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M二五 十一月、ふたつの事件

事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!

「踊る」シリーズ、なんだかんだ楽しみです(・∀・)

ゴポ………ゴポ………………


幼い女の子────今戸いまと霧絵(きりえ)の耳には、そんな振動音だけが、伝わってきていた。

霧絵は一糸まとわぬ姿で、その体に何十本もの薬液導入管をつなががされており、

緑色の薬液で満たされた、巨大な、水槽めいた装置に入れられている。


────いたい、いたい………くるしい、たすけて、だれか────────


霧絵は、ぼんやりとした意識の中で、繰り返し、訴え続けていた。

だが、それらの言葉は、声になって、外に伝わることはない。


口と鼻は、下あごから、呼吸のための酸素マスクで覆われていたし、その体は、

薬剤によって、動く自由をすべて奪われていたからである。


ゴポ………ゴポ………………


そして、そもそも、声を発することができたとしても、装置の中に満たされた

薬液と、分厚いガラスに隔てられた外界に、言葉が届くわけがなかった。

さらに──────届いたとしても、その思いを解する者は、いない。


代わりに、医師のような白衣をまとい、狂喜の叫び声を上げる男が、

暗い研究室の中に、ひとり、いるだけである。


「───いいぞ、いいぞぉ……! 霧絵ぇ……! おまえは、この装置で、

地上最高の魔力を手に入れるのだっ………!」


狂気に満ちた両眼で、装置の中の霧絵を見つめる男。


名は、今戸いまと海蔵(かいぞう)

霧絵の、父親であった。


「私のこの装置さえあれば、誰でも膨大な魔力を手に入れることができる───! 〈退魔法師たいまほうし御三家ごさんけなど、なにするものぞ! 見ているがいい、

私を追放した愚鈍ぐどん無知蒙昧むちもうまいな奴らめが……!」


海蔵は、自分が勝利した未来を思い浮かべ、よだれをまき散らしながら哄笑する。


私の研究は、間違っていない。

正しいのは、私だ、私なのだ─────────!


そう……この男、今戸海蔵は、科学力で人間の魔力を増大させることができると、

自分が考え出した理論を、ひとりよがりに狂信しているのである。

その狂信による暴走の末、実の娘を実験台に使う、というこの暴挙に至っていた。


「さあぁ───霧絵ぇ……今日はおまえの誕生日───っ!

 まさに生まれ変わる日として、ふさわしい日だっ……!

 父のこの手で、新たに生まれ変われぇぇぇぇぇ────っっっ!!!」


装置を起動させるレバーに、海蔵の手が、今まさにのばされんとする。

──────その時であった。


「そこまでよっっっ!!!」


「っ!? だっ、誰だっ!? ぐぁっ!?」


突如、響き渡った声に、海蔵が振り返るや、閃光が走り、海蔵の体は、

強い衝撃を受けて、大きく宙を舞う。

魔力の塊を、衝撃エネルギー弾として撃ち出す初歩魔法───〈光弾こうだん〉による

攻撃であった。


海蔵はそのまま、装置の強化ガラス面に、その身を叩きつけられたあと、

激しい勢いで床に落下する。


「………本当に、実の娘を、実験台に使おうとしてたのね───────」


床に落ちて苦痛のうめきをもらす海蔵に向けて、忌々(いまいま)しそうな声が投げかけられた。

声の主は、女性である。


光弾こうだん〉を撃ち放った〈退魔法師たいまほうし〉……真渡園まどぞの美摩(みま)であった。

いつものビジネススーツ姿ではなく、肌を多く露出させ、体の輪郭が浮き出る、

扇情的な銀色のドレス状スーツに身を包んでいる。


五歳の子供を持つ母親とは思えぬ、つややかな姿だが、これは、

この世界での、〈退魔法師たいまほうし〉としての霊的武装なのだ。


その美摩の後ろから、研究室の中に、女性警察官たちが、

次々になだれ込んでくる。

そして床に転がっている海蔵を取り押さえ、その両手を後ろ手にして、

手錠をかけた。


「今戸海蔵! 未成年者略取誘拐(りゃくしゅゆうかい)、及び、違法薬物使用他諸々の容疑で

逮捕する!」


「……! ば、馬鹿なっ! な、何故、この場所がわかったのだっ!?

 は、放せっ! 私を放して実験を続けさせろっ! でなければ、貴様らは

一生後悔することになるぞっ!?」


海蔵は、床に押さえつけられながら、もがき、叫ぶ。

そんな海蔵を冷ややかに見つめて、美摩が、言い放った。


「おまえの研究は大失敗よ。────危うく、娘の魔力生成力を、潰すところ

だったわ」


「な……」


海蔵は、数秒、思考を硬直させる。

それから、憤怒に顔を赤く染めて、わめき散らしてきた。


「なにを抜かすかこの女ァーっ! わっ、私の研究がっ! 私の理論がっ!

 間違っているはずがっ! 実験が! 失敗するわけがないだろうがぁーっ!

 この、ドぐさrぶべぇっ!?」


女性警察官が海蔵の顔を打ちすえたので、美摩への雑言ぞうごんは、途中でさえぎられる。

美摩は、そんな海蔵へ近づき、冷徹に、真実を告げた。


「確かに、おまえのこの装置は、対象の持ちうる魔力を、限界以上に増大させる

ことができる。……でもね、それは肉体の魔力生成力を、回復不能なまでに

無理矢理絞り上げ、死滅させる勢いで魔力を発生させることで、一時的に、

魔力量を増大させるだけ。そんな自殺行為に等しい強化法ドーピングを、小さい子供の

体に施せばどうなるか。──────聡明な頭脳の持ち主なら、わかるわよね?」


美摩から皮肉げに締めくくられ、海蔵の顔色が、怒りの赤から、

絶望の青に変わる。


「そ、そんな馬鹿な……っ! 私の、私の研究が───理論が……っ!」


「………これ以上話しても無駄のようね。あとは、刑務所の中で、好きなだけ

自分の理論を検証するがいいわ。────連行しなさい」


美摩の命令で、海蔵は、女性警察官らに引き立てられていった。

もはや海蔵は完全に意気消沈しており、暴れる気配は、まるでない。


その口からは、ブツブツと未練がましく何事かひとりごとがもれるだけで、

おとなしく、研究室から連れ出されていく。

そのうちにも、真渡園まどぞの()の医療班が、迅速に、装置の中から、

霧絵を救出しはじめていた。


「────美摩お姉様? もう、よろしいでしょうか……?」


そこへ、透き通るような、澄んだ声が響く。


「真理亜。ええ、もう、大丈夫よ」


美摩の返答のあと、その場に、紅玉石ルビー色の長い髪を持つ天使が、姿を現した。

メイド姿の叶穂に付き添われた、真理亜である。


「なんてひどい────!」


真理亜は、装置から助け出されようとしている霧絵の姿を認め、両手を口に

当てた。

そして、美摩に、懇願してくる。


「美摩お姉様! 霧絵さんへの治癒魔法、どうか、わたくしに

掛けさせてください……!」











「う……」


幼い女の子────鳥弾とりびき(まい)は、気怠けだるさを覚えながら、目を開ける。

ピンク色の照明で照らされた、見知らぬ天井。


舞は、困惑した。


ここ、どこ……?

いつのまに、ねちゃったんだっけ─────?


寝る前の記憶を、思い出そうとする舞。


おたんじょうびだから、パパと、おくるまでドライブしてて───。

すごくきれいなホテルのレストランでおしょくじして、それで……あれ……?


舞は、そこから先の記憶がないことに思い至る。


ガチャリ……


「え────」


そこでようやく、舞は、自分がどんな異常な状態にいるか、気づいた。


服は、舞のものではない、純白の、フリル付キッズドレスを着せられ、ベッドに

寝かされている。

両手を頭上に上げる格好で、舞の両手首は、鎖付の拘束具がはめられ、

ベッドのへりつながれていた。


「なに、なんで……?」


舞は起き上がろうとしたが、拘束具と鎖が、それを許さない。

不安と恐怖で、舞の心がいっぱいになる。


ギィィィィィィ────────


「ひっ────」


扉が開く音がしたほうに目を向け、舞は、ひるんだ声をもらした。

下着一枚しか履いていない、全裸同然の、禿頭で肥満体の男が、部屋に入ってきた

からである。


「んんゥ~? 舞ちャァ~ん、起きたみたいだねェ~………?」


男……駿府すんぷ栄太(えいた)は、舌なめずりしながら、舞の横たわるベッドに近づいてきた。


「───やっ……パパっ! パパァ────っ! たすけてーっ!!!」


舞は叫んで、姿の見えぬ父親に、助けを求める。

そんな舞を、駿府は、嘲り笑った。


「無駄だよォ~、舞ちャァ~ん。キミはそのパパに、売られちゃったんだから

ねェ~! かわいそうにねェ~!」


「え……?」


“パパに、売られた”

舞は、駿府が言った言葉の意味を、理解しかねる。


父親が、自分を売る? 何故?

そんなことが、ありうるのか?


幼い舞にとっては、この状況も、駿府の言っていることも、なにもかもが、

理解を超えた事態であった。


「ああァ~、舞ちャんは、知らなかったんだねェ~。キミのパパはねェ~、

お仕事に使うハズのお金を、自分のためだけに、使いこんじゃったんだよォ~?

それで、お金を増やそうとして、逆に失敗ィっ! 大損失ゥっ! それで、ボクに

どうにかしてほしい、って、泣きついてきたんだァ~。『娘を好きにしていい』、

って言って、ねェ~……!」


ギシリ、と、駿府は、ベッドに上がってくる。


「ひっ……!」


舞は、再び、恐怖に声をもらした。

駿府の言っていることはよくわからなかったが、自分に、よからぬことをしようと

していることだけは、明白だったからである。


「あ……い、いや────っ!」


舞は逃れようとして、ガチャガチャと両手を激しく動かすが、拘束具が

外れることはない。

その様子が嗜虐心しぎゃくしんたかぶららせたのか、駿府の鼻息が、荒くなった。


「大丈夫、だいじょ~ぶだよォ~? なんにも、怖いことなんかないからねェ~。

むしろ、気持ちイイくらいさァ~………」


「やだっ! やだぁっ────っ!」


「ああ、そうだァ……舞ちャんは今日、お誕生日だったねェ~。おめでとう、

舞ちャ~ん♪ ハッピ・バァ~スデイ・ディア・舞ちャ~ん♪ ボクがキミを、

これからずっと、可愛がってあげるからねェ~♪」


グフフと、駿府がよだれをたらし、舞の幼い体に、今まさにのしかからんとする。

──────その時であった。


「そこまでよっっっ!!!」


「ブヒィっ!? だっ、誰だっ!? ぐァっ!?」


突如、響き渡った声に、駿府が振り返るや、閃光が走り、駿府の首と四肢に、

光の鎖が巻き付く。

魔力で形成された鎖により、対象を拘束する初歩魔法───〈縛鎖ばくさ〉による捕縛であった。


駿府はそのまま、魔力の鎖に勢いよく後方へ引きずられ、ベッドの下へ、

叩き落される。


「………こんな小さな子供に手を出そうだなんて。下衆げすめ───────」


床に落ちて苦痛のうめきをもらす駿府に向けて、忌々(いまいま)しそうに声を吐き捨てた。

声の主は、女性である。


縛鎖ばくさ〉で駿府を捕縛した〈退魔法師たいまほうし〉……真渡園まどぞの美摩(みま)であった。

退魔法師たいまほうし〉の霊的武装、扇情的な銀色のドレス状スーツに身を包んでいる。


その美摩の後ろから、研究室の中に、女性警察官たちが、

次々になだれ込んできた。

そして魔力の鎖で拘束されている駿府を組み伏せて、その両手を後ろ手にして、

手錠をかける。


「駿府栄太! 人身売買罪、及び、不同意わいせつ罪他諸々の罪で逮捕する!」


「ブヒィっ!? こ、このボクに、こんな真似をしてタダで済むと思うなよっ!?

 ボクは、政治家や警察の大幹部に、大勢知り合いがいるんだっ!

 退魔法師たいまほうし〉や雑魚警察官なんぞ、すぐに全員、クビにしてやるからなッ!」


駿府は、組み伏せられながらも、暴れ、叫んだ。

そんな駿府に、侮蔑ぶべつの視線を向けて、美摩は、鼻で笑って見せる。


「……“退魔法師たいまほうし〉”ですって? 無知というのは、本当に罪ね。

────自分が敵に回したのが誰なのか、これから、思い知るがいいわ」


「なにィ……!?」


駿府の心の中が、怒り一色で染め上がった。

女など権力と金でどうにでもなる、という、これまでの思い上がりが、

この期に及んで、駿府の無駄な足掻あがきを後押しする。


「女がァっ! ボクを誰だと思っているんだァ~っ!? 政財界にこの人アリと

 うたわれ! 大物政治家すらボクに頭が上がらないんだぞっ!? おまえこそ

あとで、思い知rブヒィっ!?」


女性警察官が駿府の顔を殴りつけたので、美摩への雑言ぞうごんは、最後まで

続かなかった。

美摩は、そんな駿府へ近づき、無慈悲に、事実を告げる。


「おまえの所有する島と屋敷。今頃、警察の捜査が入っているわ。───これまで

随分と、好き勝手をしてきたようね。金にかせて、女の子たちを散々な目に

わせて……。でも、それももう、終わりよ。おまえの大事な顧客リストと、

裏帳簿は、既に押さえている。嬉しいでしょう? 仲の良いお友達と一緒に、

刑務所に行けるんだから。───地獄へ道連れというのが、正しいのかしらね?」


美摩から突き付けられた王手詰み(チェックメイト)に、駿府の顔色が、途端に土気色に一転した。


「な……ボクの島のことまで───!? い、いったい、どうやって……!?」


「────おまえが知る必要はない。せいぜい、刑務所の中で、自分の落ち度を

悩み続けるがいいわ。…………連行して」


美摩の命令により、駿府は、女性警察官らに引き立てられていく。

現実を受け止め切れていないのか、駿府の表情は、呆然自失といったような、

魂が抜け落ちてしまったかのようなものだった。


抵抗する気力もすっかり消え失せたようで、女性警官らに、引きずられるように

して、部屋から連れ出されていく。

そのうちにも、真渡園まどぞの()の医療班が、迅速に、ベッドに繋がれている舞の

拘束を解きはじめていた。


「…………美摩お姉様。もう、終わったでしょうか───?」


そこに、曇りのない、清らかな声が響き渡る。


「真理亜。ええ、全部、片付いたわ」


美摩の返答に、メイド姿の叶穂をともなって、真理亜が、部屋に入ってきた。


「良かった───舞さんは、無事なのですね」


「大丈夫よ。傷ひとつ付けられていないわ……あなたのおかげよ、真理亜」


拘束を解かれ、医療班に介抱される舞を見ながら、ふたりは、そう言葉を交わす。


「───けれど、心に受けた衝撃は、ひどいでしょうね………」


自身のおぞましい記憶を思い出し、美摩は、つい、短く本音をもらしてしまった。

それを聞いた真理亜が、その顔を、辛そうに曇らせる。


そして、美摩に、懇願してきた。


「……美摩お姉様。舞さんの心を落ち着かせるための治癒魔法、わたくしに

掛けさせてください────!」

STOP!児童虐待!

子供たちが健やかに育てる世界になりますように……( ˘ω˘ ) 人

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