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M二六 マッチじゃないよポンプだよ!黄金なれ変態紳士精神!

正しい原作知識無双回です!

………正しい──────?(←突然不安に)

【違法薬物実験容疑で元大学教授逮捕】

【人身売買及び人身取引容疑で大企業CEO逮捕】


それら大きな見出しのついた新聞をデスクに放り、美摩は、深々と椅子に

身を預けた。


「真理亜お嬢様のお手柄ですのに、真実を公表できないのは、残念です」


メイド長の漱祗すすぎが、そう言いながら、紅茶の入ったティーカップをデスクに

置く。

美摩は、苦笑して身を起こし、それに手をのばした。


「仕方ないわ。〈予見〉の力で犯罪を見抜いた、なんておおやけにしたら、世間は

大騒ぎになるでしょうからね。────真理亜が〈聖女〉であることは、まだまだ

秘匿ひとくしておかなくてはならないわ」


紅茶を口にしつつ、美摩は、十一月はじめに、真理亜が興奮し、思い詰めた顔で、

この執務室へ、走り込んできた時のことを思い出す。


『……わたくしのお友達になってくれる女の子ふたりに、危険が迫っています!』


兎萌ともいの身に眠っていた〈鳳凰ほうおうの杖〉を復活させた件もあり、美摩は、すぐに

気を引き締めて、真理亜の話に耳を傾けた。


元大学教授が行おうとしている魔力増強実験。

大企業が裏で運営している女子児童人身売買。


真理亜が口にするふたつの事件で、『女の子ふたり』は、それぞれ、犠牲に

なってしまうのだという。


『お願いします、美摩お姉様!!! ふたりを、助けてください────!!!』


姉ののこした愛しであり、半年経った今や娘同然と思っている真理亜からの、

初めての懇願こんがんだ。

美摩は奮起し、真渡園まどぞの()の総力をげて、捜査を開始する。


真理亜が〈予見〉した事件現場こそおぼろげだったが、犯人らと被害者らの実名が

確実に判明しており、事件発生の日時と、解決への鍵となる要素もはっきりして

いたため、すべての捜査は、容易に進展した。

警察とも連携し、あらゆる証拠を揃えた完璧な布陣で、決定的な瞬間に、

事件現場を取り押さえる作戦を決行。


結果は、見事なまでの大成功である。

犠牲になるはずだった女の子ふたりは無事保護され、違法薬物の取引ルートと

反社組織、人身売買組織を撲滅、汚職政治家や警察幹部、有名企業家らが

芋づる式で次々に逮捕される、大捕り物となった。


ふたつの事件を解決へ導いたのは、真理亜の〈予見〉だが、その事実を知る者は、

美摩を含めた、真渡園まどぞの()に関わるひと握りの人間だけである。

第一に、まだ幼い真理亜を衆目から守るためであり、真理亜が〈聖女〉である

ことを隠しておくためであった。


真理亜の尋常ならざる魔力の高さと、その才能、〈予見〉の力から、いずれは

〈聖女〉として認知されるのは間違いない。

しかし、現在の真理亜は、まだ幼すぎる。


いくら魔力が並外れていても、自衛を心掛けさせるには不安が残る、子供なのだ。

周囲が警備を万全にしているとはいえ、注目の的になるリスクは、真理亜がもっと

成長するまでけるべき、と、美摩は、考えている。


真理亜の将来と安全性のことまで頭に思い浮かべて、美摩の口元に、ふ、と、

笑みが生まれた。


「それに、そもそも、真理亜は、あのふたりを助けることしか考えてなかったわ。

功名心や、自己顕示欲なんて、欠片かけらもない………。きっと、あのふたりとは、

未来で良い友達になるのでしょうね」


真理亜が、未来で良き友を得る。

そのことを、我が事のように喜ぶ美摩であった。


「───今戸いまと()に、鳥弾とりびき()。どちらも、〈退魔法師たいまほうし〉の名家めいかです。

……やはり、偶然とは思えません。〈聖女〉の〈運命〉に導かれている、

ということでしょうか──────」


漱祗が〈運命〉という言葉を口にした途端、美摩の表情が、にわかにくもる。

それをすぐさま察した漱祗は、ただちに、深く頭を下げた。


「申し訳ありません。失言でございました」


─────〈聖女〉は、邪悪な〈魔〉と戦い、その命と引き換えに、〈魔〉を

打ち滅ぼす〈運命〉………………………。


自分のあるじは、(真理亜)を守るため、伝承にある“〈聖女〉の〈運命〉”に、

あらがおうとしている。

そんなあるじの前で、〈運命〉とは、軽々しく口にしていい言葉ではなかった。


「……いえ、いいの。確かに、運命的なものを感じるわ。助けたあのふたりの

子らも、きっと、優れた〈退魔法師たいまほうし〉になる────そして、真理亜の

助けになってくれるはずだわ。これは、私の勘だけれどね」


「奥様の勘ならば、間違いありませんね」


漱祗のうなずきは、決してただの追従ではない。

そうなるであろう、と、漱祗も、予感めいたものを、感じていたからである。


真理亜という、類稀たぐいまれな存在に、光を求める者たちが、

集結する………そんな予感を。


「────私たちも、あの娘(真理亜)の助けにならなくてはね」


「はい………」


迫りくる脅威の姿は、いまだ見えない。

だが、その存在を事前に知る美摩と漱祗は、〈運命〉の子らを守る決意を、

改めて、固めるのであった────────────────────────。












一方、当の真理亜は、当然のことながら、そこまで深刻なことは、

まったくと言っていいほど考えていなかったりする。


今戸いまと霧絵(きりえ)鳥弾とりびき(まい)、両名の危機のことも、十一月に入って、

しばらくしたあと、あっ、と、不意に思い出したものであった。


(そういえば、今月じゃん!)


設定資料に記載されていた、ふたりの運命を狂わせる、悲惨な出来事。

それらは、それぞれ十一月の、六歳の誕生日に起こったという。


コイツはヤベーぜ、本気(マ→ジ↑)ベーゼ(*1)。


結構呑気(のんき)してた真理亜も、これには焦った。

ふたりの女の子を救うタイム・リミットが、迫っている。


時間がない。

一刻も早く、ふたりを助けなければ─────────!


しかし、ここで真理亜は、ふたりを救うことを、わずかに、躊躇ちゅうちょしてしまった。

なにしろふたりは、悪役令嬢・真理亜の破滅に欠かせない、裏切りの取り巻きズ

なのである。


まず、霧絵の、原作の設定はというと………幼少期からの過酷な実験により、

肉体の魔力生成機能をほとんど失うことになっていた。

薬物投与と、父親が途中で導入しはじめた性魔術儀式による魔力補填(ほてん)

かろうじて〈退魔法師たいまほうし〉として、菊地神きくちがみ学園の学生となり、真理亜の

取り巻きのひとりとなる。


そして、重要な局面で、真理亜を裏切るのだ。

真理亜を罠にかけ、霧絵(自分)と同じように、父親、今戸いまと海蔵かいぞうの実験台に

おとしめるのである。


『霧絵さん……!? わたくしたち、お友達ではなかったの!?』


『冗談言わないでください、真理亜“お嬢様”。私はね、いつも魔力の高さを

鼻に掛けるあなたが─────ずっとずっとず~っっっと!!! 憎くて憎くて、

仕方がなかったんですよっ……!!!』


『そ、そんな、酷い─────────!』


『ふふ。真理亜“お嬢様”ったら、可愛らしいですね。私の裏切り程度で、

そんな風に傷ついちゃって。………これから、肉体的にも、傷ついていく、

っていうのに』


『えっ……!? あっ!? い、嫌ぁぁぁぁぁ───────っっっ!!!』


………その後、真理亜は、原作主人公である門纏もんまとい廣奈(ひろな)共々(ともども)、海蔵に肉体改造を

施された上に陵辱を受け、人工的に〈禍威魔かいま〉を生み出す苗床にされるENDに

行き着くのだ。


次に、原作での舞だが───表の顔は実業家で、裏では人身売買と売春斡旋を

行っている駿府すんぷ栄太(えいた)から、幼少期に性的虐待を受け続け、心身共に

支配されてしまった影響で、通常生活で見せる喜怒哀楽の感情を、失ってしまう。

唯一、喜びの感情をあらわにするのが、R18シーンのみ、という、

快楽()ずみの、悲惨な少女なのだった。


幼い真理亜の容姿に心奪われた駿府の命令で、菊地神きくちがみ学園に入学し、

真理亜の取り巻きのひとりとなる。

当然ながら、真理亜の情報を逐一ちくいち報告する密偵スパイとなるためであった。


そして、重要な局面で、真理亜を裏切るのである。

真理亜を罠にかけ、(自分)と同じように、駿府の毒牙にかけさせるべく、

真理亜の抵抗力を奪い、秘密の地下室に、監禁拘束するのだ。


『舞さん……!? わたくしたち、お友達ではなかったの!?』


『───お友達、だよ?』


『だったら、何故、こんなことをするのです!? お友達と言うのなら、

わたくしを、解放してください!』


『……それは駄目。真理亜様も、舞と一緒に、ご主人様から、可愛がってもらう。

───大丈夫。すごく、気持ちいい、よ? 他の事、考えられなくなる、よ?』


『えっ……? あっ!? い、嫌ぁぁぁぁぁ───────っっっ!!!』


………その後、真理亜は、原作主人公である門纏もんまとい廣奈(ひろな)共々(ともども)、駿府に囚われて

陵辱され続け、駿府の所有する島の屋敷で、一生を性奴隷として終えるENDを

迎えるのである。


────転生真理亜としては、どちらも甲乙のつけがたい、極上の破滅けつまつであった。


どっちのルートも制覇したい、と、真理亜は、心底、苦悩している。

転生チート特典で、セーブ機能アリの〈死に戻り〉スキルをもらっておけば

良かった!、と、今頃になって、そう滅茶苦茶に後悔するほどであった。


さておき、ふたりを救うことに、迷いを見せる真理亜。

……真理亜は、心の根底にいだいている、おのれの信念を、思い返す。


“不幸になるのは自分ひとりだけで充分!

 女の子たちは、みんな幸せになるべき!”


言葉の前半は、困惑するしかないものだ。

が、後半のほうは、人として真っ当な信念ではある。


そんな複雑骨折したような信念を持つ真理亜だから、基本、女の子の不幸など、

見過ごせるわけがなかった。


だが、それでも、迷う。

信念と同時にいだく、自分を突き動かす根源、願望と欲望が、甘い言葉を

ささやいてくるのだ。


……大切な破滅ルートを、ふたつも潰してしまって、よいのか────?

未来は、どうころぶかわからない───ならば、破滅する選択肢は、

可能な限り、残しておくべきではないのか…………?


不確実さへの保険を掛けることに、真理亜の心は、揺らいでしまう。

が、そんな自分の弱さに気づき、逆に、真理亜のふるえるハートが、

燃え尽きるほど熱化ヒートしてしまった。


───────────────────────────────いなッ!!!

断じていなッッッ!!!


YES!!! ロリータ!!! NO!!! タッチ!!!

たとえ変態だろうと、紳士の精神は、黄金なのだッッッ!!!


破滅しあわせ他人だれかの犠牲なしに得ることはできないのか!?!?!?

未来けつまつは不幸なしに越えることはできないのか!?!?!?

そんな奇跡など、起こりはしないというのか!?!?!?


─────いいえ、奇跡は起きますッッッ!!! 起こしてみせますッッッ!!!


女の子ふたりを不幸にしてまで掴む破滅しあわせに、何程なにほどの価値があろうかッッッ!!!

そんなことでは、胸を張って破滅はめつなど、できはしないッッッ!!!


カッ!、と、目を見開き、真理亜は、そう覚醒した。


そうなった真理亜はもはや、疾風迅雷しっぷうじんらい

『美摩お姉様助けて!!! 助けてクレメンス(*2)!!!』とばかりに、

スライディング土下座する勢いで、美摩へ、可及的(すみ)やかな助力を

求めるのだった。


『そのいさぎよさを、なんでもっと上手に使えなかったんだ!』と、

ガチ説教してくれるジュ●ー・アー●タは、どこにもいない。


原作本編テキストは、Hシーン以外、ほぼほぼスキップして覚えていないが、

設定資料集は、熟読している真理亜である。

霧絵と舞の幼少期に関する設定知識を、うまいこと美摩に伝え、悪党ヴィランどもを

一掃することに成功。


ふたりの女の子は、無事、救われたのだった。


……これでふたつの破滅ルートが、潰れてしまったわけだが、転んでもタダでは

起きない、無駄にポジティヴなのが、この転生真理亜。

ふたりの女の子に、しっかりと、自分の顔を覚えておいてもらおうと、事件現場で

治癒魔法を掛ける係を、抜かりなく買って出ている。


『ふたりとも、心身共に健康状態のまま、普通に菊地神きくちがみ学園に入学するよね!?

私も入学するから、真渡園まどぞのグループの取り巻きになってくれよな! 

待ってっからっ! ちゃんと未来で私を裏切ってネ! ジョイナス(*3)!』

そんな下心満々の笑みで、千倍チート魔力による治癒魔法を、ふたりに

ほどこすのであった。


これで裏切りフラグはバッチリだぜ!、と、真理亜は、豪快に胸を撫で下ろす。


────しかし、真理亜は、自分の容姿が、魔性の美貌を誇っていることを、

いまだに理解していなかった。

いかに自分本位で、よこしまな欲望から笑みを浮かべようとも、それは、

美幼女の清らかな微笑ほほえみになってしまうのである。


そんな微笑を、傷心の女児らがあたりにしたら、どうなるか………。


(〈天使〉──────自分を救いに現れた、〈天使〉───────────)


ふたりの幼女の心には、真理亜の微笑が、そのように、はっきりと焼き付き、

刻み込まれたのであった。

そんなふたりが、救い主に対して、裏切りの二心にしんなどいだくはずがあろうか。


悲惨な過去を持つはずだったふたりの子らは、わりに、救い主への、

絶対の忠誠心を芽生めばえさせたのである。

人間ひとの心を解せぬかなしき(?)怪物モンスターである真理亜は、そんなことに

なっていようとは、まったく察知できていなかった。


裏切りフラグどころか、忠実な下僕しもべ化フラグを立ててしまったことに、

カケラも気づくことなく、真理亜は、上機嫌である。


『よっしゃ決まったな! 風呂にでも入るか!』


ガッハッハッ!と、ひとり、心の中で高笑いする真理亜だが、のちに、

『どうして原作と差ができてしまったのか───。慢心、環境の違い……』

と反省することになるのを、この時はまだ知るよしもなかった─────────。











*1・ベーゼ:ドイツ語で“悪い”の意。ちなみにフランス語では“キス”の意。


*2・クレメンス:ラテン語で“慈悲深い”の意。

         「許してクレメンス」でおなじみ。


*3・ジョイナス:“Join us.”のくだけた発音。

         某元野球監督の蔑称ではない。

真理亜の心がヒートするあたり、書いててめっちゃ楽しかったッス~♪

ハイになりすぎてたカナ?と思わないでもない(^∀^;)

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