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M一三 開眼!〈使命〉に目覚めるクール系メイド!

【前回までのあらすじ】

叶穂ちゃんが変態幼女に心に隠した中二病ワードを言い当てられたよ。

唐突に、真理亜の口から出た言葉が、叶穂かなほの胸、その中心を刺した。

叶穂は思わず、胸元の寝衣に掛けていた手を引っ込め、真理亜の重ねてきた手を、放してしまう。


「……お、お嬢様、何故なぜ、そのことを─────?」


普段は沈着冷静な叶穂だったが、動揺して、そう口走ってしまった。

他の何を言われても、過剰かじょう狼狽うろたえることは、なかっただろう。


しかし──────〈歯車〉。

その言葉、その悩みは、母にも、双子の姉にも、

打ち明けたことがないというのに。


真実、叶穂の心の中を見透かしてでもいなければ、

出てくるはずのない言葉であった。

真理亜は、申し訳なさそうな顔をして、叶穂に謝ってくる。


「ごめんなさい。……わたくしは、なんでもはわからないけれど、

わたくしに関わることだけ、わかっていることがあるのです────

兎萌ともいさんの体に眠っていた〈杖〉のことのように」


叶穂は、伝承に語られる〈聖女〉の〈力〉のことを思い出していた。

〈聖女〉は、すべての物事の本質を、霊感で悟り、

理解してしまう〈力〉を備えるという………。


〈聖女〉、やはり、このお嬢様が─────!?


「………………わたくしも、〈歯車〉のようなものなのです」


「え────?」


「………わたくしには、果たさなければいけないこと────使命……いいえ、

宿願といっていいものがあります。──────それは、他のひとには、

決して理解することができない、苦痛と、苦難にまみれた行い………けれど、

わたくしは、その宿願を、絶対に果たさなければならないのです。

そうでなければ、この世界にわたくしが生まれた意味が、ないのです」


おお、その言葉、その覚悟。

これらが、五歳の幼子おさなごの口から、発せられていいものなのか。


果たさなければならない、宿願。

それはきっと、伝承にある、命を賭して、邪悪なる〈魔〉を討つという、

〈聖女〉の責務なのであろう。


叶穂は、身じろぎすることもできず、真理亜の姿に、見入らされていた。


「────わたくしは、そのためだけに、動き続ける〈歯車〉………でも、

この身をすべて投げ打っても、その宿願が果たせるかどうかは、

わからない──────怖いのです。見通すことのできない、未来が……………」


真理亜は、その微笑をかげらせて、わずかにうつむいてしまう。

その表情に、叶穂は、真理亜が初めて、年齢とし相応の、心の不安定さを

覗かせたように見えた。


ああ、と、叶穂は、理解してしまう。


〈聖女〉という大いなる〈力〉と責務を背負わされる、恐怖と不安。

まだ幼いにも関わらず、彼女は、その小さな体でそれらを受け止め、

まっとうしようとしているのだ。


なんという健気けなげさ、なんという気高けだかさ………!

それに比べ、自分の悩みの、なんとちっぽけで下らないものだったことか、

と、思い知らされてしまう。


〈歯車〉、自分たちふたりは、同じようなもの、と、真理亜は言った。

まったく違う─────〈歯車〉だとしても、彼女、真理亜は、

世界を動かす規模の〈歯車〉ではないか。


「本当に、本当に、怖くて怖くてたまらない………でも、それでも、叶穂さん」


す……と、真理亜は、叶穂のほうへ、幼い手を差し出して見せる。

叶穂は、知らず、そうすることが自然であるかのごとく、その小さな手を、両手で握っていた。


貴女あなたが、わたくしのそばに、ずっといてくれるなら、わたくしは、

安心して、未来に立ち向かえる気がするのです───────」


「わ、私が……?」


叶穂は、真理亜の言葉に、かつてないときめきと、高鳴りを胸に覚える。


「ええ。わたくしの未来には、貴女あなたが絶対に必要なのです。叶穂さん」


幼子おさなごの言葉とは到底思えぬ、強い断言。


「………出会ったばかりで、突然、こんなことを言われても

困るでしょう────────。けれど、叶穂さん。

もし、貴女あなたが嫌でないのなら……〈約束〉してくださいませんか?

一生、わたくしのそばに、ずっといてくれる、と────」


「お約束致します」


即答し、叶穂は、真理亜の手を、両手で握りしめたまま、ひざまずいた。

迷いは、微塵みじんもない。


きたるべき邪悪を、打倒しうるという〈聖女〉。

だが、実際の彼女は、その恐怖におびえ、戦う意志を揺らがせながらも、

まだ見ぬ未来に負けまいと必死に手をのばす、普通の女の子だったのである。


その子が、ただそばにいてほしい、と、自分の支えを、必要としているのだ。

どうしてその手を、けられよう。


叶穂の即断に、真理亜が、戸惑ったように、口を開いてきた。


「……いいのですか? そのように簡単に答えてしまって────

この〈約束〉は、貴女あなたを一生縛り付け、苦しめてしまうかもしれません。

これは、子供の、身勝手な物言いなのかもしれませんよ……?」


「────なら、私の方から、約束させてくださいませ」


言うなり、叶穂は、右手の小指を、真理亜のそれに絡める。


「私、囲碁留(いごどめ)叶穂(かなほ)は、ずっと、真理亜お嬢様のおそばにいます。

お嬢様と共に生き、お嬢様を支え続けることをここに誓います……!」


「ああ────! ありがとうございます、叶穂さん。

わたくし、なんと御礼を言ったら……!」


「お嬢様。私のことは、叶穂、と呼び捨てになさってください。

敬語も不要です。たった今よりこの叶穂は、お嬢様のしもべなのですから」


叶穂の強い要請に、真理亜は、困ったような笑みを浮かべた。


「ありがとう、叶穂。────でも、しもべ、というのは、わたくし、

よくない響きに聞こえて、嫌だわ。………“ねえや”。そう、ねえやがいいわ。

叶穂、これからずっと、わたくしのねえやでいてね?」


そう柔らかな願いを口にする真理亜に、叶穂は感激し、

絡めた小指に、優しく力をこめる。


「承知いたしました。重ねてお約束致します。

叶穂は一生、真理亜お嬢様のねえやであり続けます……!」


「嬉しい────! ありがとう、叶穂。絶対に、絶対、〈約束〉よ?」


「はい、お嬢様。〈約束〉です……!」


心から安堵あんどしたような真理亜の笑顔を見ながら、叶穂は、強く答えた。

その瞳から、涙があふれ出て、頬を伝う。


それを見た真理亜が、驚き慌てた。


「叶穂……!? どうして泣くの!?

 や、やっぱりわたくしと〈約束〉するのは、嫌なの!?」


「────違います。違うのです、お嬢様。

これは、うれし涙です………お嬢様に出会えて、

このようにお約束させていただいて─────叶穂は、嬉しくて、

泣いているのでございます」


真理亜は一瞬、顔をきょとんとさせたあと、花(ほころ)ぶような笑みを浮かばせる。


「それは、わたくしもよ、叶穂。貴女あなたに会えて、

〈約束〉することができて、本当に、嬉しいわ」


叶穂は、その真理亜の言葉に、胸を詰まらせた。

それから、〈約束〉の指切りをしていた真理亜の手を両手で包み、

拝むような形で自分の額に当て、目を閉じ、嗚咽おえつ交じりに、

感謝の言葉をのどから絞り出す。


「……お嬢様─────ありがとう、ございます……………っ」


「ありがとうを言うのは、わたくしのほうなのよ?

 叶穂………これから、よろしくね?」


「はい。こちらこそ、よろしくお願い申し上げます、お嬢様─────!」


叶穂は、空虚であった心の内が、満たされていくのを感じていた。

それは、これまで生きてきた中で、一番の幸福感。


ああ─────そうか、私は、この御方おかたの未来の一助いちじょとなるため、

生まれてきたのだ。

〈歯車〉、お嬢様が大いなる〈歯車〉であろうとするならば、

この身も、〈歯車〉となろう。


この命あるかぎり、お嬢様のそばにあり続け、支え続けるのだ。

そして、〈聖女〉たるこの御方の運命における艱難辛苦かんなんしんくを、

ことごとく退しりぞけてみせよう。


真理亜の小さな手を握りながら、そう決意する叶穂。

その心に、最早もはや、人生に対する諦念ていねんなど、一欠片ひとかけらもない。


代わりに、叶穂の心の中では、

熱く、心地良い風が吹いていた………………………………………。

お嬢様に出会って、生き甲斐を見つけるメイドさん……。

イイハナシダナー(;∀;)

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