル様、“通”でいらっしゃる!!! わ~かってるゥ~っ!!!)
もし〈女神〉ルキミステルが、真理亜の心の声を聞いたのなら、
『ないないそれはない』
と、ドン引きして、首をブンブンと横に激しく振っていたに違いない。
(これからは、もっと努力して、〈聖女〉っぽく振る舞わなきゃな~♪ ひとに
優しく、おのれに厳しく、清く正しく、美しく! “努力”! “慈愛”!
“清楚”! これや! メインヒロイン要素のサル真似で行くんや!)
“努力”の要素はともかく、他ふたつの要素からほど遠い存在のくせに、心の中で
そう標榜する真理亜。
(ルキミステル様の御膳立てに、美事、応えてみせるぞいっっっ♡♡♡
鋭っっっ♡♡♡ 曳っっっ♡♡♡ 応~~~~~~っっっ♡♡♡)
真理亜の脳内では、〈女神〉ルキミステルが用意してくれている栄光に向けて、
かつてない発奮の大音頭が有頂天だ。
だが、真理亜は、気づいていない。
『狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり』
と、古典随筆の一節にあるように、〈聖女〉に相違ないとされる〈力〉を持って、
〈聖女〉のごとく振る舞えば、それはもう、〈聖女〉そのものと目されるのが、
当然であることに。
真渡園家の屋敷にやってきてからこちら、常時発動スキルである〈優●変換〉が、
真理亜に、ずっと淑女然とした生活を送らせていた。
そこへさらに、清廉潔白な生き方を目指す、真理亜の変態的努力が加われば、
真理亜の周囲に与える〈聖女〉の風格が、増す一方であることは、疑いない。
それによって累積されていく“信頼”が、ちょっとやそっとの失敗で損なわれる
はずはなく、真理亜が望む“破滅”から、じわじわと遠ざかっていくことになる。
(勝ったな! ガハハハ!)
心中で、勝利の高笑いなどしている、慢心真理亜。
よもや、自分自身の選択で、自分の望む到達点への道行きが、明後日の方向へと、
確実に逸れていっていようとは、夢にも思っていないのであった───────。
ここから真理亜が『聖女っぽく振る舞おう!』と意識改革。
みんなの勘違いがターボでマッハというわけですね(・∀・)




