M一四 〈約束〉の裏側!善悪の彼岸にドM!
最近は同じシーンの視点変え進行は、読者さんには敬遠されがちとか。
すみません、本作は念入りに勘違いさせていく方針なので、
視点変え進行が長く多用されていきます(^ω^;)
ここで時を戻し、チェス盤をひっくり返す。
「──────────叶穂さん。貴女は、自分のことを、
〈歯車〉だと思っていますね?」
自分の寝衣に手を掛けてきた叶穂に、ズバリと、真理亜は切りこんだ。
叶穂は真理亜の言葉に激しく動揺し、胸元の寝衣から手を放してしまう。
「……お、お嬢様、何故、そのことを─────?」
自身の悩みを言い当てられた叶穂が、狼狽えて、そう質問を投げかけてきた。
(“知って”いるよォ~! 原作知識でねェ~っ……!)
叶穂の反応に、真理亜は思わず内心で、ニチャりとほくそ笑んでしまう。
初めて叶穂とふたりきりになったこの場を、〈約束〉のシーンに
仕立て上げることにした変態、もとい真理亜は、原作にある叶穂の設定情報を
基に、無理矢理、叶穂の信頼を得る作戦に出ていた。
これは、インチキな霊能力者や占い師が、騙す対象の個人情報を
あらかじめ調査しておき、対象の心を読んだかのように思わせる
“ホット・リーディング”と呼ばれる詐術である。
DirtyDeedsDoneDirtCheap!
原作知識を有効に活用するのは転生者の特権ではあるが、
倫理的にそれはどうなのか、と、非難されても仕方のない作戦であった。
「ごめんなさい。……わたくしは、なんでもはわからないけれど、
わたくしに関わることだけ、わかっていることがあるのです────」
どこかのラノベやアニメで聞いたようなフレーズまでパクリながら、
〈約束〉まで持っていくため、真理亜はぬけぬけと、言い募っていく。
「………………わたくしも、〈歯車〉のようなものなのです」
原作主人公は、『あなたは〈歯車〉なんかじゃない』という台詞で
叶穂の心を解きほぐしていたので、真理亜は、そこパクったらイカンよなあ、
と、別アプローチで行くことにしていた。
無駄なところで誠実である。
が、これは意図せぬことながら、
『あなたも経済的に苦しいでしょうが、実は私も母が重い病気で治療費に困り…』
的な、同情を入り口にする、詐欺のごとき恰好になっていた。
どこが誠実だ、という話である。
「………わたくしには、果たさなければいけないこと────使命……いいえ、
宿願といっていい破滅があります。──────それは、他のひとには、
決して理解することができない、ご馳走と、ご褒美に塗れた行い………けれど、
わたくしは、その破滅を、絶対に果たさなければならないのです。
そうでなければ、この世界にわたくしが転生した意味が、ないのです」
真理亜の無駄に誠実な言動は、まだまだ続いた。
原作知識により信頼を得るとしても、嘘をついての言葉では、
人の心は動かせまい、と、本音を吐露して、〈約束〉へ至るまでの下地作り。
やろうとしていることが無理矢理なやり口のくせに、
特殊詐欺さながらの用意周到さである。
「────わたくしは、そのためだけに、動き続ける〈歯車〉………でも、
この身をすべて投げ打っても、その宿願が果たせるかどうかは、
わからない──────怖いのです。
見通すことのできない、個別ルートが……………」
直接的な単語を避けつつ、本音をもらしていく真理亜。
傍から見れば、紛れもなく、未来に怯える美幼女にしか見えない。
『色の白いは七難隠す』、ということわざがあるが、
この真理亜の場合、『魔性の美貌は拙策隠す』、であったろうか。
完全に、見た目自体、いや、存在自体が、詐欺そのものであった。
「貴女が、わたくしのそばに、ずっといてくれるなら、わたくしは、
安心して、未来に立ち向かえる気がするのです───────」
ホップ、ステップ、と、段階を踏んで、堅実なまでの〈約束〉への誘導。
やはり、思いつきの、勢いで行動しているとは思えぬほどの、入念さである。
なにがなんでも、この時この場でキメてやる、
というダイアモンドが如き堅い意志で、真理亜は突き進んでいた。
変態ドMの執念、恐るべし、と言う他ない。
「………出会ったばかりで、突然、
こんなことを言われても困るでしょう────────。
けれど、叶穂さん。もし、貴女が嫌でないのなら……
〈約束〉してくださいませんか?
一生、わたくしのそばに、ずっといてくれる、と────」
ここまで御膳立てしたのだから、まさか“否”とは言うまいね?
いや、〈約束〉してくれないと、困るよチミー。
そんなパワハラ上司的な思いをおくびにも出さず、魔性の美貌を哀願の表情に
全振りで、プリーズ・プロミス・ミー。
思いつきに端を発した真理亜の欲望が、狡猾な罠めいて、
いよいよ叶穂に牙を剝く。
「お約束致します」
対する叶穂の返事は、即答のOK!
まんまと真理亜の術中に嵌り、ストレートな快諾一択を選んでしまった。
これには、〈約束〉を熱望した真理亜のほうでも、逆に内心、
驚き桃の木大判焼き。
え、マジで!?、と、素で反射的に確認しそうになったほどである。
「……いいのですか? そのように簡単に答えてしまって────
この〈約束〉は、貴女を一生縛り付け、苦しめてしまうかもしれません。
これは、子供の、身勝手な物言いなのかもしれませんよ……?」
もうチョイ考えてもええんやで、キミもまだ若いんやから、と、
自分で言っておきながら、考慮の時間を与えようとする真理亜。
変態ドMとしても、〈約束〉はしてほしいけれども、若い女の子に、
人生を棒に振るような決断を即断させるような真似は、
少なからず気が咎めたらしい。
だったら最初っからやるなよ、というツッコミが入るところなのは、
間違いナシだ。
「────なら、私の方から、約束させてくださいませ」
真理亜の判断猶予を与える言葉に、クールダウンするどころか、
ヒートアップした様子で、叶穂は、真理亜の小指に、自身のそれを絡めてくる。
「私、囲碁留叶穂は、ずっと、真理亜お嬢様のおそばにいます。
お嬢様と共に生き、お嬢様を支え続けることをここに誓います……!」
えっ、重ッ! 叶穂の〈約束〉の言葉って、こんな重たいカンジだったかしらん。
念願叶ったはずなのに、元ゲーとの印象の違いに、真理亜は、若干、
そのように困惑した。
でも、テキストはよく覚えてないしなあ、などと、
Hシーン以外ほぼほぼバシバシバシっと文章をスキップしていた事実に
無自覚な真理亜だから、それ以上は原作のことを考えないことにする。
まずは〈約束〉できたことを言祝ぐべく、
叶穂に、感謝感激の笑みを浮かべてみせるのだった。
「ああ────! ありがとうございます、叶穂さん。わたくし、
なんと御礼を言ったら……!」
この言葉だけは、100%、嘘偽りのない真理亜である。
『オールウェイズ見下しメイド、GETだぜ!』と、心の中では、
『イヤッッホォォォオオォオウ!』の
アスキーアートばりに立ち上がり拳を振り上げ、
ボルテージは最高潮のフィーバー・タイム突入。
そんな有頂天になっている真理亜に、叶穂が、冷や水を浴びせるようなことを
言ってきた。
「お嬢様。私のことは、叶穂、と呼び捨てになさってください。
敬語も不要です。たった今よりこの叶穂は、お嬢様のしもべなのですから」
いやだから重いですって叶穂さん!、と、自身の変態性を高く高く棚に上げ、
チョッピリと引いてしまう真理亜。
しもべとかなんですか奴隷ですかエロゲかよ、いやエロゲだったわコレ、
なんなら奴隷になりたいのはむしろこちらのほうなんですけど!?
だからねーそーゆ~不健全なのはね~、要らねーンだわ。
“硬度数10”を誇る不健全さの塊のくせに、
そんなことを思いつつ、真理亜はやんわりと、叶穂の認識を是正しようとする。
「ありがとう、叶穂。────でも、しもべ、というのは、わたくし、
よくない響きに聞こえて、嫌だわ。………“姉や”。そう、姉やが
いいわ。叶穂、これからずっと、わたくしの姉やでいてね?」
ところが、叶穂は、この認識是正勧告に、やたらと感銘を受けてしまったモヨウ。
激しく同意とばかりに、力強く賛同の意を示し、
果ては大粒の涙まで流してしまう始末だ。
その叶穂の反応に、えぇ……このヒトの情緒、どうなってんのよ……、と、
真理亜は驚いたり慌てたり困ったりなんたり。
真理亜の心を覗ける者がいたら、『おまえが言うなーっ!』と、
「ベ●ゃり暮らし」幻の三人漫才におけるオチぐらいの、
激しいツッコミを入れたであろう。
ともあれ、泣くほど〈約束〉すんの嫌なんか?、
今からでもやめてもええんやで?、と、
真理亜は、ピンク色脳内の片隅に存在する仏心を、
しょうがなしにちらつかせた。
それで返ってきた答えは、自分に会えて〈約束〉できたことが
嬉しいのだと言う。
わけがわからないよ、などと、ぐう畜人外のように、
心の中でひとりごちる真理亜。
そんな真理亜に、人の心とかないんか?、と、すべての心理状況を把握し、
問いかける者は、当然いない。
まーとにかく、〈約束〉できて自分も嬉しい、
彼女も嬉しい、当初の計画通り、みんなHAPPYってことやな!
もうこのへんで〈約束〉シーンは〆とこうかー、
そう思った真理亜は、叶穂の返答に乗じて、
キリがよくなる感じの言葉を告げることにした。
「ありがとうを言うのは、わたくしのほうなのよ?
叶穂………これから、よろしくね?」
「はい。こちらこそ、よろしくお願い申し上げます、お嬢様─────!」
ヨッシャ、これで完全に〈約束〉締結! どんな未来が来ても、
千客万来・万々歳や!
勝ったな! ガハハ!
未来での勝利を確信し、真理亜の喜悦が有頂天。
──────────吐き気をもよおす『邪悪』とはッ!
なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ……!
自分の利益だけのために利用する事だ……!
その定義でいくと、この転生真理亜は、完璧な『邪悪』そのものに違いない。
が、真理亜に利用されているはずの叶穂は、鬱屈とした思いから解き放たれ、
晴れやかに、新たな人生を歩みはじめようとする、澄んだ気持ちでいる。
叶穂の心は、完全に救われたのだった。
これで叶穂が被害者である、と裁定するのは、仮にすべての罪を裁くという
正義の女神であっても、その審判には、難渋するであろう。
やはり腹立たしいことに、転生真理亜のおかげで、また、
ひとりの少女の運命が、その矛先を大きく外した。
この〈約束〉が未来において、なにをもたらすのか。
それを知る者は、もはや、誰ひとりいないのであった────────────。
勘違いなんだけど、お互いに幸せになっていく……
そういうのがワイ、好きなんや……( ˘ω˘ )




