M〇三 ドM覚醒!そこからはじまる勘違い〈聖女〉伝説!
悪役令嬢の義母、っていったらまあ毒親になるよねー……
だがそうはイ甘寧!(^∀^)
男が、『愛しき花は門に咲く』の悪役令嬢、真渡園真理亜に
TS転生を願ったのは、
『美少女になって、美少女と恋人同士になったあと、
自分だけ陵辱されて破滅したい』
という、前世よりずっと抱いている、倒錯した悲願を成就させるためであった。
なにせ、真理亜は、本編スタート前の設定や、シナリオの全ルートで
筆舌に尽くしがたい陵辱を受けたあと、死亡することが確定している。
何故なら、物語的に、死の運命からは、逃げられないからだ。
真理亜は、幼少期に、黒幕級の悪役のひとり、
真渡園玄紺の邪悪な儀式によって、恐るべき〈禍威魔〉の〈神〉、
〈妖神〉絶沌復活の生贄に捧げられているのである。
シナリオ展開によっては、完全に〈妖神〉絶沌と化した真理亜が
主人公たちにラスボスとして立ちはだかるルートが複数あり、
そのラストバトル後、死亡・消滅を免れない。
つまり、すべてのシナリオ・ルートで、真理亜の救済は、絶無。
男的にはそれが、もう、願ったり叶ったり。
真理亜は基本、どのルートでも異形の魔物や、卑劣卑怯でゲスな竿役、
そして真渡園家を歴史の裏から支配してきた長老・真渡園玄紺から、
心身共に陵辱され、追い詰められていくのだ。
男のイチオシ☆ルートは、〈妖神〉絶沌と化したあと、無数の〈禍威魔〉と
交わったあと、魔物の子を孕み、お腹を膨らませた姿で、
主人公たちの前に現れるルートである。
その後は、無論、主人公たちに倒され、消滅するしかないルート一択。
できることなら、『愛しき花は門に咲く』の主人公、門纏廣奈と、
原作では叶わなかった恋人同士になって、そのあと〈妖神〉化し、
廣奈に討ち取られたい、ハアハア。
…………と、そう願い焦がれる男であった。
男─────いや、今や、前世の記憶を思い出した、真渡園真理亜。
真理亜の年齢は、現在、五歳。
『愛しき花は門に咲く』の本編開始時より、十年前。
時節は、三月の半ばであった。
真理亜は、喪服を着ており、叔母である真渡園美摩の屋敷、つまり、
真渡園家本邸、その応接室で、ひとり、叔母の到着を待っていた。
実母である真渡園真美の葬式を終え、今後のことで話がある、
と、叔母のメイドであるという女性に連れられて、今に至っている。
多くを知らされないまま、誰もいない、静かな応接室でひとり。
今まで会ったことのない叔母、その到着を漠然と待つ、という、不安と心細さ、
先行きの見えぬ自分の未来への恐怖が、真理亜の心を、押し潰しそうになった。
それが、前世の記憶を思い出す引き金となる。
真理亜の頭の中を、途轍もない激痛と共に、前世の記憶が奔り巡った。
大人でもとても耐えきれないほどの痛みと情報量が、一緒くたに、
幼女の脳と精神を襲う。
……………襲う、の、だが。
(んほぉぉぉ~~!!! 転生キテたわコレ!!! たまんねwwwww!!!)
訓練されたドMには、そんな精神的痛撃もなんのその。
希望どおりの悪役令嬢に、無事、転生成功している事実に喜び、追加で、
頭部を襲っている激痛に対して、大悦楽しまくり。
実際問題、肉体的にも負荷が掛かっており、体温が三十八度以上の高熱を全身に
帯びているのだが、ドM的にはそれもオプション・サービスな感じで、快感を
覚えていた。
誰かコイツを止めてくれ。
実状を知っている者がいれば、半泣きで、そう真理亜の精神的絶頂状態を
強制終了させることを懇願したであろうが、あいにくと、その真実を知る者は、
誰ひとりとしていなかった。
常識的幼女ならば、頭部への激痛と高熱に肉体が耐えきれず、
失神して数日寝込んでしまったであろう。
しかし、この真理亜は、前世でも、突然死間際まで、
心身共に自身を襲う過負荷を楽しんだ、究極のドM。
(こんな快感、最の高♪ 食べ尽くそう、ひとりで、KUTABAるまで♪)
などと、気絶寸前でギリギリ踏みとどまり、心身の苦痛を、
美食家のごとく味わっていた。
ダメだコイツ、早くなんとかしないと……!
そう顔をしかめて、この状況を危惧する者は、やはりいない。
そんな天国状態の真理亜の様子は、傍から見れば、端整な顔を紅潮させ、
涙目で全身を小刻みに震わせている幼女である。
その姿は、母親を喪った悲しみを、必死で耐える幼子のように見えた。
これが、原作の流れとの、第一の分岐点となる。
────応接室の扉が開き、喪服を着たひとりの女性が、入ってきた。
赤銅色の髪はセミロングで、豊満な体つきの美女である。
真理亜の叔母、真渡園美摩であった。
血が繋がっているだけあって、真理亜と顔立ちが似ている。
年齢は二十二歳で、一児の母。
その子供は当然、真理亜の従姉妹であり、しかも、
『愛しき花は門に咲く』の攻略対象、ヒロインのひとりであった。
だが、この美摩もまた、ヒロイン然とした容姿をしている。
不機嫌そうにしたその表情は、険のある目つきをしながらも、見目麗しく、
グラマラスなプロポーションを持っているところは、さすがエロゲのキャラ、
といったところだ。
美摩は、入室し、真理亜の姿をひと目見るや、息を呑む。
(……姉様────!?)
泣くのを必死に堪え、悲しみを表情に出さないよう耐えている(ように見える)
凛としたその姿が、幼き日の姉、真渡園真魅と重なり、
胸を打たれたのだった。
真理亜の容姿設定は、悪役令嬢ポジだからこそ、原作スタッフから、
陵辱映えするよう、非常に高く見積もられている。
原作スタッフ曰く、
『誰も彼もを虜にする、魔性の美女になれるほどの美貌と肉体の持ち主』
である、と。
原作で“魔性の美女”にならなかったのは、不幸な境遇のせいである、とも。
その美しさは、幼女である現時点から、異質なほどに浮かび上がっていた。
“可愛い”ではなく、“美しい”。
この時点では、トレードマークのカチューシャをつけていない、
紅玉石色の長い髪と、瞳を持つ幼女の顔は、原作スタッフが
設定したとおり、魔性の美しさを放っていたのである。
この美しさに、叔母である美摩は、ひと目で陥落した。
俗に言う、即堕ちひとコマであったが、これは、原作になかった情動である。
原因は、真理亜の第一印象の違いだった。
原作において、この時点で美摩が目にする真理亜は、母を喪った悲しみに
泣き叫ぶ姿のはずだったのである。
幼い子供であるから、当然の感情の発露だったのだが、原作の美摩は、
その真理亜の号泣が、途轍もなく無様なものに思え、姉の子供であるという事実を
許容できなくなったのだった。
端的に言うと、泣き喚く真理亜の姿が癪に障り、苛ッときて、
【絶許】分類行き。
以降、原作の美摩は、真理亜を視界に入れるだけで、激しい不快感を覚え、
酷い虐待をするようになってしまう。
元々、原作では、真渡園美摩は、神経質な性格であると設定されていた。
だが、今世の真理亜との、この初邂逅が、そんな美摩の性格にも、
変化をもたらす。
(ああ────そうだ。姉様も、他人を気遣って、自分の悲しみ苦しみを、
無理に押し殺して、我慢するようなひとだった………)
ひとり静かに、涙をこぼすまいとしている(実際は悦に浸りすぎているだけ)、
真理亜の健気さ(実際はなにも考えていない)に、美摩は、在りし日の姉を思い出していた。
その心に、懐かしさと、寂しさが、充ち満ちてゆく。
そして、姉への愛が、甦っていた。
そう、この真渡園美摩も、伝奇百合エロゲー登場人物に違わぬ、
姉妹百合キャラなのである。
原作本編では語られなかったが、姉の真魅とは相思相愛で、
肉体関係もバリバリにあった、と、公式設定資料集に明記されていた。
そんな美摩が、姉への想いを再燃させれば、姉の面影を遺す美しい幼女への
庇護欲も、俄然、湧いてくるというもの。
美摩は、真理亜にゆっくり近づいて、優しく、その体を抱きしめる。
そして、穏やかな声で、告げた。
「大丈夫よ。今日から、私があなたの“家族”になります」
────それは、原作の美摩ならば、決して言うはずのない言葉であった。
これにより、真理亜の破滅フラグが、いきなりひとつ、消滅した。
(おっほwww今度は喪服美女ハグっすかwww心wwwスッキリwww)
自身の破滅願望成就の道筋、その第一歩から蹴躓いているとは露知らず、
真理亜は、美摩の抱擁にビックリドッキリご機嫌ハイテンション。
駄目だコリャ。
そう呆れ返り、匙を投げて幕引きをする者もまた、やはり存在しなかった。
勘違いでも幸せになるならええんや……
………ええよね?(^ω^;)




