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転移先は密室殺人事件の渦中!? 悪役令嬢に憑依した私が、魔法世界で異能力探偵になります   作者: 堀吉 蔵人


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書架の印章

しばらく不定期更新で進みます。

委任状は朝に届いた。


使者が父の屋敷から持ってきた封筒には、完全な印章が押されていた。割れのない蝋だった。父の屋敷では常にそうだったと、令嬢の記憶が言っていた。


封を開けた。二段落の文章。評議委員会の書架への入室許可。署名は父のものだった。


折りたたんで、上着の内側に入れた。


机の上に昨夜の紙が残っていた。五行。窓から入る光が紙の上に落ちていた。眺めた。追記することは何もなかった。今日書架に入って、この五行を検証する。そういう日だった。



シリルが八時に来た。


部屋に入るなり、立ったままで話した。椅子には座らなかった。


「委任状は届きましたか」


「あります」


「書記官のカルナに事前連絡を入れました。入室自体は問題ありません。ただ——」


「問題がありますか」


「書架の一部が整理中です。今週から十日間の予定で、三年前の査察記録の区画が対象に入っています」


「整理とは」


「移転ではなく、閲覧制限です。管理者の許可なしには対象書類を取り出せません」


机の紙を見た。五行のうち一行——「評議会の非公式書架=委任状取得済み・明日以降アクセス可能」。昨夜書いた時、この一行は前進の証拠だった。今朝、意味が変わろうとしていた。


「通達はいつ出ましたか」


「昨日の朝です」


昨日の朝。父の屋敷を訪れたのは昨日の午後だった。通達の方が先だった。


誰かが先に動いていた。


「担当のカルナは、整理の理由を知っていますか」


「問い合わせましたが、評議委員の指示に従った通常の管理だとのことでした」


「誰の指示か、特定できますか」


「確認中です」


シリルが書類を持ち直した。


「それでも行きますか」と彼が聞いた。


「行きます。閲覧できるものがあれば見ます」



評議会の建物は城の西側にあった。


馬車を降りると石畳が続いていた。通りの両側に石壁が並んでいた。外壁は均一に磨かれているが、継ぎ目の形が古いものと新しいものが混じっていた。増築を繰り返してきた建物だった。


門の衛兵に委任状を渡すと、一名が奥へ引っ込んだ。足音が遠ざかった。


風が門柱の間を通った。乾いた風だった。


足音が戻った。扉が内側から開いた。


細い男が立っていた。四十代か、五十の手前か。眼鏡の縁は細い金属製だった。背筋が真っ直ぐで、紙を持つ指が長かった。


「カルナと申します。ご案内します」


「書架の整理中と聞きました」


男が目を動かした。話の先を読もうとしている目だった。


「はい。三年前の査察記録の区画が対象です。評議委員会の手続きに則った整理です」


「どなたの指示ですか」


「委員会全体の決定です」


「その決定がいつ議論されたか、わかりますか」


「書記官の私には、委員会の議事の詳細はわかりかねます」


答えが返らないことはわかっていた。別の角度から入る必要があった。


「案内をお願いします」



書架は建物の地下にあった。


石の階段を下りた。灯りが少なかった。天井に細い窓が並んでいたが、地下に届く光は薄かった。カルナが燭台を持った。炎が揺れた。影が棚の間に動いた。


棚が四列あった。高さは人の背より少し高い。書類箱が段ごとに積まれ、正面に年号と区分番号が貼ってあった。黴と古い紙の匂いがした。


「三年前の査察記録はこちらです」


カルナが一番奥の列へ向かった。


棚の前に立った。


上段が空だった。三箱分の空きがあった。埃の跡が四角く残っていた。


「移動された書類は今どこにありますか」


「委員会の別室で管理されています」


「閲覧申請はできますか」


「整理期間中は委員会の許可が必要です。決裁に数日かかります」


数日。整理が終わるまで十日間。申請して決裁される頃には、書類の扱いが変わっている可能性があった。


「三年前の記録の中で、どの時期の箱が移されましたか」


カルナが目録を取り出した。紙を見た。


「三年と二ヶ月前から、三年と六ヶ月前の区間です」


四ヶ月分。


「その時期の記録に何かあったのですか」と問いかけた。


「通常の業務記録です」


「閲覧可能な区画はどこですか」


「こちらの三列は整理対象外です」とカルナが別の棚を指した。「対象区画と混在していた箱が一部ありますが、制限外として残してあります」



閲覧可能な箱を開けた。


書類が年代順に入っていた。査察報告書だった。日付、担当区域、所管事項、記録者名。


一枚一枚めくった。


カルナの字は縦に細かった。文字の間隔が均一だった。記録者欄に「ヴィンツェ・カルナ」が繰り返し出てきた。


五枚目。


記録者欄の字が変わっていた。


縦長の文字から横に広がりのある字になっていた。インクの圧力が違った。カルナの字はペンを立てて引く線だった。この字は横に押しつける線だった。別の人間が書いていた。


日付を確認した。三年と四ヶ月前だった。整理対象区間の外側だった。ギリギリ残っていた。


記録者欄の名前を見た。


「カルナさん。この書類の記録者は別の方ですね」


カルナが覗き込んだ。顔が一瞬固まった。一瞬だけで、すぐに戻った。


「はい。当時体調を崩しておりまして、代理に入っていただきました」


「代理の方は、ここに書かれている名前の方ですか」


「そうです」


書類を窓の光に向けた。地下の薄明かりでも、名前は読めた。


読んだ。


令嬢の記憶にない名前だった。


昨夜、シリルに渡した紙に書いた名前と——一致していた。


書類をゆっくり棚に戻した。カルナの表情を確認した。目が少し下を向いていた。書類から視線を逸らしていた。


「代理の方は今もこちらで働いていますか」


「それはわかりかねます」と言った。言い方が少し速かった。


「代理の期間はどのくらいでしたか」


「半月ほどです」


「その期間に、この区域の書類に変更がありましたか」


「変更の意味を教えていただけますか」


「差し替えや追記、あるいは削除です」


カルナが一呼吸置いた。


「業務上の修正は通常の範囲で行われますが、私が休んでいた期間については詳しく把握しておりません」


「把握していないとおっしゃいましたが、復帰後に確認されましたか」


カルナが答えなかった。


答えないことが答えだった。


「確認しなかった、ということですか」


「……確認に不備があったとすれば、私の責任です」と低い声で言った。


何かを知っている。知りながら言わない。命令か、あるいは恐れか。どちらかはわからなかった。


「もう一つだけ聞かせてください。代理の期間、この書架に通常とは違う来訪者がいましたか」


カルナが顔を上げた。初めてレティシアの目を正面から見た。


「覚えておりません」


「ありがとうございました」



建物を出ると、外の光が目に染みた。


シリルが横に並んだ。


「同じ名前でした」とレティシアは言った。


「書架の代理担当記録に」


「三年と四ヶ月前。整理区画の外側のギリギリのところです」


シリルが少し歩調を変えた。考える時の歩き方だった。


「台帳の最初の記録と、ほぼ同時期です」と彼が言った。


初めて出た情報だった。昨日まで聞いていなかった。


「台帳の最初の記録がいつか、知っていたのですか」


「昨夜調べました」


「なぜ今朝言いませんでしたか」


「今日の確認が取れてから言いたかった」


今日の確認。書架の中で同じ名前を見つけたことが、その確認になった。


「カルナは何かを知っています。言わないことを選んでいます」


「見えていました」


「整理区画の決定が昨日の朝だったこと。代理担当の書類が整理対象の時期のすぐ外に残っていたこと。偶然ではないと思います」


シリルが何も言わなかった。


黙って歩いていた。しかし否定しなかった。


「令状の申請を始めたい。整理が終わる前に、移動された書類に触れたい」


「必要な書類を揃えれば動けます」とシリルが言った。「今日から動きます」


「今日から」


「あなたが動くなら、こちらも動きます」



馬車が来るまでの間、石壁の横で待った。


風が通った。


考えた。


通達は昨日の朝だった。父の屋敷を訪れたのは昨日の午後で、名前を聞いたのはその夕方だった。だが書架には、それ以前から名前が記録されていた。


誰かはすでに、この線を知っていた。


整理の通達は対抗策だったか。あるいは誰かが動き始めたことを察知した別の誰かの封鎖措置だったか。


どちらにせよ、書架の整理は偶然ではなかった。


馬車が来た。シリルが乗り込んだ。続いて乗った。


街が窓から流れた。評議会の建物が遠ざかった。石の外壁が小さくなった。


「カルナは今後も書架の担当を続けますか」


「異動の予定は聞いていません」


「整理区画の管理も彼が担当しますか」


「そうです」


「定期的に書架を訪れる理由を作れますか。委任状の効力が続く間」


シリルが少し顔を向けた。


「それはあなた自身が動く、という意味ですか」


「書架に入れるのは私の委任状です。令状の手続きと並行して動けます。カルナの様子を見続ける目があった方がいい」


シリルが少し間を置いた。


「わかりました。可能な範囲で調整します」


「ありがとうございます」


馬車が揺れた。石畳が振動を伝えた。



夜、机に戻った。


紙を広げた。昨夜の五行の下に書いた。


 *書架の代理担当:三年と四ヶ月前。記録者欄に同一人物名*

 *台帳最初の記録:同時期(シリル確認)*

 *整理区画:三年と二〜六ヶ月前の査察記録。昨日朝に通達*

 *令状申請:本日着手。整理終了(十日)以内が目標*

 *カルナ:代理期間中の書類変更を把握せず。指示系統との関与を調査*


五行増えた。計十行になった。


ペンを置いた。


窓の外が暗くなっていた。隣の建物に灯りが見えた。


一日で、線が三本に増えた。書架の中の名前。台帳の最初の記録と重なる時期。整理区画の設定。三つが同じ方向を指していた。


そして誰かが、こちらが気づく前から動いていた。書架の整理がその証拠だった。


今夜初めて、速度が問題になった。


令状が取れるまで十日以内。移動された書類に届かなければ、証拠の一部は封鎖される。封鎖されれば、次の線が断ち切られる。


窓を閉めた。


急ぐことと確実に進めることは、いつも同じ方向を向いていない。だが今夜は、急ぐ方が確実に近かった。

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