M二七 〈聖誕祭〉 ~魔力属性鑑定儀式~
魔法のある世界のお約束!
魔力属性鑑定回です!
真理亜の〈予見〉で、ふたりの女児を救い出してから、数週間後。
暦は、十二月二十五日である。
この世界でもクリスマス───〈聖誕祭〉の日は存在するが、日本だけは、
独自の宗教・善なる〈女神〉を信仰する〈神導教〉の祭祀日となっていた。
この世界の日本では、善なる〈女神〉に遣わされたとされる、〈聖女〉が
誕生したことを祝う日、ということで、〈聖誕祭〉の日とされているのである。
───〈聖誕祭〉の日は、〈退魔法師〉の家に生まれた子供にとって、
重要な日である。
翌年四月一日までに、満六歳となる子供を対象として、〈神導教〉祭司長の
魔法儀式により、その子供らの魔力属性を鑑定する慣例行事が、
執り行われる日でもあるからだ。
この世界の魔法は、元素属性魔力を必要としない初歩の魔法、無属性魔法と、
〈地〉・〈水〉・〈火〉・〈風〉の四大元素の魔力を必要とする属性魔法の
ふたつに大きく分けられる。
さらに、四大元素属性の他に、特殊な属性の魔力が、存在していた。
〈光〉・〈闇〉・〈聖〉の三種である。
複数の魔力属性を持つほど、優秀な〈退魔法師〉として大成しやすいので、名家の親は、
自分の子が、複数属性持ちであることを望むのが当然だった。
しかし、家柄的に優秀な血筋だからといって、必ず、子孫の魔力が複数属性に
なるとは、限らない。
特に、〈光〉・〈闇〉・〈聖〉の魔力属性を持つ子供は、極めて稀である。
その中でも、〈聖〉属性の魔力持ちともなれば、その数は、世界で十を
超えない、と、目されていた。
〈聖〉属性の魔力を持つ、ということは、それだけで、〈退魔法師〉界において、
絶大な社会的地位を得るということなのである。
……その鑑定儀式が、真渡園家屋敷の大広間で、行われようとしていた。
大広間の上座には、儀式用の祭壇が準備されている。
祭壇の正面に、胡床と呼ばれる、座面が布でできた木組みの椅子がふたつ、
用意されていた。
それらに座るのが今夜の主役、フォーマルなキッズドレスに身を包んだ、
真理亜と兎萌である。
ドレスの色は、ふたりとも、落ち着いた赤系統の色、臙脂色で揃えていた。
祭祀儀式ということで、派手な色合いは避けた衣装であったが、
幼いとはいえ、見目麗しいふたりのこと、類稀な可愛らしさを発揮している。
ふたりの可愛らしさのあまり、美摩が、前日の衣装合わせにおいて、
プロのカメラマンを呼びつけ、記念の撮影会を始めてしまったほどだった。
それは、原作の美摩ではありえなかった、親馬鹿の発露である。
その美摩は、ふたりと同じ臙脂色の礼服で正装していた。
ふたりの後方、少し離れた場所に、漱祗と、側仕えの叶穂と叶夜らを伴わせて、
胡床に座り、儀式の開始を待っている。
漱祗とその双子の娘たちは、いつものメイド服ではなく、礼服を身に着けていた。
それは、単に主である子女の儀式を傍聴するわけではないことを
意味している。
鑑定儀式の立会人としても、この場に臨んでいるのだ。
その儀式を目前に控え、兎萌は、緊張に体を硬くしている。
胸の鼓動も、自然と、早くなってしまっていた。
こればかりは、本人の意志や努力は無関係なので、気にしなくてもよい。
そのように、母である美摩から説明されていたが、今後の成長に関わってくる、
と、理解している兎萌は、無意識に、身構えてしまうのである。
「───兎萌ちゃん、緊張しているの?」
そんな兎萌に、隣から、穏やかな声が掛けられた。
兎萌がそちらを見れば、真理亜が、兎萌の顔を覗きこんでくる。
「お姉さま………はい、どんな結果になるかと思うと、ドキドキしてしまって」
「大丈夫よ。テストとかではないのだから。なにも心配することはないわ」
そう言って、真理亜は、優しげな微笑を兎萌に見せてくるのだった。
その笑顔には、言葉どおり、心配や不安の気配は、微塵もない。
………今から、自分と同じく鑑定儀式に臨むというのに。
従姉は、ひょっとして、鑑定の結果を、〈予見〉で知っているのだろうか。
そう思ってしまうほど、兎萌の目には、真理亜が悠然としているように見える。
鑑定の結果を知っているのか、と、兎萌は、従姉にたずねそうになった。
───が、その質問の言葉を、すんでで呑みこむ。
訊けば従姉を困らせてしまうような、そんな気がしたからであった。
代わりに、兎萌は、別の言葉を口にする。
「今日は、お姉さまのお誕生日でもありますね」
「ええ、そうね」
「〈聖女〉と一緒のお誕生日だなんて、すごいです。きっと、お姉さまは、
〈聖女〉の生まれ変わりなんだと思います……!」
勢いで言ってしまって、しまった!、と、兎萌は、自分の迂闊さを呪った。
普段からの、従姉への尊敬の念が、誕生日の話題と合わせて噴出して
しまったのだが、“〈聖女〉の生まれ変わり”は、完全な失言である。
従姉は、未来で、〈聖女〉として邪悪な〈魔〉と戦い、命を落とす───。
それは、従姉自身も、“知って”いること。
その従姉の気持ちを考えれば、安易に、彼女のことを〈聖女〉と
呼ぶべきではないというのに。
しかし、兎萌の心配とは裏腹に、真理亜の反応は、苦笑をしただけであった。
「残念だけれど、わたくしは、そんな貴い女性の生まれ変わりではないわ。
……〈聖女〉のように、貴い生き方ができればいいのに、とは、いつも思っては
いるけれど」
「お姉さま…………」
従姉の生き方が、貴くなくて、なにが貴いものか。
兎萌は、反射的に、そんな思いを抱く。
が、その思いを明確な言葉として、真理亜に伝えるには、兎萌はまだ、幼すぎた。
そんな自分にもどかしさを感じながら、兎萌が、真理亜になにか言おうとしていた
ところ。
大広間に、鈴の音が、響き渡ってくる。
チリーン──────────────────
ひときわ大きく鳴った鈴の音と共に、大広間へ、三人の女性が、姿を現した。
三人とも、神道の巫女服の上に、西洋風の外套のようなものを羽織った姿である。
先頭に、儀式用の鈴を持って先導する若い女性、次に、ボーリングボールほどに
大きい水晶球を両手で運ぶ若い女性、最後に、白髪の、穏やかそうな老女。
この真渡園家で鑑定儀式を執り行う、祭司たちであった。
真理亜と兎萌は、美摩から教えられていたとおり、三人が入室してきてから、
起立する。
その後ろで見守る美摩たちも、同様に、起立していた。
祭司たち三人は、祭壇を前に立ち止まり、若い女性祭司が、祭壇に備えられた
台座に水晶玉を据えたあと、老女───祭司長を中心に、配置につく。
それから、祭司たちの口から、祝詞が、歌のように紡がれ出た。
祝詞の詠唱に、魔力が乗っているため、空調で適度に洗浄されている
大広間の空気が、さらに清涼なものになっていく。
その祝詞の詠唱が終わると、祭司長が一礼して、祭壇の後ろに回り込んだ。
「………それでは、魔力を鑑定させていただきます。真渡園兎萌さん。
前にいらしてください」
「は、はいっ!」
祭司長に名を呼ばれ、兎萌は、祭壇の前に歩み寄る。
そのまま、祭壇前に置かれている階段状の台に乗って、
祭司長の向かい合わせに立ち、一礼した。
祭司長は、にこりと笑って、兎萌に促してくる。
「水晶玉に、右手を置いて、魔力を流し込んでください」
「はいっ……!」
兎萌は、美摩から教わっているとおりに、体内の魔力を操作し、水晶玉に魔力を
流し込んだ。
すぐさま、水晶玉は、光を放ちはじめる。
固唾を飲んで、兎萌は、水晶玉から発せられる光を見つめ続けた。
「──────真渡園兎萌さん。あなたの魔力属性は、〈地〉・〈水〉・〈風〉の
三種……そして〈光〉の魔力をお持ちです。さすがは真渡園家の
お嬢様ですね。────どうか、あなたに〈女神〉のお導きがありますように」
「っ! はいっ! あ、ありがとうございます!」
兎萌は目を輝かせて、勢いよく頭を下げて、祭壇前の台から降りる。
複数の魔力属性、しかも〈光〉の魔力を持っている鑑定結果に、
喜びを抑えきれず、満面の笑みで、座っている従姉と母たちを見た。
真理亜と美摩はもちろんのこと、囲碁留母娘らも、喜びの笑みを
返してくる。
「………次に真渡園真理亜さん。前にいらしてください」
「はい」
祭司長に呼ばれると、真理亜は、澱みない、たおやかな歩みで、祭壇前の
台に乗った。
「真理亜さん。あなたは、非凡な魔力をお持ちだと聞き及んでいます。
魔力を流し込むのは、少しだけで結構ですからね。この水晶玉は、あまりに
たくさんの魔力をひと息に流し込んでしまうと、壊れてしまうことがあるのです。
……貴重な水晶玉なので、壊さないでくださいね」
祭司長が、上品ながら、茶目っけのある言い方で、真理亜にそう注意してくる。
「承知いたしました。それでは、壊さないように、少しだけ────」
祭司長の茶目っけに呼応するように、いつもの令嬢然とした真理亜にしては
珍しく、悪戯っ子のような笑みを浮かべたあと、水晶玉に右手を置いた。
それから、真理亜が、水晶玉に、魔力を流し込む。
その瞬間。
閃光が、大広間に、解き放たれた。
先ほどの兎萌の時とは、まるで比べものにならない。
光の炸裂と言うしかない、水晶玉の反応である。
その目映さにもかかわらず、魔力鑑定のために目を凝らしていた祭司長が、
驚愕の声をもらした。
「こっ、これはっ…………!?」
なんというあざとい引き!(^∀^;)
真理亜は無能呼ばわりされてしまうのか!?追放されてしまうのか!?




